推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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隣人特権、強すぎるんですけど。(11)

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 そうは思っていても、本能のままに動いて推しを窮地に立たせるような行動は、ヲタクとして言語道断。私は自分の理性を総動員して、なんとか踏ん張る。

 しかし、そんな私の気持ちなど知る由もない成瀬さんは、さらにしょぼくれた表情を見せる。

 くっ……か、かわいい……! でも、お願いだから、そんな顔しないで~!

 推しの笑顔が自分のせいで失われていくことに耐えられなくなった私は、考えるよりも先に言葉を発していた。

「じゃ、じゃあ……」

 私の言葉を受けて、成瀬さんの表情がパッと明るくなった。その笑顔の眩しさに目がくらみそうになる。

 あぁ、もう! そんな眩しい笑顔を隠し持っているなんて。なんてズルい人ですか!

 心の中でそう毒づきながら、私は続けた。

「家で飲みませんか?」

 その言葉に成瀬さんの口から「は?」っと声が漏れた。その反応に、私は言葉足らずだったことに思い至る。

「あ、えっと。その、安心してください。成瀬さんを連れ込んだりしませんから」

 慌ててそう付け加えれば、成瀬さんは少し考える素振りを見せた後、口を開いた。

「では、俺の家ですか? 俺はいいですけど、しばらく掃除をする機会がなかったので、ちょっと待ってもらわないと。……でも、いいんですか? あ、いや、別に石川さんにどうこうしようとかじゃないですけど……その……俺、一応男ですよ?」

 最後の方はしどろもどろになりながら、成瀬さんは躊躇いがちにそう続けた。

 確かにそうだ。お酒も入るし、異性の家ともなれば、つまりそういう展開になる可能性もあるわけで。推しとの接近はこの上なく嬉しいが、異性の家に軽々しく上がるような貞操観念の持ち主だなんて、間違っても推しには思われたくない。だから、私は笑顔で首を振る。

「成瀬さんのお部屋にはお邪魔しません」

 そんな私の答えに、成瀬さんは訝しげに眉をひそめた。それはそうだ。宅飲みを提案しておきながらどちらの家にも上がらないだなんて、意味がわからないだろう。でも、ヲタクの一線を越えてしまわない良案を私は閃いたのである。私は成瀬さんにニコリと微笑んで見せた。

「各自、自分の部屋で飲みましょう」
「え? それだと……」

 私の提案に反論したそうにもごもごと口を動かす成瀬さんの目を、私はじっと見つめた。そして、ゆっくりと首を横に振る。

「私は、成瀬さんにご迷惑をかけるようなことはしたくありません。……でも、まだまだお話をしたい気持ちは私も同じです」
「だったら……」
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