48 / 68
047 お医者様
しおりを挟む
父が私のために医者を手配?
さっきミーアと人じゃないだなんて言っていたわよね。
いや、あの見解は少しも間違ってなんかいないはず。
だってあの父よ?
金貨一枚の価値すらないって言い放った父よ?
もうこの恨み、ずっと引きずってやるんだからってくらいの相手なのに。
たかが私が怪我で熱を出しただけで、医者を手配したなんてあるわけないじゃない。
「え、なに。明日世界が終わるの? それとも私、また死ぬのかしら」
「また? アンリエッタ様、それはどういう」
やだ。
思わず口に出ちゃっていたじゃない。
あまりに衝撃的だったんだもの。
いけないいけない、訂正しないと。
「ほら昔仕事で死にかけたことがあるから」
「あー。そんなこともありましたね。地下に置き去りにされて」
「そうそう。あの時だって大けがしてやっと脱出したというのに、医者なんて呼んでもらえなかったのよ」
「たしかに」
父の仕事はいつだって命がけだった。
でもたとえそれで命を落としたとしても、あの人にとっては使える手ごまが一つ減ったくらいにしか思わない。
そんな認識だったのだけど。
ダミアンの子を生むまでは~って感じなのかしら。
それにしたって、薄ら寒いけど。
「とにかく私のためのお医者様なら、ここに通りてちょうだい。待たせたら失礼にあたるわ」
どう転んでも怖いなとは思いつつも、せっかく来てもらった人を帰すわけにも行かず侍女に部屋まで案内するように頼んだ。
侍女はまた小走りで部屋を出て行くのを見て、ミーアが頭を抱えていたが。
元より商会では侍女をしていたわけではないのだから、少しくらいは大目に見てあげないとね。
しばらくすると、部屋に医師が通される。
思っていたよりもずっと、いや、かなり立派な方だ。
歳は父よりやや上くらいだろうか。
真っ白な服に、診察用の大きなカバンを持っていた。
そして助手なのだろうか、二人ほど綺麗な女性を伴っている。
私はミーアに頼んで背中にあるだけのクッションを挟んでもらうと、なんとかベッドで体を起こした。
「初めてお目にかかります、ヴィドール夫人。わたくしは医師のビランドと申します」
やや屈みながら、医師は私に丁寧に挨拶をした。
どう見ても、貴族相手をする方よね。
どこかの町医者には見えないわ。
「初めまして、こんにちわビランド様。このような格好で申し訳ありません」
「何を言いますか。貴女は患者ですから、そのままで結構なんですよ」
ビランドはそう言いながら、眉を下げてふんわりと微笑む。
「いろいろ診させていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。お願いいたします」
人生初の診察にドキドキしながらも、診察が行われた。
途中背中を見たいというビランドの声にこたえ、連れ立った看護師さんだろうか。
彼女たちが私を支えつつ、服などが最低限しか剥がれないようにいろいろと配慮してくれた。
その丁寧な動きに、私もその場にいたミーアもただ感心するばかりだった。
「簡単に申し上げますと、夫人の背中の骨の一部にヒビが入っています」
「ヒビですか」
「そうです。木や石などでもそうですが、どこかに強くぶつけると壊れますよね。そんな感じで、人の骨も強くぶつけるとヒビが入ったり折れたりしてしまうのです」
ビランドの話ではそのヒビが入ったがために、熱が出ているとのことだった。
もちろん過労もそこに追加されたのだが。
完治するには数週間かかるという。
また完治したとしても、何かにつけて痛むこともあると。
「とにかく今は安静が必要です。包帯で背中を固定すれば、痛みは少し軽減されるはずですが、結局あまり動いてしまえば同じですからね」
ビランドの指示で、私の背中には固定するようにきつく包帯がまかれた。
看護師たちから包帯の変え方をミーアが聞いている中、私は疑問をビランドにぶつける。
「ビランド様は、どなたから派遣されていらしたのですか?」
私の問いに、彼はやや困ったように一瞬目をそらした。
どう見ても、父が雇った医師ではないのは明らかだ。
だって金貨一枚以上、この診察代はかかると思うもの。
いくら父の目的が私が子を成すことだからといって、ここまでは肩入れするはずがない。
だからこそ彼が誰に雇われ、誰の指示で私を診察しているのか。
それがどうしても気になった。
「そうですねぇ……」
「口外はいたしません」
「わたくしは公爵家の侍医なのですよ、夫人」
「ではブレイズ様が……」
ビランドはただ微笑むだけで、それ以上は答えてはくれなかった。
診察代はもう貰っていると言い、痛み止めの薬と替えの包帯を置いて彼らは帰っていった。
さっきミーアと人じゃないだなんて言っていたわよね。
いや、あの見解は少しも間違ってなんかいないはず。
だってあの父よ?
金貨一枚の価値すらないって言い放った父よ?
もうこの恨み、ずっと引きずってやるんだからってくらいの相手なのに。
たかが私が怪我で熱を出しただけで、医者を手配したなんてあるわけないじゃない。
「え、なに。明日世界が終わるの? それとも私、また死ぬのかしら」
「また? アンリエッタ様、それはどういう」
やだ。
思わず口に出ちゃっていたじゃない。
あまりに衝撃的だったんだもの。
いけないいけない、訂正しないと。
「ほら昔仕事で死にかけたことがあるから」
「あー。そんなこともありましたね。地下に置き去りにされて」
「そうそう。あの時だって大けがしてやっと脱出したというのに、医者なんて呼んでもらえなかったのよ」
「たしかに」
父の仕事はいつだって命がけだった。
でもたとえそれで命を落としたとしても、あの人にとっては使える手ごまが一つ減ったくらいにしか思わない。
そんな認識だったのだけど。
ダミアンの子を生むまでは~って感じなのかしら。
それにしたって、薄ら寒いけど。
「とにかく私のためのお医者様なら、ここに通りてちょうだい。待たせたら失礼にあたるわ」
どう転んでも怖いなとは思いつつも、せっかく来てもらった人を帰すわけにも行かず侍女に部屋まで案内するように頼んだ。
侍女はまた小走りで部屋を出て行くのを見て、ミーアが頭を抱えていたが。
元より商会では侍女をしていたわけではないのだから、少しくらいは大目に見てあげないとね。
しばらくすると、部屋に医師が通される。
思っていたよりもずっと、いや、かなり立派な方だ。
歳は父よりやや上くらいだろうか。
真っ白な服に、診察用の大きなカバンを持っていた。
そして助手なのだろうか、二人ほど綺麗な女性を伴っている。
私はミーアに頼んで背中にあるだけのクッションを挟んでもらうと、なんとかベッドで体を起こした。
「初めてお目にかかります、ヴィドール夫人。わたくしは医師のビランドと申します」
やや屈みながら、医師は私に丁寧に挨拶をした。
どう見ても、貴族相手をする方よね。
どこかの町医者には見えないわ。
「初めまして、こんにちわビランド様。このような格好で申し訳ありません」
「何を言いますか。貴女は患者ですから、そのままで結構なんですよ」
ビランドはそう言いながら、眉を下げてふんわりと微笑む。
「いろいろ診させていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。お願いいたします」
人生初の診察にドキドキしながらも、診察が行われた。
途中背中を見たいというビランドの声にこたえ、連れ立った看護師さんだろうか。
彼女たちが私を支えつつ、服などが最低限しか剥がれないようにいろいろと配慮してくれた。
その丁寧な動きに、私もその場にいたミーアもただ感心するばかりだった。
「簡単に申し上げますと、夫人の背中の骨の一部にヒビが入っています」
「ヒビですか」
「そうです。木や石などでもそうですが、どこかに強くぶつけると壊れますよね。そんな感じで、人の骨も強くぶつけるとヒビが入ったり折れたりしてしまうのです」
ビランドの話ではそのヒビが入ったがために、熱が出ているとのことだった。
もちろん過労もそこに追加されたのだが。
完治するには数週間かかるという。
また完治したとしても、何かにつけて痛むこともあると。
「とにかく今は安静が必要です。包帯で背中を固定すれば、痛みは少し軽減されるはずですが、結局あまり動いてしまえば同じですからね」
ビランドの指示で、私の背中には固定するようにきつく包帯がまかれた。
看護師たちから包帯の変え方をミーアが聞いている中、私は疑問をビランドにぶつける。
「ビランド様は、どなたから派遣されていらしたのですか?」
私の問いに、彼はやや困ったように一瞬目をそらした。
どう見ても、父が雇った医師ではないのは明らかだ。
だって金貨一枚以上、この診察代はかかると思うもの。
いくら父の目的が私が子を成すことだからといって、ここまでは肩入れするはずがない。
だからこそ彼が誰に雇われ、誰の指示で私を診察しているのか。
それがどうしても気になった。
「そうですねぇ……」
「口外はいたしません」
「わたくしは公爵家の侍医なのですよ、夫人」
「ではブレイズ様が……」
ビランドはただ微笑むだけで、それ以上は答えてはくれなかった。
診察代はもう貰っていると言い、痛み止めの薬と替えの包帯を置いて彼らは帰っていった。
173
あなたにおすすめの小説
そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。
秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」
私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。
「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」
愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。
「――あなたは、この家に要らないのよ」
扇子で私の頬を叩くお母様。
……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。
消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし
さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。
だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。
魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。
変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。
二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる