王子と婚約するのは嫌なので、婚約者を探すために男装令嬢になりました

Blue

文字の大きさ
17 / 36

心臓の音が大き過ぎて

しおりを挟む
 今日も生徒会室で仕事をしている。
引継ぎは皆終わって残す所、残務処理のみとなった。
卒業までもうひと月ほど。少しはゆっくりできそうだ。今日は名ばかり会長も居ないし、ゆったりと仕事が出来る。

そんな穏やかな空気の中、一人の後輩が私に聞いてきた。
「アンジェリーナ様ご存じですか?王城にいる四人の貴公子の事」

「あ、ああ、貴公子ね。知っているわよ。なにせそのうちの二人は私の兄たちですもの」
「そうです。太陽の貴公子と氷の貴公子ですよね」
「そうみたいね。私には全くわからないけれど」

「元々は三人の貴公子だったんです。それが最近一人、精霊の貴公子という人が加わって四人になったそうで……私は見に行けなかったのですが、姉が訓練場に見学に行って見ることが出来たそうなんです」

ギックーン。そうだったんだ。全然気が付かなかった。笑顔で話を聞きながらも内心焦っていると
「それで、精霊の貴公子を見た姉が、すっかり夢中になってしまって」
「そう」
「はい、なんでも騎士団長様の親戚の方らしいのですが、まだ学生なのに凄くお強いそうで。それで姉に、学生って事はこの学園にいるかもしれないから探してって言われまして」

おお、そうきたか。
「学園はここだけではないですしねえ、少なくともそんな強い殿方は私の学年ではいませんわ」
「ですよねえ、アンジェリーナ様より強い方なんてこの学園に、そもそも居りませんものねえ」

「そうですわね。という事は他の学園ですわね」
「そうみたいです。姉に言わなければ。もう本当に凄い熱の入れようなんですよ。訓練が終わるのを待っていることもあるようで」
最近、以前にも増して騎士団棟の門にたくさんの女性がいたのはそれかあ、と納得しながら答える。
「それはなかなか凄いですわね」
「ですよねえ」


「いやあ、四人の貴公子ブームが凄いねえ」
団長の執務室にフィエロ殿下がやってきて、開口一番そう言った。
「迷惑してるんですけど、何処に行っても女性たちに囲まれて……部下連れて飲みに行っても全く楽しめないし」
ライ兄様がブーブー文句を言う。

「はは、やっぱり?ジルなんてこめかみに青筋立ちっぱなしだったよ。王城を普通に歩くこともままならないって」
「私も、学生だという事がどこからか漏れてるみたいで、探そうとしてる人がいるわ」
「……それは困ったねえ。まあでも、もう学園に行く事もないんじゃない?」
「ええ、引継ぎも残務も全て終わらせてきました」

「よし、じゃあアンジーのお婿探しを本格的にやろう」
「そうですね……」
そう答えながら頭の中にルドルフォ副団長が浮かんだ。連動してあの時の抱きしめられた感覚まで思い出されてしまい、顔が熱くなるのを感じた。
「おや?もう頑張るまでもなく見つけたかな」
フィエロ殿下が楽しそうに笑った。

 ジル兄様が珍しくもう終わるからと一緒に帰る事になった。騎士団棟から王城へと迎えに行く。もう男装は解いていた。すると、向こうから見た事のない男性がやって来るのが見えた。この先には国王の執務室とフィエロ殿下の執務室くらいしかない。

少しだけ警戒しながらすれ違う。横目で確認しながら通り過ぎようとすると、向こうもこちらを見ていたらしく目が合った。通り過ぎた後も視線を感じ、なんとも言えない気持ち悪さを感じた。

ジル兄様に確認してみたら、先代が亡くなって跡目を継ぐための書類を持って来た人物がいたと言っていた。


 学園に行かなくなってから、早いうちから騎士団に行く事になって少し経った頃。
他の部隊も体験するか?とライ兄様に聞かれ、一通り体験する事になった。

今日は第二部隊と一緒に街の巡回をしている。ルドルフォ副団長も一緒だ。少し前から思っていたが最近、ルドルフォ副団長が傍にいることが多い気がする。

剣の稽古も何回かしてくれて、尋常ではない強さを毎回実感している。その強さを体感するたびに、私の心臓は大きく鳴り響くのでとても疲れる。

今日もボンボン集団の第二部隊だけでは心許ないからと、ルドルフォ副団長がついてきてくれることになったのだけれど……なんというか……女性からの熱視線が痛いくらいに刺さる。ライ兄様たちと巡回した時も女性の視線は感じていたけれど、そんなに気にならなかった。なのに、ルドルフォ副団長に注がれる視線は、やけに気になってしまう。不思議に思いながらルドルフォ副団長に話しかける。

「あの……女性たちからの視線が痛いくらいなんですけど」
「いつものことだ。気にしなくていい」
いつもの事なんだあ、なんだろう、イラッとする。

「いつもこんな熱い視線を浴びているんですか?」
「ああ、騎士団は女性からするとカッコよく見えるらしいからな」
ちょっと嫌味っぽく言っても全く気にしていない事に脱力してしまった。

「ふふ、確かに、この騎士服着てるだけで5割増しに良く見えますもんね」
私が言うと、ルドルフォ副団長は目を瞬かせたあと声を上げて笑った。

「ハハハ、5割増しとは。凄い効果だな」
最近、ちょくちょく見ることの出来るルドルフォ副団長の笑顔。見るたびに心臓がドキンと大きく響いて私は固まってしまう。今も正に、ド正面から見た破壊力に固まってしまった。周辺からは黄色い声が飛んでいる。
なんて爽やかに笑うのだろう。ポカンとしていると、数人の女性が近寄ってきた。

「ルドルフォ副団長、今日はお一人ではないのですね」
「こちらの方も素敵じゃない」
「今日はお仕事何時までですの?」
「良かったらご一緒にお茶しません?」
などと、色々な言葉が一気に押し寄せてきた。

「すまないが、今日はこいつの付き添いなんだ。」
しかし、女性たちもそう簡単には引かない。
「じゃあ、こちらの方もご一緒にというのはどう?」
「それは素敵。ねえ、一緒にお茶しましょう」
「あなたも綺麗なお顔してるのね……あら、もしかしてあなた、精霊の貴公子?」
「キャー。貴公子が二人も。ねえ、是非一緒に行きましょうよ」

一人の女性が、私の腕に自分の腕を絡ませてきた。胸を押し付け上目遣いで見上げてくる。このモーションのかけ方は庶民の方でも貴族の令嬢でも一緒なのね、なんて呑気に考えていると

「すまない。こいつは団長直々に預かった大事な新人なんだ。ないがしろにしたら俺が団長に怒られてしまう。いずれ、時間が出来たらお茶でもなんでも付き合う」
そう言いながらすっと私の腕から彼女を離し、自分の背中に私を隠した。

「本当に?そう言っていつも断るんだから。何度も反故にするなら他の人に目移りしてしまうかもしれなくてよ」
一人の女性が色気をまき散らして言う。

「ああ、俺なんてとっとと見限って、他にいい男を見つけた方がいい。君たちほどの美女ならば、すぐに見つかるだろう」
ルドルフォ副団長は表情を変えることなく言った。

すると、慌てたようにそれぞれが何やら言い繕っていたけれど、副団長はまるで聞こえていないかのような態度を取る。
「では、これからはもう声をかけないでくれ」
そう一言発すると、私の手首を掴んでとっととその場を去った。

「ルドルフォ副団長、いいんですか?そんな簡単に彼女たちを切ってしまって」
「切るも何も……別にあの中の誰ともつき合ってなどいないし、特別な関係にもなっていない」
そう言いながらルドルフォ副団長はずんずん歩く。歩幅の違いに小走りになってしまう。

「えっ!?そうなんですか?」
「団長からどう聞いたかは知らないが、俺は自分から女性を口説いたことなど一度もないし、ましてや手を出すなんてしていない」

更に大股になる。小走りでは追いつけなくなり、思わずつんのめってしまった。
「キャッ」
前のめりに転びそうなった私をなんなくキャッチする副団長。

「やっぱりおまえは細いな。まるで女性のようだ。こんな小さな身体なのに、騎士団で十本の指に入る程強い。かと思えば、突然気を失ったり剣が飛んできても避けなかったり……あの時は、本当に間に合って良かった」

そう言って、ギュッと私を抱きしめた。
あまりにもきつく、しっかりと抱きしめられて私の心臓が太鼓のように大きく鳴り響いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妹が「この世界って乙女ゲーじゃん!」とかわけのわからないことを言い出した

無色
恋愛
「この世界って乙女ゲーじゃん!」と言い出した、転生者を名乗る妹フェノンは、ゲーム知識を駆使してハーレムを作ろうとするが……彼女が狙った王子アクシオは、姉メイティアの婚約者だった。  静かな姉の中に眠る“狂気”に気付いたとき、フェノンは……

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

ある日突然、醜いと有名な次期公爵様と結婚させられることになりました

八代奏多
恋愛
 クライシス伯爵令嬢のアレシアはアルバラン公爵令息のクラウスに嫁ぐことが決まった。  両家の友好のための婚姻と言えば聞こえはいいが、実際は義母や義妹そして実の父から追い出されただけだった。  おまけに、クラウスは性格までもが醜いと噂されている。  でもいいんです。義母や義妹たちからいじめられる地獄のような日々から解放されるのだから!  そう思っていたけれど、噂は事実ではなくて……

退役騎士の居候生活

夏菜しの
恋愛
 戦の功績で騎士爵を賜ったオレーシャは辺境を警備する職に就いていた。  東方で三年、南方で二年。新たに赴任した南方で不覚を取り、怪我をしたオレーシャは騎士団を退役することに決めた。  彼女は騎士団を退役し暮らしていた兵舎を出ることになる。  新たな家を探してみるが幼い頃から兵士として暮らしてきた彼女にはそう言った常識が無く、家を見つけることなく退去期間を向かえてしまう。  事情を知った団長フェリックスは彼女を仮の宿として自らの家に招いた。  何も知らないオレーシャはそこで過ごすうちに、色々な事を知っていく。  ※オレーシャとフェリックスのお話です。

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。 彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。 そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。 どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。 近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。 婿候補は獣医、大工、異国の王子様。 うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中! 同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈ 神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。 ※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。

処理中です...