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045 その涙は
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疲れからか、怪我のせいからか。
その夜、私は熱を出してしまった。
ミーアは責任感からずっと看病すると言い張ったものの、明日も熱が引かなかったら困るからと部屋に戻した。
そして夜中、皆が寝静まった頃、部屋をノックする音が聞こえてくる。
起き上がれない私は、そのまま声だけかけた。
「はい、誰です?」
ゆっくりと部屋のドアが開く。
ドアの向こうにいたのは、マリアンヌだった。
なんとなくそんな気がしていたから、部屋の鍵はかけなかったのだ。
「マリアンヌ様」
「……」
私が微笑むと、ゆっくり部屋に入ってくる。
近づいてきた彼女の顔をよく見れば、目は腫れていた。
泣き腫らしたのだろう。
いつもの勝気な表情なはく、顔色も悪い。
「大丈夫ですか?」
「なんであなたがそれを言うのよ」
そんな風に言ったそばから、マリアンヌは泣き出す。
今にも消えてしまいそうな彼女に私は手を伸ばした。
「全部私のせいです。まさかあの人が私なんかに興味を示すとも思わず、警戒を怠ったせいですわ」
「ちがうわ」
「いいえ、違いません。マリアンヌ様は助けに来てくれたではないですか」
「ちがう。ちがう。ちがう」
子どものように頭を横に振りながら、ぼろぼろとマリアンヌは泣いていた。
やっとの思いで上体だけ起こし、彼女にもう一度手を伸ばす。
それに気づいたマリアンヌは、私の手を取り、すぐそばに来た。
私は嗚咽しながら泣くマリアンヌの背中を、たださすっていた。
彼女が泣き止むまで、ただずっと。
この涙が私のためだと知っていたから。
「ごめん……なさい」
「何を謝ることがあるんです?」
「だって、あなた怪我を」
「ああ、大したことありません」
「でも熱が」
「これは知恵熱です。公爵家で立ち回りした疲れが出ただけですわ」
正直、今日は一気にいろんなことが起き過ぎたのよ。
まぁ、背中も痛いといえば痛いけど。
それよりも疲れたというのが合っている気がする。
「公爵家ではうまく行った?」
「ええ。マリアンヌ様のおかげです。ドレスも似合ってるって褒められちゃいました」
「褒めた? あの人が?」
「はい。ビックリですよねー」
お世辞でも、ダミアンに言われるよりよほどうれしかった。
「確かにビックリね。そういうこと言わない人だから」
「そうなんですか?」
「ええ。微笑むこともないような堅物で有名よ」
「ふぇー」
なんかいっぱい微笑んでくれていたけどなぁ。
褒めてももらえたし。すごく感じよかったのに。
普通は違うのかしらね。
あー、私のコト仕事相手だとでも思ったのかもしれないわね。
それなら分かるわ。
あの父だって、仕事モードの時はちょっとは愛想いいし。
「それよりも、痛むでしょう」
「少しは~ですよ。別に激痛というわけではありません」
「でも」
「気にし過ぎです。マリアンヌ様が私のために演技をして下さったって、ちゃんと分かってますから」
私の言葉になぜかまたマリアンヌの表情が暗くなる。
そんな彼女の顔を私はのぞき込んだ。
「演技だけじゃないわ。あの時、なんか本当に腹が立ってしまって……気づいたらあなたを押し倒していたの」
「そうなんですね」
「だけどやった後に、すぐに酷いことをしたって。もっとやりようがあったんじゃないかって」
この人は結局、どこまでいっても優しい人なのだと思う。
私と父によって奪われた立場なのに。
もっと本当なら怒ってもいいはずなのに。
「ダミアンがあなたにちょっかいを出したことも、すぐにどちらを選ぶのか返事しなかったことも、全部全部腹が立ってしまって」
「分かります。私もですよ。とっととマリアンヌ様だって、言え! って思いましたもん。でもそうですね……本音を言うなら、あの場でマリアンヌ様をさらって行きたかったぐらいですよ」
おどける私の顔に、マリアンヌは泣きながら笑みを作った。
「なにそれ」
「だって腹が立ったんですもん。マリアンヌ様をこんな風に泣かすヤツが」
「まったくあなたって人は……」
「どうです? 私に鞍替えしてもいいんですよ?」
「もう、バカ」
マリアンヌはベッド前にしゃがみ込み、顔をシーツに埋めた。
私はそんな彼女のサラサラした髪をなでる。
小さな声でマリアンヌは『ありがとう』そう囁いてくれた。
その夜、私は熱を出してしまった。
ミーアは責任感からずっと看病すると言い張ったものの、明日も熱が引かなかったら困るからと部屋に戻した。
そして夜中、皆が寝静まった頃、部屋をノックする音が聞こえてくる。
起き上がれない私は、そのまま声だけかけた。
「はい、誰です?」
ゆっくりと部屋のドアが開く。
ドアの向こうにいたのは、マリアンヌだった。
なんとなくそんな気がしていたから、部屋の鍵はかけなかったのだ。
「マリアンヌ様」
「……」
私が微笑むと、ゆっくり部屋に入ってくる。
近づいてきた彼女の顔をよく見れば、目は腫れていた。
泣き腫らしたのだろう。
いつもの勝気な表情なはく、顔色も悪い。
「大丈夫ですか?」
「なんであなたがそれを言うのよ」
そんな風に言ったそばから、マリアンヌは泣き出す。
今にも消えてしまいそうな彼女に私は手を伸ばした。
「全部私のせいです。まさかあの人が私なんかに興味を示すとも思わず、警戒を怠ったせいですわ」
「ちがうわ」
「いいえ、違いません。マリアンヌ様は助けに来てくれたではないですか」
「ちがう。ちがう。ちがう」
子どものように頭を横に振りながら、ぼろぼろとマリアンヌは泣いていた。
やっとの思いで上体だけ起こし、彼女にもう一度手を伸ばす。
それに気づいたマリアンヌは、私の手を取り、すぐそばに来た。
私は嗚咽しながら泣くマリアンヌの背中を、たださすっていた。
彼女が泣き止むまで、ただずっと。
この涙が私のためだと知っていたから。
「ごめん……なさい」
「何を謝ることがあるんです?」
「だって、あなた怪我を」
「ああ、大したことありません」
「でも熱が」
「これは知恵熱です。公爵家で立ち回りした疲れが出ただけですわ」
正直、今日は一気にいろんなことが起き過ぎたのよ。
まぁ、背中も痛いといえば痛いけど。
それよりも疲れたというのが合っている気がする。
「公爵家ではうまく行った?」
「ええ。マリアンヌ様のおかげです。ドレスも似合ってるって褒められちゃいました」
「褒めた? あの人が?」
「はい。ビックリですよねー」
お世辞でも、ダミアンに言われるよりよほどうれしかった。
「確かにビックリね。そういうこと言わない人だから」
「そうなんですか?」
「ええ。微笑むこともないような堅物で有名よ」
「ふぇー」
なんかいっぱい微笑んでくれていたけどなぁ。
褒めてももらえたし。すごく感じよかったのに。
普通は違うのかしらね。
あー、私のコト仕事相手だとでも思ったのかもしれないわね。
それなら分かるわ。
あの父だって、仕事モードの時はちょっとは愛想いいし。
「それよりも、痛むでしょう」
「少しは~ですよ。別に激痛というわけではありません」
「でも」
「気にし過ぎです。マリアンヌ様が私のために演技をして下さったって、ちゃんと分かってますから」
私の言葉になぜかまたマリアンヌの表情が暗くなる。
そんな彼女の顔を私はのぞき込んだ。
「演技だけじゃないわ。あの時、なんか本当に腹が立ってしまって……気づいたらあなたを押し倒していたの」
「そうなんですね」
「だけどやった後に、すぐに酷いことをしたって。もっとやりようがあったんじゃないかって」
この人は結局、どこまでいっても優しい人なのだと思う。
私と父によって奪われた立場なのに。
もっと本当なら怒ってもいいはずなのに。
「ダミアンがあなたにちょっかいを出したことも、すぐにどちらを選ぶのか返事しなかったことも、全部全部腹が立ってしまって」
「分かります。私もですよ。とっととマリアンヌ様だって、言え! って思いましたもん。でもそうですね……本音を言うなら、あの場でマリアンヌ様をさらって行きたかったぐらいですよ」
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「なにそれ」
「だって腹が立ったんですもん。マリアンヌ様をこんな風に泣かすヤツが」
「まったくあなたって人は……」
「どうです? 私に鞍替えしてもいいんですよ?」
「もう、バカ」
マリアンヌはベッド前にしゃがみ込み、顔をシーツに埋めた。
私はそんな彼女のサラサラした髪をなでる。
小さな声でマリアンヌは『ありがとう』そう囁いてくれた。
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