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1.何処かで聞いた都市国家
25.陽光の下で見たものは……
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目覚めて最初に見えたのは、エマとジェシーの顔でした。窓の外は明るい陽光が差し、小鳥のさえずりが聞こえます。僕は身体を起こし、ゆっくりと背伸びをします。
「「クロエ、大丈夫?」」
2人は、無表情ながらも聞いてきますので、僕はそれに笑みを返して答えます。
「うん、大丈夫だよ。ゆっくり眠ったから、調子がいいかも」
エマとジェシー2人の頭を撫でてあげていると、不意にドアが開きました。
「どうやら、目覚めたようだね。魔力も元に戻っているかい?」
魔力の戻り具合は良く解らないと答えると、少し呆れられましたが、ケイティーさんは言葉を続けます。
「今日は、族長の所に顔を見せに行くよ。頭の固い頑固者だけど、その分礼儀やしきたりさえ護っていれば、余計なことは言ってこないんでね。
だが、その前に朝食をお食べよ。」
着替えを済ませて、隣室に行くとパンとスープにサラダといった簡単でありながら、新鮮な朝食が用意されています。僕は椅子に座って、朝食を食べようとしましたが、ふと両脇のエマとジェシーに尋ねます。
「そういえば、2人の食事は何か食べるの? それとも、魔力の供給なのかな?」
「「私達は通常魔力を満たされた状態で待機しているのが普通です。ですが今回のように常時稼動する場合は、人間の食べる食事か魔力の供給を必要とします。いまは、クロエから供給された魔力で充分です。」」
僕は魔力を何時供給したのだろうと思っていると、エマが僕の左腕のリストバンドを指差します。なるほど、常時放出されている魔力を、魔石を触れる事によって直接吸収したのかって、エリックさんが言っていたバッテリーってこういう意味もあったんですね。
朝食後、制服等の衣類と身体に洗浄魔法をかけて、さっぱりします。髪は手間がかかるので、自分だけの時はポニテ一択です。
ケイティーさんと、エマ、ジェシーの合わせて4人で玄関を出ると、鍵をかけました。アレキサンドリアでは、放出魔力で開錠されるので、施錠する必要が無かった為、鍵をかける事に違和感を覚えてしまいますね。
木漏れ日の中を村の外周への道に出ると、やはりケイティーさんも外周沿いの道とはいえないような道を北へと歩いていきます。なぜ、村の中を通らないのか不思議に思いますが、そのうち説明してくれるでしょうから、気にしないでスルーします。
木々の間から見える畑はどうやら麦畑が中心のようですね。家々もツリーハウスなので比較になりませんが、カルセドニーの村のほうがお洒落なイメージです。
途中、森の中に弓を背負って入っていく人達とすれ違い、初めて彼らの姿を見ます。整った容姿に高い身長、少しとがった耳。女性はスレンダーな体型の方が多いですね。そう、彼らはエルフですね。
ただ、すれ違う時も何人かは不快な表情を見せます。一部の人は興味深そうに、ちらちらこちらを見ますが、一緒にいる方に叱られています。なんでしょうね? 昨日案内して下さった方も、思えばそんな感じでした。そして、それは族長と呼ばれている人の家の前にたどり着いたとき、更に印象付けられます。
族長の家の前(門から中にはいっていません)で、ケイティーさんが魔法をつかってドアノッカーを鳴らします。暫くすると、女性が一人出てきますが、こちらに気付くと露骨に嫌な顔をしますね。女性に伝言を頼むと、その場で待てといわれます。
やがて出てきた白い髭を生やしたお年寄りが族長さんなのでしょう。こちらのほうに近づきますが、2m位離れたところで立ち止まってしまいます。どうやらそれ以上は近くに寄らないようなので、この場で挨拶させられて、族長さんが横柄に頷いた後、家の中に引くまで頭を下げた姿勢を維持させられます。
踵を返して家への道を戻りますが、ケイティーさんに色々質問したくてたまりません。でも、そのまま家の鍵を開け、ドアを閉めるまでケイティーさんは一言も話しませんでした。
「やれやれ、あいも変わらずに困ったもんだね」
戻ってきての第一声がこれです。ということは、あの態度はいつもの事なのでしょう。その後、ケイティーさんはエルフ族の事について話してくれました。
アイオライトでのエルフ族の生活は、聖樹を崇め村の中での小麦などの栽培や、彼らの領域である森での狩猟採取生活であり、森を守りその恩恵で気高く生きる森の民そのものです。
長い寿命と高い魔力を持ち、容姿も美しい半面、出生率は極めて低めとなります。産まれてから成人するまでは、人や他種族同様に育ちますが、成人すると見た目の成長が極めて鈍化するというか、老化が非常に遅くなるのです。見た目は15歳~30歳前後で数百年を生き、その後徐々に老化の速度が上がり、短いもので800歳。長命な方だと2000歳生存するようですが、寿命にばらつきがあるのは不明とのことですね。
ただ、アレキサンドリアのエルフがゲーム的設定と大きく異なるのはハイエルフ的な要素が入る事のようですね。エルフの優れた資質の為、多種族を見下す傾向がもともと強いのですが、森に入らなければエルフ族と遭遇することはないので、あまり問題ではなかったのですが、近年はそれが表面化しているとのことです。
もともと、エルフ族は北方の山岳地帯に住むドワーフ族とは仲が良くありませんでした。これは、種族的な問題というよりも、ドワーフ族は鍛冶を生業とする為、大量の木材を使用するので樹木を伐採し、森を守るエルフと対立することが多い為です。共和国内のエルフとドワーフも同じように対立していましたが、魔都アレキサンドリアがドワーフ族と交流を持った事により、状況が一変します。ドワーフ族は交流により魔石を使用した炉などの金属精錬技術が進んだことにより、木材の必要量が大幅に減少したのです。これによって、エルフ族との対立の要因がなくなり、職人気質の多いドワーフ族は、魔都との交流により更に技術を高めたのです。この事が要因となり、ドワーフ族は共和国の枠組みに入りました。
やがてエルフ族以外の種族が共和国に参加することになり、エルフ族としても代表を出さねば自分たちの意見を述べる場所がなくなるという消極的な理由で、エルフ族の領域への不可侵を条件に、共和国へ参加することにしたのです。共和国側も彼らの自尊心を重んじ、自治領という形式での参加を受け入れました。
その後、各種族は魔都アレキサンドリアからの技術指導や、交易などにより生活水準が大きく向上しました。しかし、彼らエルフ族は自身が一番優れているとの自信と、その閉鎖性が災いしてしまったのです。
アレキサンドリア共和国内の人族・ドワーフ族・獣人族などの諸部族が、魔都との交流で生活の元となる、農業や産業の技術支援をうけ豊かになっていく一方、エルフ族だけが従来の生活を続けた為、相対的に貧しいという結果に陥ってしまったのです。
それでも、自分達だけの生活で、他者をみなければ良かったのですが、共同都市のアルマンディンで他部族との格差を目にする機会が増えてきた事で、多種族の知識をいれて生活を豊かにするべきだというの若者達(といっても200歳以上なんですがね)と、従来のままの姿勢を崩さない指導者層との間で軋轢が出来ているらしいのです。若いエルフ達は教えを乞うのにも積極的です。
ケイティーさんは魔都での生活を引退後、エルフ族への技術指導というか、相談役としてエルフの自治領の首都、『クレナータ』にやってきたのですが、彼らはいまだに教えを乞うことを良しとせず、街での居住を認めずに、この場所に居を構えさせたのです。若い世代のエルフは、ケイティーさんに教えを乞おうとしましたが、大人のエルフがケイティーさんの住居に通うことを認めぬ長老衆の目もあり、子供たちをケイティーさんに預ける子守り役の形をとっている状況のようですね。
「それで? なぜ僕はここに来させられたのでしょう?」
僕はケイティーさんに尋ねます。僕には種族間の問題や、エルフ族の内部問題に関わる権限も、その心算もありません。正直なぜ、アレクシアさん達が僕をここに寄こしたのかの真意も掴めません。
「なに、エルフ族の問題は関係ないさ。おまえさんは、ここで礼儀作法や様々な事を覚えてもらうよ。仮にも黒家ウィンターの名前を名乗るのならね。」
「……僕の名前、手紙に書いてあったのですね。失礼ですが、ケイティーさんは……」
「あたしは、ケイティー・ウィンター。アレクシアの母になるね。今は気ままな隠居暮らしをしていたんだがね。厄介毎を持ち込まれたもんさ。」
え~と、この場合なんと呼べばいいんだろう。アレクシアさんは僕の養母でその母がケイティーさんだよね。まあ、複雑な事は考えない事にしよう。
「早速今日から、礼儀作法やアレキサンドリアの常識を覚えてもらうよ。今のエルフ族の話もその一環さ。そうそう、エマとジェシーといったね。あんたらも常時稼動になるから、クロエと一緒に憶えておきなさいってことだ。覚悟するんだね。」
まじですか……。僕が一番出来が悪くなる未来しか見えないんですが……
そして、やはりそうなりました。
「「クロエ、大丈夫?」」
2人は、無表情ながらも聞いてきますので、僕はそれに笑みを返して答えます。
「うん、大丈夫だよ。ゆっくり眠ったから、調子がいいかも」
エマとジェシー2人の頭を撫でてあげていると、不意にドアが開きました。
「どうやら、目覚めたようだね。魔力も元に戻っているかい?」
魔力の戻り具合は良く解らないと答えると、少し呆れられましたが、ケイティーさんは言葉を続けます。
「今日は、族長の所に顔を見せに行くよ。頭の固い頑固者だけど、その分礼儀やしきたりさえ護っていれば、余計なことは言ってこないんでね。
だが、その前に朝食をお食べよ。」
着替えを済ませて、隣室に行くとパンとスープにサラダといった簡単でありながら、新鮮な朝食が用意されています。僕は椅子に座って、朝食を食べようとしましたが、ふと両脇のエマとジェシーに尋ねます。
「そういえば、2人の食事は何か食べるの? それとも、魔力の供給なのかな?」
「「私達は通常魔力を満たされた状態で待機しているのが普通です。ですが今回のように常時稼動する場合は、人間の食べる食事か魔力の供給を必要とします。いまは、クロエから供給された魔力で充分です。」」
僕は魔力を何時供給したのだろうと思っていると、エマが僕の左腕のリストバンドを指差します。なるほど、常時放出されている魔力を、魔石を触れる事によって直接吸収したのかって、エリックさんが言っていたバッテリーってこういう意味もあったんですね。
朝食後、制服等の衣類と身体に洗浄魔法をかけて、さっぱりします。髪は手間がかかるので、自分だけの時はポニテ一択です。
ケイティーさんと、エマ、ジェシーの合わせて4人で玄関を出ると、鍵をかけました。アレキサンドリアでは、放出魔力で開錠されるので、施錠する必要が無かった為、鍵をかける事に違和感を覚えてしまいますね。
木漏れ日の中を村の外周への道に出ると、やはりケイティーさんも外周沿いの道とはいえないような道を北へと歩いていきます。なぜ、村の中を通らないのか不思議に思いますが、そのうち説明してくれるでしょうから、気にしないでスルーします。
木々の間から見える畑はどうやら麦畑が中心のようですね。家々もツリーハウスなので比較になりませんが、カルセドニーの村のほうがお洒落なイメージです。
途中、森の中に弓を背負って入っていく人達とすれ違い、初めて彼らの姿を見ます。整った容姿に高い身長、少しとがった耳。女性はスレンダーな体型の方が多いですね。そう、彼らはエルフですね。
ただ、すれ違う時も何人かは不快な表情を見せます。一部の人は興味深そうに、ちらちらこちらを見ますが、一緒にいる方に叱られています。なんでしょうね? 昨日案内して下さった方も、思えばそんな感じでした。そして、それは族長と呼ばれている人の家の前にたどり着いたとき、更に印象付けられます。
族長の家の前(門から中にはいっていません)で、ケイティーさんが魔法をつかってドアノッカーを鳴らします。暫くすると、女性が一人出てきますが、こちらに気付くと露骨に嫌な顔をしますね。女性に伝言を頼むと、その場で待てといわれます。
やがて出てきた白い髭を生やしたお年寄りが族長さんなのでしょう。こちらのほうに近づきますが、2m位離れたところで立ち止まってしまいます。どうやらそれ以上は近くに寄らないようなので、この場で挨拶させられて、族長さんが横柄に頷いた後、家の中に引くまで頭を下げた姿勢を維持させられます。
踵を返して家への道を戻りますが、ケイティーさんに色々質問したくてたまりません。でも、そのまま家の鍵を開け、ドアを閉めるまでケイティーさんは一言も話しませんでした。
「やれやれ、あいも変わらずに困ったもんだね」
戻ってきての第一声がこれです。ということは、あの態度はいつもの事なのでしょう。その後、ケイティーさんはエルフ族の事について話してくれました。
アイオライトでのエルフ族の生活は、聖樹を崇め村の中での小麦などの栽培や、彼らの領域である森での狩猟採取生活であり、森を守りその恩恵で気高く生きる森の民そのものです。
長い寿命と高い魔力を持ち、容姿も美しい半面、出生率は極めて低めとなります。産まれてから成人するまでは、人や他種族同様に育ちますが、成人すると見た目の成長が極めて鈍化するというか、老化が非常に遅くなるのです。見た目は15歳~30歳前後で数百年を生き、その後徐々に老化の速度が上がり、短いもので800歳。長命な方だと2000歳生存するようですが、寿命にばらつきがあるのは不明とのことですね。
ただ、アレキサンドリアのエルフがゲーム的設定と大きく異なるのはハイエルフ的な要素が入る事のようですね。エルフの優れた資質の為、多種族を見下す傾向がもともと強いのですが、森に入らなければエルフ族と遭遇することはないので、あまり問題ではなかったのですが、近年はそれが表面化しているとのことです。
もともと、エルフ族は北方の山岳地帯に住むドワーフ族とは仲が良くありませんでした。これは、種族的な問題というよりも、ドワーフ族は鍛冶を生業とする為、大量の木材を使用するので樹木を伐採し、森を守るエルフと対立することが多い為です。共和国内のエルフとドワーフも同じように対立していましたが、魔都アレキサンドリアがドワーフ族と交流を持った事により、状況が一変します。ドワーフ族は交流により魔石を使用した炉などの金属精錬技術が進んだことにより、木材の必要量が大幅に減少したのです。これによって、エルフ族との対立の要因がなくなり、職人気質の多いドワーフ族は、魔都との交流により更に技術を高めたのです。この事が要因となり、ドワーフ族は共和国の枠組みに入りました。
やがてエルフ族以外の種族が共和国に参加することになり、エルフ族としても代表を出さねば自分たちの意見を述べる場所がなくなるという消極的な理由で、エルフ族の領域への不可侵を条件に、共和国へ参加することにしたのです。共和国側も彼らの自尊心を重んじ、自治領という形式での参加を受け入れました。
その後、各種族は魔都アレキサンドリアからの技術指導や、交易などにより生活水準が大きく向上しました。しかし、彼らエルフ族は自身が一番優れているとの自信と、その閉鎖性が災いしてしまったのです。
アレキサンドリア共和国内の人族・ドワーフ族・獣人族などの諸部族が、魔都との交流で生活の元となる、農業や産業の技術支援をうけ豊かになっていく一方、エルフ族だけが従来の生活を続けた為、相対的に貧しいという結果に陥ってしまったのです。
それでも、自分達だけの生活で、他者をみなければ良かったのですが、共同都市のアルマンディンで他部族との格差を目にする機会が増えてきた事で、多種族の知識をいれて生活を豊かにするべきだというの若者達(といっても200歳以上なんですがね)と、従来のままの姿勢を崩さない指導者層との間で軋轢が出来ているらしいのです。若いエルフ達は教えを乞うのにも積極的です。
ケイティーさんは魔都での生活を引退後、エルフ族への技術指導というか、相談役としてエルフの自治領の首都、『クレナータ』にやってきたのですが、彼らはいまだに教えを乞うことを良しとせず、街での居住を認めずに、この場所に居を構えさせたのです。若い世代のエルフは、ケイティーさんに教えを乞おうとしましたが、大人のエルフがケイティーさんの住居に通うことを認めぬ長老衆の目もあり、子供たちをケイティーさんに預ける子守り役の形をとっている状況のようですね。
「それで? なぜ僕はここに来させられたのでしょう?」
僕はケイティーさんに尋ねます。僕には種族間の問題や、エルフ族の内部問題に関わる権限も、その心算もありません。正直なぜ、アレクシアさん達が僕をここに寄こしたのかの真意も掴めません。
「なに、エルフ族の問題は関係ないさ。おまえさんは、ここで礼儀作法や様々な事を覚えてもらうよ。仮にも黒家ウィンターの名前を名乗るのならね。」
「……僕の名前、手紙に書いてあったのですね。失礼ですが、ケイティーさんは……」
「あたしは、ケイティー・ウィンター。アレクシアの母になるね。今は気ままな隠居暮らしをしていたんだがね。厄介毎を持ち込まれたもんさ。」
え~と、この場合なんと呼べばいいんだろう。アレクシアさんは僕の養母でその母がケイティーさんだよね。まあ、複雑な事は考えない事にしよう。
「早速今日から、礼儀作法やアレキサンドリアの常識を覚えてもらうよ。今のエルフ族の話もその一環さ。そうそう、エマとジェシーといったね。あんたらも常時稼動になるから、クロエと一緒に憶えておきなさいってことだ。覚悟するんだね。」
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