笑い方を忘れた令嬢

Blue

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メアラーガへ

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 無邪気ともいえる笑みを浮かべ、フィガロ王子が部屋を出て行く。アリアンナは不安と怒りで感情が昂るのを感じたが、空腹には耐えられず食事を胃の中におさめる事にした。それから宿の使用人に湯を張ってもらい、ゆっくりと湯に浸かり、身綺麗にした事で落ち着きを取り戻した。

窓の外をそっと見る。王子が言っていた通り、窓の真下には2人の見張りが立っていた。きっと扉の向こうにも見張りがしっかりいるのだろう。これでは逃げる事など出来はしない。なのに、不思議と恐怖心を抱いていない事に少しだけ可笑しくなってしまう。
「ジル、ロワ」
空の向こうがうっすらと白み始めたのを見ながら、アリアンナは呟いた。

 それから少しして、再びフィガロ王子が部屋にやって来た。
「無事に部下たちと合流出来ました。もう間も無く、出発しますので。まだまだ道のりは長いですが、なるべくアリアンナ嬢の負担にならないように気を付けますね」
言葉遣いも態度も紳士なのだが、やっている事は犯罪。しかも全く悪びれる事もない様子が気味が悪い。
「ああ、それと森の様子はわからないそうです。何カ所か火を放ってそのままここへ来たそうなので……申し訳ありません。あなたの知りたい情報が得られませんで」
そう言った王子の表情は、眉を下げて本当に申し訳なさそうだ。

『感覚がズレている』
アリアンナがそう思いながらフィガロ王子を見ていると、目が合ってしまい、彼にニッコリと微笑まれてしまった。
「あなたの瞳、明けかけた空の光に映えて美しいですね。妻として迎えられることを誇りに思います」

その時だった。背中にほんのりと熱が宿る。気のせいだろうか、胸に下げられた青い宝石も温かみを帯びているような気がする。
『ロワが近くにいる?』
直感的にそう感じたアリアンナが、王子にニッコリと微笑みを返した。彼女の美しい笑みに、王子の顔が赤くなる。そんな王子にアリアンナはキッパリ言った。
「私は絶対にあなたの妻にはなりませんし、あなたの国にも参りません」
驚いたのだろう。一瞬、目を見開いた王子だったが再びニッコリと笑った。
「ははは。どうやら見た目とは違って、なかなか芯のある方のようですね。ますます気に入りましたよ。ですが、どう足掻いたところで既に王都よりメアラーガの国境の方が近い距離にまでなっているのですよ。竜の住処の近くを燃やした上に、会場からも何の痕跡も残さずに消えたのです。例えあの竜騎士が何かを見つけようとも、その頃にはメアラーガに入っているでしょう」
この国を出る事を確信している物言いに、今度はアリアンナが笑った。
「ふふふ、私はジルと銀の竜を信じています。あなたの思い通りには決してなりません」
余裕すら窺えるアリアンナの様子に、今までずっと笑顔だったフィガロ王子の表情が変わった。

「もしかして……離れていても竜と交信出来る能力でもあるのですか?」
そんな能力はない。でも、アリアンナは笑顔のままでいた。
「ふふ、どうでしょう?」
すると、フィガロ王子は残念そうに眉を下げた。
「はあぁ、仕方ありませんね……」
そう言うと、後ろにいた部下に目線で何かを指示する。
「あまり薬漬けにするのは、あなたの身体の負担になるだろうと、ここからは楽しくお話でもしながら旅をするつもりでしたが……」

一人だった部下が二人に増えた。無言でアリアンナを羽交い絞めにする。
「!」
そして何度も嗅いだ薬品の匂いに覆われてしまう。
「意識があっては竜に気付かれてしまいそうですから。メアラーガに入るまでは大人しく眠っていてもらいましょう」
その言葉を聞くと共に、アリアンナの意識が途絶えた。

「残念です。あなたと楽しく旅をするつもりでいたのに……」
そう呟いたフィガロ王子は、アリアンナを抱きかかえると宿を出た。待機していた馬車に乗り込み、彼女を寝かせる。
「一刻も早くここを出るぞ。銀の竜に嗅ぎつかれるかもしれない」

まだ明けきらない空の中、馬車の一行は走り出した。

 暫く進むと、朝焼けで空が赤く染まる。馬車は順調にメアラーガ王国に向かっていた。

だが、それは突然やって来た。
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