異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第2話 異世界帰りの

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【帰還――そして新たな俺】

 

「ふぅ……ただいま、現実世界。」



 謎の光に包まれ、現実世界に戻って来た俺、飯田雷丸。

 スマホを手に取ると画面に表示される日付。なんと異世界召喚の日から、1日も経っていない。

 

「……おぉ、マジかよ!異世界の“時空都合いいシステム”最高かよ!!」



 どんだけ壮絶な冒険をしても、こっちの世界ではノーダメージってわけだ。

 でも――異世界から帰ってきた俺は確実に変わっていた。
 

 まずは……髪型だ!

 
 異世界に行く前の俺の髪型?そりゃあもうヒドイもんだったよ。ボサボサで、前髪なんてマッシュルーム状。まるで森の中に生えてるキノコ。

 だけど見てくれ!今の俺を!!


 
 オールバック。

 

 そう、異世界で戦い抜いた俺は、髪型までも進化したんだ。
 鏡を見るたびに、勇者として戦った俺の姿が重なる。


 
「そうだ……俺は戻ってきたんだ。あの輝いてた頃の俺に……!」



 そして何より変わったのは足だ。

 俺の走ることさえ諦めていた、治る見込みがないと言われた足。
 異世界の魔法使い"マーリン"が治してくれたおかげで、今はバッチリだ!

 右足を上げて下ろす、左足を上げて下ろす。スムーズだ!なんなら軽やかだ!
 これで、俺はもう一度サッカーを――

 
 いや違う。違うんだ、雷丸。サッカーじゃない。



 現実でハーレムを作る番だ!!!



 異世界では成し遂げた。
 可愛いエルフやら、猫耳少女やら、王女様やらを引き連れ、魔王を討伐した。

 
 次はこの現実で、俺の「夢」を叶える番だ。

 
 鏡に映るオールバックの俺。
 そこにはもう、かつてのキノコ頭でウジウジしてた飯田雷丸はいない。


 
「よし……まずは妹からだな!」



 ……ん?ちょっと待て、なんか危ない方向に行きかけたな。
 いやいや、普通に友達を作るところから始めよう!


 
 こうして、俺の新たな“現実冒険編”がスタートするのであった――。


 

 ――――――――――――――
 


 
〈ピピピピ……〉


 
 いつもならベッドの上でダラダラ手を伸ばし、ギリギリまで二度寝を楽しむ俺だが――今日は違う。

 
 俺は目覚ましが鳴る前に起きた。

 
 いや、正確には目覚ましが鳴る数分前にピッタリ目が覚めた。
「これが……異世界帰りの勇者タイム管理能力か……」と、俺は軽く感動する。


 気分よく顔を洗い、歯を磨き、髪をセット。

 
 そして――満を持して学生服に袖を通す。
 スッと腕を通した瞬間、制服から放たれるシワひとつないオーラ。
 

「キマッてる……!」と、俺は思わず声に出してしまった。

 
 これ以上ないくらいに気合が入っている。
 だって今日はなんといっても、久しぶりの学校だ。


 鏡の前に立つ俺。

 
 そこに映るのは――完璧なオールバックに整えられた髪。
 キノコ頭の俺とはもうおさらばだ。
 異世界で散々戦ったおかげで、この髪型はもう崩れない。風圧?関係ねぇ。嵐?むしろ歓迎だ。

 
 シワひとつないピカピカの学生服。
 俺の輝く未来を象徴するかのようだ。
 

 さらに、足元の靴。これも新品のように磨き上げた。
 廊下を歩くたびに「キュッ、キュッ」と音が鳴りそうな仕上がり。


 鏡の中の俺と目が合う。

 

「……フッ、さすが俺。」



 口元に薄く笑みを浮かべる。

 ここにいるのは、異世界を救った男。
 そして、現実世界に戻ってきた最強の高校生、飯田雷丸だ。

 準備万端。あとは学校に行くだけ――いや、学校という名の新たな舞台で、俺の伝説を作るだけだ!


 玄関に向かおうと廊下を歩いていると――バッタリと妹と鉢合わせた。


 
「……おう、貴音、おは――」



 言いかけた俺の声が、途中で止まった。

 なぜなら、妹の顔が驚きで完全にフリーズしていたからだ。


 
「……え……え…………?」



 口元が半開きのまま、声にならない声を漏らす妹。

 俺は心の中でガッツポーズを決めた。
 よし、俺の変化に気づいたな!? これが異世界帰りの新生・雷丸だ!!

 一瞬の沈黙が廊下を支配する。

 そして――

 

「え…………おにい……ちゃん……?」



 貴音の声が震えていた。

 その一言に俺の胸が熱くなる。
 そうだ、俺は変わったんだ。やっと、妹も俺を見直してくれる日が来たんだ!

 俺は堂々と胸を張り、爽やかに返した。


 
「おう!お兄ちゃんだぜ!」
 


 ……だが、その瞬間、妹の表情がさらに困惑に染まった。

 

「え……えぇぇっ!? え、本当に……お兄ちゃん……なの?」

「おう、本物の兄貴だ! 見違えただろ?」



 ニカッと笑ってみせる俺。だが貴音は後ずさりし、眉をひそめた。


 
「……本当に? どっかの詐欺師とかじゃなくて?」

「失礼だな!どこからどう見ても俺だろ!」

「だって……その髪型! そのピカピカの靴! その表情! ……明らかに別人だもん!」

「おい! 兄貴が変わったことをそんなに疑うなよ!」


 
 妹は俺を上から下までジロジロ見つめる。


 
「……異世界でも行ってきたの?」

「……正解だ!」

「えぇぇ!?冗談で言ったのに、何その堂々とした返事!!」



 廊下に妹の絶叫が響き渡る。

 俺は心の中で再びガッツポーズ。
 よし、貴音の驚き顔は100点満点だ!



 これで俺の新しい物語は、現実世界でも始まるんだ――!

 

 ――――――――――
 



 玄関の扉をバンと開けた俺は、清々しい朝の光を浴びながら深呼吸をする。


 
「フッフッフッ……今日の俺は一味違うぜ……!」



 異世界帰りの最強高校生、飯田雷丸。
 髪は完璧なオールバック、靴はピカピカ、そして制服はアイロンがけされたビシッとした仕上がり。まるで生まれ変わったような姿で、登校路に一歩を踏み出した。

 
 そして学校の門が見えてきた。
 おぉ、久しぶりの学校だな……。いや、異世界で魔王をぶっ倒してきた俺にとって、学校なんてもう遊びみたいなもんだ。
 軽い足取りで校門をくぐると――

 

「は!? ひょっとして飯田殿でござるか!?」



 クラスメイトの石井――通称オタク君が、目を丸くして俺を見ている。


 
「どうしたんでござるか!?オールバック!? 何か悪いものでも食べたんでござるか!?」

「おい、失礼だな!これは俺の決意の表れだ!」

「何かあったんでござるか!? あ、まさか……異世界にでも行ってきたとか?」

 

 ――石井、お前鋭いな。だが真実を語るにはまだ早い。


 
「フッ……まぁな、色々あったんだよ。」



 俺はそれだけ言って、軽く手を上げながら教室へ向かう。
 後ろで石井が「え、何その中二病発言!?」と叫んでいたが、気にしない。

 教室に入ると、さらに空気が変わった。
 俺を見た瞬間、クラスメイトたちのざわめきが広がる。


 
「おい、あれ飯田だろ?」
「ウソだろ!? 別人じゃね?」
「髪型がオールバックって……何を目指してんだよ!?」



 俺は皆の注目を背に受けながら、自分の席に堂々と腰を下ろした。
 フッフッフ……異世界帰りの俺に、皆がビビるのも無理はない。


 
「飯田、一体どうしたのその髪型!」


 隣の席の女子――たしか小林だっけ?が、あきれたように俺を見ている。


 
「なぁ、小林。俺が変わったこと、そんなに驚くか?」

「いや驚くよ!前のボサボサ頭からいきなりオールバックって、何があったのよ!?」

「……男はな、変わるべき時があるんだよ。」

「いや、だから具体的に何があったのか聞いてんだけど!?」



 教室中が俺をネタに盛り上がっている中、俺は心の中で思う。


 フッフッフ……これが異世界帰りの男の影響力ってやつだ。


 現実世界での俺の伝説、ここからが本番だ――!

 そしてその数分後、担任に「飯田、その髪型は校則違反だ」とガチ説教を受けたのは、また別の話だ。

 
――――――――――――
 
 


 1時間目:体育――そして、種目はサッカー。


 
 俺はグラウンドに立ちながら、軽く伸びをしていた。
 久しぶりのサッカー。いや、正確には足のケガ以来だから、3年ぶりくらいになる。


 だけど、今の俺ならできる――異世界で鍛えたこの身体なら、もう怖いものなんてない!

 すると、少し離れたところから鋭い視線を感じた。
 ……来たな、小野寺。


 
「飯田………お前……何があった?」



 小野寺が俺をじっと見つめてくる。
 その目には、困惑と若干の疑念が混じっている。まぁそりゃそうだろうな。

 
 3年前、ケガを理由にサッカーをやめて、そのままフェードアウトした俺が、今こうして堂々とオールバックでサッカーの授業に参加してるんだから。

 
 俺は余裕の笑みを浮かべながら、ゆっくりと小野寺の方に近づく。
 周囲の空気がピリつくのを感じながら、俺は胸を張ってこう言った。

 

「俺か? ただ、世界を救ってきただけさ。」

 

 ――シーン。



 え、なんで無反応?ウケ狙ったのに。
 いや、違う、ここはもう少しリアリティを足したほうがいいかもな。


 
「ま、簡単に言うと、ちょっと異世界に行ってた。」


 
 ――さらにシーン。

 
 小野寺はピクリとも動かないまま、俺を見つめている。
 その表情から読み取れるのは……なんだこれ、失望?怒り?いや、呆れだ。


 
「異世界?お前、頭でもケガしたのか?」



 ――いやいやいや、ケガはしてないし、本当に行ったんだって!
 俺が「信じてくれよ!」と心の中で叫ぶ間に、小野寺は深いため息をつきながら呟いた。


 
「……まぁいい。サッカーがちゃんとできるならそれでいい。できるんだろ?」



 その目が鋭く俺を見据える。
 おぉ、来たな、この挑発的な視線――異世界でも似たような目で敵を睨み返したっけな。
 俺は再び笑みを浮かべて、キラリと目を光らせながらこう言った。

 

「おう、見せてやるよ。異世界帰りの本気ってやつをな。」



 小野寺の眉がピクリと動いた。
 そして、どこからか聞こえるクラスメイトの囁き声――。


 
「飯田、大丈夫か?」「あいつやっぱり変だぞ……」「てかオールバックでサッカーって何だよ!」



 おい、聞こえてんだぞ!余計な心配するな!


 そして始まった授業。
 ボールを蹴る感覚――久しぶりなのに、なぜか身体が覚えてる。いや、むしろ前よりキレてる?
 俺の足はすでに異世界仕込みの力で完全復活している。
 小野寺がボールを受け取り、俺にパスを送ってきた。

 
 
「飯田、行け!」



 小野寺の声が響いた瞬間、俺はスッと前に踏み出した。
 

 
 ――ドンッ!!


 
 地面を蹴る足音が響き、俺の身体は驚くほどスムーズにボールを扱いながら前進する。

 クラスメイトたちが近づいてくるのが視界の隅に見えるが、動きが遅い。
 まるで彼らがスローモーションに見えるほど、俺のスピードが異常だということに気づく。


 
「うおっ!飯田、速いぞ!」



 一人目のディフェンダーが前に立ちはだかる。
 だが、そいつの足が動く前に俺は軽くフェイントをかけ、ボールをサイドに流す。
 そのままシュッとかわし、次の瞬間にはディフェンダーを背後に置き去りにしていた。

 

「何だあれ!?飯田ってこんな奴だったか!?」



 驚愕の声がグラウンドに響く。

 次に現れたのは二人目――だが、そいつも俺の動きに対応しきれない。
 軽く体を右にひねり、足元をすり抜けるようにパスフェイント。
 相手が一瞬でも動きを見誤った隙に、ボールは再び俺の足元に収まり、進路はゴール一直線だ。



 ――ドリブル完了、次はパスだ。



 ゴール前にいる小野寺をチラリと確認。
 ボールを蹴り出す瞬間、指先まで集中が高まる。
 ピシッと正確なパスが小野寺の足元へ届いた。

 
「飯田、ナイスだ!」と叫ぶ小野寺の声を背中に受けながら、俺は再びゴール前に向かう。
 小野寺がワンタッチで俺にリターンしてきたボールを、俺は迷うことなくシュートポジションにセット。



〈――カンッ!!〉



 足とボールがぶつかり合う音が響き、視界がブレるほどの勢いでボールがゴールネットに突き刺さる。

 その瞬間、クラス全体が静まり返った。
 まるで、グラウンドの時間が一瞬止まったようだった。


 
「…………すげぇ。」



 誰かが呟いたのをきっかけに、周りからざわざわとした声が広がる。


 
「飯田……何者だよ……」
「まさか、本当に異世界行ってきたんじゃ……」


 
 俺はシュートを決めた直後、ゆっくりと息を整えながら振り返る。
 驚きと興奮が入り混じった顔で俺を見つめるクラスメイトたち――
 その中で、小野寺が口をポカンと開けているのを見て、俺は軽く笑ってみせた。

 
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