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穏やかな表情の彼
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ジルヴァーノが軽く瞠目する。
「ピア?」
ピアと呼ばれた令嬢は、嬉しそうにジルヴァーノの目の前にやって来た。ストロベリーブロンドの髪はフワフワで柔らかそうだ。淡い茶色の瞳はとても愛らしい。
なんとなく、居心地が悪くなるアリアンナだったが、彼女の手はジルヴァーノが握っており離す様子はない。そうなると必然的に、ジルヴァーノのすぐ傍に居る事になる。
「ふふ、驚いた?」
「ああ」
「もうこれで私も立派な成人よ」
「ああ、おめでとう」
そう言ったジルヴァーノは、空いている方の手で令嬢の頭を撫でた。
「!」
ジルヴァーノが自然に彼女を撫でた姿を見た途端、チクンと胸の辺りが痛んだ気がした。不可解な痛みに首を傾げてしまう。
「ジル様ったら、私が王都の学園に入っている事も忘れているでしょ」
「ああ、そう言えばそう言っていたな。寮生活は楽しいか?」
「まあまあ楽しいわ……ってもう、そうじゃないの。せっかく同じ王都にいるのに……全然会えなくて寂しいわ。デート位してくれなくちゃ」
「そういうのは学生同士でした方が楽しいんじゃないか?私は忙しくてなかなか時間は取れそうもないからな」
「そんな……寂し過ぎる。おじ様たちも会いたがっていたわよ」
「領地にいる両親には、手紙を書いている。それに、社交シーズン中にはこちらに遊びに来ると言っていたから大丈夫だ」
「私には手紙なんて一度もくれた事ないのに」
「ああ、すまない」
再びジルヴァーノはピアと言う令嬢の頭を撫でた。アリアンナはギュッと目を瞑ってしまった。何故か見たくないと思ってしまったのだ。
「いいわ、許してあげる。その代わり……ロワに会わせて」
彼女の口からロワの名が出た事に驚いてしまう。ピアと言う令嬢は、アリアンナより前からロワを知っているようだ。再び小さな胸の痛みに襲われる。そんな自分に嫌悪感を感じるが、どうにも出来ない。
けれど、ジルヴァーノから発せられた返事は意外なものだった。
「ロワ?無理だろう。ピアをロワには会わせられない。思いっきり拒絶されたのを忘れた訳ではないだろう」
ジルヴァーノの言葉に驚くアリアンナ。
『拒絶?ロワが?』
そう言えばと思い出す。竜たちは女性にあまり好意を抱かないと聞いていたのだ。
「もう大丈夫。あの時は子供だったの。バカみたいに怯えて泣いて……今はそんな事ないから。だからお願い。ジル様の相棒であるロワに嫌われたままなのは嫌なの」
真剣な表情だとアリアンナは思った。ジルヴァーノもそう思ったのだろう。
「はあぁ、わかった。次の学園が休みの時に会わせよう。ただし、ダメだと判断した時は諦めるんだ」
「わかったわ。ありがとう、ジル様」
溜め息を吐き、仕方ないという表情のジルヴァーノとは真逆に、嬉しそうにニッコリと笑ったピアという令嬢は、アリアンナの手を握っているジルヴァーノの手をチラリと見た。
「ところでジル様。ダンスには誘ってくださらないの?」
「……今度、時間があったらな」
「どうして?」
「仕事がまだ残っているんだ」
「ええ⁉︎今日は私のデビュタントなのに。それに、そちらの方とは踊っていたじゃない」
ぷっくりと頬を膨らませる仕草が可愛らしい。素直に感情を表す事の出来る令嬢なのだとアリアンナは感じた。
「あの、ジルヴァーノ様。私が……」
「いえ、いいのです」
私が離れますと言いたかったアリアンナの言葉を、ジルヴァーノが止めた。
「でも……」
そう言いつつも、止めてくれた事を少し嬉しく思ってしまうアリアンナ。
『いやだ、こんな嫌な気持ちは持ってはダメ』
自己反省していると、ジルヴァーノがピアと呼ばれていた女性をアリアンナに紹介した。
「ピア、こちらはアリアンナ王女殿下だ」
「紹介が遅れてしまい、申し訳ありません。アリアンナ様、こちらはピア・モンタナーラ伯爵令嬢です。領地が隣同士でして。私の幼馴染です」
『なんだ。幼馴染だったのね』
何故か心が軽くなったアリアンナは、挨拶をしようとする。しかし、どうしてもジルヴァーノの手が離れない。仕方がないのでアリアンナは片手でドレスを掴んだ。
「アリアンナ・ベルトレーゼです。デビュタントおめでとうございます」
アリアンナをジッと見ていたピアも挨拶をした。
「ピア・モンタナーラと申します。ジル様の許嫁です」
「え?」
一瞬、耳を疑ってしまったアリアンナ。思わず聞き返してしまった。
「小さい頃にジル様との婚約が決まったのです。私が成人したのでやっと、ちゃんと結婚する事が出来るんですの」
「そ、そうですか」
ピアの言葉に頭が真っ白になったアリアンナ。軽くなったはずの心が、大きな岩でも乗せられているかのように重くなる。ドクンドクンと、嫌な音を響かせている心臓の音だけがやけに耳に響いていた。
ジルヴァーノには婚約者がいる。その事実がアリアンナの頭をぐるぐる回り続ける。
『私……どうしてこんなにショックを受けているの?』
「ピア?」
ピアと呼ばれた令嬢は、嬉しそうにジルヴァーノの目の前にやって来た。ストロベリーブロンドの髪はフワフワで柔らかそうだ。淡い茶色の瞳はとても愛らしい。
なんとなく、居心地が悪くなるアリアンナだったが、彼女の手はジルヴァーノが握っており離す様子はない。そうなると必然的に、ジルヴァーノのすぐ傍に居る事になる。
「ふふ、驚いた?」
「ああ」
「もうこれで私も立派な成人よ」
「ああ、おめでとう」
そう言ったジルヴァーノは、空いている方の手で令嬢の頭を撫でた。
「!」
ジルヴァーノが自然に彼女を撫でた姿を見た途端、チクンと胸の辺りが痛んだ気がした。不可解な痛みに首を傾げてしまう。
「ジル様ったら、私が王都の学園に入っている事も忘れているでしょ」
「ああ、そう言えばそう言っていたな。寮生活は楽しいか?」
「まあまあ楽しいわ……ってもう、そうじゃないの。せっかく同じ王都にいるのに……全然会えなくて寂しいわ。デート位してくれなくちゃ」
「そういうのは学生同士でした方が楽しいんじゃないか?私は忙しくてなかなか時間は取れそうもないからな」
「そんな……寂し過ぎる。おじ様たちも会いたがっていたわよ」
「領地にいる両親には、手紙を書いている。それに、社交シーズン中にはこちらに遊びに来ると言っていたから大丈夫だ」
「私には手紙なんて一度もくれた事ないのに」
「ああ、すまない」
再びジルヴァーノはピアと言う令嬢の頭を撫でた。アリアンナはギュッと目を瞑ってしまった。何故か見たくないと思ってしまったのだ。
「いいわ、許してあげる。その代わり……ロワに会わせて」
彼女の口からロワの名が出た事に驚いてしまう。ピアと言う令嬢は、アリアンナより前からロワを知っているようだ。再び小さな胸の痛みに襲われる。そんな自分に嫌悪感を感じるが、どうにも出来ない。
けれど、ジルヴァーノから発せられた返事は意外なものだった。
「ロワ?無理だろう。ピアをロワには会わせられない。思いっきり拒絶されたのを忘れた訳ではないだろう」
ジルヴァーノの言葉に驚くアリアンナ。
『拒絶?ロワが?』
そう言えばと思い出す。竜たちは女性にあまり好意を抱かないと聞いていたのだ。
「もう大丈夫。あの時は子供だったの。バカみたいに怯えて泣いて……今はそんな事ないから。だからお願い。ジル様の相棒であるロワに嫌われたままなのは嫌なの」
真剣な表情だとアリアンナは思った。ジルヴァーノもそう思ったのだろう。
「はあぁ、わかった。次の学園が休みの時に会わせよう。ただし、ダメだと判断した時は諦めるんだ」
「わかったわ。ありがとう、ジル様」
溜め息を吐き、仕方ないという表情のジルヴァーノとは真逆に、嬉しそうにニッコリと笑ったピアという令嬢は、アリアンナの手を握っているジルヴァーノの手をチラリと見た。
「ところでジル様。ダンスには誘ってくださらないの?」
「……今度、時間があったらな」
「どうして?」
「仕事がまだ残っているんだ」
「ええ⁉︎今日は私のデビュタントなのに。それに、そちらの方とは踊っていたじゃない」
ぷっくりと頬を膨らませる仕草が可愛らしい。素直に感情を表す事の出来る令嬢なのだとアリアンナは感じた。
「あの、ジルヴァーノ様。私が……」
「いえ、いいのです」
私が離れますと言いたかったアリアンナの言葉を、ジルヴァーノが止めた。
「でも……」
そう言いつつも、止めてくれた事を少し嬉しく思ってしまうアリアンナ。
『いやだ、こんな嫌な気持ちは持ってはダメ』
自己反省していると、ジルヴァーノがピアと呼ばれていた女性をアリアンナに紹介した。
「ピア、こちらはアリアンナ王女殿下だ」
「紹介が遅れてしまい、申し訳ありません。アリアンナ様、こちらはピア・モンタナーラ伯爵令嬢です。領地が隣同士でして。私の幼馴染です」
『なんだ。幼馴染だったのね』
何故か心が軽くなったアリアンナは、挨拶をしようとする。しかし、どうしてもジルヴァーノの手が離れない。仕方がないのでアリアンナは片手でドレスを掴んだ。
「アリアンナ・ベルトレーゼです。デビュタントおめでとうございます」
アリアンナをジッと見ていたピアも挨拶をした。
「ピア・モンタナーラと申します。ジル様の許嫁です」
「え?」
一瞬、耳を疑ってしまったアリアンナ。思わず聞き返してしまった。
「小さい頃にジル様との婚約が決まったのです。私が成人したのでやっと、ちゃんと結婚する事が出来るんですの」
「そ、そうですか」
ピアの言葉に頭が真っ白になったアリアンナ。軽くなったはずの心が、大きな岩でも乗せられているかのように重くなる。ドクンドクンと、嫌な音を響かせている心臓の音だけがやけに耳に響いていた。
ジルヴァーノには婚約者がいる。その事実がアリアンナの頭をぐるぐる回り続ける。
『私……どうしてこんなにショックを受けているの?』
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