笑い方を忘れた令嬢

Blue

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幸せな時間

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 二人の様子を見ていた王妃とユラは笑みを浮かべていた。ダンスを終え、タイミング良く戻って来たドミニカも声を上げて笑う。
「なんだ。お互いしか見えていないじゃない」
呆れたと呟くドメニカに王妃も笑った。
「ふふ、本当ね。心配いらないようだわ」

ジルヴァーノはアリアンナの目の前に立つと、極上の笑みを浮かべた。近くで見ていた女性たちからため息が溢れる程だった。
「アリアンナ様も、いらしていたのですね」
そう言って、すかさずアリアンナの手を取るジルヴァーノ。
「ジルヴァーノ様……」
アリアンナの鼓動が途端に速くなる。もう何度も手を握られているはずなのに、かあっと顔に熱が宿った。

アリアンナの熱に気付いたジルヴァーノの表情が優しくなる。
「お久しぶりですね。すっかり竜舎に来て頂けなくなって……竜たちも寂しがっております」
ジルヴァーノの言葉に違和感を感じたアリアンナ。
「竜たち、も、ですか?」
違和感の箇所を強調して問いかけると、一瞬の沈黙の後ジルヴァーノが答えた。
「……竜たち、も、です」
少しだけ照れたように答えるジルヴァーノに、胸を打つ苦しさを忘れてアリアンナはつい笑ってしまった。
「ふふ、そうなのですね」

自分の言葉に照れたのか目元を少しばかり赤く染めながら、ジルヴァーノはアリアンナの手にキスを落とした。
「よろしければ、このままダンスにお誘いしても?」
「ふふ、ええ」
快諾してくれたアリアンナに、嬉しそうな笑みを浮かべるジルヴァーノ。そんなジルヴァーノを見て吃驚仰天のユラ。
「うちの息子が……あんなに嬉しそうに笑ってる……」
呆けた様子で呟いたユラを見た王妃とドミニカは、声を上げて笑った。

ジルヴァーノのエスコートで二人はダンスエリアへ向かう。会場にいる全ての視線が二人に集中していると言っても過言ではない程の視線を浴びている。それでも、二人には互いしか目に入っていないせいか気にする素振りはない。

音楽が流れ出し、二人が動き出す。ワルツの旋律に乗せて優美に踊っていると、アリアンナが話し出した。
「竜たちの様子は如何ですか?」
竜たちの事は王太子やドマニから聞いてはいたが、アリアンナはジルヴァーノの口からも聞いてみたかった。

その途端に大きく嘆息するジルヴァーノ。
「すこぶる悪いです。ピアが毎日来る事で、ストレスを感じているようで……岩山から降りて来ないばかりか、ちっとも言う事を聞いてくれなくなりました」
聞いていた通りの竜たちの様子にアリアンナも小さく嘆息する。
「ピア様の方はどうなのでしょう?」
嘆息しながら首を振るジルヴァーノ。
「どんなに説得しても毎日竜舎にやって来ます。諦めるどころか意地になっているようで……」
先程の様子を見ても、彼女が自分の意志で止める事はないだろう。これ以上竜たちにストレスを与えないようにするためにはどうしたらいいのかと、アリアンナが思考を巡らせかけた時だった。

ジルヴァーノがアリアンナの腰をグイっと自身に寄せた。そうでなくても近い距離にいる二人の距離が更に近くなる。
「!?」
驚いたアリアンナの耳にスッと顔を寄せるジルヴァーノ。
「せっかくのダンスです。他の者の事を考えるのは止めにしませんか?」
囁くような低音がアリアンナ耳元を掠めていく。ゾクゾクとした刺激がアリアンナの肩を震わせた。
「……はい」
俯いたままそう答えたアリアンナの首筋が赤く色付いている事に気づいたジルヴァーノの口元が緩む。二人は距離を縮めたまま踊り続けた。

『やっぱり綺麗』
距離が近づいた事でジルヴァーノの銀の瞳が間近に見える。月の光を閉じ込めたかのような輝きに見入っていると、ふとその光の中に小さな炎が揺らいだのを見た。
「アリアンナ様。あまり見つめられると、困ってしまうのですが?」
「え?」
アリアンナの腰に添えられていたジルヴァーノの手が熱い。

「そんな見つめられますと、邪な願望を抱いてしまいそうです」
先程よりも大きく揺らいだ炎に、手の熱に、彼の言葉が本気なのだと悟ったアリアンナは心臓の収縮をはっきりと感じる程の胸の鼓動に一瞬息が止まった。しかし、言った本人であるジルヴァーノは、悪戯が成功したかのように笑った。
「もう、また揶揄いましたね」

そう言って怒ってみせるアリアンナを見るジルヴァーノの瞳には、未だ炎が揺らいでいる。
「そういう事にしておいて下さい」
意味深な答え方をするジルヴァーノに、アリアンナの心臓がキュウっと縮まった。かと思うと爆発したのかと思う程、ドンと大きく高鳴ったのだ。
『心臓が……持たない』
痛いくらいの胸の高鳴りに苦しさを感じるも、視線を逸らす事が出来ないまま踊り続けていると、やがて音楽が終わりを迎えた。

「良かったら、明日にでも竜たちに会いに来て下さいませんか?」
ダンスエリアから出て王妃たちの元へ戻りながらジルヴァーノがアリアンナを誘うと、アリアンナの顔が満開の花のように華やいだ笑顔になる。竜たちに会える喜びとジルヴァーノから誘われた喜びを隠しきれない、そんな表情だった。
「はい。では明日、行かせて頂きますね」
その美しい笑みにジルヴァーノの耳が熱くなる。きっと赤く染まっているのだろう。なんとか誤魔化すように「お待ちしています」とだけ言ったジルヴァーノは、添えていたアリアンナの手をキュッと握った。

王妃たちのいる席まで戻った二人に、ドメニカがニヤリとした。
「ジルヴァーノ。もう告白は済ませたの?」
「なっ!?」
ドメニカの言葉に、耳だけでなく顔までもが真っ赤に染まらせたジルヴァーノ。そんな様子にドメニカは更に追い討ちをかけるように言った。
「なんだ、まだなの?あれだけ甘い空気を醸し出しておいて?てっきり想いを告げたのかと思ったのに。おまえねぇ、アンナ程の娘がいつまでも誰の物にもならないなんて思ってはいないでしょうね。横からかっさらわれる前に行動しないと、後悔する事になるわよ」

ドメニカの言葉に何も返せずに赤く染まり続けているジルヴァーノに、内心微笑ましく思いながらユラが応戦する。
「ほほほ、ドメニカ様。もっと言ってやってくださいな。私の言葉では何も響かない子が、ドメニカ様の言葉ならとってもよく響くようですわ」

一緒に笑っていた王妃の方は、アリアンナに言葉をかける。
「ふふ、アリアンナもよ。ジルヴァーノはとってもモテるのよ。油断しているとすぐに取られてしまうわよ」
夫人三人組にやいのやいのと揶揄われて、二人揃ってりんごのように顔を真っ赤にさせてしまう。

そんな夫人たちの後ろで、悔しさを滲ませたピアが、アリアンナを睨んでいる事には誰も気付く事はないまま、夜会の夜は更けていくのだった。
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