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1.何処かで聞いた都市国家
9.魔法学院
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神殿のような一室で、僕はむくれている。くそっ、僕としたことが女の子のように悲鳴を上げるなんて。スカートの中を見られたことより、そちらのほうが恥ずかしい。
イリスは僕よりも赤面しているし、アレクシアさんとリリーさんは僕をとりなしてくれるが、エリックさんと年配の男性は、僕が戻ると決まりが悪そうにそそくさと出て行った。
「……どうやら、肘当ても必要だったようだな。すまんな、気が利かなくて」
との言葉を残して。
「まぁまぁ、気を取り直しなさいよ。これで合格は決まりよ?来週からはあなたも魔法学院の生徒ね。クラスはイリスと同じクラスになると思うから」
そういうアレクシアさんは続けて僕にいいました。
「このあと、入学の宣誓をしてもらうことになるわ。魔法学院に入学する者は、このアレキサンドリアの盾となり、剣となることを誓うの。まあ、宣誓の言葉はその場で魔法でクロエにだけ聞こえるように教えるから、その通り話せばいいわ」
なぜこの場で教えてくれないんだろうと、アレクシアさんの顔を見直すと、どたばたして間違えても恥ずかしいしねと言われる。まあ、宣誓の言葉は様式美とかもあるのだろうから、あまり変なことはできないだろうし安心だよね。
先ほどの年配の人が入ってきた。やはり学校関係者というか、宣誓に来る立場なんだから、校長先生のようなものかな。とりあえず、宣誓を行うのは僕だけらしく、先ほどまでのメンバーと変わりはない。
「では、入学に際して魔法書に手を置き、宣誓してもらいます。宜しいですね」
年配の男性の言う通り、左手を魔法書に乗せ耳元で聞こえるアレクシアさんの言葉通り宣誓を行います。
「私は、これより魔法学院及び都市国家アレキサンドリアの盾となり、剣となりて命をとして戦い、アレキサンドリアの民を守ることを誓います。黒家の主神ヘカテーと我が真名、クロエ・ウインターに誓って」
って?「クロエ・ウィンター?」いつの間に、そんな大事なことを勝手に進めやがって、あの人わぁ~
こうして半ば強引に、この宣言によって僕は魔法学院の生徒になるだけじゃなく、アレクシアさんの養子となることが決定したのであった。
*****
翌週から、魔法学院に通学をはじめた僕は、予想通りイリスと同じクラスに編成された。といっても、12歳以下のクラスは1クラスしかないから、必ず同じになるんだけどね。
途中入学の僕は、最初に恒例の自己紹介をさせられたけど、特筆すべき事はなかった。ある意味、既に白髪紅瞳で魔力無しのウィンター家の居候という事で知れ渡っていたからね。現在の通り名が「March hare」らしい。意味は狂ったウサギだって……
この世界にルイス・キャ○ルはいるのかい、アリア?
魔法学院の授業は、午前中が基礎教科でクラス単位で受ける授業。今日の授業は魔法学と戦闘術の2教科だ。とりあえず、異世界気分を楽しむつもりで授業を受けてみよう。
魔法学の授業は、低年齢学級とはいえ魔法学院であるから、今更4大精霊がなどとは始まらない。魔法はイメージだと言うのも事実だけど、それだけで実現するには、効率が悪いらしい。効率は、魔法の発動までの時間や、威力に影響するしね。魔力を効率よく使用するための技術的な話が多く、とても為になる授業だった。
周囲からは、『使えもしないのに……』という視線で見られているけど、気にしないでおく。講義の内容は、ゲームの中の魔法をより詳しく解説する様な内容で、威力の強化や弱体化、天候や地形の影響などの要素が絡むらしい。そこはある意味現実なので、様々な制約が出るのも当たり前かと思う。ゲームの中の世界ではなくて、実際に人が生きている世界なのだから。
戦闘術の講義は、剣・槍・弓の3種の兵科に、魔法の使いが加わって、4つのグループに分かれているけど、これを戦況に合わせて、10人の分隊を編成して戦う。分隊編成の場合は、分隊長役・参謀役がそれぞれ1名と、残る8人は兵士で構成される。
分隊長は持ち回りで、全員が交代で行うけど、参謀役は分隊長が指名できるのが特徴かな。実際、交代でやろうにも、参謀って仕事は向き不向きがあるもんね。
分隊を2つ合わせて、小隊を作るときは、小隊長役が1名ついて21名で編成されることになる。戦闘術の学科は、普通の学校であれば体育の教科みたいなものだから、受講者は多いのかと思えばそうでもないらしい。確かに、鍛冶や冶金、錬金術を学ぶ子達にとっては、不必要と思われるからだろうなぁ。受講者は僕を含めて45名いて、常に何名か余るんだけど、2組の戦いを客観的に見ることが出来て、魔法使いは待機組みを希望する事が多いみたい。
僕は中途入学なので、技量的にどの位の位置にいるかを、受講者に知ってもらう為、教官は僕と剣のグループの誰かを模擬戦をさせることでみんなに教える手法をとることにした。
教官が相手を募ったら、ほぼ全員が手を挙げるという異常事態だ。手を挙げなかったのはリアンとワイアットだけ。流石に、連続しての嫌がらせは不味いと自重したのかもしれない。
■個人戦1戦目
最初は、女子の剣士が相手として選ばれる。年齢は12歳位かな?赤毛で礼儀正しい娘だけど、男子よりも背が高くて、僕とは50cm以上違う。恐らく女子の中では一番強いんだろうな。エリックさんの作ってくれた装備を色々試すには丁度いいかも。
僕達は5mの距離を空けて対峙します。教官の合図で一礼をして構える彼女は、お先にどうぞと言ってくれます。ここは、お言葉に甘えないとね。真剣にやってもらわないと訓練にならないし……
ほどほどに加速して、一気に彼女の懐に飛び込んだ僕は、その場で半回転して彼女のわき腹に肘撃ちを寸止めして再び元の位置に戻ります。これで、本気になってくれるかな?
あれ?教官まであっけにとられてるよ。小首を傾げてどうしようか考えてると、彼女が再起動したようだね、目が本気になってるし。
今度は彼女が攻めてきた。まずは振りかぶっての唐竹割りで頭上狙いか。女の子同士だと容赦ないなぁ。男子はあまり頭や顔を狙わないけど、その辺に躊躇はないみたい。
左に身体を半歩ずらして振られた剣先を避けると、再び前へ出る。女の子の手と長剣の長さを合わせて、彼女の攻撃範囲は約2m位かな。手元1mは、長剣が有効じゃない間合いだよね。
さすがに、もぐりこまれるのは想定済みらしく、そのまま横薙ぎで長剣が振られるけど、予測していたのはお互い様だよ。片手を床に着いて足元に水面蹴りの要領で軸足を払う。
この手の戦い方は相手にした事が無いのか、足払いは綺麗に決まり、彼女は仰向けに倒れこんだので、僕はその場で一回転して右踵を彼女のお腹に、加減して落とす。
教官はまだ呆けているから、呼んであげたらようやく復帰して、僕の勝ちを宣言した。うんうん、まあ初見なら通用するよね。これで引っ込もうとしたら、次は男子ですか、そうですか。
■個人戦2戦目
男子の相手は、片手剣に左手に小楯を持ったスタイルの剣士だね。この手を相手にすると、防御が固くて攻めきれないんだよね。水面蹴りは見せちゃってるから警戒してるだろうしね。
そして同じ距離で相対して、教官の合図で戦闘開始する。盾を持っているから、基本守勢なんだよね。変に動くとカウンターをもらいそうだ。かといって、何時までも相対してるだけじゃ仕方ない。勝ち負けじゃなくて、何処まで通用するかだしね。では、行きます。
相手は左に盾を構えていて、右足を少し後ろに引いた体制で待っている。僕は相手の左に回りながら少しづつ接近。飛び込める距離になったら、一気に相手の近くまで接近する。相手と僕の身長差も40cm以上あるから、小楯とはいえ、小柄な僕に近寄られると見えにくいはず。
試しに盾に右拳を叩きつける。勿論全力じゃないよ?。カンと軽い音に続いて、相手が盾を突き出してくる。たてによる打撃技だね。木製の盾とはいえ、まともに貰うのは痛いので遠慮したい。拳を引き戻して後方に一旦離れる。
相手は距離をとったままなので、今度も僕から接近し、盾の影から水平蹴りを彼の左脚に放つ。盾を持つ以上、下方はどうしても死角になるからね。もちろん、前に盾を突き出し体重の掛かった脚は動かないし、グリーヴ(脛当)にカバーされた脚にダメージは入らない。
でも、彼の注意を下方にひきつける事が出来た。後方にバク転し、彼の構えた盾の上へと跳躍して、小楯の縁に立つ。呆気にとられる彼を横目に、その場で屈みながら身体を回転。右の回し蹴りを喉元に突きつける。もちろんスカートは押さえたよ?男子もたくさん居るしね。
個人戦で2勝をあげた僕は、新しい2つ名を貰う事になった。ボーパルバニーといい、日本では『殺人兎』として有名な名前である。白髪紅瞳は、兎しかおもいつかないんですか?ちくせぅ……
■ チーム戦1戦目
その後の小隊戦は、指揮官役を決めて2グループに別れ2戦した。この日は僕の歓迎と言う意味も含めて、必ず僕を入れるという課題がある。結果は、集団戦ではまともな戦いの中に、僕を組み込むのは難しいらしく、生存を前提とした運用が出来ないらしい。まあ、指揮官が悪いのかもしれないのだけど……
最初の小隊戦で、僕の所属した小隊の指揮官はワイアットだった。思いっきり嫌な予感がする。彼が僕に下した命令は、単独で敵の小隊に突入して敵をかき回せというもの。恐らく初回しか通じない手段だと思うけど、それでいいという。
小隊船での隊長の指示は、絶対である。戦闘開始と同時に、僕は単独で相手の小隊に急速接近し、盾や槍衾を跳躍して乗り越えると、敵の真っ只中で格闘戦を開始する。密集していた、弓士や魔法使いを真っ先に潰すと、敵が大きく乱れる。盾役の剣士が振り向いて攻撃すればすぐ対処できそうだけど、ワイアットの攻撃指示により、前衛同士でぶつかっているときに後ろを見たら、結果は予想できるよね。敵の小隊はあっという間に殲滅された。僕を含めて……
僕自身への運用は別として、最少の犠牲で最大の戦果を得たのは事実である。実戦でも、ここまで極端ではないけど囮部隊を使って敵を崩すのはよくある話だし。
■ チーム戦2戦目
1戦目で僕をうまく使った戦術を、ワイアットが教官に誉められた事により、2戦目のリーダーは自分もと望んだのだろう。それは判る。ワイアットは味方側だし、今見せられた戦術に対し、直ぐに対応できる人間が、相手側にそうそう居ないだろうと普通は思うよね。
だけど僕は2匹目のドジョウは居ないと言ったんだ。流石に今回は警戒されるだろうから無理だって。そこで小隊長は、まず普段どおりの戦術を装いつつ、後方に僕を配置して前線で戦闘が始まったら、隙をみて突入するという指示をだした。どの道、徒手空拳では前線では役に立たない。
正直無理だと思ったけど、行かないわけにはいかない。小隊長の命令である。とはいえ、相手の小隊長はリアンで、参謀役はイリスみたいだ。イリスは回復役専門だから、戦況を見る余裕があり、とても優秀だ。8歳でこのクラスの主席なのだから。
そして、リアン。いけ好かないが、ワイアットといつも組んでるだけあって、馬鹿ではない。イリスを中央に配置した円陣を組んで、防御が主体でこちらの攻撃を受け止める戦略をとった。
盾による堅い守りと、隙間からの槍による攻撃。放物線を描いて頭上から襲ってくる矢や魔法に、攻めあぐねる僕らに、小隊長は焦れて一点に全兵力をぶつける戦法を選んだ。一点突破、背面展開だね。
勿論相手チームが崩れれば、僕が傷口を広げる事前提として。そして混戦の中、僕らの小隊は中央突破に成功したと思われた。最後尾に居た僕は、まず、参謀役のイリスを倒そうと周りをみて愕然とする。
周囲は完全に囲まれていたし、頭上は槍で塞がれている。一点突破されたと見せかけて、そのままこちらの背後を追撃する、戦術理論にかなった戦法だ。
「兎狩り開始!」
イリスのその言葉を合図に、集中攻撃によって僕はあっという間に撃破され、背面をつかれた僕らの小隊も、なすすべなくして敗退した。
もちろん、堅守で支えたリアンと、見事な戦術で火力が上回る相手チームを葬ったイリスの評価は高かった。そして、僕には兎は兎かという味方チームの言葉が刺さりまくったのである。
でも、僕にとっての今回の戦闘術は実に勉強になった。対個人戦闘ではそこそこ戦えるけど、集団戦では近接格闘だけでは殆ど役に立てない事を実感させられたからである。そして、気に食わないけどワイアットの僕の運用が正しい事は事実だろうなぁ。
実戦になれば、小柄なのと速度を生かして、敵中枢で暗殺・破壊工作後、引き上げられれば良し、駄目な場合は僕諸共敵を殲滅するという手段は、多少の戦略的な見解があれば思いつくだろうし。
専用の魔道具が出来ない限り、魔法は禁止だしなぁ。ちょっとアイデア考えてみて、エリックさんに確認してみようかな。
イリスは僕よりも赤面しているし、アレクシアさんとリリーさんは僕をとりなしてくれるが、エリックさんと年配の男性は、僕が戻ると決まりが悪そうにそそくさと出て行った。
「……どうやら、肘当ても必要だったようだな。すまんな、気が利かなくて」
との言葉を残して。
「まぁまぁ、気を取り直しなさいよ。これで合格は決まりよ?来週からはあなたも魔法学院の生徒ね。クラスはイリスと同じクラスになると思うから」
そういうアレクシアさんは続けて僕にいいました。
「このあと、入学の宣誓をしてもらうことになるわ。魔法学院に入学する者は、このアレキサンドリアの盾となり、剣となることを誓うの。まあ、宣誓の言葉はその場で魔法でクロエにだけ聞こえるように教えるから、その通り話せばいいわ」
なぜこの場で教えてくれないんだろうと、アレクシアさんの顔を見直すと、どたばたして間違えても恥ずかしいしねと言われる。まあ、宣誓の言葉は様式美とかもあるのだろうから、あまり変なことはできないだろうし安心だよね。
先ほどの年配の人が入ってきた。やはり学校関係者というか、宣誓に来る立場なんだから、校長先生のようなものかな。とりあえず、宣誓を行うのは僕だけらしく、先ほどまでのメンバーと変わりはない。
「では、入学に際して魔法書に手を置き、宣誓してもらいます。宜しいですね」
年配の男性の言う通り、左手を魔法書に乗せ耳元で聞こえるアレクシアさんの言葉通り宣誓を行います。
「私は、これより魔法学院及び都市国家アレキサンドリアの盾となり、剣となりて命をとして戦い、アレキサンドリアの民を守ることを誓います。黒家の主神ヘカテーと我が真名、クロエ・ウインターに誓って」
って?「クロエ・ウィンター?」いつの間に、そんな大事なことを勝手に進めやがって、あの人わぁ~
こうして半ば強引に、この宣言によって僕は魔法学院の生徒になるだけじゃなく、アレクシアさんの養子となることが決定したのであった。
*****
翌週から、魔法学院に通学をはじめた僕は、予想通りイリスと同じクラスに編成された。といっても、12歳以下のクラスは1クラスしかないから、必ず同じになるんだけどね。
途中入学の僕は、最初に恒例の自己紹介をさせられたけど、特筆すべき事はなかった。ある意味、既に白髪紅瞳で魔力無しのウィンター家の居候という事で知れ渡っていたからね。現在の通り名が「March hare」らしい。意味は狂ったウサギだって……
この世界にルイス・キャ○ルはいるのかい、アリア?
魔法学院の授業は、午前中が基礎教科でクラス単位で受ける授業。今日の授業は魔法学と戦闘術の2教科だ。とりあえず、異世界気分を楽しむつもりで授業を受けてみよう。
魔法学の授業は、低年齢学級とはいえ魔法学院であるから、今更4大精霊がなどとは始まらない。魔法はイメージだと言うのも事実だけど、それだけで実現するには、効率が悪いらしい。効率は、魔法の発動までの時間や、威力に影響するしね。魔力を効率よく使用するための技術的な話が多く、とても為になる授業だった。
周囲からは、『使えもしないのに……』という視線で見られているけど、気にしないでおく。講義の内容は、ゲームの中の魔法をより詳しく解説する様な内容で、威力の強化や弱体化、天候や地形の影響などの要素が絡むらしい。そこはある意味現実なので、様々な制約が出るのも当たり前かと思う。ゲームの中の世界ではなくて、実際に人が生きている世界なのだから。
戦闘術の講義は、剣・槍・弓の3種の兵科に、魔法の使いが加わって、4つのグループに分かれているけど、これを戦況に合わせて、10人の分隊を編成して戦う。分隊編成の場合は、分隊長役・参謀役がそれぞれ1名と、残る8人は兵士で構成される。
分隊長は持ち回りで、全員が交代で行うけど、参謀役は分隊長が指名できるのが特徴かな。実際、交代でやろうにも、参謀って仕事は向き不向きがあるもんね。
分隊を2つ合わせて、小隊を作るときは、小隊長役が1名ついて21名で編成されることになる。戦闘術の学科は、普通の学校であれば体育の教科みたいなものだから、受講者は多いのかと思えばそうでもないらしい。確かに、鍛冶や冶金、錬金術を学ぶ子達にとっては、不必要と思われるからだろうなぁ。受講者は僕を含めて45名いて、常に何名か余るんだけど、2組の戦いを客観的に見ることが出来て、魔法使いは待機組みを希望する事が多いみたい。
僕は中途入学なので、技量的にどの位の位置にいるかを、受講者に知ってもらう為、教官は僕と剣のグループの誰かを模擬戦をさせることでみんなに教える手法をとることにした。
教官が相手を募ったら、ほぼ全員が手を挙げるという異常事態だ。手を挙げなかったのはリアンとワイアットだけ。流石に、連続しての嫌がらせは不味いと自重したのかもしれない。
■個人戦1戦目
最初は、女子の剣士が相手として選ばれる。年齢は12歳位かな?赤毛で礼儀正しい娘だけど、男子よりも背が高くて、僕とは50cm以上違う。恐らく女子の中では一番強いんだろうな。エリックさんの作ってくれた装備を色々試すには丁度いいかも。
僕達は5mの距離を空けて対峙します。教官の合図で一礼をして構える彼女は、お先にどうぞと言ってくれます。ここは、お言葉に甘えないとね。真剣にやってもらわないと訓練にならないし……
ほどほどに加速して、一気に彼女の懐に飛び込んだ僕は、その場で半回転して彼女のわき腹に肘撃ちを寸止めして再び元の位置に戻ります。これで、本気になってくれるかな?
あれ?教官まであっけにとられてるよ。小首を傾げてどうしようか考えてると、彼女が再起動したようだね、目が本気になってるし。
今度は彼女が攻めてきた。まずは振りかぶっての唐竹割りで頭上狙いか。女の子同士だと容赦ないなぁ。男子はあまり頭や顔を狙わないけど、その辺に躊躇はないみたい。
左に身体を半歩ずらして振られた剣先を避けると、再び前へ出る。女の子の手と長剣の長さを合わせて、彼女の攻撃範囲は約2m位かな。手元1mは、長剣が有効じゃない間合いだよね。
さすがに、もぐりこまれるのは想定済みらしく、そのまま横薙ぎで長剣が振られるけど、予測していたのはお互い様だよ。片手を床に着いて足元に水面蹴りの要領で軸足を払う。
この手の戦い方は相手にした事が無いのか、足払いは綺麗に決まり、彼女は仰向けに倒れこんだので、僕はその場で一回転して右踵を彼女のお腹に、加減して落とす。
教官はまだ呆けているから、呼んであげたらようやく復帰して、僕の勝ちを宣言した。うんうん、まあ初見なら通用するよね。これで引っ込もうとしたら、次は男子ですか、そうですか。
■個人戦2戦目
男子の相手は、片手剣に左手に小楯を持ったスタイルの剣士だね。この手を相手にすると、防御が固くて攻めきれないんだよね。水面蹴りは見せちゃってるから警戒してるだろうしね。
そして同じ距離で相対して、教官の合図で戦闘開始する。盾を持っているから、基本守勢なんだよね。変に動くとカウンターをもらいそうだ。かといって、何時までも相対してるだけじゃ仕方ない。勝ち負けじゃなくて、何処まで通用するかだしね。では、行きます。
相手は左に盾を構えていて、右足を少し後ろに引いた体制で待っている。僕は相手の左に回りながら少しづつ接近。飛び込める距離になったら、一気に相手の近くまで接近する。相手と僕の身長差も40cm以上あるから、小楯とはいえ、小柄な僕に近寄られると見えにくいはず。
試しに盾に右拳を叩きつける。勿論全力じゃないよ?。カンと軽い音に続いて、相手が盾を突き出してくる。たてによる打撃技だね。木製の盾とはいえ、まともに貰うのは痛いので遠慮したい。拳を引き戻して後方に一旦離れる。
相手は距離をとったままなので、今度も僕から接近し、盾の影から水平蹴りを彼の左脚に放つ。盾を持つ以上、下方はどうしても死角になるからね。もちろん、前に盾を突き出し体重の掛かった脚は動かないし、グリーヴ(脛当)にカバーされた脚にダメージは入らない。
でも、彼の注意を下方にひきつける事が出来た。後方にバク転し、彼の構えた盾の上へと跳躍して、小楯の縁に立つ。呆気にとられる彼を横目に、その場で屈みながら身体を回転。右の回し蹴りを喉元に突きつける。もちろんスカートは押さえたよ?男子もたくさん居るしね。
個人戦で2勝をあげた僕は、新しい2つ名を貰う事になった。ボーパルバニーといい、日本では『殺人兎』として有名な名前である。白髪紅瞳は、兎しかおもいつかないんですか?ちくせぅ……
■ チーム戦1戦目
その後の小隊戦は、指揮官役を決めて2グループに別れ2戦した。この日は僕の歓迎と言う意味も含めて、必ず僕を入れるという課題がある。結果は、集団戦ではまともな戦いの中に、僕を組み込むのは難しいらしく、生存を前提とした運用が出来ないらしい。まあ、指揮官が悪いのかもしれないのだけど……
最初の小隊戦で、僕の所属した小隊の指揮官はワイアットだった。思いっきり嫌な予感がする。彼が僕に下した命令は、単独で敵の小隊に突入して敵をかき回せというもの。恐らく初回しか通じない手段だと思うけど、それでいいという。
小隊船での隊長の指示は、絶対である。戦闘開始と同時に、僕は単独で相手の小隊に急速接近し、盾や槍衾を跳躍して乗り越えると、敵の真っ只中で格闘戦を開始する。密集していた、弓士や魔法使いを真っ先に潰すと、敵が大きく乱れる。盾役の剣士が振り向いて攻撃すればすぐ対処できそうだけど、ワイアットの攻撃指示により、前衛同士でぶつかっているときに後ろを見たら、結果は予想できるよね。敵の小隊はあっという間に殲滅された。僕を含めて……
僕自身への運用は別として、最少の犠牲で最大の戦果を得たのは事実である。実戦でも、ここまで極端ではないけど囮部隊を使って敵を崩すのはよくある話だし。
■ チーム戦2戦目
1戦目で僕をうまく使った戦術を、ワイアットが教官に誉められた事により、2戦目のリーダーは自分もと望んだのだろう。それは判る。ワイアットは味方側だし、今見せられた戦術に対し、直ぐに対応できる人間が、相手側にそうそう居ないだろうと普通は思うよね。
だけど僕は2匹目のドジョウは居ないと言ったんだ。流石に今回は警戒されるだろうから無理だって。そこで小隊長は、まず普段どおりの戦術を装いつつ、後方に僕を配置して前線で戦闘が始まったら、隙をみて突入するという指示をだした。どの道、徒手空拳では前線では役に立たない。
正直無理だと思ったけど、行かないわけにはいかない。小隊長の命令である。とはいえ、相手の小隊長はリアンで、参謀役はイリスみたいだ。イリスは回復役専門だから、戦況を見る余裕があり、とても優秀だ。8歳でこのクラスの主席なのだから。
そして、リアン。いけ好かないが、ワイアットといつも組んでるだけあって、馬鹿ではない。イリスを中央に配置した円陣を組んで、防御が主体でこちらの攻撃を受け止める戦略をとった。
盾による堅い守りと、隙間からの槍による攻撃。放物線を描いて頭上から襲ってくる矢や魔法に、攻めあぐねる僕らに、小隊長は焦れて一点に全兵力をぶつける戦法を選んだ。一点突破、背面展開だね。
勿論相手チームが崩れれば、僕が傷口を広げる事前提として。そして混戦の中、僕らの小隊は中央突破に成功したと思われた。最後尾に居た僕は、まず、参謀役のイリスを倒そうと周りをみて愕然とする。
周囲は完全に囲まれていたし、頭上は槍で塞がれている。一点突破されたと見せかけて、そのままこちらの背後を追撃する、戦術理論にかなった戦法だ。
「兎狩り開始!」
イリスのその言葉を合図に、集中攻撃によって僕はあっという間に撃破され、背面をつかれた僕らの小隊も、なすすべなくして敗退した。
もちろん、堅守で支えたリアンと、見事な戦術で火力が上回る相手チームを葬ったイリスの評価は高かった。そして、僕には兎は兎かという味方チームの言葉が刺さりまくったのである。
でも、僕にとっての今回の戦闘術は実に勉強になった。対個人戦闘ではそこそこ戦えるけど、集団戦では近接格闘だけでは殆ど役に立てない事を実感させられたからである。そして、気に食わないけどワイアットの僕の運用が正しい事は事実だろうなぁ。
実戦になれば、小柄なのと速度を生かして、敵中枢で暗殺・破壊工作後、引き上げられれば良し、駄目な場合は僕諸共敵を殲滅するという手段は、多少の戦略的な見解があれば思いつくだろうし。
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