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009 名前すら覚えられていない嫁
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「まったく最低の結婚式だったわ!! どうなっているの、あれは!!」
男爵家の屋敷に入るなりすぐに、姑は自分が被っていた帽子を床に叩きつけた。
すると床で、白い綿ほこりがふわりと舞う。
安定に汚い家ね。
いくら使用人がいないとはいえ、掃除が行き届いていないのも限度がある。
よくこれで病気になどならないものだわ。
こっそり心の中で悪態をついたものの、ある意味この状況はどうしようもないことは知っていた。
ボロく荒れたこの屋敷には、そんな元女主人を気遣う人も金もない。
父が買ったこの男爵家は、本当にお金に困っていた。
そう。
あんな扱いを受けても、父に直接なんの抗議もできないくらいに。
ただ自分たちの名誉を売った相手が、本当に最低最悪な人間だったというのは、きっと誤算だったでしょうね。
そこだけは、ほんの少しだけ同情をしないこともない。
「まったく、あなたの父親は貴族を何だと思っているの?」
義母は夫と同じ緑がかった茶色い瞳を吊り上げ、私にくってかかる。
深く刻まれた目じりのシワが、余計に目立つ。
あーあ。
ただでさえドレスとかピンクで無理な若作りしているのに、そんな風に怒ったら余計にシワが増えちゃいますよ、お義母様。
だいたい答えなんて『ただの商売のための道具』一つしかないじゃない。
もっとも、それをストレートに伝えるのは得策ではないけど。
それに、一番に文句を言っていいのは私のはずでしょう。
なんでこの人たちは平民を金で嫁がされることの意味を、きちんと考えなかったのかしら。
「すみません」
「謝って済む問題だと思っているの?!」
別に私だって好きで謝っているわけではない。
でも一応は謝らないと、あなたの気が済まないから謝っているだけよ。
まったく勝手な人たちだわ。
悪徳商法にハメられる人たちって、こんな感じなのかしら。
自分たちが決めたことの文句を私に言われても、どうしろというのよ。
いっそ断ってくれていたら、私も結婚などせずに済んだのに。
「まぁまぁ母上。そんなに興奮なさると、お体にさわりますよ?」
そうね。血圧、高いものね。
倒れでもしたら治療費が大変よ。
なんせ、この家は恐ろしいほど貧乏なんだから。
「これが興奮せずになどいられますか! うちは由緒ある男爵家。その昔は王家の側近をつとめた名家なのですよ!! それをこんな風にただの商人風情に、見下されて馬鹿にされるだなんてありえないわ」
過去の栄光をいくら並べたとしても、数日前まで没落寸前だったことには変わらないのに。
違うわね。
過去の栄光を捨てきれないからこそ、父のような悪い人間に捕まるのよね。
馬鹿々々しい。
父の考えは基本的に大嫌いだけど、プライドや見栄だけでは食べてなど行けないって考えだけは同意している。
「だけどそれはこの娘のせいではないでしょう? 母上」
「親が親なら子も子よ、きっと」
きっとって。
一括りにするのだけは、やめてほしいわ。
「まぁそうかもしれないけど……。えっと、確かアンリエッタだっけ? 君には初めに言っておかなければいけないことがある」
「……はい、ダミアン様」
「うちは君が嫁いでくれたとはいえ、中々に今は大変な状況なんだ。いろいろ元の家とは違い、君にも働いてもらうことになるよ」
「……わかりました」
安定に私の名前すら憶えていないのね、この人は。
一応前回そんな感じだったから、わざわざ式でこちらから挨拶だけはしておいたのに。
どうでもいいって感じが、ヒシヒシと伝わってくる。
夫であるダミアンにとって、私が眼中にないのは知っていたけど、ここまでくると清々しいわね。
でもその方がこちらもいろいろとやりやすいから、よかったわ。
掃除と称して、この男爵家のことを隈なく調べなきゃいけないもの。
前回はこの人たちの言いなりになって、一人でやられっぱなしだったけど、今回は違うわ。
私がやりたいことは一つ。
ここを乗っ取ることだから。
男爵家の屋敷に入るなりすぐに、姑は自分が被っていた帽子を床に叩きつけた。
すると床で、白い綿ほこりがふわりと舞う。
安定に汚い家ね。
いくら使用人がいないとはいえ、掃除が行き届いていないのも限度がある。
よくこれで病気になどならないものだわ。
こっそり心の中で悪態をついたものの、ある意味この状況はどうしようもないことは知っていた。
ボロく荒れたこの屋敷には、そんな元女主人を気遣う人も金もない。
父が買ったこの男爵家は、本当にお金に困っていた。
そう。
あんな扱いを受けても、父に直接なんの抗議もできないくらいに。
ただ自分たちの名誉を売った相手が、本当に最低最悪な人間だったというのは、きっと誤算だったでしょうね。
そこだけは、ほんの少しだけ同情をしないこともない。
「まったく、あなたの父親は貴族を何だと思っているの?」
義母は夫と同じ緑がかった茶色い瞳を吊り上げ、私にくってかかる。
深く刻まれた目じりのシワが、余計に目立つ。
あーあ。
ただでさえドレスとかピンクで無理な若作りしているのに、そんな風に怒ったら余計にシワが増えちゃいますよ、お義母様。
だいたい答えなんて『ただの商売のための道具』一つしかないじゃない。
もっとも、それをストレートに伝えるのは得策ではないけど。
それに、一番に文句を言っていいのは私のはずでしょう。
なんでこの人たちは平民を金で嫁がされることの意味を、きちんと考えなかったのかしら。
「すみません」
「謝って済む問題だと思っているの?!」
別に私だって好きで謝っているわけではない。
でも一応は謝らないと、あなたの気が済まないから謝っているだけよ。
まったく勝手な人たちだわ。
悪徳商法にハメられる人たちって、こんな感じなのかしら。
自分たちが決めたことの文句を私に言われても、どうしろというのよ。
いっそ断ってくれていたら、私も結婚などせずに済んだのに。
「まぁまぁ母上。そんなに興奮なさると、お体にさわりますよ?」
そうね。血圧、高いものね。
倒れでもしたら治療費が大変よ。
なんせ、この家は恐ろしいほど貧乏なんだから。
「これが興奮せずになどいられますか! うちは由緒ある男爵家。その昔は王家の側近をつとめた名家なのですよ!! それをこんな風にただの商人風情に、見下されて馬鹿にされるだなんてありえないわ」
過去の栄光をいくら並べたとしても、数日前まで没落寸前だったことには変わらないのに。
違うわね。
過去の栄光を捨てきれないからこそ、父のような悪い人間に捕まるのよね。
馬鹿々々しい。
父の考えは基本的に大嫌いだけど、プライドや見栄だけでは食べてなど行けないって考えだけは同意している。
「だけどそれはこの娘のせいではないでしょう? 母上」
「親が親なら子も子よ、きっと」
きっとって。
一括りにするのだけは、やめてほしいわ。
「まぁそうかもしれないけど……。えっと、確かアンリエッタだっけ? 君には初めに言っておかなければいけないことがある」
「……はい、ダミアン様」
「うちは君が嫁いでくれたとはいえ、中々に今は大変な状況なんだ。いろいろ元の家とは違い、君にも働いてもらうことになるよ」
「……わかりました」
安定に私の名前すら憶えていないのね、この人は。
一応前回そんな感じだったから、わざわざ式でこちらから挨拶だけはしておいたのに。
どうでもいいって感じが、ヒシヒシと伝わってくる。
夫であるダミアンにとって、私が眼中にないのは知っていたけど、ここまでくると清々しいわね。
でもその方がこちらもいろいろとやりやすいから、よかったわ。
掃除と称して、この男爵家のことを隈なく調べなきゃいけないもの。
前回はこの人たちの言いなりになって、一人でやられっぱなしだったけど、今回は違うわ。
私がやりたいことは一つ。
ここを乗っ取ることだから。
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