駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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3.帝政エリクシア偵察録

33.開戦③

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「さぁ、短期決戦を強いられたあちらの軍師の采配を見せてもらうわよ」

 アレクシアさんはファロス島25層の防衛拠点から、西岸に布陣する軍をみて言いました。

「食料は手持ちの携帯食のみであれば、節約して3日という位でしょう。水も手持ちだけとなれば、今日の分だけ。雪や雨が降らなければ、体力も5日はもたないでしょうね」

 僕は何の気なしに答えます。どちらにしても敵方かれらは攻めてくるのです。イェンさんからの連絡で、下層街の門に殺到したのはハンターや市民を中心とした、兵力ともいえない寄せ合いのようです。普段なら捕縛すればよいのですが、いまは『黒死病』の感染が怖く、それはできません。
 あくまで門を破ろうとする物に対して、攻撃をした後は、撤退者や負傷者の回収に来たものは放置しているとのことですね。

「そうね。明るいうちに攻勢に出るでしょうね。っと思ってたら、どうやら早速着たみたいね」

 エリクシアの正面に展開していた兵の一部が、兵力の少ない西岸の隔壁に取り付こうと向っているようですね。騎馬の部隊もいますので、貴族の部隊なのでしょうか?

「隔壁の防御は、紅家に任せてあります。河口は青家が小型船を哨戒に当てているから、彼らに任せましょう。リリーとイリスちゃんの出番はもう少し先になってしまうけどね」

 アレクシアさんの呟きに僕は頷いたのです。

*****

 西岸に構築された隔壁上を、2台の装甲車両が3台の兵員輸送車をのせて疾走している。下層街から5km離れたその場所に、通常であれば1時間以上かかるであろうその距離を、8分程度で駆け抜けたそれらの車両から、魔導銃を抱えた一団が飛び降り、狭間や隔壁内の通路へと散っていく。

「敵100mライン切りました。警告文を読み上げます」

 赤毛のショートカットの少女が、言葉を発した後に凜とした声が拡声器により接近する敵へと響いた。

『こちらアレキサンドリア西岸隔壁守備隊です。それ以上隔壁に接近した場合、防衛行動の対象となります。各員第一威嚇攻撃用意。』

 彼女の言葉で、魔導銃を威嚇モードにした守備隊は、なおも接近する甲冑姿の騎士に狙いをつけた。

『威嚇攻撃、一斉射!』

 障壁の狭間から打ち出された魔法弾は、青く光る紫電を纏わりつかせ、馬上の騎士に命中すると、騎士は身体をのけぞらせバランスを崩して落馬した。騎手を失った馬は、馬首を転じて隔壁から遠ざかってゆく。
 落馬した騎手は、感電したことで軽いマヒ状態になっただけだが、甲冑を着ているとはいえ落馬の衝撃によるダメージは大きかった。更に一部が後続の馬に踏み潰され、血まみれの肉塊に成り果てるが、同時に馬も転倒したりと、大なり小なり被害は拡大していく。

「敵、第2防衛ラインに到達。これより、威嚇攻撃解除。通常攻撃に推移します」

 車両に搭載された回転砲塔が軽いモーター音で向きを変えると、狭間からその砲口を覗かせた。

『各員、通常攻撃に切り替え、任意対象を攻撃!』

 再び響く声に、火球や氷針が魔導銃の銃口から発射され、向う兵士が次々と倒れる中、車両からの砲撃が一際煌びやかな軍装をまとった、太った貴族を乗せた一団に命中し、炎上させる。

「命中確認!おみごとです。リアン様」

 赤毛の少女の賞賛に、ありがとうと答えながらもリアンは思う。本来、この車両の車長はリアンであったが、指揮をするよりは自分で敵兵を倒す事を望み、赤毛の少女と役割を交代したのであったが、思いの他つまらない事に気づく。
 先程までは初陣に興奮していると思った自分が、一弾で敵の貴族を思われる一隊を消し炭に変えたのは自覚した。とはいえ、普通の戦闘で味わうような高揚感とは無縁であり、実感を伴わない。

「つまらねぇ」

 ボソッと呟いたリアンの声は、赤毛の少女の耳には入らなかったようである。少女の指示により、次の目標に砲口をむけ、引き金を引く簡単なお仕事である。
 引き金を引くたびに、10名前後の命が奪われ、自身も魔力を吸収されるが、魔石やライフリングされた砲口に記されている呪文により強化された魔法は、自身で魔法を発動させるよちも威力を伴いながらも使用感がなく、リアンの心は戦闘による興奮もなく醒め渡っていたのであった。
 とはいえ、数千の兵士が向ってくるのだ。幾ら大口径の火砲があっても、隔壁に近寄る全てを排除は出来ていない。一部は隔壁に取り付き上部を目指そうと、這い登ろうとしていた。至近は伏角を多く取れない砲塔の死角となってしまう。
 その時、隔壁が紫電を帯びて、取り付いた数名が感電の衝撃で跳ね飛ばされる。エリックが隔壁の防御レベルを上げたことにより、壁に埋め込まれた金属部に電流が流れたのだ。

 むろん、リアン達の部隊も、至近距離用の備えが無いわけではなかった。

「後部アームパック作動します。隔壁至近の敵兵を攻撃用意!」

 赤毛の少女の声に、車両後部のアームが回転し、隔壁上から突き出される。アームの先にはやはり銃口がついていて、下向きに向けられた銃口が鈍く光り、死角となった隔壁間近に倒れた兵士達を見据えていた。

「第一目標、右25度、伏角75度、感染レベル強」

火弾Fire bullet、発射!」

「続いて、右28度、伏角85度、感染レベルこちらも強」

 アーム先端に取り付けられた感知器の反応を読み上げらる亜麻色の髪の少女の、やや幼い声。
 続くのは、アームについた銃のブロンドの髪を三つ編みにし、肩口で揺らす女性射手の声が響いた。
 『黒死病』感染者を感知するセンサーにより、発見感知された感染者は、火弾によって骨すら残さずに地上から抹消されていく。亜麻色の髪の少女は、本来は医療班でもあり、そこに思う所がないわけではないだろう。
 この戦闘では、港湾防疫処理の為に殺戮されているネズミ達と同じ様に、人間も処理されていく。エリクシア国内での行動による善悪は関係ない。良き父親や兄で有ったのかも知れないし、粗暴なだけの男だったのかもしれないが、『黒死病』の感染者である以上、彼らに自分達が与える死は平等であった。

 そんな事をぼんやり考えていたリアンは、赤毛の少女に足をつねられた事によって、意識を現実に引き戻された。

「リアン様、戦闘中ですよ。ぼんやりなさらないで下さい。」

 リアンがぼんやりしたのは数秒であったが、その間も次の敵が押し寄せているのだ。数千対百の戦いで、少数側の兵士が、幾ら優勢に戦いを進めていても、思考の海に没している時間は無い。

「リアン様の主義に合わない戦いだという事は承知していますが、ここで彼らを市街に近寄らせる事はできません。これは決闘ではなく戦争です。御自分の主義主張は別として、まずは自分のお役目を務めてください。」

 赤毛の少女の声に、車内の戦友なかまの顔を見渡したリアンは、大きく息を吸うと言葉を発した。

「よし、まずはここを防衛するぞ。感染者から順に駆逐して逃げる者は放置。指令どおりやるぞ! 操縦手は、魔石の残存魔力を監視、5%を切ったら予備に切り替えろ!」

「「「はい!」」」

「リアン様、それは私の役目ですよ~!」

 赤毛の少女の声が、皆とは別に響く中、全員が自分の仕事に没頭していく。決闘ではなく、相手の立場や思いなど知る事なしに命を奪う行為であると知っていても、自身の感傷によって、背後に控えるアレキサンドリアの国民や、下層街の安全を信じて残っている他国の人々の命を危険にさらすわけにはいかない。
 最前線での一方的な死闘は続くが、彼らに余裕がある訳ではない。敵への感傷も賞賛も、まずは自分達が生き残ってからのことだから。

*****

 この日、ルキウス教は市民と狩人からなる2万の兵の3割を戦闘で失った。その後、彼らの中から女性や子供を中心とした、怯えた多くの人間がそれなりの数をもって東部属領へと離脱して行き、残りは五千を割り込んだ居る。元々、鋤や鍬などの農具を持参してきた市民が大多数とはいえ、指揮系統もなにもない兵としては機能しない部隊とはいえ、士気の落ちるのは避けることが出来ない。
 同様に、貴族軍の一部約1万の兵が攻撃を行った隔壁での戦闘では、ほぼ半数の5千の兵が戦死し、その後負傷者の引き上げが行われた。
 負傷者の回収の間、アレキサンドリア側からの攻撃は一切なかったのであった。

「異教徒といえど、女子供すら虐殺する自分達と、負傷者の回収をただ見守るだけの異教徒。異教の神といえど、自分達に敵対する負傷者の回収を攻撃しないというのは、良かれと思うのであろうか。(そして、その場合我等の神は狭量と思われないのであろうか)」

 負傷者に肩を貸しつつ、陣を目指す男はそう思ったのであった。
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