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7.女王の奏でるラプソディー
25.アルムニュール国……その後
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南洋諸島アルムニュール国のその後のお話です……
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クロエとQAの事は、アレキサンドリア近隣の諸国の統治者たちには知られていたが、この年アレキサンドリア都市歴百六十一年に、一気に広がったといえる。
そのきっかけは、南洋の海洋国家であるアルムニュール国にあった。QAが首都テネリを訪れるまでのアルムニュール国は、アレキサンドリア共和国にとっても、南洋にある海洋国家であり、南国特有の狩猟・栽培・漁業が営まれる、香辛料の生産国というだけの国家であり、知名度は低かった。
しかも、帝政エリクシアの東進計画により、度重なる海賊の襲来と国民の拉致などによって、やがては消え去る国家だとさえ思われていたのである。
しかし、現在のアルムニュール国は、海賊におびえる島民はただの一人も存在しなくなっているだけでなく、首都テネリを行き交う国民の顔は明るい。それにはとある理由があった。
昨年末のQA処女航海によって、アレキサンドリア共和国は『アネル・デュプロ』という首都テネリにほど近い場所を、租借地として軍の基地兼保養地として借り受けた。
アルムニュール国としては、領土とはいえ淡水の確保が難しく平地の少ないこの島は、特段用途はなく、アレキサンドリア共和国に租借することに大きな反対は出なかった。
これによって、他国の軍艦が首都に頻繁に停泊するという事態を避ける意味でも、良策であると判断されていたが、後にこの事が南洋諸島にある国家群のなかで、圧倒的な意味を持つことが知られることになる。
南洋諸島は、南方の鉱物や東の装飾品・絹織物、エリクシアからのリネンの織物などの交易を行うための海路として、多くの商船が行き交っていたが、その分海賊が多く出没し、多くの船が襲われていた。
以前から、アレキサンドリア海軍の軍艦であり、オスカーを艦長とした『オケアノス』が就航していたが、広い大海を一隻の帆船でカバーしきれるはずもなく、それなりに海賊の被害がでていたのであった。
『QA』の活躍により、一気に三十隻もの海賊船が蒼海に没し、アルムニュール国の近海に一時的な安全をもたらしたが、獲物が豊富な縄張りを狙う、別な海賊がやってくることは確実視されていたのである。
そこでアレキサンドリア共和国は、アルムニュール国と協議の上で、対海賊取締り部隊として、『アネル・デュプロ』に、十機の飛空艇と二艇の飛行艇、二百トン程度の動力艇二隻を年内に配備することを発表したのである。
二百トン級の動力艇は、全長五十メートル、全幅八メートル、深さ四メートル余りの哨戒艇であり、艦首と艦尾に小口径の二連装魔導砲を装備した、高速型である。船殻にはアルミニウム合金が用いられ、最高速度四十四ノットを誇っている。勿論、装備は最新鋭であった。
『アネル・デュプロ』自体にも、『QA』に搭載した気象レーダーや水上レーダー・水中ソナーが設置され、軍港としての機能が拡充されていったのだ。
この効果は、多くのモノをアルムニュール国にもたらせた。最大の利益は、領海の安全が確保されたことにより、南洋諸島を巡る海路での交易中継地としての立場が確立されたことである。これによって多くの商船が、首都テネリや大きめの港町を来訪することによって、多くの富を国民にもたらせたのだ。
二つ目は、領民の拉致被害の激減であった。これは犯人である海賊が、近海から姿を消したことによるところが大きい。
問題が全くなかったわけではない。アルムニュール国でも、首都テネリや大きめの港町以外の集落(村というレベルに達していない氏族単位の集落)では、漁業を営み細やかな生活を営む者が多い地域では、増加した交易船の往来により、漁獲高の減少が問題になりつつあった。しかし、これも人魚族とアレキサンドリアの青家の協力により、航路標識灯などの設置などによって、交易船の通る航路を定める事によって、漁場となる海域と航路が分けられた事で、大きな問題となる前に解決されたのだ。
多くの利益をアルムニュール国にもたらせた『アネル・デュプロ』租借であったが、アレキサンドリア側には利益がなかったわけではない。
航路標識灯や、汚水浄化装置などの魔道具が、アルムニュール国の各処に設置されることによって、アレキサンドリア国内のみで利用され、他国の者に存在を知られていなかった魔道具が、他国の交易商などの人の目に触れ、使用されることによって、口コミによる販売量の増加という恩恵もあった。
さらに、テネリなどの指定の港では、領主が徴収していた売上税や荷揚げ・荷下ろしに伴う税を撤廃し、港湾利用税として商船の全長×全幅×型深(上甲板から船底までの高さ)によって段階的な税率に改められた。この事によって、荷量ではなく船の大きさで明確な税が決まるために、大量の商品を持ち込んでも、高額な税を払う必要が無いと商人たちには歓迎されたのである。
この税制改正によって、大量の商品が交易港に運び込まれるようになると、商品を保管する倉庫の必要性が上がり、アレキサンドリアによる保温・保湿・害獣避けの徹底された倉庫業もまた利益を上げることとなった。
そして、港湾設備や航路標識灯などの保全費用が、港湾利用料から支払われることにより、保守作業の一部を引き受ける事になった人魚族と共に、双方に利益を生み出したのである。
そして『租借地』や、税制に関するアドバイスを行った『白髪の少女と白い船』は、人々の口々によってより大きく広まっていったのである。
しかし、港湾利用税によって、テネリの市民には唯一つの不満が発生してしまったのである。それは、港湾利用税は商船以外にも発生するために、全長百五十メートルという巨漢である白い船は、高額の税を納める必要があるために、テネリにはその姿を二度と見せることはなかったためであった……
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クロエとQAの事は、アレキサンドリア近隣の諸国の統治者たちには知られていたが、この年アレキサンドリア都市歴百六十一年に、一気に広がったといえる。
そのきっかけは、南洋の海洋国家であるアルムニュール国にあった。QAが首都テネリを訪れるまでのアルムニュール国は、アレキサンドリア共和国にとっても、南洋にある海洋国家であり、南国特有の狩猟・栽培・漁業が営まれる、香辛料の生産国というだけの国家であり、知名度は低かった。
しかも、帝政エリクシアの東進計画により、度重なる海賊の襲来と国民の拉致などによって、やがては消え去る国家だとさえ思われていたのである。
しかし、現在のアルムニュール国は、海賊におびえる島民はただの一人も存在しなくなっているだけでなく、首都テネリを行き交う国民の顔は明るい。それにはとある理由があった。
昨年末のQA処女航海によって、アレキサンドリア共和国は『アネル・デュプロ』という首都テネリにほど近い場所を、租借地として軍の基地兼保養地として借り受けた。
アルムニュール国としては、領土とはいえ淡水の確保が難しく平地の少ないこの島は、特段用途はなく、アレキサンドリア共和国に租借することに大きな反対は出なかった。
これによって、他国の軍艦が首都に頻繁に停泊するという事態を避ける意味でも、良策であると判断されていたが、後にこの事が南洋諸島にある国家群のなかで、圧倒的な意味を持つことが知られることになる。
南洋諸島は、南方の鉱物や東の装飾品・絹織物、エリクシアからのリネンの織物などの交易を行うための海路として、多くの商船が行き交っていたが、その分海賊が多く出没し、多くの船が襲われていた。
以前から、アレキサンドリア海軍の軍艦であり、オスカーを艦長とした『オケアノス』が就航していたが、広い大海を一隻の帆船でカバーしきれるはずもなく、それなりに海賊の被害がでていたのであった。
『QA』の活躍により、一気に三十隻もの海賊船が蒼海に没し、アルムニュール国の近海に一時的な安全をもたらしたが、獲物が豊富な縄張りを狙う、別な海賊がやってくることは確実視されていたのである。
そこでアレキサンドリア共和国は、アルムニュール国と協議の上で、対海賊取締り部隊として、『アネル・デュプロ』に、十機の飛空艇と二艇の飛行艇、二百トン程度の動力艇二隻を年内に配備することを発表したのである。
二百トン級の動力艇は、全長五十メートル、全幅八メートル、深さ四メートル余りの哨戒艇であり、艦首と艦尾に小口径の二連装魔導砲を装備した、高速型である。船殻にはアルミニウム合金が用いられ、最高速度四十四ノットを誇っている。勿論、装備は最新鋭であった。
『アネル・デュプロ』自体にも、『QA』に搭載した気象レーダーや水上レーダー・水中ソナーが設置され、軍港としての機能が拡充されていったのだ。
この効果は、多くのモノをアルムニュール国にもたらせた。最大の利益は、領海の安全が確保されたことにより、南洋諸島を巡る海路での交易中継地としての立場が確立されたことである。これによって多くの商船が、首都テネリや大きめの港町を来訪することによって、多くの富を国民にもたらせたのだ。
二つ目は、領民の拉致被害の激減であった。これは犯人である海賊が、近海から姿を消したことによるところが大きい。
問題が全くなかったわけではない。アルムニュール国でも、首都テネリや大きめの港町以外の集落(村というレベルに達していない氏族単位の集落)では、漁業を営み細やかな生活を営む者が多い地域では、増加した交易船の往来により、漁獲高の減少が問題になりつつあった。しかし、これも人魚族とアレキサンドリアの青家の協力により、航路標識灯などの設置などによって、交易船の通る航路を定める事によって、漁場となる海域と航路が分けられた事で、大きな問題となる前に解決されたのだ。
多くの利益をアルムニュール国にもたらせた『アネル・デュプロ』租借であったが、アレキサンドリア側には利益がなかったわけではない。
航路標識灯や、汚水浄化装置などの魔道具が、アルムニュール国の各処に設置されることによって、アレキサンドリア国内のみで利用され、他国の者に存在を知られていなかった魔道具が、他国の交易商などの人の目に触れ、使用されることによって、口コミによる販売量の増加という恩恵もあった。
さらに、テネリなどの指定の港では、領主が徴収していた売上税や荷揚げ・荷下ろしに伴う税を撤廃し、港湾利用税として商船の全長×全幅×型深(上甲板から船底までの高さ)によって段階的な税率に改められた。この事によって、荷量ではなく船の大きさで明確な税が決まるために、大量の商品を持ち込んでも、高額な税を払う必要が無いと商人たちには歓迎されたのである。
この税制改正によって、大量の商品が交易港に運び込まれるようになると、商品を保管する倉庫の必要性が上がり、アレキサンドリアによる保温・保湿・害獣避けの徹底された倉庫業もまた利益を上げることとなった。
そして、港湾設備や航路標識灯などの保全費用が、港湾利用料から支払われることにより、保守作業の一部を引き受ける事になった人魚族と共に、双方に利益を生み出したのである。
そして『租借地』や、税制に関するアドバイスを行った『白髪の少女と白い船』は、人々の口々によってより大きく広まっていったのである。
しかし、港湾利用税によって、テネリの市民には唯一つの不満が発生してしまったのである。それは、港湾利用税は商船以外にも発生するために、全長百五十メートルという巨漢である白い船は、高額の税を納める必要があるために、テネリにはその姿を二度と見せることはなかったためであった……
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