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8.未来へ……
12.
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「アメリアにコリーヌさん、先程僕を止めた理由を聞かせてもらっても?」
別館のコリーヌさん達に割り当てられた部屋の中、僕が質問した途端に、ドアをノックする音が聞こえました。
この魔力パターンは、デーゲンハルトさんと植物馬鹿のお二人のようですね。僕たちが戻ってきたことに気付いて訪ねてきたにしては時間が時間です。
既に殿方が淑女の部屋を訪ねる時間ではありませんが、コリーヌさんがうなづき許可を出したので二人を室内に招き入れます。
「こんな時間に申し訳ないであります。どうやら、パーティー会場の方でもハプニングがあったようでありますね」
デーゲンハルトさんの言葉に、家人代表として着いてきてもらったサンドラさんが答えます。
「あぁ、どうやら人拐いが出たようでね。クロエ嬢に絡んでいたボンクラ令息や令嬢の合わせて四人が、何者かに拐われたのさ。あっちはそれで揉めてるが、デーゲンもここに来るってことは、そちらにもなにかあったのかい?」
返されたサンドラさんの質問に答えたのは、植物馬鹿…… アルバートですね。僕の方をちらりと見て、答えます。
「こちらで察知できたのは、何者かが湖側からやってきて本館のほうに移動したことだけだ。この付近を通った時に、こちらを把握したように速度をおとしたが、デーゲンが万が一に備えた待機状態になっていたおかげで、特に何もなかった」
何事もなく答えますが、接近してきた者達の侵入方向と撤退方向は湖側と一致したようですね。察知していたのであれば捕まえればよかったのじゃないかと思うかもしれませんが、夜会開始時点で遅れてくる貴族が魔法による移動手段を使ってくる可能性もありましたから、こちらからそれを邪魔することはできませんしね。
「……とりあえず、お二人のおかげで曲者の侵入方向が判明したようなので、僕の質問に答えてくれませんか?
アリシアは僕があの魔道具を使って見せることを止めたという認識ですので、説明は不要としても、コリーヌさんが僕を止める理由はなかったと思いますが?」
コリーヌさんは視線をサンドラさんに向けた後、軽くため息をつきます。
「クロエ殿の言った曲者というのは、単に貴族令息や令嬢が誘拐されたというだけの問題ではなく、おそらくアルべニア貴族、もしくはノヴィエロ伯爵領自体が抱える問題に起因してのことだと考えたからだ。
この国、この領地の貴族の問題にたいして、異国人である我々が口を出すのは控えたほうが良いだろう」
コリーヌさんの言葉にうなづいたのはデーゲンハルト氏ですね。
「自分にはコリーヌ殿が単なる誘拐事件ではなく、貴族の問題と判断したのかはわかりませんが、現在我々はギルドからの依頼であるコリーヌ嬢の帰国を安全に遂行せねばならない立場であります。まず、そちらを優先せねばならないでしょう」
そう言いながらも、攫われたのが一般の子供などであれば別ですがと小声でつぶやいています。
確かに、貴族の令息や令嬢といっても、今日の夜会に参加している以上はデヴュタントは終了している、つまりは成人の扱いですしね。
貴族はプライドが高いですから、令息や令嬢の奪還を、ギルド経由で僕たちに依頼することなどしないでしょうし、僕たちに直接絡んでくるわけでなければ、ここはスルーしておいた方が確かです。
「……確かに今回の曲者は、現在僕たちに絡んできてはいないので、放置でよいとは思いますが……」
問題は、曲者たちが空を飛んでいたこと。さらわれた令息・令嬢は、今夜の夜会に参加していた令息・令嬢の中でも魔力の高い上位四名だったということが問題に思えます。
さらわれた人たちの共通点である魔力の高さについて僕が口にすると、サンドラさんも言いにくそうですが更なる情報を提供してくれました。
「……さらわれた貴族の令息・令嬢には、もう一つの共通点があるな。
揃いも揃って、このマール・ミラの地を収める貴族として、問題のある奴ばかりだったということさ。
アダルモって奴は貴族であることを鼻にかけ、領地では領民と問題を起こしているし、令嬢たちは着飾ることばかりに金を使う浪費家だと聞いている。
奴らはの貴族は領民を守るためにあることを忘れて、王都の貴族学院の影響をうけて、貴族は民から搾取し、贅沢をするのが当たり前だと考えてるような奴らだったからな」
……つまり、旧来の老貴族たちにから見ると、貴族としては失格だった可能性が高いと問題視されていた人物だったということですね。
そう考えると、夜会の席にはさらわれた彼らの父母である貴族家当主がいたはずですが、それらの人々が大騒ぎをするということはありませんでした。
貴族としての矜持で、他国の令嬢であるコリーヌさんや、下々の者である僕たちに、狼狽する姿を見せたくないという思いも強かったのだと思いますが、愛する令息令嬢がさらわれて全く動じないというのは不自然です。もしかすると、貴族家のお家騒動も絡んでいるかもしれませんね。
とはいえ……
「さらわれた人たちのことは、彼らの事情に任せるとしても、彼らが高い魔力保持者を狙ったことと、襲撃に使われた手段が空を飛ぶという点は問題ですね。
これから森林や山岳地帯を進まなければならない僕たちでは、空からの襲撃がある可能性を考慮しないとなると、少人数の護衛では厳しいものがあります。僕たちへの襲撃をあきらめさせる煮は、空からの襲撃に対しても対抗手段があることを示しておかねばならないかもしれませんね」
僕のつぶやきに、アルバートが疑問があるようですね。怪訝な顔を僕に向けていたので、簡単に説明しておきます。
「襲撃者がこの場にいないのに、見せつけることが可能なのかという点ですが、空を飛ぶ物体に見えた人影は五つ。転がされていた四人の足と黒い人影。
さらわれたのは四人ですから、一人で四人の人間を短時間で無力化させて、飛行物体に乗せて飛び去るというのは、無理があるでしょう。同時に四人の成人を運ばなければならないのですからね。
そう考えれば、屋敷内に襲撃者の協力者がいる可能性が高い。彼らにわかるように対抗手段を示せば、これから先の道中で僕たちに変な手出しをしてこないでしょう?」
僕の言葉に、皆さんは驚いた表情を浮かべていたのでした……
別館のコリーヌさん達に割り当てられた部屋の中、僕が質問した途端に、ドアをノックする音が聞こえました。
この魔力パターンは、デーゲンハルトさんと植物馬鹿のお二人のようですね。僕たちが戻ってきたことに気付いて訪ねてきたにしては時間が時間です。
既に殿方が淑女の部屋を訪ねる時間ではありませんが、コリーヌさんがうなづき許可を出したので二人を室内に招き入れます。
「こんな時間に申し訳ないであります。どうやら、パーティー会場の方でもハプニングがあったようでありますね」
デーゲンハルトさんの言葉に、家人代表として着いてきてもらったサンドラさんが答えます。
「あぁ、どうやら人拐いが出たようでね。クロエ嬢に絡んでいたボンクラ令息や令嬢の合わせて四人が、何者かに拐われたのさ。あっちはそれで揉めてるが、デーゲンもここに来るってことは、そちらにもなにかあったのかい?」
返されたサンドラさんの質問に答えたのは、植物馬鹿…… アルバートですね。僕の方をちらりと見て、答えます。
「こちらで察知できたのは、何者かが湖側からやってきて本館のほうに移動したことだけだ。この付近を通った時に、こちらを把握したように速度をおとしたが、デーゲンが万が一に備えた待機状態になっていたおかげで、特に何もなかった」
何事もなく答えますが、接近してきた者達の侵入方向と撤退方向は湖側と一致したようですね。察知していたのであれば捕まえればよかったのじゃないかと思うかもしれませんが、夜会開始時点で遅れてくる貴族が魔法による移動手段を使ってくる可能性もありましたから、こちらからそれを邪魔することはできませんしね。
「……とりあえず、お二人のおかげで曲者の侵入方向が判明したようなので、僕の質問に答えてくれませんか?
アリシアは僕があの魔道具を使って見せることを止めたという認識ですので、説明は不要としても、コリーヌさんが僕を止める理由はなかったと思いますが?」
コリーヌさんは視線をサンドラさんに向けた後、軽くため息をつきます。
「クロエ殿の言った曲者というのは、単に貴族令息や令嬢が誘拐されたというだけの問題ではなく、おそらくアルべニア貴族、もしくはノヴィエロ伯爵領自体が抱える問題に起因してのことだと考えたからだ。
この国、この領地の貴族の問題にたいして、異国人である我々が口を出すのは控えたほうが良いだろう」
コリーヌさんの言葉にうなづいたのはデーゲンハルト氏ですね。
「自分にはコリーヌ殿が単なる誘拐事件ではなく、貴族の問題と判断したのかはわかりませんが、現在我々はギルドからの依頼であるコリーヌ嬢の帰国を安全に遂行せねばならない立場であります。まず、そちらを優先せねばならないでしょう」
そう言いながらも、攫われたのが一般の子供などであれば別ですがと小声でつぶやいています。
確かに、貴族の令息や令嬢といっても、今日の夜会に参加している以上はデヴュタントは終了している、つまりは成人の扱いですしね。
貴族はプライドが高いですから、令息や令嬢の奪還を、ギルド経由で僕たちに依頼することなどしないでしょうし、僕たちに直接絡んでくるわけでなければ、ここはスルーしておいた方が確かです。
「……確かに今回の曲者は、現在僕たちに絡んできてはいないので、放置でよいとは思いますが……」
問題は、曲者たちが空を飛んでいたこと。さらわれた令息・令嬢は、今夜の夜会に参加していた令息・令嬢の中でも魔力の高い上位四名だったということが問題に思えます。
さらわれた人たちの共通点である魔力の高さについて僕が口にすると、サンドラさんも言いにくそうですが更なる情報を提供してくれました。
「……さらわれた貴族の令息・令嬢には、もう一つの共通点があるな。
揃いも揃って、このマール・ミラの地を収める貴族として、問題のある奴ばかりだったということさ。
アダルモって奴は貴族であることを鼻にかけ、領地では領民と問題を起こしているし、令嬢たちは着飾ることばかりに金を使う浪費家だと聞いている。
奴らはの貴族は領民を守るためにあることを忘れて、王都の貴族学院の影響をうけて、貴族は民から搾取し、贅沢をするのが当たり前だと考えてるような奴らだったからな」
……つまり、旧来の老貴族たちにから見ると、貴族としては失格だった可能性が高いと問題視されていた人物だったということですね。
そう考えると、夜会の席にはさらわれた彼らの父母である貴族家当主がいたはずですが、それらの人々が大騒ぎをするということはありませんでした。
貴族としての矜持で、他国の令嬢であるコリーヌさんや、下々の者である僕たちに、狼狽する姿を見せたくないという思いも強かったのだと思いますが、愛する令息令嬢がさらわれて全く動じないというのは不自然です。もしかすると、貴族家のお家騒動も絡んでいるかもしれませんね。
とはいえ……
「さらわれた人たちのことは、彼らの事情に任せるとしても、彼らが高い魔力保持者を狙ったことと、襲撃に使われた手段が空を飛ぶという点は問題ですね。
これから森林や山岳地帯を進まなければならない僕たちでは、空からの襲撃がある可能性を考慮しないとなると、少人数の護衛では厳しいものがあります。僕たちへの襲撃をあきらめさせる煮は、空からの襲撃に対しても対抗手段があることを示しておかねばならないかもしれませんね」
僕のつぶやきに、アルバートが疑問があるようですね。怪訝な顔を僕に向けていたので、簡単に説明しておきます。
「襲撃者がこの場にいないのに、見せつけることが可能なのかという点ですが、空を飛ぶ物体に見えた人影は五つ。転がされていた四人の足と黒い人影。
さらわれたのは四人ですから、一人で四人の人間を短時間で無力化させて、飛行物体に乗せて飛び去るというのは、無理があるでしょう。同時に四人の成人を運ばなければならないのですからね。
そう考えれば、屋敷内に襲撃者の協力者がいる可能性が高い。彼らにわかるように対抗手段を示せば、これから先の道中で僕たちに変な手出しをしてこないでしょう?」
僕の言葉に、皆さんは驚いた表情を浮かべていたのでした……
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