推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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隣人特権、強すぎるんですけど。(10)

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 成瀬さんは私の言葉にキョトンとした表情を見せた。そして、すぐに得心がいったのか、「あぁ」と声を漏らした。

「もしかして俺のこと、わかっちゃいました?」

 私がコクリと頷けば、成瀬さんは少しはにかみながら頭をかいた。

「そっかぁ……。でも、俺なんて蓮と比べたら名前も顔も知られていませんから、週刊誌なんて相手にしませんよ」

 そう言ってカラカラと笑う成瀬さん。私は咄嗟に成瀬さんの言葉を否定した。

「そんなことありません! ライブでの成瀬さんは、とても素敵でした。ステージの上であんなに輝いていた人を、世間が放っておくはずがありません!」

 私の剣幕に驚いて一瞬目を見張った成瀬さんだったが、すぐに嬉しそうに目を細めた。

「お世辞でも嬉しいです。ありがとうございます」

 お世辞なんかじゃないのに……。

 そう反論したかったけれど、それを遮るように私のお腹が二度目の催促をする。それを耳にした成瀬さんは笑いをこらえるように口元を覆った。耳まで真っ赤にして笑うのを堪えている。そんな成瀬さんの反応に、私は顔が熱くなるのを感じた。恥ずかしさのあまりその場から逃げ出したくなった私は、慌てて口を開く。

「あ、あの……それじゃあ、これで。ご心配をお掛けしました」

 そそくさと部屋へ戻ろうとしたその時、成瀬さんが慌てたように私の腕を掴んだ。それに驚いて成瀬さんの顔を見れば、どこか緊張した面持ちの成瀬さんが少し気まずそうに口を開いた。

「まっ、待って」

 どうしたのだろう?

 何か言いたげな雰囲気だけど、躊躇いがあるのか、なかなかその先が続かない。私は成瀬さんが言葉を発するのをじっと待った。しばらく沈黙が続いた後、ようやく決心したように成瀬さんが口を開いた。

「やっぱり飲みに行きませんか?」

 予想外の成瀬さんの言葉に、即答できずにいると、成瀬さんは慌てて続けた。

「石川さんが嫌だと思うのなら、無理にとは言いません。でも俺、もう少し話がしたいと思って……」

 もごもごと呟くその様子は、まるで自信なさげで、さっきまでの頼もしい成瀬さんとのギャップに思わず笑いそうになってしまう。しかし、さすがにここで笑うわけにはいかないので、我慢。私はフルフルと頭を振った。

「ご迷惑になってはいけませんから」

 そう言った途端、成瀬さんがしょぼんとした表情をする。まるで捨てられた子犬のようで、たまらなくかわいい。

 その表情はずるいです! 本当は、私だってまだまだ話したいんですから!
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