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微笑
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アリアンナは一言も発せないうちに、あっという間に馬車に乗せられてしまう。馬車はすぐに走り出した。
「早業……」
ふと窓からすぐ横を、馬で並走しているジルヴァーノを見る。
「やっぱり綺麗だわ」
時折、周囲を警戒しながら馬を操っているジルヴァーノは、横顔も美しかった。
王城に到着し、ジルヴァーノのエスコートで城内を歩く。
「あの、先程はありがとうございました」
アリアンナが礼を述べると、愛想のない言い回しで返事が帰って来た。
「いえ、当然の事をしたまでです」
「それでも、私は咄嗟に返す事が出来なくて……嬉しかったです」
「そうですか」
会話が続かない。先程の流暢に言葉を並べていた彼は幻だったのかと思うと、なんだかアリアンナは可笑しくなってしまった。
「先程はあんなにたくさん言葉を並べていらっしゃったのに……」
「あれは!あれは仕事モードだったからで……」
予想外に尻すぼみになる口調に、増々可笑しくなってしまう。
その時アリアンナは、自分がどんな顔をしていたかなど気付くはずもなかった。隣にいたジルヴァーノも恥ずかしさから彼女を見てはいなかった。
アリアンナの口元がほんの少し緩んだ事を知る者は、誰もいなかった。
「へえ。私のアンナにそんな事を」
国王の執務室には、国王と王妃。宰相と王太子とドマニがいた。話を聞いて一番に言葉を発したのは王太子だった。
「殿下、笑顔が恐ろし過ぎますよ」
そんな王太子に宰相が突っ込む。こめかみを引くつかせ、黒い笑みを浮かべていた王太子の顔は、確かに恐ろしかった。
「予想通り……いや、予想以上の事をしでかしてくれましたね」
笑いながらドマニが言う。が、そんなドマニの目も笑ってはいなかった。ギラリとした緑の瞳に薄ら寒いものを感じてしまう。
「ジルヴァーノの存在で、伯爵本人を回避出来た所までは良かったのだがな」
国王が小さく溜息を吐く。
「仕方ありませんよ、父上。あの令嬢は本当に賢くないのですから」
相変わらずこめかみをピクピクさせながら返事をした王太子。片や王妃はすまなそうな表情でアリアンナを見つめていた。
「アンナ、ごめんなさいね。もう金輪際、ビガーニ伯爵家の招待は受けないわ」
静かに言う王妃。
「あの、私は別に……」
アリアンナは、それ程嫌な思いはしていなかった。皆にそう説明しようとするが、皆の表情が黒過ぎて言う事が出来ず仕舞いになってしまった。
王妃の静かな一言、これが王族一同の決断になったと知るのは少ししてからだった。ビガーニ伯爵家が王族の不評を買ったという噂が、あっという間に貴族中に知れ渡ったのだ。
「いやあ、宰相はいい仕事をするなぁ」
国王の爽やかな笑顔が、執務室の窓から溢れる陽の光に照らされていた。
茶会が落ち着くと、すぐに社交シーズンが始まる季節になる。
「いよいよアンナもデビュタントだね」
アリアンナは王太子の仕事を手伝っていた。と言っても書類を種別ごとに整理したり、王太子のメモ書きを清書したりする単純な作業だ。
「もう伯母上は、アンナのドレスを作ったのかな?」
ドマニも新たな書類の束を、王太子の机に置きながら会話に入ってくる。
「ええ、お母様とドメニカ伯母様で決めて下さったわ」
「母上もか……本当に大丈夫?あの人は少し脳筋の部分があるから、美的センスがあるとは思えないんだけれど」
ドマニの言葉に王太子が笑う。
「ははは、確かに脳筋寄りではなるな。まあ、母上もいたんだ。大丈夫だろう」
「ドメニカ伯母様はちゃんとセンスがおありよ。デザイナーの方も驚いていたわ」
「それは母上の発想が斬新過ぎて?」
「もう、ドマニったら」
そう言ったアリアンナの顔を、二人が凝視する。
「何?」
凝視と言う言葉が当てはまるほど見つめられ、アリアンナは居心地が悪くなってしまう。
「アンナ……」
アリアンナの名を呼んだ王太子は涙を浮かべていた。
「アンナ。今少し笑ったよ」
ドマニが信じられないという表情をする横で、王太子が徐に立ち上がりつかつかとアリアンナに近づく。
「アンナ!」
そしてアリアンナをギュウッと抱きしめた。
「アンナ。確かに君は、ほんの少しだけれど笑ったよ。昔の可愛らしい笑みのままだった」
言われたアリアンナも、涙を浮かべる。
「ホント?私、笑えていた?」
「うん、笑えていた」
「嬉しい」
アリアンナも王太子を抱きしめ返した。
「これからもっと笑えるようになる。アリアンナ、笑えるようになるんだ」
抱き合った二人の頬には涙が流れていた。
「早業……」
ふと窓からすぐ横を、馬で並走しているジルヴァーノを見る。
「やっぱり綺麗だわ」
時折、周囲を警戒しながら馬を操っているジルヴァーノは、横顔も美しかった。
王城に到着し、ジルヴァーノのエスコートで城内を歩く。
「あの、先程はありがとうございました」
アリアンナが礼を述べると、愛想のない言い回しで返事が帰って来た。
「いえ、当然の事をしたまでです」
「それでも、私は咄嗟に返す事が出来なくて……嬉しかったです」
「そうですか」
会話が続かない。先程の流暢に言葉を並べていた彼は幻だったのかと思うと、なんだかアリアンナは可笑しくなってしまった。
「先程はあんなにたくさん言葉を並べていらっしゃったのに……」
「あれは!あれは仕事モードだったからで……」
予想外に尻すぼみになる口調に、増々可笑しくなってしまう。
その時アリアンナは、自分がどんな顔をしていたかなど気付くはずもなかった。隣にいたジルヴァーノも恥ずかしさから彼女を見てはいなかった。
アリアンナの口元がほんの少し緩んだ事を知る者は、誰もいなかった。
「へえ。私のアンナにそんな事を」
国王の執務室には、国王と王妃。宰相と王太子とドマニがいた。話を聞いて一番に言葉を発したのは王太子だった。
「殿下、笑顔が恐ろし過ぎますよ」
そんな王太子に宰相が突っ込む。こめかみを引くつかせ、黒い笑みを浮かべていた王太子の顔は、確かに恐ろしかった。
「予想通り……いや、予想以上の事をしでかしてくれましたね」
笑いながらドマニが言う。が、そんなドマニの目も笑ってはいなかった。ギラリとした緑の瞳に薄ら寒いものを感じてしまう。
「ジルヴァーノの存在で、伯爵本人を回避出来た所までは良かったのだがな」
国王が小さく溜息を吐く。
「仕方ありませんよ、父上。あの令嬢は本当に賢くないのですから」
相変わらずこめかみをピクピクさせながら返事をした王太子。片や王妃はすまなそうな表情でアリアンナを見つめていた。
「アンナ、ごめんなさいね。もう金輪際、ビガーニ伯爵家の招待は受けないわ」
静かに言う王妃。
「あの、私は別に……」
アリアンナは、それ程嫌な思いはしていなかった。皆にそう説明しようとするが、皆の表情が黒過ぎて言う事が出来ず仕舞いになってしまった。
王妃の静かな一言、これが王族一同の決断になったと知るのは少ししてからだった。ビガーニ伯爵家が王族の不評を買ったという噂が、あっという間に貴族中に知れ渡ったのだ。
「いやあ、宰相はいい仕事をするなぁ」
国王の爽やかな笑顔が、執務室の窓から溢れる陽の光に照らされていた。
茶会が落ち着くと、すぐに社交シーズンが始まる季節になる。
「いよいよアンナもデビュタントだね」
アリアンナは王太子の仕事を手伝っていた。と言っても書類を種別ごとに整理したり、王太子のメモ書きを清書したりする単純な作業だ。
「もう伯母上は、アンナのドレスを作ったのかな?」
ドマニも新たな書類の束を、王太子の机に置きながら会話に入ってくる。
「ええ、お母様とドメニカ伯母様で決めて下さったわ」
「母上もか……本当に大丈夫?あの人は少し脳筋の部分があるから、美的センスがあるとは思えないんだけれど」
ドマニの言葉に王太子が笑う。
「ははは、確かに脳筋寄りではなるな。まあ、母上もいたんだ。大丈夫だろう」
「ドメニカ伯母様はちゃんとセンスがおありよ。デザイナーの方も驚いていたわ」
「それは母上の発想が斬新過ぎて?」
「もう、ドマニったら」
そう言ったアリアンナの顔を、二人が凝視する。
「何?」
凝視と言う言葉が当てはまるほど見つめられ、アリアンナは居心地が悪くなってしまう。
「アンナ……」
アリアンナの名を呼んだ王太子は涙を浮かべていた。
「アンナ。今少し笑ったよ」
ドマニが信じられないという表情をする横で、王太子が徐に立ち上がりつかつかとアリアンナに近づく。
「アンナ!」
そしてアリアンナをギュウッと抱きしめた。
「アンナ。確かに君は、ほんの少しだけれど笑ったよ。昔の可愛らしい笑みのままだった」
言われたアリアンナも、涙を浮かべる。
「ホント?私、笑えていた?」
「うん、笑えていた」
「嬉しい」
アリアンナも王太子を抱きしめ返した。
「これからもっと笑えるようになる。アリアンナ、笑えるようになるんだ」
抱き合った二人の頬には涙が流れていた。
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