笑い方を忘れた令嬢

Blue

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 ジルヴァーノや騎士たちが、どんなに呼び掛けても竜たちは降りて来ない。そんな竜たちを見て、ジルヴァーノが大きく息を吐いた。
「はあぁ、やはりダメだな。ピア、残念だが君は竜たちに受け入れられる事はないだろう。ロワがここまで拒絶するという事は、他の竜たちも皆ピアを拒絶する。もう諦めた方がいい……それにしても、ここまで拒絶するのは初めてだ。一体何が気に入らないんだか」

ジルヴァーノとしては、何気なく放った言葉だった。だが最後の言葉がピアの自尊心を傷つけた事など、ジルヴァーノは知る由もなかった。

 結局、ピアがいる間は降りて来なかった竜たち。ジルヴァーノは尚も諦めようとしないピアを、何とか宥めて学園まで送り届けた。竜舎に戻ってくると、さっきまでの頑な竜たちは何処へ?と思ってしまうくらい、全ての竜たちが岩山から下りて、楽しそうにアリアンナと戯れていた。

「もしかして、私は馬鹿にされているのか?」
そんな竜たちを見て、ジルヴァーノはぼそりと呟き嘆息した。



やっと竜たちに開放されたアリアンナは、王妃達の元に送り届けられる。
「今日は本当に申し訳ございません」
最後にジルヴァーノが、頭を下げようとしたのでアリアンナは慌てて止めた。
「謝らないで下さい。ロワは私に助けを求めた。私はそれに応えた。それだけです。ジルヴァーノ様が謝る所は何処にもありません」

それでも難しい顔をしているジルヴァーノを覗き込むように視線を合わせるアリアンナ。「ね」と笑顔で小首を傾げれば、ジルヴァーノの耳がみるみる赤くなる。なんとか気を取り直したジルヴァーノがアリアンナに礼を述べる。
「ありがとうございます、アリアンナ様」
「ふふ、どういたしまして」
二人は少しの間笑い合い、ジルヴァーノは竜舎へと去って行った。

部屋に戻って来たアリアンナは、待っていた二人に経緯を話して聞かせた。
「それにしても、そのピアって娘はえらく嫌われたわね」
ドミニカが言うと、王妃も同意する。

「そうね。確かに竜たちはあまり女性を好まないけれど、逃げ出すなんて話は聞かないわね」
「まあ逃げ出したくもなるんじゃない?拒絶されているのに、尚も近寄ろうとするんじゃ溜まったもんじゃないでしょ」
ドミニカの指摘に王妃も頷く。
「そうよね。諦めないで挑戦したからと言って、関係が良くなる訳ではないものね」

「そうなるとピア様はもう?」
アリアンナが二人に問うと、二人とも大きく頷いた。
『仲良くなりたいのになれないのは、悲しいわね』
自分がその立場になったら耐えられないかもしれない。竜たちに拒絶される事は昔のあの生活に戻るのと同じ位辛い事だと、アリアンナは思ったのだった。



 その晩、アリアンナは夢を見た。
「ここは何処だろう?」
初めて見る場所だった。岩山と森が広がり、背後には川が流れている。夜空に星はなく、弓なりの月が出ているだけの暗い夜空だった。不思議を恐怖心はない。辺りをキョロキョロしていると、なにやら岩山の麓が騒がしい事に気付く。
「何だろう?」
アリアンナは行ってみる事にした。

「何?どういう事?」
行った先で見たのは、冒険者のような恰好をした人々。明らかにこの国の人間ではない事がわかる。何故なら、彼らが対峙しているのは竜だからだ。この国の人間ならば、竜に手を出す事はしない。

20人はいるであろうか。冒険者らしき人々が、1頭の竜を捕えようとしているようだ。金属で出来ているであろう大きなネットを持っている。捕らえるために彼らは竜を弱らせようと、様々な攻撃を打ち込んでいた。
「あの竜、まだ子供じゃない」
冒険者たちの向こうにいる、竜の姿がちらりと見えた。王城にいる竜たちよりも二回り程小さい。

居ても立っても居られなくなったアリアンナは竜の方へ走った。だが、どんなに走っても竜の元に辿り着けない。

その間にも次々と攻撃される竜を見て、堪らない気持ちになったアリアンナが力の限り叫ぶ。
「止めて!そのままでは死んでしまう。お願いだから止めてー!!」
だがどんなに声を荒げても、どんなに走っても、まるで自分だけ違う空間にでもいるかのように、竜の元に辿り着く事も出来なければ、声が届く事もない。

「誰か、誰か。その子を助けて!」
それでもアリアンナは必死に助けを呼んだ。
「誰か!お願いよ!その子が死んじゃう!!」
その時だった。上空から暗いながも月の光を受けて、銀色に輝いている竜が舞い降りた。

「ロワ?」
銀の竜に呼び掛けると、銀の竜が振り返った。
「私の声が聞こえるの?」
ほんの少し金色の瞳を細めた銀の竜は、そのまま自身の羽の力で竜巻を作り出し、冒険者らしき人物たちに向かって放ったのだった。
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