笑い方を忘れた令嬢

Blue

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誘拐

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 再び目を覚ましたアリアンナは、見知らぬベッドに横になっていた。
「ここは……宿?」
決して衛生的とは言えない雰囲気の部屋だ。
「頭が痛い……」
朦朧とする頭をおさえながら起き上がる。窓の外は真っ暗だった。
『ここはどの辺かしら?それに、私をここまで連れて来た人たちは……』

アリアンナは、何か場所を特定出来そうな目印はないかと外の様子見ていると、背後の扉がガチャリと開いた。
「おや、目が覚めましたか?」
「……フィガロ殿下?」
ノックもせず部屋に入って来たのは、ジルヴァーノの屋敷で会ったフィガロ王子だった。
「申し訳ありません。こんな安宿に王女であるアリアンナ嬢を寝かせる事になってしまって。大きい宿ですと、目立ってしまいますので」
ニコリと微笑みながら、穏やかに話すフィガロ王子に、アリアンナは薄気味悪さを感じてしまう。

「どうして私を?」
彼女は、フィガロ王子を睨みつけながら、少しでも彼と距離を取ろうと壁沿いに後ずさる。
「ああ、それはですね。あなたをメアラーガにお連れしようと思いまして。是非、メアラーガで私の妻になって頂きたいのです。少々荒っぽい行動を取ってしまった事は申し訳なく思っておりますが、あなたをお連れするには方法がこれしかありませんでした」
にこやかに、丁寧に、とんでもない事を話すフィガロ王子に、アリアンナは驚き過ぎてすぐに言葉を返せない。

「……あの殿下」
「はい?」
「これは明らかに犯罪行為だという事はわかっていらっしゃるのですよね?」
「ええ、そうですね」
肯定しているのに、彼からは悪い事をしていると自覚していない印象を受ける。
「今からでも遅くありません。私を解放してください」
アリアンナがそう言うと、フィガロ王子は笑みを深くした。
「それは出来ません。私にはあなたが必要なので。竜の姫神子であるあなたが」
アリアンナの目が大きく見開かれる。
「それを何故?」
しかし、フィガロ王子はアリアンナの問いに答えず、ジッとアリアンナの瞳を見つめていた。
「ああ、本当に美しいですね。今まで見た事がない程美しい青です。私はあなたと会った時、その青に心を奪われたのですよ。それに、ピア嬢から竜の姫神子だと聞いた時は……鳥肌が立ちました」

ふふふと笑うフィガロ王子に、アリアンナの方こそ鳥肌が立つ。
「私、実は王になる事を諦めていなくてですね。竜を連れ帰れば王太子である兄を蹴落とす事が出来ると思っているのですよ。あなたがいれば竜が勝手にやって来るでしょうから、是非一緒に来て頂こうと思った訳です」
アリアンナの青を見つめながらまたもやとんでもない事をニッコリと微笑んで言う王子。
「あなたがいればきっと、竜たちがこぞってメアラーガにやって来るでしょう。ふふ、私は間違いなく王です。そしてあなたは王妃となるのですよ。素晴らしいでしょ」

『この方……狂ってる』
アリアンナの背に嫌な汗が流れた。竜の紋様に汗が触れたのを感じたその時。
「あ!竜の岩山!殿下、北の岩山の森がどうなったかご存じではないですか!?」
火事の事を思い出したアリアンナは、フィガロ王子の袖を掴んだ。
「ああ、森の火災ですか?どうなったでしょうね」
にんまりとするフィガロ王子に、アリアンナは確信した。
「……殿下が仕組んだのですね」
「ええ、あなたからあの銀の竜を離さなくてはいけないと思いましてね。ただ、残念な事に、私は指示を出しただけですのでどうなったかまでは……あ、ですが、夜明け前には火を放った部下たちと合流しますから、わかると思いますよ」

お茶会の時には感じられなかった狂気に、アリアンナの身体が震えた。
「あ、そうそう。こちら、毒などは入っていませんから召し上がってください。なんせ5日程、眠らせたまま馬車で移動させてしまったので。随分とお腹も減っているでしょう。食事の後は湯の用意もさせますね」
そう言って部屋から出ようとしたフィガロ王子が、扉を開ける直前くるりとアリアンナに向き直った。

「扉の前にも、窓の下にも見張りの者がおりますから。くれぐれも私から逃げるような事はしないで下さいね」
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