駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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7.女王の奏でるラプソディー

71.暗雲と……

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 一方的に見える僕たちの攻撃ですが、実はあまり効果が上がっているとはいえません。僕たちの攻撃により、燃やされ、削られ、叩き潰された触手や腕、鉤爪をはやした蝕腕は、は大地に黒いしみっを作りますが……

「くぅ、超速再生まで使えるなんて……」

 そう肉塊・蝕腕などは減った様子が見られないのです。失われた部分は、あっという間に内側から肉があふれ出し、あっという間に元の姿へと戻ってしまいます。

 もちろんダメージが無いわけではなく、肉がはじけ、一瞬体積は減りますが、次々と内からはじける肉塊はダメージをモノともしていないようです。

 円錐状の頭部の下、肉塊から伸縮する更に多くの蝕腕や鉤爪、人間の腕のような物が現れると、拘束される危険を回避するために、やはりある程度離れて戦えるようになったとはいえ、近接戦闘がメインのエマとジェシーが捕えられる危険を避けて距離をとります。

 二人が距離をとり守りに入ると、こちらからは遠距離魔法攻撃だけになり、攻撃の手数が減ってしまいました。

 現在敵の姿は、ん~、ホタテガイの下にぶよぶよした肉の塊が波打っていて、その下から大量のミミズがわらわらと……というような、お食事時には見たくない状況です。
 下部のぐにぐに、うねうねとうごめく肉塊や触手をを残らず消し飛ばしても、白銀の頭部にはキズ一つありません。

 これは、地面を這って近寄る女性ほどの恐怖心はありませんが、下の方からうにうにと湧き出す触手や蝕腕は、気持ち悪いというか、おぞましさは遥かに上ですね。

 そして、再びやってくる物理攻撃の乱打……攻撃・消失・増殖・乱打……時折仕掛けてくる、地面をもぐって足元から襲ってくる触手の攻撃。まさに三百六十度の全方位からの攻撃ですね。さすがに足元から来る攻撃は少なめですが、捕えられたりすると一気にこっちが不利になりますからね。エマやジェシーを僕たちに張り付けておく役目を十分果たしています。

 一進一退の攻防が続きますが、残念ながら限界は僕たちの方に早く訪れたようです。

「クロエさん……このままでは、魔力が……あと五分ほどで……」

 戦闘開始から三十分が経過すると、魔力総量が一番乏しいユイに限界が近づきます。
 既にユイが使役している式は一体だけで、物理攻撃を減殺する『兵滅鬼』だけになっています。ユイには途中からバフと防御に専念してもらい、攻撃は僕やエマ&ジェシーが担当していたのですが、厳しい状況が続いています。

 イリスさんも、回復ではなく防御に魔力を回していますが、連打する触手・鉤爪・腕の攻撃で、単純な物理攻撃だけだというのに、伸びた触手や腕が真後ろや真上からも攻撃を加えてきて、文字通り全方位からの攻撃の為、気を抜くことができません。

 魔道具による魔力回復量が増えているとはいえ、魔力使用料の大きな式や上位魔法を使用していれば、魔力の消費量に回復量が追いつかないのは当然ですね。

「クロエ、こっちも半分くらいしかありませんわ。時間にして三十分が限度よ!」

 さすがのイリスさんも、額に汗が見えます。

 しかも、今の状態は相手がまだ遊んでいると思うんですよね。事実、最初から物理攻撃一辺倒で、特殊攻撃は得体のしれない咆哮だけです。

 咆哮はSAN値を削るらしく、状態異常無効を持っているユイやイリスさんも眉をしかめる程度ではありますが、効いていますね。僕やエマ&ジェシーはイリスさんの継続回復魔法で、落ち込み量が少なくて済んでいますが、そろそろこちらもしきい値を超えそうです。

「エマ、ジェシーは足元から来る触手を一番に注意して、すぐに減らしてください。イリスさん、ユイ、一分耐えてください。火系魔法を使ってみます」

 うなづく二人に微笑み返して、僕は上級魔法を選択します。

 エマやジェシーの高威力炎系攻撃でもあっさり復活されてしまい、確信が持てずにいましたが、四大属性魔法では火系魔法が比較的通用しました。
 炎槍Fire lance程度の火力では直ぐに再生されてしまい、まさに焼石に水ですので、炎系の上級魔法の詠唱フルヴァージョンを叩きつけてみます。

「怒りし炎の神よ、鳴動せし大地の神よ、大いなる力を解放し。我らの敵、這いよる混沌を焼き尽くす劫火と化し地の底で焼き尽くせ、大地よ、全てを灼熱の溶岩で飲み込め!Sink in lava

 渦巻く炎が地をはい、紅蓮の炎が得体のしれないモノの下から噴き出すと、炎に触れた触手や鉤爪、腕を焼き始めました。
 大威力の斬撃系魔法で復活されてしまい通用しないのなら、継続的な高火力魔法で再生する前に焼き尽くす方法です。

 しばらく様子を見ていると、なんとか再生速度よりも焼却速度の方が早いようで、こちらへの打撃は飛んできません。ほっと息をついたイリスさんとユイですが、僕は念のため魔法障壁を重ねがけして、イリスさんにも声をかけます。

「イリスさん、本体が沈むまで油断しないようにしてくださいね。少し試したい事がありますので、敵への警戒をお願いします。
 エマ、ジェシーは触手とかが来たら障壁を出ない範囲で切り落として、イリスさんをサポートしてください」

 そして僕はユイの前まで進み、話しかけました。

「ユイ、今から僕の魔力を変換してユイに譲渡します。本来、こんな状況で実験的な試みをするのは間違っていますが、僕を信じてくれませんか?」

 体内の魔力量が低下しているユイは、すこし顔色が悪いですが僕を信頼してうなずいてくれます。

「もともとクロエさんたちに助けられた命です。あなたの言葉を疑うことなんてありません。どうすればよいのですか?」

 そう言ってくれたユイの左手をとって、僕は自分の右のてのひらをユイの掌にあわせます。

「これからユイには、ユイの固有波長と固有色に合わせた魔力を、掌からユイの中へと補充します。
 本来なら魔石に行い魔力を譲渡するのですが、それでは時間的に間に合いそうもありません。ユイの身体に直接魔力を流し込みながら身体を活性化して、一時的に魔力の再生量を増やします。
 ユイは魔力暴走を引き起こさないように、心を静めて対処してください」

 ユイの瞳が真っ直ぐ僕に向けられ、大きくうなづきました。

「……分かりました。お願いします……」

 あわせた掌から、ユイの魔力の流れを感じたところで、僕の魔力をユイの魔力の波長と色に同期させまる。あとは、あわせた掌からユイに僕の魔力を送り込むだけ……です。

 魔力の譲渡を開始した途端、ユイの身体がビクンと大きく震えるのが分かりました。

「……くぅっ……」

 ユイの口から小さく、何かを堪える様なくぐもった声が漏れ、合わせた左の手はいつの間にか指と指を絡めるようにしっかりと握りあわされています。

「ちょっ、ユイ? 大丈夫ですか?」

 声をかけた僕に、ユイは顔を俯かせてコクリとうなづきますので、そのまま続行します。まだ、ユイの魔力は一桁台ですので、九割は回復できるとよいのですが……

 そう考えて少し魔力の流入量を増やすと、ユイの身体が大きく揺れ、倒れそうになったのを慌てて支えます。僕の肩に頭をのせて、俯いてしまったユイですが僕からその表情は見えません。左手は強く握られていて、僕の首筋にかかるユイの息は熱く、呼吸も少し荒くなっています。

「あっ……だ……め、……もっと、……ゆ……くり」

 熱い息でつぶやいくユイですが、身体に力が入らないのか。僕に身体を預けるようにもたれかかっていますので、支えるために左手をユイの腰に回した途端、ユイが腰から崩れ落ちました。
 寄り掛かられたので、僕との接触面が増えたせいでユイへの魔力の流入量が一瞬増えましたが、十分な量の魔力は譲渡できたはずです。
 しかし、一瞬とは言え、身体に負担が大きかったのか、地面にへたり込んでしまっています。

「んとっ、魔力は回復したと思うのですが、負担が大きすぎましたか?」

「…………」

 んっ? 返答がありませんね、まさか屍になっているんじゃないでしょうね?

「ユイ、ユイってば! 大丈夫ですか」

 ユイの前に膝間づいて、両肩をがくがく揺らすと、色を失っていたユイの瞳に光が戻り、呆けていたような顔がいきなり真っ赤に染まります。

「あっ、はい。大丈夫……です。たぶん……」

 再起動したユイの言葉は怪しいモノでしたが、顔色以外は大丈夫(?)でしょうか。魔力自体は九割以上は戻っているはずですし、肌の色艶もむしろ探索にでる前以上に艶やかです。手を貸し引き起こすと、少しふら付いたようですが、なんとか立ち上がります。

 そんな僕らを、ジト目で見つめていたイリスさんがユイに話しかけます。

「……魔力譲渡ってそんなにきついのかしら? ……その割には身体の色艶も良くなったようだけど……」

 後半のイリスさんの言葉は、小さく聞こえにくかったのですが、たぶん同じようなことを考えていたのだと思います。

「それで、どうするの、クロエ? このままじゃ防御だけで手詰まりのジリ貧よ。なにか打開策はないのかしら。
 時間的余裕はないわよ。このままじゃわたくしもユイのように魔力譲渡してもらわないと持ちませんわ」

「イリスさん、障壁を張りながらの魔力譲渡は避けた方が良いと思います。先ほどの私のように、自失してしまうと障壁がとけてしまい、危険です!」

 ん~、魔力譲渡に自失するような危険があったとは知りませんでしたね。
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