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027 敵を味方に付けても欲しいモノ
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「それでマリアンヌ様、あなたは私に何をお望みなのですか? 到底差し上げられるモノなどないと思うのですが」
「貴女のその座よ」
まぁ、そうでしょうね。それは想定内だわ。
だけど一度貴族として結婚してしまった以上、白紙に戻すのは簡単ではないことなどマリアンヌも知っているはず。
「ただその時まで待つということですか?」
「……分かってるわよ。離婚がそんなに簡単には成立しないことぐらい」
「そうですね。最低、三年は必要かと」
「でも貴女だって、タダで離婚する気などないんでしょう?」
なんだろう。
回りくどいというか、なんというか。
三年待って私とダミアンの白い結婚が認められれば、マリアンヌが帳簿を出さなくたって、妻の座につけるのに。
わざわざこんな夜更けに、わざわざ敵であろう私に話を持ちかけるだなんて、何のメリットがあるというの?
先ほどからずっと、引っかかってることを私は口にした。
「どうして……」
「え?」
「マリアンヌ様はそのようなコトなどしなくても、妻の座は確約されたようなモノではないですか。なのにどうして私にこんな話をされるのですか?」
「確約なんてどこにもないじゃない! だってそうでしょう?」
マリアンヌはやや肩を震わせ、今にも泣き出しそうな様子だった。
先ほどまでの勝ち気な表情はどこにもない。
あるのはただ漠然とした不安に思えた。
「三年後に、アタシが彼の隣にいられるかなんてわからないじゃない。今だってそうよ。彼はお金を手にした途端、昔のようにまた女遊びをし始めたわ」
髪を振り乱し、マリアンヌはその顔を両手で覆う。
ああ、そうか。
だからさっき、私が父に似てると言って彼女は怒ったのね。
「マリアンヌ様はそれほどまでに、あの人のことを……」
「愛してるのよ。悪い? さぞ、みっともなく思ったことでしょう。そうよ。どうしようもないくらい、アタシはあの人を愛してるの。あの人じゃなきゃ、ダメなのよ! みじめでもみっともなくても、あの人の愛だけがアタシは欲しいのよ」
それは可哀想になるくらい、悲痛な叫びだった。
こんなにも愛しているのに、ダミアンはお金のために私を選んだ。
マリアンヌにとって、それがどれほどの屈辱的なことだったのか私には推し量ることなど出来ない。
こんな風に、苦しくなるほど誰かを愛したことなどないから。
「貴女に動きがあったって信頼できる者から教えられたわ。だから思ったの。貴女はこの家もダミアンも好きではないんだろうって」
「まぁ、それはそうですね」
「だから好機《こうき》だと思ったわ。アタシから動けば、貴女も引き込めるんじゃないかって」
そっか。そういうことだったのね。
彼女の方からこちらに話を持ちかけてくるなんて、前回ではありえなかった。
むしろ接点すらまるでなかったし。
だけど今回は私から動いたから、マリアンヌは私のやろうとしていることをなんとなくでも知ったということ。
それなら……前だって自分から動いてさえいれば、もう少し未来は変わっていたのかな。
そんなこと、もう全てが想像でしかないけれど。
少なくとも目の前にいる必死な表情のマリアンヌは、敵ではなかったのかもしれない。
「もしかしてですが、この男爵家が私が嫁ぐよりも前に傾いていたのってマリアンヌ様のせいだったりするのですか?」
「そうね。潰すまではいかないにしても、この男爵家が傾くようにずっと仕向けてきたわ。没落してしまえば、彼はもうどこにも行けなくなるもの」
「でもそんなことしたら、ご実家である子爵家にはお二人の結婚を反対されるのではないのですか?」
もしこの男爵家がこれほどまでに困窮していなければ、マリアンヌは普通にダミアンと結婚出来たんじゃないかしら。
それなら本末転倒過ぎるでしょう。もう少しやりようがあった気もするんだけど。
「アタシはね、貴族なんてどうでもいいの。苦しくてもひもじくても、彼さえいれば他に何もいらない。だから家なんて関係ないの。それにもとより、素行《そこう》の良くない彼との結婚はずっと反対されいて、実家とは絶縁状態だし」
「……」
「だいたい彼はこんなことがなきゃ、誰かを選んだりして結婚するような誠実な人でもないのよ」
ぽたぽたと頬を伝う涙は、綺麗だった。
「貴女のその座よ」
まぁ、そうでしょうね。それは想定内だわ。
だけど一度貴族として結婚してしまった以上、白紙に戻すのは簡単ではないことなどマリアンヌも知っているはず。
「ただその時まで待つということですか?」
「……分かってるわよ。離婚がそんなに簡単には成立しないことぐらい」
「そうですね。最低、三年は必要かと」
「でも貴女だって、タダで離婚する気などないんでしょう?」
なんだろう。
回りくどいというか、なんというか。
三年待って私とダミアンの白い結婚が認められれば、マリアンヌが帳簿を出さなくたって、妻の座につけるのに。
わざわざこんな夜更けに、わざわざ敵であろう私に話を持ちかけるだなんて、何のメリットがあるというの?
先ほどからずっと、引っかかってることを私は口にした。
「どうして……」
「え?」
「マリアンヌ様はそのようなコトなどしなくても、妻の座は確約されたようなモノではないですか。なのにどうして私にこんな話をされるのですか?」
「確約なんてどこにもないじゃない! だってそうでしょう?」
マリアンヌはやや肩を震わせ、今にも泣き出しそうな様子だった。
先ほどまでの勝ち気な表情はどこにもない。
あるのはただ漠然とした不安に思えた。
「三年後に、アタシが彼の隣にいられるかなんてわからないじゃない。今だってそうよ。彼はお金を手にした途端、昔のようにまた女遊びをし始めたわ」
髪を振り乱し、マリアンヌはその顔を両手で覆う。
ああ、そうか。
だからさっき、私が父に似てると言って彼女は怒ったのね。
「マリアンヌ様はそれほどまでに、あの人のことを……」
「愛してるのよ。悪い? さぞ、みっともなく思ったことでしょう。そうよ。どうしようもないくらい、アタシはあの人を愛してるの。あの人じゃなきゃ、ダメなのよ! みじめでもみっともなくても、あの人の愛だけがアタシは欲しいのよ」
それは可哀想になるくらい、悲痛な叫びだった。
こんなにも愛しているのに、ダミアンはお金のために私を選んだ。
マリアンヌにとって、それがどれほどの屈辱的なことだったのか私には推し量ることなど出来ない。
こんな風に、苦しくなるほど誰かを愛したことなどないから。
「貴女に動きがあったって信頼できる者から教えられたわ。だから思ったの。貴女はこの家もダミアンも好きではないんだろうって」
「まぁ、それはそうですね」
「だから好機《こうき》だと思ったわ。アタシから動けば、貴女も引き込めるんじゃないかって」
そっか。そういうことだったのね。
彼女の方からこちらに話を持ちかけてくるなんて、前回ではありえなかった。
むしろ接点すらまるでなかったし。
だけど今回は私から動いたから、マリアンヌは私のやろうとしていることをなんとなくでも知ったということ。
それなら……前だって自分から動いてさえいれば、もう少し未来は変わっていたのかな。
そんなこと、もう全てが想像でしかないけれど。
少なくとも目の前にいる必死な表情のマリアンヌは、敵ではなかったのかもしれない。
「もしかしてですが、この男爵家が私が嫁ぐよりも前に傾いていたのってマリアンヌ様のせいだったりするのですか?」
「そうね。潰すまではいかないにしても、この男爵家が傾くようにずっと仕向けてきたわ。没落してしまえば、彼はもうどこにも行けなくなるもの」
「でもそんなことしたら、ご実家である子爵家にはお二人の結婚を反対されるのではないのですか?」
もしこの男爵家がこれほどまでに困窮していなければ、マリアンヌは普通にダミアンと結婚出来たんじゃないかしら。
それなら本末転倒過ぎるでしょう。もう少しやりようがあった気もするんだけど。
「アタシはね、貴族なんてどうでもいいの。苦しくてもひもじくても、彼さえいれば他に何もいらない。だから家なんて関係ないの。それにもとより、素行《そこう》の良くない彼との結婚はずっと反対されいて、実家とは絶縁状態だし」
「……」
「だいたい彼はこんなことがなきゃ、誰かを選んだりして結婚するような誠実な人でもないのよ」
ぽたぽたと頬を伝う涙は、綺麗だった。
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