66 / 71
その後
しおりを挟む
ジューリオの話はこうだった。
フィガロ王子一行を捕らえた竜騎士団は、ジョエル王太子を伴ってメアラーガ王国へ直接抗議しに行った。先触れもなくやって来た竜の軍団に、メアラーガの王族たちは勿論、王城にいた者たち皆がなすすべもなく、ただただ驚くばかりだったそうだ。
王太子が事の顛末を全てメアラーガの国王と王太子に話し、国王はその場でフィガロ王子は廃嫡、平民落ちを決めた。幸いにして森の火災は、陽動作戦として騒ぎを起こしたかっただけだったため、大きな被害にはならなかった事と、長年の友好国であった事、完全なフィガロ王子の単独犯であった事から、国としての賠償は領地の一部をもらい受けるだけに留まった。フィガロ王子一行は、処刑は免れたものの、過酷な土地での労働が強いられる事になった。
そして、交換留学をしていたジューリオは、国に戻る事になった。
「僕は呼び出しを受けて、途中からあの場に参加したんだけどさ。ジルヴァーノの恐ろしさに、全然関係ない僕が縮み上がるくらいの恐怖を感じたよ。兄上も相当怖かったけど、ジルヴァーノに比べたら……今でも思い出すだけで震えちゃうね。それにさ、帰る時の竜たちの速度と言ったら……速すぎて、景色なんて一切見る余裕がなかったんだよ」
笑いながら楽しそうに話すジューリオに、アリアンナが謝った。
「ごめんなさい、ジューリオ。私のせいで留学が強制的に終わってしまって」
ところがジューリオはケラケラと声を上げて笑った。
「ははは、全然。実を言うとさ、もう学ぶべき事は学び終えたし、そろそろ帰りたいなって思っていた所だったんだ。ちょうど良かったよ。面倒くさい令嬢たちもいたしね。僕の妃になりたいって二人の令嬢がさ。もう凄いんだよ。周りに媚を売って男たちを味方に付ける子爵令嬢と、権力を笠に着て周りを脅して回る侯爵令嬢。互いに相手を陥れようと必死になっていてさ」
ジューリオが盛大に溜息を吐く。
「普通に考えてさ。周りに男を侍らせながら、僕に熱い視線を送るような女も、僕に近寄らせないようにと周りの令嬢を脅して回る女もないよね。そんな姿を見て一体誰が、彼女たちの事を好きになるって言うんだろうね」
「それでも……ちゃんとお別れする時間もないままに帰って来てしまったのでしょう。私のせいだわ」
そう言って眉が下がったままのアリアンの眉間に、ジューリオが人差し指を押し付けた。
「そんな顔しないで。アンナが悪い訳じゃないんだから。それに、竜に乗る事も出来たし、こっちの学園に通えるし。おまけにこれからはアンナと遊べるしね」
ニカっと笑ったジューリオに、アリアンナも釣られて微笑む。
「ありがとう、ジューリオ」
その日の夜。月が大分高い位置で優しく光を放っていた。
『眠れない……』
拉致されてからほとんど眠って過ごしていたせいだろうか。いつまで経っても眠気がやって来なかったアリアンナは、仕方なくベッドに腰掛ける。
「はあぁ」
ある事を考えながら、小さく溜息を吐く。眠り過ぎて眠れない他にも、アリアンナには眠れない原因があったのだ。
『もう1週間以上会っていない……』
自分を助けに来てくれた事は知っている。ベッドまで運んでくれた事も聞いた。
「会いたい」
無意識に言葉が零れ落ちる。
『あと1日か2日すれば体調も戻るだろうし。そうしたら自分から会いに行こう』
そう思った時だった。
コツンという何かがぶつかる音が聞こえた。驚いたアリアンナの肩がビクリとする。
『何!?』
音の出所を突き止めようと、アリアンナが耳を澄ますと再びコツンという音がした。
『窓?』
窓に何かが当たっているようだった。咄嗟に窓から見える木の葉を見る。木の葉は、時折そよそよと風を受けて小さく揺れるだけだった。
『風で、という訳ではなさそうね』
そう推理していると、再びコツンと音がする。
『もしかして……』
なんとなく確信を持ったアリアンナは、ゆっくりと窓に近付いた。
フィガロ王子一行を捕らえた竜騎士団は、ジョエル王太子を伴ってメアラーガ王国へ直接抗議しに行った。先触れもなくやって来た竜の軍団に、メアラーガの王族たちは勿論、王城にいた者たち皆がなすすべもなく、ただただ驚くばかりだったそうだ。
王太子が事の顛末を全てメアラーガの国王と王太子に話し、国王はその場でフィガロ王子は廃嫡、平民落ちを決めた。幸いにして森の火災は、陽動作戦として騒ぎを起こしたかっただけだったため、大きな被害にはならなかった事と、長年の友好国であった事、完全なフィガロ王子の単独犯であった事から、国としての賠償は領地の一部をもらい受けるだけに留まった。フィガロ王子一行は、処刑は免れたものの、過酷な土地での労働が強いられる事になった。
そして、交換留学をしていたジューリオは、国に戻る事になった。
「僕は呼び出しを受けて、途中からあの場に参加したんだけどさ。ジルヴァーノの恐ろしさに、全然関係ない僕が縮み上がるくらいの恐怖を感じたよ。兄上も相当怖かったけど、ジルヴァーノに比べたら……今でも思い出すだけで震えちゃうね。それにさ、帰る時の竜たちの速度と言ったら……速すぎて、景色なんて一切見る余裕がなかったんだよ」
笑いながら楽しそうに話すジューリオに、アリアンナが謝った。
「ごめんなさい、ジューリオ。私のせいで留学が強制的に終わってしまって」
ところがジューリオはケラケラと声を上げて笑った。
「ははは、全然。実を言うとさ、もう学ぶべき事は学び終えたし、そろそろ帰りたいなって思っていた所だったんだ。ちょうど良かったよ。面倒くさい令嬢たちもいたしね。僕の妃になりたいって二人の令嬢がさ。もう凄いんだよ。周りに媚を売って男たちを味方に付ける子爵令嬢と、権力を笠に着て周りを脅して回る侯爵令嬢。互いに相手を陥れようと必死になっていてさ」
ジューリオが盛大に溜息を吐く。
「普通に考えてさ。周りに男を侍らせながら、僕に熱い視線を送るような女も、僕に近寄らせないようにと周りの令嬢を脅して回る女もないよね。そんな姿を見て一体誰が、彼女たちの事を好きになるって言うんだろうね」
「それでも……ちゃんとお別れする時間もないままに帰って来てしまったのでしょう。私のせいだわ」
そう言って眉が下がったままのアリアンの眉間に、ジューリオが人差し指を押し付けた。
「そんな顔しないで。アンナが悪い訳じゃないんだから。それに、竜に乗る事も出来たし、こっちの学園に通えるし。おまけにこれからはアンナと遊べるしね」
ニカっと笑ったジューリオに、アリアンナも釣られて微笑む。
「ありがとう、ジューリオ」
その日の夜。月が大分高い位置で優しく光を放っていた。
『眠れない……』
拉致されてからほとんど眠って過ごしていたせいだろうか。いつまで経っても眠気がやって来なかったアリアンナは、仕方なくベッドに腰掛ける。
「はあぁ」
ある事を考えながら、小さく溜息を吐く。眠り過ぎて眠れない他にも、アリアンナには眠れない原因があったのだ。
『もう1週間以上会っていない……』
自分を助けに来てくれた事は知っている。ベッドまで運んでくれた事も聞いた。
「会いたい」
無意識に言葉が零れ落ちる。
『あと1日か2日すれば体調も戻るだろうし。そうしたら自分から会いに行こう』
そう思った時だった。
コツンという何かがぶつかる音が聞こえた。驚いたアリアンナの肩がビクリとする。
『何!?』
音の出所を突き止めようと、アリアンナが耳を澄ますと再びコツンという音がした。
『窓?』
窓に何かが当たっているようだった。咄嗟に窓から見える木の葉を見る。木の葉は、時折そよそよと風を受けて小さく揺れるだけだった。
『風で、という訳ではなさそうね』
そう推理していると、再びコツンと音がする。
『もしかして……』
なんとなく確信を持ったアリアンナは、ゆっくりと窓に近付いた。
56
あなたにおすすめの小説
元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)
モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。
そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!?
「わん!」(なんでよ!)
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
「結婚しよう」
まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。
一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜
大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。
みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。
「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」
婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。
「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。
年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。
傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました
みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。
ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。
世界一美しい妹にせがまれるので婚約破棄される前に諦めます~辺境暮らしも悪くない~
tartan321
恋愛
美しさにかけては恐らく世界一……私の妹は自慢の妹なのです。そして、誰もがそれを認め、私は正直言って邪魔者なのです。でも、私は長女なので、王子様と婚約することになる運命……なのですが、やはり、ここは辞退すべきなのでしょうね。
そもそも、私にとって、王子様との婚約はそれほど意味がありません。私はもう少し静かに、そして、慎ましく生活できればいいのです。
完結いたしました。今後は後日談を書きます。
ですから、一度は婚約が決まっているのですけど……ごたごたが生じて婚約破棄になる前に、私の方から、婚約を取り下げます!!!!!!
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる