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2.いつか醒める夢
10.皇女一人
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その日、僕はエマの声で起こされました。
「クロエ、クロエ、大変です。起きて下さい。」
「う~?、なぁに、エマ。まだ真っ暗だよ。」
頭から被った布団の隙間から、部屋をみても真っ暗ですし、枕元の時計も5時を指しています。
「早く早く」
エマは全く意に介さずに騒ぎ続けるので、諦めて布団からもぞもぞと這い出ますが、寒って、なんですかこの寒さは。エマのほうを見ると、窓が全開に開けられていますね。流石に11月も末のこの時間は、アレキサンドリアでも寒いですよ。窓の外には、ちらちらと白い物が舞っています。
「クロエ、カキ氷が空から降ってくるのです。」
エマの表現に僕はガクッと力が抜けて、へたり込みそうになりましたが、何とか持ち直して椅子に掛けてあった、もこもこの室内着を上に羽織り、エマの隣に並びます。
「どおりで寒いわけだね~。エマ、これはカキ氷じゃないよ。空から降ってくるのは雪っていうんだ。」
「これが雪と言う物なのですね。初めて見ました。クロエの傍にいると、初めて見るものが多くて楽しいです。」
本当に嬉しそうに言うエマとみて、思わず僕はエマの頭を撫で撫でします。以前と違って、背伸びをしなくても届きます。はぁ、でも部屋が冷え切るので窓を閉めましょう。
「さぁ、部屋が冷え切るから窓を閉めるよ。今日は暖房が必要かもしれないね。」
エマをうながして窓を閉めます。うぅ、部屋がすっかり冷え切ってますね。
「室温変更22℃」
室温を魔法で上昇させると、漸く落ち着きましたよ。学院に行くのが面倒になりますが、イリスが迎えに着ますしね。折角早起きしたんですし、温かい朝食を作ろうかな。なにが良いかな~、考えながら着替えをして、僕は部屋をでました。
*****
「あははは、イリスさん、何その格好!」
迎えに来たイリスをみて、僕は思わず笑い出してしまいました。当然イリスは不機嫌になりますが、笑わないのは無理ですよ。頭の先から足元まで、もこもこの服を着たイリスは、まるでドワーフ族の少女の様に丸々と着膨れています。顔もマフラーをぐるぐる巻きして、目元しか見えません。
「うるさいわね。寒いんだから仕方ないでしょう!」
声もくぐもって聞こえます。あは、いつもと感じが違うので、ついつい笑いが出てしまいます。対する僕は制服にマフラーだけですね。外に出る時には、風を纏って断熱の魔法を掛けるので、寒さは受け付けませんから。
エマとジェシーに手を振って、イリスと三層の接続橋へと向います。周囲をみますが、通路には雪は積もっていませんね。接続橋は、常時魔法障壁が張ってありますので、雨も雪も通りませんし、必要時は温水が通される為に凍ったりもしません。上層街に入ってしまうと、そうも行かないのですがね。
学院前まで2人で歩いていると、やたらもこもこしている娘と薄着な僕のセットが珍しいのか、注目を浴びています。
「イリスさん、その格好注目を浴びていますよ?」
僕が話すと、イリスがなにやら呟きます。
「なに? って、きゃあぁ」
途端に足が滑って、濡れている道の上に僕は尻餅を突いてしまいます。って、スカートめくれてるし、慌てて押さえて立ち上がりますが、しっかりと見られてたようですね。
「これで私から注目が外れたでしょ。」
「うぅ、酷いよイリスさん。」
断熱の魔法はあくまでも外気の寒さを断熱するので、濡れてしまえば直接冷えます。涙目でイリスを見ながら、僕は乾燥呪文を唱えます。
「衣類乾燥強」
さすがに濡れたときの下着の張り付く感触は気持ちが良いものではないですね。直ぐに乾かせるのを知っているので、イリスは僕にこういった直接攻撃を仕掛けてきます。もう、変にからかうのは止めておこう。今年何度目かの決意を改めてして、僕達は学院の門をくぐりました。
午前の講義が終わりお昼の時間ですが、外はまだ雪が降り続いています。おかげでサロンも食堂も満席状態なので、売店で軽食を買った僕とイリスは低年齢クラスへと戻ります。ここなら、自分の座席がありますしね。
学院の中は、こういう場合は鍛冶工房の余熱を使った温水によって、床暖房がされていますので、特に魔法を使わなくても温かく過ごせます。ユーリアちゃんとリンも自分の席で食事のようですね。
「さすがに今日はあちこち混んでいますからね。」
リンの言葉に頷きながら、4人で机を囲んでお昼タイムです。このメンバーで机を囲むと、なぜか周囲から人が居なくなるのですが、気にし無い事にします。他愛ない話を暫くして、午後の講義の為に移動しようかという時でした。
「リンさん、あぁここに居たのね、良かったわ。」
担当の女性講師が、慌てて教室に入ってきました。何かあったのでしょうか?
「お付の女性から連絡があって、正門で待っているから直ぐ来るようにとの伝言です。恐らく午後はお休みになるでしょうからと、言われてますので、各教官には連絡はしておきます。」
リンさんは僕達をみると、不安げではありますが微笑みます。
「とりあえず、何か判らないけど入って来るね。フーを待たせても悪いし」
「うん、何かあったら連絡してね。」
そして、リンさんは教室を出て行きます。
「何があったか解りますか?」
残った女性講師の方に尋ねると、個人的なことは回答できないと言われてしまいます。午後の講義もありますし、そろそろ移動しないといけませんね。
「今考えても仕方ありませんわ。解らなければ、後でうちの母かアレクシア様に確認すれば何か判るでしょう。行きますわよ。」
イリスの声に、僕とユーリアちゃんも次の講義の部屋へと移動を開始しました。
*****
帰宅後、僕は課題を直ぐに終わらせて、じりじりとした気分でアレクシアさんの帰宅を待ちます。この日は何時もより帰りが遅く、既に夜の9時を過ぎています。雪は午後も振り続いて、下層街や平地部分も白く変わってきています。
10時にそろそろなるかという時に、やっと帰ってきたアレクシアさんは、僕が起きている事に驚いた様子もありません。アレクシアさんはため息を一つつくと言いました。
「この時間まで起きているってことは、リンの事で聞きたい事があるからでしょ。話して上げるから、終わったらちゃんと寝るのよ?」
僕は頷くと、ジェシーの入れたマーマレード入りの紅茶を、アレクシアさんと飲みながら話を聞きました。
「簡単に言うわね。リンの母国『遼寧』で事件があったようね。今日の午前に『遼寧』の隣国からの交易船から情報があったわ。『遼寧』の皇都で炎が上がり、都市が炎上していたとの事よ。その情報だけでは、大火なのか政変なのかは判断がつかないわ。3日後に『遼寧』からの交易船が到着するまで、待つしかないわね。
万が一政変だったとしても、船便では到着までひと月はかかっているし、戻ったとしても政変から2ヶ月以上経っている事になる。大火であれば、皇宮には被害は滅多に出るもんじゃないから、確認の手紙でよいしね。」
「……アレクシアさんはどちらの可能性が高いと思うんです。」
「現時点では回答できないわね。推測を前提に動くのは下策というものよ。さぁ、約束どおり早く寝ないと明日がきついわよ。」
僕はアレクシアさんの言葉に従い、自室へと引き上げます。夜着に着替えて布団の中にもぐりこんだ僕は、リンを思って考えます。
もし、本当に政変であれば首謀者によっては、お父さんである皇帝やお母さんも既になくなっているでしょう。いや、生存しているほうが稀な事なんでしょうね。そして、当然兄弟姉妹の誰かが首謀者で無い限り、一族は全て絶えてしまっているのかも知れない。
遼寧からの船便が着いたとしても、こちらで荷を販売しなければ船に空きはできず、政変のあった国へは直ぐに交易船が出るはずもありません。まずは近隣の国で情報を集め、安全でなければ遼寧に赴く船はないでしょうし、別な航路を通っている船を新たに差し向ける事はしないでしょうね。似た様な商品の販売のチャンスなのですから。
戻るにしても時間がかかり、捕まれば恐らく殺される。リンはどうするのでしょう。戻って敵を討つのでしょうか? そんな事を考えながら僕は寝入ってしまいました。その晩の夢見は、心地よいものではありませんでしたが、不思議な事に朝目が醒めたときには、不快な夢を見た事だけは記憶していたのです。
「クロエ、クロエ、大変です。起きて下さい。」
「う~?、なぁに、エマ。まだ真っ暗だよ。」
頭から被った布団の隙間から、部屋をみても真っ暗ですし、枕元の時計も5時を指しています。
「早く早く」
エマは全く意に介さずに騒ぎ続けるので、諦めて布団からもぞもぞと這い出ますが、寒って、なんですかこの寒さは。エマのほうを見ると、窓が全開に開けられていますね。流石に11月も末のこの時間は、アレキサンドリアでも寒いですよ。窓の外には、ちらちらと白い物が舞っています。
「クロエ、カキ氷が空から降ってくるのです。」
エマの表現に僕はガクッと力が抜けて、へたり込みそうになりましたが、何とか持ち直して椅子に掛けてあった、もこもこの室内着を上に羽織り、エマの隣に並びます。
「どおりで寒いわけだね~。エマ、これはカキ氷じゃないよ。空から降ってくるのは雪っていうんだ。」
「これが雪と言う物なのですね。初めて見ました。クロエの傍にいると、初めて見るものが多くて楽しいです。」
本当に嬉しそうに言うエマとみて、思わず僕はエマの頭を撫で撫でします。以前と違って、背伸びをしなくても届きます。はぁ、でも部屋が冷え切るので窓を閉めましょう。
「さぁ、部屋が冷え切るから窓を閉めるよ。今日は暖房が必要かもしれないね。」
エマをうながして窓を閉めます。うぅ、部屋がすっかり冷え切ってますね。
「室温変更22℃」
室温を魔法で上昇させると、漸く落ち着きましたよ。学院に行くのが面倒になりますが、イリスが迎えに着ますしね。折角早起きしたんですし、温かい朝食を作ろうかな。なにが良いかな~、考えながら着替えをして、僕は部屋をでました。
*****
「あははは、イリスさん、何その格好!」
迎えに来たイリスをみて、僕は思わず笑い出してしまいました。当然イリスは不機嫌になりますが、笑わないのは無理ですよ。頭の先から足元まで、もこもこの服を着たイリスは、まるでドワーフ族の少女の様に丸々と着膨れています。顔もマフラーをぐるぐる巻きして、目元しか見えません。
「うるさいわね。寒いんだから仕方ないでしょう!」
声もくぐもって聞こえます。あは、いつもと感じが違うので、ついつい笑いが出てしまいます。対する僕は制服にマフラーだけですね。外に出る時には、風を纏って断熱の魔法を掛けるので、寒さは受け付けませんから。
エマとジェシーに手を振って、イリスと三層の接続橋へと向います。周囲をみますが、通路には雪は積もっていませんね。接続橋は、常時魔法障壁が張ってありますので、雨も雪も通りませんし、必要時は温水が通される為に凍ったりもしません。上層街に入ってしまうと、そうも行かないのですがね。
学院前まで2人で歩いていると、やたらもこもこしている娘と薄着な僕のセットが珍しいのか、注目を浴びています。
「イリスさん、その格好注目を浴びていますよ?」
僕が話すと、イリスがなにやら呟きます。
「なに? って、きゃあぁ」
途端に足が滑って、濡れている道の上に僕は尻餅を突いてしまいます。って、スカートめくれてるし、慌てて押さえて立ち上がりますが、しっかりと見られてたようですね。
「これで私から注目が外れたでしょ。」
「うぅ、酷いよイリスさん。」
断熱の魔法はあくまでも外気の寒さを断熱するので、濡れてしまえば直接冷えます。涙目でイリスを見ながら、僕は乾燥呪文を唱えます。
「衣類乾燥強」
さすがに濡れたときの下着の張り付く感触は気持ちが良いものではないですね。直ぐに乾かせるのを知っているので、イリスは僕にこういった直接攻撃を仕掛けてきます。もう、変にからかうのは止めておこう。今年何度目かの決意を改めてして、僕達は学院の門をくぐりました。
午前の講義が終わりお昼の時間ですが、外はまだ雪が降り続いています。おかげでサロンも食堂も満席状態なので、売店で軽食を買った僕とイリスは低年齢クラスへと戻ります。ここなら、自分の座席がありますしね。
学院の中は、こういう場合は鍛冶工房の余熱を使った温水によって、床暖房がされていますので、特に魔法を使わなくても温かく過ごせます。ユーリアちゃんとリンも自分の席で食事のようですね。
「さすがに今日はあちこち混んでいますからね。」
リンの言葉に頷きながら、4人で机を囲んでお昼タイムです。このメンバーで机を囲むと、なぜか周囲から人が居なくなるのですが、気にし無い事にします。他愛ない話を暫くして、午後の講義の為に移動しようかという時でした。
「リンさん、あぁここに居たのね、良かったわ。」
担当の女性講師が、慌てて教室に入ってきました。何かあったのでしょうか?
「お付の女性から連絡があって、正門で待っているから直ぐ来るようにとの伝言です。恐らく午後はお休みになるでしょうからと、言われてますので、各教官には連絡はしておきます。」
リンさんは僕達をみると、不安げではありますが微笑みます。
「とりあえず、何か判らないけど入って来るね。フーを待たせても悪いし」
「うん、何かあったら連絡してね。」
そして、リンさんは教室を出て行きます。
「何があったか解りますか?」
残った女性講師の方に尋ねると、個人的なことは回答できないと言われてしまいます。午後の講義もありますし、そろそろ移動しないといけませんね。
「今考えても仕方ありませんわ。解らなければ、後でうちの母かアレクシア様に確認すれば何か判るでしょう。行きますわよ。」
イリスの声に、僕とユーリアちゃんも次の講義の部屋へと移動を開始しました。
*****
帰宅後、僕は課題を直ぐに終わらせて、じりじりとした気分でアレクシアさんの帰宅を待ちます。この日は何時もより帰りが遅く、既に夜の9時を過ぎています。雪は午後も振り続いて、下層街や平地部分も白く変わってきています。
10時にそろそろなるかという時に、やっと帰ってきたアレクシアさんは、僕が起きている事に驚いた様子もありません。アレクシアさんはため息を一つつくと言いました。
「この時間まで起きているってことは、リンの事で聞きたい事があるからでしょ。話して上げるから、終わったらちゃんと寝るのよ?」
僕は頷くと、ジェシーの入れたマーマレード入りの紅茶を、アレクシアさんと飲みながら話を聞きました。
「簡単に言うわね。リンの母国『遼寧』で事件があったようね。今日の午前に『遼寧』の隣国からの交易船から情報があったわ。『遼寧』の皇都で炎が上がり、都市が炎上していたとの事よ。その情報だけでは、大火なのか政変なのかは判断がつかないわ。3日後に『遼寧』からの交易船が到着するまで、待つしかないわね。
万が一政変だったとしても、船便では到着までひと月はかかっているし、戻ったとしても政変から2ヶ月以上経っている事になる。大火であれば、皇宮には被害は滅多に出るもんじゃないから、確認の手紙でよいしね。」
「……アレクシアさんはどちらの可能性が高いと思うんです。」
「現時点では回答できないわね。推測を前提に動くのは下策というものよ。さぁ、約束どおり早く寝ないと明日がきついわよ。」
僕はアレクシアさんの言葉に従い、自室へと引き上げます。夜着に着替えて布団の中にもぐりこんだ僕は、リンを思って考えます。
もし、本当に政変であれば首謀者によっては、お父さんである皇帝やお母さんも既になくなっているでしょう。いや、生存しているほうが稀な事なんでしょうね。そして、当然兄弟姉妹の誰かが首謀者で無い限り、一族は全て絶えてしまっているのかも知れない。
遼寧からの船便が着いたとしても、こちらで荷を販売しなければ船に空きはできず、政変のあった国へは直ぐに交易船が出るはずもありません。まずは近隣の国で情報を集め、安全でなければ遼寧に赴く船はないでしょうし、別な航路を通っている船を新たに差し向ける事はしないでしょうね。似た様な商品の販売のチャンスなのですから。
戻るにしても時間がかかり、捕まれば恐らく殺される。リンはどうするのでしょう。戻って敵を討つのでしょうか? そんな事を考えながら僕は寝入ってしまいました。その晩の夢見は、心地よいものではありませんでしたが、不思議な事に朝目が醒めたときには、不快な夢を見た事だけは記憶していたのです。
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