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第6章 富士攻略編
119 第100層を目指して
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「ここは……」
カイリが目を覚ますと、そこは見覚えのない部屋だった。
明かりはランプが一つあるだけで、お世辞にも明るいとは言い難かった。
周囲を確認すると、誰もそこにはいなかった。
「私は確か……」
カイリが目を覚ます数時間前の出来事。
カイリ一行は順調に階層を下っていた。
それはなにかに誘導されるかのように、あまりにも順調すぎるものであった。
さすがの歩も、その違和感に気がついていた。
しかし、下る以外に選択肢が無い以上そうするしか無いと自分に言い聞かせて……
自分たちが今何階層にいるのかすらわからないまま、下ること10日目……
ついにカイリたちが保管していた食料がそこを尽きたのである。
「コレがラストです。」
取り出した食料はパンと牛乳、それといくつかの缶詰である。
全員分あるとはいえ、ほそぼそと食べたところで力が出ず、モンスターに殺されてしまう。
そう考えて、あえて食事はしっかり取るようにしてきたのであった。
「こっからは運任せだね。って、言っても仕方がないか……」
普段は楽天的な歩の言葉にも、いつものようなキレが見られなかった。
それほどまでに食料の枯渇は重大問題なのだ。
「あとあるのは……ミノタウロスの肉とかです。調味料がないのでそのまま焼くだけになりますが。ビタミンとか不足する可能性もあるので、健康管理は今以上に注意しないとですね。」
カレンが、自分のインベントリを確認しながら話をしていた。
残された時間は短いと感じた面々であった。
「それでは休憩はコレくらいにして、先に進みましょう。」
由貴乃が声をかけると、重い腰をゆっくりと持ち上げる。
流石に体力・精神力ともに皆限界が近い状況であった。
レベルが上がり強くはなっていた。
しかし、それに比例してモンスターもまた強くなっていく。
同じ種のモンスターでも明らかに強化されているのだ。
その状況に、ダンジョンに文句の一つも言いたくなってくる気持ちを堪え、また一歩と歩みを進める。
そして階段を降りきったところで見たものは……
それはそれは豪勢な邸宅であった。
成金とでも言えばいいのか、無駄に贅を凝らし、いかにも金持ちですアピールがすごい。
至るところに金銀などの希少金属が使われ、アチラコチラに宝石の類いも見受けられる。
入口前の門でコレであるので、屋敷はどれほど豪華絢爛になっているのか考えるまでもなかった。
訝しがるカイリたちをよそに、目の前の門がひとりでに開放されていく。
あたかもカイリたちを待っていたかのように。
誘い込むように。
「姉さん……。入ってこいってことか?」
「そうね。おそらくそうなんだと思うけど……。罠以外ありえないわよね。」
警戒感を高めていく團姉弟。
安全地帯である階段に戻ろうと後ろを振り向くと、そこにあったはずの階段は姿を消していた。
早く入ってこいと言わんばかりの現象であった。
「いくしかないね。」
歩はその頬に一筋の汗を感じた。
久しぶりに感じた冷や汗だ。
とどまるも進むもどちらも地獄。
ならばと覚悟を決めてその門に向かって進んでいく。
残りの面々もそれに従い門をくぐっていくのであった。
門をくぐると中庭が広がり、きれいに手入れされたそれは美しく整えられていた。
軽く見渡すと作業をしている人も見受けられたが、それが人間なのかモンスターなのか見分けがつかなかった。
恐る恐る屋敷に近づくと、その豪華な作りに更に驚きを隠せなかった。
中世ヨーロッパの貴族を思わせる豪華さに、面食らってしまった格好である。
思考の停止がどのくらいだったかは定かではないが、突如玄関のドアがゆっくりと開かれていった。
そして中からはビシッと制服に身を包んだ男性が姿を表したのだ。
「お待ちしていました。あなたがカイリさんですね?はじめまして。私は内閣情報局局長の瀬戸と申します。中で総理がお待ちです。こちらへ。皆様方もどうぞ。」
突如告げられた話に、カイリたちの頭はついてこなかった。
完全にフリーズを起こし、言われるがままその屋敷に足を踏み入れたのだった。
カイリたちが踏み入れた階層……
それはこのダンジョンの最下層……
第100層のボス部屋であった。
——————
俺たちがダンジョンを攻略し始めて、すでに10日が過ぎていた。
現在第90層を突破し、ダンジョンは残すところ10層を切っていた。
しかしカイリたちに出会うことはなく、ただただ階層を潜り続けていく状況だった。
『モンスターとほとんど出会わなくなってきたの。』
周囲を見渡しながらタクマが不思議そうにしていた。
俺もそれについて不思議に感じていた。
今現在探索中なのは第95層。
ダンジョンのほぼ終盤だった。
普通であれば何度もモンスターとエンカウントしてもおかしくはないはずだ。
だがここに至ってそのモンスターが全くと言っていいほどエンカウントしなかった。
『おそらく倒されてるんだと思います。ここまで下がってこれているってことは、それ相応にレベルが上昇しているでしょうし。』
「だといいんだけど……」
俺はタケシ君の言葉に自分を安心させようと肯定して見せた。
だけどその言葉とは裏腹に、俺の心はそれを否定しようとしていた。
焦りだけが俺の心を支配していった。
俺たちは何度か休憩を挟みつつ、ようやく第99層へとたどり着いた。
残すところあと2層。
攻略間近の場所まで来てしまっていたのだ。
『ここでいなければ最悪最終ボスのところまで行っているってことだろうな。』
「総理大臣……」
タクマの言葉につい反応してしまった。
できれば戦いたくない。
元とはいえ、互いに人間であったことには代わりなかった。
俺自身も人間をやめた身ではあるものの、生理的に拒否感がその首をもたげる。
『それだけじゃないでしょうね。自衛隊の幹部もおそらくいますし。その手下たちも間違いなくいるはずです。』
「つまり連戦覚悟ってとこかな……」
この世界の変革を受けて、日常が変わった。
最初はダンジョンの誕生に人々は翻弄された。
ダンジョンの存在が経済そのものを変化させていく。
ダンジョンさんの資源が世界を支えるようになり、ダンジョン依存の経済が加速していく。
戦う相手はモンスター……人ではない何か。
それが何かを究明しようとするものは少なかった。
なぜなら俺たち住民がダンジョンに潜ると、必ずと言っていいほどモンスターは人々に襲いかかってきたからだ。
〝モンスターは人間の敵〟とは公然の認識。
誰もそれを疑わず、そうだと思い込まされていた。
今度は自我のあるスキルと出会う。
スキルが人を進化させる。
むしろスキルが人と置き換わる。
人が人でなくなっていく。
スキルに支配され自我をなくし、スキルが人となる。
すべてのスキルに自我があるのか、または特定のスキルだけなのか……
それは誰にもわからなかった。
そして自我のあるモンスターと出会う。
モンスターと思っていたものは、自分たちと同じ自称神によって集められた生命体だった。
生命体同士の生存戦争。
それがこの変革の真実であった。
自称神は何をさせたいのか。
俺はその答えを探していた。
しかし未だその答えまで行き着くことは出来ていない。
考えても考えてもわからない。
「スキルって一体何なんだろうな……」
思わず思考の海に潜りながらも口に出してしまった問。
タクマもスキルが当然という世界に生まれたがために、全く気にしたことがなかったようだ。
ラーも同様だった。
むしろ俺がそれにつて悩むこと自体理解し難いと感じていた。
『何なんでしょうね。最初は便利な能力的に思ってましたけど、だんだん差別の対象になってましたし。ケントさんと出会ってその概念がぶち壊れた時、正直どうしようかと思いましたよ。』
タケシ君の考えが、今の世界に共通している考え方だ。
スキル=便利な能力。
俺はそれ自体仕組まれたものじゃないのかと考え始めていた。
カイリが目を覚ますと、そこは見覚えのない部屋だった。
明かりはランプが一つあるだけで、お世辞にも明るいとは言い難かった。
周囲を確認すると、誰もそこにはいなかった。
「私は確か……」
カイリが目を覚ます数時間前の出来事。
カイリ一行は順調に階層を下っていた。
それはなにかに誘導されるかのように、あまりにも順調すぎるものであった。
さすがの歩も、その違和感に気がついていた。
しかし、下る以外に選択肢が無い以上そうするしか無いと自分に言い聞かせて……
自分たちが今何階層にいるのかすらわからないまま、下ること10日目……
ついにカイリたちが保管していた食料がそこを尽きたのである。
「コレがラストです。」
取り出した食料はパンと牛乳、それといくつかの缶詰である。
全員分あるとはいえ、ほそぼそと食べたところで力が出ず、モンスターに殺されてしまう。
そう考えて、あえて食事はしっかり取るようにしてきたのであった。
「こっからは運任せだね。って、言っても仕方がないか……」
普段は楽天的な歩の言葉にも、いつものようなキレが見られなかった。
それほどまでに食料の枯渇は重大問題なのだ。
「あとあるのは……ミノタウロスの肉とかです。調味料がないのでそのまま焼くだけになりますが。ビタミンとか不足する可能性もあるので、健康管理は今以上に注意しないとですね。」
カレンが、自分のインベントリを確認しながら話をしていた。
残された時間は短いと感じた面々であった。
「それでは休憩はコレくらいにして、先に進みましょう。」
由貴乃が声をかけると、重い腰をゆっくりと持ち上げる。
流石に体力・精神力ともに皆限界が近い状況であった。
レベルが上がり強くはなっていた。
しかし、それに比例してモンスターもまた強くなっていく。
同じ種のモンスターでも明らかに強化されているのだ。
その状況に、ダンジョンに文句の一つも言いたくなってくる気持ちを堪え、また一歩と歩みを進める。
そして階段を降りきったところで見たものは……
それはそれは豪勢な邸宅であった。
成金とでも言えばいいのか、無駄に贅を凝らし、いかにも金持ちですアピールがすごい。
至るところに金銀などの希少金属が使われ、アチラコチラに宝石の類いも見受けられる。
入口前の門でコレであるので、屋敷はどれほど豪華絢爛になっているのか考えるまでもなかった。
訝しがるカイリたちをよそに、目の前の門がひとりでに開放されていく。
あたかもカイリたちを待っていたかのように。
誘い込むように。
「姉さん……。入ってこいってことか?」
「そうね。おそらくそうなんだと思うけど……。罠以外ありえないわよね。」
警戒感を高めていく團姉弟。
安全地帯である階段に戻ろうと後ろを振り向くと、そこにあったはずの階段は姿を消していた。
早く入ってこいと言わんばかりの現象であった。
「いくしかないね。」
歩はその頬に一筋の汗を感じた。
久しぶりに感じた冷や汗だ。
とどまるも進むもどちらも地獄。
ならばと覚悟を決めてその門に向かって進んでいく。
残りの面々もそれに従い門をくぐっていくのであった。
門をくぐると中庭が広がり、きれいに手入れされたそれは美しく整えられていた。
軽く見渡すと作業をしている人も見受けられたが、それが人間なのかモンスターなのか見分けがつかなかった。
恐る恐る屋敷に近づくと、その豪華な作りに更に驚きを隠せなかった。
中世ヨーロッパの貴族を思わせる豪華さに、面食らってしまった格好である。
思考の停止がどのくらいだったかは定かではないが、突如玄関のドアがゆっくりと開かれていった。
そして中からはビシッと制服に身を包んだ男性が姿を表したのだ。
「お待ちしていました。あなたがカイリさんですね?はじめまして。私は内閣情報局局長の瀬戸と申します。中で総理がお待ちです。こちらへ。皆様方もどうぞ。」
突如告げられた話に、カイリたちの頭はついてこなかった。
完全にフリーズを起こし、言われるがままその屋敷に足を踏み入れたのだった。
カイリたちが踏み入れた階層……
それはこのダンジョンの最下層……
第100層のボス部屋であった。
——————
俺たちがダンジョンを攻略し始めて、すでに10日が過ぎていた。
現在第90層を突破し、ダンジョンは残すところ10層を切っていた。
しかしカイリたちに出会うことはなく、ただただ階層を潜り続けていく状況だった。
『モンスターとほとんど出会わなくなってきたの。』
周囲を見渡しながらタクマが不思議そうにしていた。
俺もそれについて不思議に感じていた。
今現在探索中なのは第95層。
ダンジョンのほぼ終盤だった。
普通であれば何度もモンスターとエンカウントしてもおかしくはないはずだ。
だがここに至ってそのモンスターが全くと言っていいほどエンカウントしなかった。
『おそらく倒されてるんだと思います。ここまで下がってこれているってことは、それ相応にレベルが上昇しているでしょうし。』
「だといいんだけど……」
俺はタケシ君の言葉に自分を安心させようと肯定して見せた。
だけどその言葉とは裏腹に、俺の心はそれを否定しようとしていた。
焦りだけが俺の心を支配していった。
俺たちは何度か休憩を挟みつつ、ようやく第99層へとたどり着いた。
残すところあと2層。
攻略間近の場所まで来てしまっていたのだ。
『ここでいなければ最悪最終ボスのところまで行っているってことだろうな。』
「総理大臣……」
タクマの言葉につい反応してしまった。
できれば戦いたくない。
元とはいえ、互いに人間であったことには代わりなかった。
俺自身も人間をやめた身ではあるものの、生理的に拒否感がその首をもたげる。
『それだけじゃないでしょうね。自衛隊の幹部もおそらくいますし。その手下たちも間違いなくいるはずです。』
「つまり連戦覚悟ってとこかな……」
この世界の変革を受けて、日常が変わった。
最初はダンジョンの誕生に人々は翻弄された。
ダンジョンの存在が経済そのものを変化させていく。
ダンジョンさんの資源が世界を支えるようになり、ダンジョン依存の経済が加速していく。
戦う相手はモンスター……人ではない何か。
それが何かを究明しようとするものは少なかった。
なぜなら俺たち住民がダンジョンに潜ると、必ずと言っていいほどモンスターは人々に襲いかかってきたからだ。
〝モンスターは人間の敵〟とは公然の認識。
誰もそれを疑わず、そうだと思い込まされていた。
今度は自我のあるスキルと出会う。
スキルが人を進化させる。
むしろスキルが人と置き換わる。
人が人でなくなっていく。
スキルに支配され自我をなくし、スキルが人となる。
すべてのスキルに自我があるのか、または特定のスキルだけなのか……
それは誰にもわからなかった。
そして自我のあるモンスターと出会う。
モンスターと思っていたものは、自分たちと同じ自称神によって集められた生命体だった。
生命体同士の生存戦争。
それがこの変革の真実であった。
自称神は何をさせたいのか。
俺はその答えを探していた。
しかし未だその答えまで行き着くことは出来ていない。
考えても考えてもわからない。
「スキルって一体何なんだろうな……」
思わず思考の海に潜りながらも口に出してしまった問。
タクマもスキルが当然という世界に生まれたがために、全く気にしたことがなかったようだ。
ラーも同様だった。
むしろ俺がそれにつて悩むこと自体理解し難いと感じていた。
『何なんでしょうね。最初は便利な能力的に思ってましたけど、だんだん差別の対象になってましたし。ケントさんと出会ってその概念がぶち壊れた時、正直どうしようかと思いましたよ。』
タケシ君の考えが、今の世界に共通している考え方だ。
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