笑い方を忘れた令嬢

Blue

文字の大きさ
12 / 71

恐怖

しおりを挟む
 たくさんの祝いの言葉を受け取った後、アリアンナは王太子とドマニに挟まれて座っていた。

国王は、重鎮の者たちに捕まってしまい、何やら真剣に話し込んでいる。王妃とドメニカもご婦人方に連れて行かれてしまった。残っていた王太子とドマニは、男性たちを牽制しつつ、たくさんの令嬢方の誘いを断り続けている。

「これは失敗だったな。男たちがたくさん来ることは想定していたが、まさかこんなに令嬢方まで集まるなんて思っていなかった」
断る事に疲れた様子の王太子が、ぼやきながらサンドイッチにかぶりつく。

「いやあ、本当にね。社交シーズンが始まったような盛況ぶりだね」
ドマニも笑ってはいるが、少しばかり疲れているようだ。
「ごめんなさい。私を一人にしないために……」
アリアンナは申し訳ない気持ちになり、肩を小さくしながら謝ると王太子が首を振る。

「違うよ、アンナ。私たちがアンナと一緒に居たいんだ」
三人の席の周辺には声を掛けたくても、黒い笑みを浮かべている二人の兄に恐れをなして近付けないでいる男性たちがたくさんいた。何人か勇者が立ち上がったが、ドマニの口撃にことごとく敗北したのだった。

「気をつけなければ、アンナの周りに悪い虫が蔓延るからね」
王太子は苦笑いでそう言うが、アリアンナはキョトンとした顔になる。
「悪い虫?」
「そう。その辺にウロウロしているだろ」
悪い虫が暗喩の言葉だという事を知らないアリアンナ。毒蛾か何かがいるのかと、キョロキョロと周囲を見渡すが悪い虫どころか、虫そのものが見当たらない。

「ジョエル兄様、虫なんて何処にもいないわ。外に行けばいるのかもしれないけれど」
アリアンナの言葉に、王太子が天を仰いだ。
「アンナ。やっぱり危険だ」
そんな時、再び二人を誘う令嬢たちが現れた。

「ジョエル兄様も、ドマニも行って差し上げて。私はドマニのくれたケーキを食べて待っているから」
「でも」
「大丈夫よ。こんなに美しい皆様をお待たせしてはいけないわ」

これ以上、令嬢方を蔑ろにするのは確かに良くない。仕方なく二人は席を立つ。
「すぐに戻って来るから。そこから一歩も動いてはいけないよ」
「はい」
「絶対に動いてはいけないよ」
「わかってます」
「絶対だからね」
「はいはい」

渋々と席を離れて行く二人を見送り一人になったアリアンナは、皿に盛られたスイーツに集中する事にした。
『美味しい』

ドマニが持ってきたケーキは皆、どれも美味しそうだった。
『誕生日をまた祝ってもらう日が来るなんて……去年は死ぬ事しか考えていなかったのに、とっても幸せだわ』
しかし、小さいサイズのケーキを2つ口にしただけで、アリアンナの一人の時間は終わりを告げた。

「アリアンナ様、是非お話をさせて下さい」
1人の勇気ある男性が話し掛けた。それを皮切りに、どんどん男性たちが集まって来る。イスに腰掛けていたアリアンナは、外からではもう姿を見る事が出来なくなってしまった。

始めのうちは、笑わせようと面白おかしい話をしていた男性陣だったが、次第に賛辞を送る言葉へと変わっていく。
「アリアンナ様の銀の髪は、まるで絹糸のように美しいですね」
「白い肌も陶器のようだ」
「何と言っても国の至宝と言われる、真っ青な瞳。見ているだけで吸い込まれてしまいそうです」

白熱していく賛辞合戦。アリアンナは段々と怖くなって来た。
「アリアンナ様の好みの男性のタイプを教えて頂けませんか?」
誰かがそんな質問を投げかけた。
「それは是非お聞きしたい」
「これからの参考になりますね」

「え……」
正直、アリアンナは異性の好みなど考えた事がない。強いて言うなら父親であるダヴィデのような人か。それくらいしかないのだ。どう答えていいのかわからないアリアンナは固まってしまう。
「と、特に、これと言っては……」
そう答えたのがまずかったと思うのは数秒後だった。

「では、私でもいいのですか?」
「それを言うなら私でもいいという事ですよね」
「私、私はどうでしょう?」
「アリアンナ様、僕は?」
今度は男性たちの自己アピールが白熱していく。少しずつアリアンナを囲っている輪が、小さくなっている気がする。男性たちの熱気が、アリアンナの肌に纏わりつく感覚がした。恐ろしいという気持ちしか感じられなくなったアリアンナは、悲鳴を上げそうになる。

その時だった。
「どいてくれ」
低いけれど心地良く響く声がした。全方位囲われているアリアンナには、声の主の姿は見えない。けれどその一声で、アリアンナの目の前に道が出来上がった。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)

モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。 そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!? 「わん!」(なんでよ!) (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

「結婚しよう」

まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。 一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。 みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。 「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」 婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。 「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。 年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

世界一美しい妹にせがまれるので婚約破棄される前に諦めます~辺境暮らしも悪くない~

tartan321
恋愛
美しさにかけては恐らく世界一……私の妹は自慢の妹なのです。そして、誰もがそれを認め、私は正直言って邪魔者なのです。でも、私は長女なので、王子様と婚約することになる運命……なのですが、やはり、ここは辞退すべきなのでしょうね。 そもそも、私にとって、王子様との婚約はそれほど意味がありません。私はもう少し静かに、そして、慎ましく生活できればいいのです。 完結いたしました。今後は後日談を書きます。 ですから、一度は婚約が決まっているのですけど……ごたごたが生じて婚約破棄になる前に、私の方から、婚約を取り下げます!!!!!!

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

処理中です...