元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ

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マリーベル編〜楽しく長生きしたい私

閑話 アンがいたから

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 王宮の大広間に国内の貴族が集められ、アンネマリー・スペンサー侯爵令嬢の死の真実について、国王陛下より説明される。
 事故の後に衰弱して亡くなったとされていたが、実は隣国の公爵令嬢の手のものに暗殺されたこと、シールド公爵令息とマディソン侯爵令息が隣国に行き、事件の調査と首謀者のエベスト公爵令嬢を断罪してきたこと。また、隣国王家に反逆しようとして、エベスト公爵は処刑されたことも知らされる。

 アンの友人達は、初めて暗殺されたことを知ったようで、かなりショックを受けているようだ。泣き出す令嬢も何人か見える。あまり身分を気にせず、誰とでも仲良くなれる性格だったから、友人は多かったのよ。そして、そんなアンだから私も仲良くなれたのよね。


 アンと私が仲良くなったきっかけは、私が王太子殿下の婚約者に決まり、お妃教育が始まった事だったと思う。
 お妃教育は、とても厳しいものであった。出来て当たり前、出来ないと否定される。王太子殿下の婚約者に選ばれたのだから、お妃教育は光栄なことだと。公爵令嬢に生まれて、何となく婚約者に選ばれた、当時10歳の私にとってはつらい毎日で、とにかく孤独だったのだ。
 そんな時に、元第二王女殿下の娘のスペンサー侯爵令嬢が一緒に学ぶ事になった。王族の中で唯一の未婚の姫。何かあれば、政略結婚で他国に嫁がされる可能性がある。その為に、私と一緒にお妃教育を受けるらしい。あの子はまだ8歳、かわいそうにというのが、私の本音であった。まだ相手の顔も分からない、どこの国に嫁ぐのかも分からないのに、今からこんなことさせるのかと。

 一緒に学び始めて気付くが、アンは優秀だった。覚えるのが早くて要領がいいのだ。しかし、彼女には裏の顔があった。休憩時間に庭園の花を見に行きたいと私を誘い出し、人気のない所へ行くと、ドレスの中から小さな包みをだす。包みの中には、彼女が作ったと言うクッキーが。それを不意に私の口に入れ、自分自身もパクパクと食べている。貴族令嬢らしからぬ行動に驚いていると、疲れた時は甘いものを食べないとやってられないから、隠して持ってきましたと言う。えっ?口調変わってるし、あの可愛い姫は、裏ではこんな感じなの!その時はとにかくビックリしたが、段々その飾らない性格が心地良く感じていた。貴族の腹の探り合いとか、いかに相手を陥れるか、媚びを売るかとか、アンにはそんなものを全く感じなかった。一緒に隠れてお菓子を食べながら、お妃教育の文句を口にするのが、毎日の日課になっていて、気付くとそこに、王太子殿下も混ざるようになっていた。そこから婚約者という上辺だけの関係が、良い方に少しづつ変化したような気がする。殿下は私に、胡散臭い笑顔しか見せてくれなかったのだが、今では心からの自然な笑顔を私に向けてくれるようになったのだ。

 ある時、アンが私に一冊の本をプレゼントしてくれた。王女と護衛騎士の身分違いの恋を描いたロマンス小説だった。とても感動するから是非読んで欲しいと言う。涙を沢山流して、気分転換にして欲しいと。えっ?気分転換って、アンは一体何歳なの?時々、私よりもかなり大人びた事を口にするのだ。
 王太子殿下の婚約者という立場を僻み、引きずり下ろそうとしてくる者が沢山いる中で、人に弱みや隙を与えないように、強くあるべきと教育されてきたし、私もそれを実践してきた。涙なんて流し方を忘れてしまっていたと思う。この私がロマンス小説で、涙なんて流れるわけ………、あったのだ。小説に感動し、涙を流すと、気分がスッキリしていた。そのおかげで、今ではロマンス小説が私の1番の趣味になっているのだが、それがきっかけで沢山の友人も出来たので、ロマンス小説もバカに出来ないと思う。
 今更気付くが、アンは私を人間らしくさせてくれたのだ。

 そんなアンに婚約者ができた。私と同じ年の、騎士団を取りまとめる名門公爵家の嫡男。アンは気付いたら婚約者になっていたと言う。相変わらず、細かいことは気にしない令嬢だ。他国に嫁がされることは無くなったようだし、2人は幼馴染のようで仲も良かったので、アンが幸せならそれでよいと思った。しかも、アンは全く気付いていないが、婚約者の彼は相当アンの事が好きなようだ。多分、彼が強く望んで婚約したのだろう。お茶会で他の令息とアンが少し会話をしただけで、殺気立っているし、友人の令嬢達と楽しそうにしているのも、面白くなさそうだ。貴族である以上は社交は大切だし、必要なのだから、アンみたいな社交上手な子はパートナーとしては最高だと思うのに。

 アンは、美姫と言われていた母である元第二王女殿下にそっくりの美少女だし、貴族令嬢にありがちな、ワガママなところが無く、気さくなので、令息達からモテるのはしょうがない。しかし、彼は心配だったのだろう。嫉妬から、アンにつらく当たるようになる。
 アンに他の令息に笑いかけるなとか、媚びを売るなとか言っている姿を見た時は、何を言っているのかと疑問だった。同性の私から見ても媚は売ってないし、アンの笑顔は最高の武器なのに。彼にそんな言葉を投げかけられ、冷たく不機嫌な態度をとられようになって来た頃、アンは前ほど笑わなくなってしまっていた。自分を否定されるような態度を取られればつらいし、自信を無くすに決まっている。アンのそのような姿を見た王太子殿下の怒りは恐ろしかった。実の妹のように可愛がっているアンが、笑顔を無くしたのだから。そして、その様子を横で見ているマディソン侯爵令息も、何かを考えているように見える。殿下の信頼の厚い、この腹黒があんな風に変わるなんて。恋の凄さを感じたのは、もう少し後になってからだ。

 アンは婚約者の取り巻きから、酷い扱いを受けても、自分の事なのに、まるで傍観者の一人のようであった。この婚約はどうにかならないのかと、殿下と話をしていた時である。体調を崩して、しばらく学園を休み、久しぶりに学園に復帰したアンが、婚約者の取り巻き達を返り討ちにしたのは。あのおバカの代表格のケール男爵令嬢を言い負かし、マディソン侯爵令息がそれを手助けしたと聞いて、殿下と2人でニヤけてしまった。
 ケール男爵令嬢から、2人の婚約を否定する内容を一筆書いてもらってきた腹黒マディソンは、アンがこんな不憫な思いをしているのだと伝わるように、わざわざアンの父のスペンサー侯爵と、婚約者の父のシールド公爵にそれを届けに行くという。それを聞いた殿下は目を輝かせて、一緒について行ってしまった。その後、バカな男爵令嬢は消え、婚約は白紙になり、アンは腹黒マディソンとの仲を深めていく。元婚約者はアンを手放したくないのだろう。色々と模索して、謝って何とかやり直そうとしているようだが、残念ながら、アンには元婚約者に気持ちが残っているように見えないし、全てが遅すぎたのだった。
 そして、マディソン侯爵令息があんな表情を見せる日が来るなんて、恐らく学園の誰もがそう感じたと思う。
 学園のパーティーでは、わざわざアンの卒業にこじつけてやって来た殿下が、学園の生徒たちの前で2人にファーストダンスを踊らせることで、この2人は王太子殿下公認であるということを見せつけさせた。なかなか面白いことを考える殿下である。

 隣国への留学も寂しくなるが、腹黒マディソンが一緒なら、大丈夫ねと殿下と話していたのに…。まさか、事故で亡くなるなんて。

 大切な妹との永遠の別れが来てしまったことを、受け入れることが出来なかった時に驚く事を耳にする。
 アンの事故の現場に駆けつけた元婚約者のヘタレが、すぐに現場の指揮を取って、暗殺者をあぶり出し、アンの報復の為に隣国へ行きたいと、王太子殿下に頭を下げて願い出て来たと言うのだ!
 暗殺という真実を知った殿下は、その願いを聞き入れて、殿下の立場で出来る協力をしたようで、卒業と同時に彼は隣国に発つことになる。
 
 また、留学という名目で、隣国行きが決まっていたマディソン侯爵令息も、裏で色々と仕入れた情報を元婚約者のヘタレに提供して、報復の協力をしていた。そして、かつての恋敵が協力して、アンの暗殺を企てた隣国の公爵令嬢を断罪してきたのであった。

 これで私も、アンの死を受け入れないといけないのね…。

 もしアンがこの場面を見ていたら、あのヘタレ元婚約者の変化を、どう思ったのかしらね?
 腹黒マディソンも結局は、アンに気持ちを伝える事が出来なかったようだし、今ならどちらを選んでいたのかしら?
 それともアンを命懸けで守ろうとして、命を落とした、アンの仲良しの護衛騎士を選んでいたかしら?

 もう!聞きたい事が沢山あるのに、アンはいないのね。

 そういえば、ヘタレに貸したアンの形見の本が返って来てないわね。この後、取り立てに行こうかしら?

 この先、アンのような令嬢に会う事はないわね。あの子は不思議な魅力があった。私はアンがいなかったら人の心を忘れて、断罪された隣国の公爵令嬢みたいになっていたかもしれない。身分が高いと求められるものが大きくて、息が詰まりそうになる時がある。そんな時にさり気なく助け出してくれたのは、アンだけだったのだから。


 アンの事を考えていた私は、涙が頬をつたっていたことに気づかなかった。


 
 ずっと忘れないわ。私の大切な妹……
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