白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
11 / 75

010 一からやり直し

しおりを挟む
 それに元々、父の下でこき使われて生きてきた私には働くことは苦ではない。

 前回の時も思ったのだけど、相当な額の持参金があったはずなのに、最後まで使用人を増やすことはしなかった。

 私が一人増えたところで、この家が最後まで綺麗になることもなかったし。

 そう思いながらも、私はそっと屋敷の中を見渡す。
 元々赤だったはずの絨毯じゅうたんははげて変色し、階段なども壊れかけたまま。

 高いシャンデリアや、窓枠にはあり得ない量の綿ほこりも溜まっており、何年掃除をしていないのだろうか。
 
 なんかこれだけは少し嫌ね。
 前回頑張ったのに、ふり出しに戻るって感じ。

 またあの掃除が一から始まるのは、うんざりするわ。
 本当にこの家、汚すぎるんだもの。

「よく言ったわダミアン。元々貴族でもなんでもないのだから、あなたは身を粉にしてこの家のために働けばいいのよ」
「……はい、お義母様」

「貴族でもない娘がうちの嫁になるなんて。ああ、汚らわしい。この男爵家、末代までの恥だわ!」
「……」

 はいはい。勝手に言っていて下さい。
 そのうちそんなことすら言えないようにしてやるんだから。

 この家も、あの商会も。
 全部まるっと、手に入れて見せる。

 それがあの時死んで、やり直す時に誓ったことよ。
 奪われた人生を、今度こそ自分の手で。

「ああ、そうそう。中庭を抜けた奥に離れがある。そこが僕の執務室となっているから、そこは何もしなくていいからね」
「わかりました」

 前回は言いなりになって近づかなかったけど、おそらくこの人の秘密はそこにあるのよね。

 だいたい自分で怪しいって言っちゃているようなものだし。

 夫のは前回、私と結婚するよりも前から付き合っていた女性がいた。
 そう、貴族令嬢が。

 最後まで彼女との接点はなかったけど、夫は私が元平民なのをいいことに、彼女を貴族の夜会などに連れまわしていたのだ。

 そして父が無理やり私を嫁がせたことを知っている貴族たちはどこまでも夫に同情的で、誰一人本来の妻である私のことを気にする者はいなかった。

 死ぬ間際に、妻の役目も出来ないでと父が怒鳴っていたのは、そのせい。
 ダミアンは基本的には仕事と称して、離れから出てこなかった。

 唯一こちらの母屋に来るのは、朝の食事の時だけ。
 私たち三人が唯一顔を合わせる時間だ。

 一回目の時は、それでも家にために尽くせば、夫がこちらを見てくれるんじゃないかって。

 ただバカみたいに頑張っていたっけ。
 ホント、無駄過ぎたわ。ただ疲れただけだもの。
 
 今回は絶対に同じような道は通らない。
 まずは隙を見て離れに忍び込み、この男爵家のお金の流れをつかまないとね。

 あれだけの持参金が三年も経たずにどこへ消えたのか。

 愛人のせいだとは思うけど、でもお金は後から重要になるもの。
 ちゃんと押さえなくちゃ。

 私が前回と同じ従順な妻だと思ったら、大間違いなのよ、残念ね。

「明日から掃除などを始めますので、今日はもう休ませていただいてもよろしいでしょうか?」
「まぁ、嫁のくせに主人より先に休むというの!」
「まぁまぁまぁまぁ。僕も母上も疲れでしょう? 今日はこのままゆっくりしよう」

「あなたがそういうならいいけども。でも、こんな嫁を甘やかしてはダメよ、ダミアン。最初が何でも肝心なのですからね」
「分かってますよ」

 にこりと笑う夫。
 でもこの笑顔すら、私や義母を気遣ってのものではない。

 とっとと愛人の元へ行って、機嫌でも取りたいのでしょう。

 見え見えよ。
 むしろなんで一回目は、こんな簡単なものも見抜けなかったのかしら。

「アンリエッタ君の部屋は……」
「二階の奥か何かですか?」
「あ、ああ。そうだよ。よく分かったね」
「いえ、ありがとうございます。では、お先に失礼いたします」

 貴族風にならって丁寧なお辞儀をしたあと、私は二人をその場に置き去りにして部屋へと向かった。

 何で部屋を知っているのか彼は疑問そうな顔をしていたが、私にはそれすらどうでもよかったから。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

《完結》初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

処理中です...