白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)

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069 嫌いではない 

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「困らせる気はなかったんだ。だが、君を誰にも渡したくないのも、本音だ」

 世間がそんなことになっているなんて、全然知らなかった。
 だいたいバツイチなのよ。いくら爵位を得たって、さほど優良物件でもないと思っていたのに。

 評価されることはありがたいけど、それとブレイズから婚約を申し込まれるのはまた別の話なのよ。

 好意を持ってくれているのは知ってたし、意識もしてきた。
 だけどその先までは考えてもみなかったのよね。

「本当に私なんかで良いのですか? いくらブレイズ様が次男だとはいえ、私なんかを相手にしなくてももっと選べるではないですか」
「他など考えたこともない。俺は君がいいんだ。私なんかなど、言わないでくれ」

 ブレイズはそっと私の手に触れた。
 そしてゆっくりと、顔を覆った手を退かす。

 顔が赤い自覚はある。
 真っ直ぐに彼の目を見ることも出来ない。

 これが恋なのだと思う。
 マリアンヌが何度も私に教えてくれていた気持ちだ。

 まだ彼女の足元にも及ばないかもしれないけど、私の中にもしっかり人を好きになるって感情があったらしい。

「嫌では……ないですよ」
「!? それは」
「まだ今は早いとは思いますが、ブレイズ様となら婚約したいと思っています」

 私の言葉が終わるよりもほんの少し前に、ブレイズは私を抱きしめていた。

 大きな体が私を包み込む。
 彼から香る香水の匂いすらも、心地よく感じた。

「アンリエッタ、君をずっと愛している」
「……私もです」

 そう素直に言葉を返せば、温かな感情が心を満たしてくれた。

「ずっと不安だった」
「不安ですか?」
「ああ。いつか君が消えてしまうのではないかと」

 ブレイズはほんの少し私を離すと、真っ直ぐに見つめた。
 
 そんなに儚げなイメージなんて、全然なかったと思うのに。
 確かにブレイズの瞳には、不安が宿っているように見える。

 ダミアンのことがあったから、夜逃げするとか思っていたのかしら。

 そう尋ねようとした時、ブレイズの口から出てきた言葉は、想像もしていないものだった。

「繰り返し夢を見ていたんだ。フードを深く被った君が、世界に絶望して橋から身を投げてしまう夢を」
「え……」
「夢だとは分かっていても、君を助けられなかったことが苦しくて、やるせなくて」

 ブレイズの語る夢に、記憶が蘇る。
 一度目の死。
 橋から身を投げる瞬間に、私は誰かを確かに見た。

 もちろんそれが誰だったのかは、分からぬまま死んでしまった。
 だけどあの場で確かに叫びながら私を助けようとしてくれた人がいたのだけは覚えている。

 それがまさか、ブレイズだったなんて。
 あの世界で唯一、私を救おうとしてくれた人。

 運命なんて信じたことはないけれど、でも死に戻ってちゃんと出会うことが出来た。
 それはきっと、偶然ではない気がする。

 ううん。偶然じゃないって思いたい。

「変な夢だとは自分でも自覚があるんだが」
「ブレイズ様だけですね」
「それはどういう意味だ、アンリエッタ」
「昔からずっと必要としてくれていたって、意味ですよ」

 そう、ずっとずっと昔から。
 私を必要としてくれるただ一人の人。

 それが嬉しくて、私はブレイズに抱きついた。
 するとブレイズはそのまま私にキスをする。

 あの世界でも必要としてくれる人がいた。
 それだけで、私はどこまでも幸せだった。
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