白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
31 / 68

030 もっといらない……

しおりを挟む
「んーーーー」

 現実から目を背けようともう一つの手紙を見た瞬間、口にふくもうとしていた紅茶を吹き出しそうになるほど、その宛名に驚いた。

「ゴホっ、な、なにコレ‼」
「大丈夫ですか、アンリエッタ様」

 正面で私の様子を見ていたミーアが駆け寄り、私の背中をさする。
 いやこれはさすがに、大丈夫じゃないかもしれない。

 むせ込みながら私はもう一度その宛名を確認する。

 ブレイズ・ブロンド。
 ブロンド家といえば、この帝都で知らない者などいないだろう。

「なんで私に公爵家からの手紙が来るのよ」
「そうなんですよ。ホントに、何をなさったんですか?」
「えー。なにって……あ」
「え? 思い当たることがあるんですか!?」

 心底驚くミーアから、私は視線をそらした。
 公爵家となんて接点はなにもない。

 だけどこのブレイズという名前……。

 確か、あの感じの悪い騎士団長さんと同じ名前よね。
 もしかして、あの方は公爵家の人だったとかそういう感じ?

「ははははは」

 思わず乾いた笑い声がもれる。

 嘘でしょ。
 あまりに感じが悪かったから、こっちも死ぬほど感じ悪く返しちゃったじゃない。

 でも考えてみれば、帝国騎士団の人ってほぼ平民なんていないのよね。
 しかも団長ともなれば、結構身分は上かなとは思っていたけど。

「あの騎士団長が公爵家の人……」

「確か広場で灰色ネズミが出て、騎士団の方を助けたって言ってましたよね」

「うん」
「それなら、そのお礼なのでは?」

 いい風にとらえるなら、ミーアの言うことはもっともなんだろうけど。

 印象最悪だったからなぁ。
 名乗らなきゃ良かったかなぁ。

 ほら、どこかの物語のように、名乗るほどの者ではありません、みたいな?

 あー、でもあの薬玉を持ってる時点で怪しすぎて捕まるか。

「やーだー、どうしようミーア。私、公爵家の人だとは思わなかったからイラっとして怒鳴っちゃった」
「えええ、えええ? えー、ホントに何なさってるんですか」
「わかんないよぉ」

 ただ驚いて大きな口を開けているミーアに、涙目になる私。
 父の手紙以上にコレは、爆弾なのかもしれない。

「と、とにかく中を確認してください」
「しなきゃダメ?」
「そ、それは公爵家からのですし。しないと後が怖いじゃないですか」
「それはそうだけど」

 散々一人唸り散らしたあと、観念した私は手紙を開封した。

 中身はどこかよくあるような文面だった。

 この前の広場でのお礼と、その際の話を聞きたいとのこと。
 そのため自宅に招待してもよいかという問い合わせだ。

「えー。お礼ぽいと言えばお礼っぽいけど。貴族って、その言葉に裏表があるかんじじゃない?」
「で、どっちなんでしょう」

 やだ、全然わかんない。
 むしろこれ、なんて返事を書くべきなのかしら。

 困ったなぁ。
 これ、父のトコに行くより前に処理しちゃいたいのに。
 
「あ! そーだ。マリアンヌ様にお返事書いてもらおう」
「え、いいんですか、それ。あの方は愛人様なんじゃ……」
「まぁ、そうなんだけどね。お友だちだから大丈夫」

 マリアンヌの話は一通りミーアにもしてあったけど、イマイチ信用してくれないのよね。
 
 ミーアの気持ちは分かる。
 いきなり本妻と愛人が手を組みましたなんて、あんまり聞いたこともないから。

 でも利害が一致しているから、裏切られることもないし。
 まだ貴族をよく知らない私には、本当に助かる。

「夜になったら向こうの侍女頭にこの手紙と私からの手紙を、マリアンヌに渡してもらうようお願い」
「はい、分かりました」
「でもあの騎士団長の手紙が本心だったら、ちょっと父を出し抜けるかもしれないわ」

 私がそう言いながら微笑むと、ミーアは心配そうに私と手紙を交互に見ていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...