笑い方を忘れた令嬢

Blue

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竜の姫神子

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 夜会から戻った夜、アリアンナは再び夢を見た。たくさんの冒険者たちが、幼い竜を襲う夢だ。前回見た夢と全く同じ内容だった。ただ前回と違っているのは、夢なのにも関わらずアリアンナの中で、これはこれから起こるかもしれないという、漠然とした不安が胸を締め付けている事だった。

翌朝、起きても不安が消えないアリアンナは、ダメ元で国王たちに話してみる事にした。朝食の席、家族4人揃ったタイミングで切り出す。
「あのね、夢を見たの」
「夢?」
王太子が返してくれた。アリアンナは夢の内容を話した。

「それは全て夢の話なの?」
王妃の言葉に頷くアリアンナ。
「そう。あくまでも夢なの。でもやけに鮮明で……起きても記憶がしっかり残っている。ちゃんと全てを覚えているの」

アリアンナは、以前詳しく書き出していた紙を皆に見せた。

「……この場所って……月の場所は?何処に出ていたかわかる?」
何かに気付いた王太子が真剣な顔になる。
「月は確か、岩山と森の間にあったわ」
「時間は?」
「分からないけれど、月は大分高い場所にあったと思う」
「三日月だったんだね」
「ええ」

王太子が国王に紙を渡す。
「アンナの夢は、信憑性があります。これは北東の岩山に酷似しています。行った事のないアンナがここまで言い当てるなんて。これをただの夢で終わらせるのは浅はかな事のように思えます」

王太子の話を黙って聞いていた王妃がぼそりと呟いた。
「竜の姫神子……」

「何か言ったかい?」
国王が聞き返す。

「おとぎ話に出てくる、竜の姫神子。やっぱりアンナはその姫神子なのかもしれないわ」
「なんだって?」
国王と王太子の声が揃った。
「流石親子ね。驚き方が一緒」
真剣な話をしているのに、思わず王妃とアリアンナは笑ってしまう。

「竜の姫神子ってアレですよね。人々の争いで世界が壊れ、次々と生き物たちが絶滅していく中、最後の生き物である竜を守るために姫神子が天界から降り立ったとかっていう物語の」
王太子が「懐かしいな」と言いながら、絵本の内容を思い出す。

「そう、その姫神子よ」
「確かにアンナは竜たちに好かれているけれど……」
突拍子のない王妃の言葉に、王太子は否定的な返答をするが、王妃は構わず話を続ける。
「物語の姫神子には、姫神子である証があった事は覚えている?」
「ああ、確か身体の何処かに竜の模様の痣があるって……まさか!?」
国王と王太子が同じような表情で驚いてみせた。

「ふふふ、そのまさかなの」
そんな二人に、にっこりと微笑んだ王妃。
「背中にあった傷跡がね、初めて竜たちに会った時から少しずつ変化していったのですって。舞踏会当日に見た時は、はっきりと竜を模った模様になっていたわ」
「マッシマは見たのか?」
国王の言葉ににこやかに答える王妃。
「ええ、勿論」

「そうか……」
きっと国王も確認したいのだろうが、流石に年頃の娘の背を見せてくれとは言えない。
「私、見せても構わないわ」
国王の考えを読んだアリアンナが平気な顔で言った。

「は?アンナ。君はもう成人を迎えたレディなんだよ」
王太子が慌てたように言うが、アリアンナは気にもしていないらしくにっこりと微笑んだ。
「そうだけれど、別に家族に見せるんだもの。平気よ」
「!」
二人の男たちが固まった。

「ふふふ、こういう時。男の方が度胸ないわよね。いいわ。食事が終わったら皆でアンナの部屋に行くわよ」
王妃の一言で決まる。まさに鶴の一声、そんな感じだった。

「サマンサ、ベリシア。捨ててもいいという服はあるかしら?」
アンナの部屋に皆でやって来た。
「ああ、それでしたら何着かございます。最近、どうやらお胸がきつくなってしまったようで」
サマンサの言葉に、二人の男たちが頭を抱えた。

「アンナ、その服に着替えてらっしゃい」
「はい」
すぐに着替えて出て来たアリアンナを、背中を見せるように立たせる。

「じゃあ、鋏をくれるかしら?」
「え?はい」
不思議に思いながらも、ベリシアが王妃に鋏を渡す。
「アンナ、じっとしてね」
「はい」

服に切れ目を入れようと鋏を構えた王妃に、王太子が恐る恐る言った。
「母上。アンナに間違って刃が当たったらどうするんです?」
ヒヤヒヤしている王太子は落ち着きがない。そんな王太子に王妃はピシャリと言った。
「ジョエル、黙って」
「……はい」

ジャキンと鋏の音が部屋に響く。国王は真っ青な顔色で、それでも視線は逸らさずに見ている。王太子はもう見ていられないようで、顔を手で覆っている。何度かジャキン、ジャキンと金属音が響いた後、王妃が鋏をベリシアに返す。

「ほら、出来たわ」
恐る恐る顔を上げた二人。アリアンナの背中には、傷跡が全て見えるギリギリの範囲で穴が開いていた。

そしてそこにあったのは、かつての目を逸らしたくなるような醜い傷跡ではなく、羽を広げた美しい竜の模様だった。
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