笑い方を忘れた令嬢

Blue

文字の大きさ
30 / 71

穏やかな表情の彼

しおりを挟む
 ジルヴァーノが軽く瞠目する。
「ピア?」
ピアと呼ばれた令嬢は、嬉しそうにジルヴァーノの目の前にやって来た。ストロベリーブロンドの髪はフワフワで柔らかそうだ。淡い茶色の瞳はとても愛らしい。

なんとなく、居心地が悪くなるアリアンナだったが、彼女の手はジルヴァーノが握っており離す様子はない。そうなると必然的に、ジルヴァーノのすぐ傍に居る事になる。

「ふふ、驚いた?」
「ああ」
「もうこれで私も立派な成人よ」
「ああ、おめでとう」
そう言ったジルヴァーノは、空いている方の手で令嬢の頭を撫でた。

「!」
ジルヴァーノが自然に彼女を撫でた姿を見た途端、チクンと胸の辺りが痛んだ気がした。不可解な痛みに首を傾げてしまう。

「ジル様ったら、私が王都の学園に入っている事も忘れているでしょ」
「ああ、そう言えばそう言っていたな。寮生活は楽しいか?」
「まあまあ楽しいわ……ってもう、そうじゃないの。せっかく同じ王都にいるのに……全然会えなくて寂しいわ。デート位してくれなくちゃ」

「そういうのは学生同士でした方が楽しいんじゃないか?私は忙しくてなかなか時間は取れそうもないからな」
「そんな……寂し過ぎる。おじ様たちも会いたがっていたわよ」
「領地にいる両親には、手紙を書いている。それに、社交シーズン中にはこちらに遊びに来ると言っていたから大丈夫だ」

「私には手紙なんて一度もくれた事ないのに」
「ああ、すまない」
再びジルヴァーノはピアと言う令嬢の頭を撫でた。アリアンナはギュッと目を瞑ってしまった。何故か見たくないと思ってしまったのだ。

「いいわ、許してあげる。その代わり……ロワに会わせて」
彼女の口からロワの名が出た事に驚いてしまう。ピアと言う令嬢は、アリアンナより前からロワを知っているようだ。再び小さな胸の痛みに襲われる。そんな自分に嫌悪感を感じるが、どうにも出来ない。

けれど、ジルヴァーノから発せられた返事は意外なものだった。
「ロワ?無理だろう。ピアをロワには会わせられない。思いっきり拒絶されたのを忘れた訳ではないだろう」
ジルヴァーノの言葉に驚くアリアンナ。
『拒絶?ロワが?』
そう言えばと思い出す。竜たちは女性にあまり好意を抱かないと聞いていたのだ。

「もう大丈夫。あの時は子供だったの。バカみたいに怯えて泣いて……今はそんな事ないから。だからお願い。ジル様の相棒であるロワに嫌われたままなのは嫌なの」
真剣な表情だとアリアンナは思った。ジルヴァーノもそう思ったのだろう。

「はあぁ、わかった。次の学園が休みの時に会わせよう。ただし、ダメだと判断した時は諦めるんだ」
「わかったわ。ありがとう、ジル様」
溜め息を吐き、仕方ないという表情のジルヴァーノとは真逆に、嬉しそうにニッコリと笑ったピアという令嬢は、アリアンナの手を握っているジルヴァーノの手をチラリと見た。

「ところでジル様。ダンスには誘ってくださらないの?」
「……今度、時間があったらな」
「どうして?」
「仕事がまだ残っているんだ」

「ええ⁉︎今日は私のデビュタントなのに。それに、そちらの方とは踊っていたじゃない」
ぷっくりと頬を膨らませる仕草が可愛らしい。素直に感情を表す事の出来る令嬢なのだとアリアンナは感じた。

「あの、ジルヴァーノ様。私が……」
「いえ、いいのです」
私が離れますと言いたかったアリアンナの言葉を、ジルヴァーノが止めた。

「でも……」
そう言いつつも、止めてくれた事を少し嬉しく思ってしまうアリアンナ。
『いやだ、こんな嫌な気持ちは持ってはダメ』
自己反省していると、ジルヴァーノがピアと呼ばれていた女性をアリアンナに紹介した。


「ピア、こちらはアリアンナ王女殿下だ」
「紹介が遅れてしまい、申し訳ありません。アリアンナ様、こちらはピア・モンタナーラ伯爵令嬢です。領地が隣同士でして。私の幼馴染です」

『なんだ。幼馴染だったのね』
何故か心が軽くなったアリアンナは、挨拶をしようとする。しかし、どうしてもジルヴァーノの手が離れない。仕方がないのでアリアンナは片手でドレスを掴んだ。

「アリアンナ・ベルトレーゼです。デビュタントおめでとうございます」
アリアンナをジッと見ていたピアも挨拶をした。
「ピア・モンタナーラと申します。ジル様の許嫁です」
「え?」
一瞬、耳を疑ってしまったアリアンナ。思わず聞き返してしまった。

「小さい頃にジル様との婚約が決まったのです。私が成人したのでやっと、ちゃんと結婚する事が出来るんですの」
「そ、そうですか」
ピアの言葉に頭が真っ白になったアリアンナ。軽くなったはずの心が、大きな岩でも乗せられているかのように重くなる。ドクンドクンと、嫌な音を響かせている心臓の音だけがやけに耳に響いていた。

ジルヴァーノには婚約者がいる。その事実がアリアンナの頭をぐるぐる回り続ける。
『私……どうしてこんなにショックを受けているの?』
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)

モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。 そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!? 「わん!」(なんでよ!) (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

「結婚しよう」

まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。 一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。 みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。 「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」 婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。 「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。 年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。

世界一美しい妹にせがまれるので婚約破棄される前に諦めます~辺境暮らしも悪くない~

tartan321
恋愛
美しさにかけては恐らく世界一……私の妹は自慢の妹なのです。そして、誰もがそれを認め、私は正直言って邪魔者なのです。でも、私は長女なので、王子様と婚約することになる運命……なのですが、やはり、ここは辞退すべきなのでしょうね。 そもそも、私にとって、王子様との婚約はそれほど意味がありません。私はもう少し静かに、そして、慎ましく生活できればいいのです。 完結いたしました。今後は後日談を書きます。 ですから、一度は婚約が決まっているのですけど……ごたごたが生じて婚約破棄になる前に、私の方から、婚約を取り下げます!!!!!!

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

処理中です...