白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)

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059 今が一番幸せ

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 黒い髪に赤い瞳。
 意識を浮上させた私は、目の前のブレイズを見る。

 二回目って、そっか。
 そういうことだったのね。
 あまりに昔過ぎて、すっかり忘れてしまっていたわ。

「ブレイズ様はあの時の地下にいた子だったんですね」
「昔、会っていたってこと?」

 興味津々で食い入るように前のめりになりながら、マリアンヌが声を上げる。
 特段、面白い話でもないのに。
 どんなのを想像しているのかしら。

「子どもの頃、腕試しで入った地下で死にかけたところを助けてもらったんだ」
「すごーい。アンリエッタって、そんなに強かったの?」
「いや、ただ逃げる術だけは叩き込まれていたからですよ」
「でも俺のせいで君は大けがを負ってしまった」
「あー。まぁ、そうかもですね」

 あの時は酷かったなぁ。
 子どもながらにそうした方がいいと判断して、ブレイズを引き渡してしまったものの、怪我は本当に酷いものだった。

 マトモに歩けなくて、家に着いたのは日が暮れた頃。
 心配した使用人たちに見つけてもらえて、おんぶされて帰ったんだっけ。

 当たり前のように父は大激怒していたし。
 ねずみの大量発生のせいだって言っても、始めは自業自得だって言い切って、無視していたし。

 その後、なんとか父に入れ知恵して、治療してもらえたから生き延びたけど、足は動かないわ、感染症を引き起こして高熱は出るわで、散々だったわね。

 しかも国に訴えて治療費も慰謝料もせしめたくせに、休んだ仕事の分は私の給与から天引きしてきたし。

 安定に、あの人は引くほどの悪人よね。

「怪我は治療してもらえたのか?」
「えー、まぁ、なんとか?」
「実の娘が怪我してきたのに治療しないとかって大丈夫なの、それ」
「いやぁ。なんせ、悪名高いダントレットですから?」

 私の言葉に心底二人はありえないと呟いていた。
 実の娘でも、未だにあの人のことなんて全部理解できないんだから、そんなもんよね。

「家に戻されてすぐに、君の元へ行こうと思ったんだ。だが……」
「止められましたよね?」
「ああ、そうだ……」

「それが普通の反応だと思いますよ。誰だってあの人に借りなど作りたくもないですし、近寄りたくもないでしょう」
「でも君は、そうじゃないだろう。確かにダントレットの娘だとしても、あの男とは違う」
「本当にそれよ。さすがに娘だからって、何でも同じにしないでもいいのに」

 私のために怒る二人を見て、私は思わず吹き出す。
 一度それは声になると、ただどこまでも嬉しくて一人笑った。

「もぅ、こっちは怒っているのに、何笑ってるの?」

 やや不服そうなアンリエッタ。
 だけど、嬉しいものは嬉しいんだもの。

「いや、なんか幸せだなって思って」
「幸せ?」
「ええ。今まで私のために怒ってくれた人もいなかったですし。こんなにも温かな気持ちになったこともない。だから幸せだなって思って」

 あの日一度死んで、人生をやり直す決意をした。
 それはある意味復讐だった。

 だけど気づけばそんなことよりも、もっと楽しくて幸せな世界の中にいる。

 復讐なんてどうでもいいわけじゃないけど、今まで生きてきたどの時よりも幸せなんだもの。
 ああ、本当に今があってよかった。心からそう思えた。

「こんなことぐらいで幸せだなんて思えないくらい、君には幸せになって欲しい」

 あの時と変わらぬ真っすぐなブレイズの瞳は、やはり少し照れる。
 でも出来ることなら、私もそう願いたい。
 だから小さく頷いた。

 すると彼も満足そうに、微笑み返してくれた。
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