【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ

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 はぁ………、はぁ………息がっ…



 バタバタと音が聞こえる。

「おいっ!ちゃんと抑えていてくれ!」

「ダメだ、抑え切れない!警戒を緩めるな!」

 「め、メーターが振り切れています!」

「何故だ!?無害化しかけていたのに!」

 
 怒声が響き渡り、自分に何が起きているのか分からないまま浅い呼吸を整えようとした。

「殿下は、今何処に!」

「ダメだ…、今日は視察に出ている筈だ」

「何だって!?くっ…!ダメだ、出てくるぞ!皆、意識をしっかり持つんだ!」

 研究員達の声が段々と遠くなる代わりにドクン、ドクンと大きく脈打つ音が聞こえる。


『待たせたわね、マリカ。ほぅら、貴女の願いが叶うわよ』


 暫く聞いていなかった声が聞こえる。
 それは以前より強く私の脳に響いているように感じた。
 私は、”それ”に籠の中に押し入られる。

 辞めて、私はそんな事望んで無いわ。お願い。
 何度も、何度も問い掛けたが私の声は誰にも何処にも聞こえないの。

 ごめんなさい…、私きっとまた皆に迷惑を掛けてしまうんだわ……


ーーーーーーーーーーーーー


「ふぅ…。今日の王妃教育も無事に終わったな。」

 先生が退出されてから、少しだけ復習をしてやっと目処が着いたのでそろそろ帰ろうと教材を纏めながら独り言ちる。

「暗くなる前に帰らねばな…。ん?なんだ、あれは。」

 いつもの様に日の落ち具合を確認しようと外を見ると、何処かから何やら禍々しい瘴気が上がっていた。
 私は勢い良く立ち上がると窓に駆け寄る。

「あそこは…、研究室か。」

 異様な空気を感じ、背筋がゾクッとする。あんなに禍々しい物は見た事が無い。何かとても嫌な予感がする。

 気が付けば走っていた。

 長い長い通路を走り抜け、違和感を覚える。

「(人が少な過ぎる。)」

 研究室迄の道のりで誰かに会い、咎められるかと思いながらも全速力で走っていたのだが、未だに誰にも会わない。
 気付くのが遅れてしまったのだろう、皆彼処に向かっているに違いない。

 目的地に近付くにつれて足がずしりと重く息苦しくなっていく。

 研究室がある塔に着くと、人集りが出来ていて警備兵が厳重に警備をしていた。

「下がって!ここは今、研究中なので入室出来ません!決して被害の出るものでは御座いませんのでお引き取りを!」

 扉の前に居る兵士は、大きな声で皆に聞こえる様に叫んでいる。
 皆、追い返されてはいるが魔力のある者ならこの研究室で何かおかしな事が起きているのが目に見えて分かるので確かめにも来たくなる。
 ここまで厳重に警備されているとなると私でも入る事は難しそうだ。

 どうしようかと悩んで居ると、一人の兵士が此方を向いた。

「ー!メライーブス嬢では御座いませんか。ご相談が…、此方へ。」

 対応をしている兵士とは離れた所に居た兵士だった為、私を見付けサッと裏口へと誘導してくれた。


「今、何が起こっている?」

「…我々も詳しい事情は分かっていませんが、どうやら
解呪に失敗したようで。」

「解呪?」

「はい、危うく消される所でした。もう少しなのですが……、その為には貴女が適任かと……。」

 説明が来るかと思ったのだが、訳の分からない返答に彼の方を見ると目が紅く染まり、にたりと笑ったかと思えば姿を消した。

「なっ…!しまっ…、っ!!」


 安直だった。日々警戒を怠っているつもりは無かったが、油断していた。
 気付くと、後ろに回り込まれていて後頭部に衝撃が走る。
 何かの魔法を受けたのは分かるが、状況が掴めないまま徐々に意識が遠のいていく。

「大丈夫ですよ、少し眠るだけです。貴女は彼を誘き出すための囮だ…、ゆっくりお休み下さい。」



ーーーーーーーーーーーーー

「くそっ、何故遠方視察の時にこんな事になるんだ。」

 人が居ない事をいい事に、苛立ちを声に出してしまった。
 誰かに見られてはいけない為に王族にしか知られていない地下ルートをバタバタと早足に歩を進めている。先程帰って来たかと思えば、研究室で大変な事が起きているらしいと耳打ちされたのだ。

 暗号化されていたが、どうやら無害化する筈だった物が大爆発を起こし魔力が吹き出して周囲にまで瘴気の様に禍々しく渦巻いているという。

 アレが外に出ると不味い。非常に厄介だ、急がなくては。

 何より、ルルーシュアが危ない。
 彼女は今日も王妃教育の為にここに来ていた筈だ。もう遅い時間なので、家に無事に帰ってくれていたら良いのだが。

 研究室に近付くと確かに重々しい空気が漂い、それだけで酔いそうになる。
 私が行かなくては、アレは抑えられない。

 幾重もの扉を開けて、研究室の内部に入った。
 そこは予想していたよりも最悪の状況になっていた。


「『いらっしゃい、私の王子様。』」


 検査用のベッドの周りに惚けた目をした研究員達を侍らせ、少女は妖艶に笑った。


「悪魔、彼女を解放しろ。いい加減その子への執着を辞めないか。」


「『ふふ、悪魔だなんて酷いわ?私はマリカ。マリカは私よ』」

「似たようなものだよ、下衆め。」

 ふふふ、と可愛らしく声を出しているが寒気がする。彼女はマリカ=ディボルであり、マリカ=ディボルでは無い。

「『王子様ったら、私をマリカから取り除こうとしたでしょ?危なかった、もう少しで消滅しちゃう所だったわ?だから、お仕置きしなきゃと思ったの。』」

 「何?」

 そう言うと、彼女は動きを止めパチンと指を鳴らした。
 すると、一台の椅子がぐるりと回った。

「なっ!?ルルーシュア!」

 そこには椅子に手足を縛られ、ぐったりとしたルルーシュアが居た。

「『あははっ!やっぱりコレは貴方の大切な者なのね!!…起きなさい。』」

 彼女はルルーシュアの髪を持ち、グイッと上を向かせた。

 怒りで気が狂いそうだったが、奥歯を噛み締め堪える。今、私が怒り狂い魔力で叩きのめしても”人間”にしかダメージを与える事が出来ないからだ。
 奴を引き剥がさ無くては意味が無い。
 しかも、僕の膨大な力ではルルーシュアを完全に巻き込んでしまう。

 ルルーシュアは眩しそうに目を開けた。

 「…………っ!…貴女は、マリカ=ディボル……、殿下?」
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