40 / 123
第40話 俺のヒーロー 2
しおりを挟む学校の昼休み。俺たちはサッカーのグラウンドにいた。
「小野寺、今日は昼休みだぞ。普通はご飯食べたり、教室でのんびりする時間だってのに、なんでサッカーしてんだよ?」
雷丸が、苦笑いしながらボールを蹴って俺に渡してきた。俺はそれを受け取りながら、ニヤリと笑った。
「だってさ、俺にとってはお前とサッカーすることがご褒美なんだよ。」
「なんだそれ、ちょっと気持ち悪いぞ、お前。」
雷丸がツッコミを入れてくるが、俺は気にしない。
俺たちはボールを軽く蹴り合いながら、グラウンドを走っていた。昼休みの間、全力でサッカーなんてバカみたいなことをやるやつは、他に誰もいない。むしろ、俺たちが目立っていることにすら気づいていない。
でも、そんなことどうでもいいんだ。今、俺が目の前にいるのは、あの飯田雷丸だ。
「よし、次はシュートだ!お前、ゴール守れよ!」
俺がそう叫ぶと、雷丸はすぐにゴール前に立った。いつものふざけた顔じゃなくて、真剣な目で俺を見ている。
「来いよ、小野寺。お前がどれだけ成長したか、見せてもらうぜ!」
「上等だ、飯田!」
俺はボールをゴールに向かって強く蹴り込んだ――
――が、次の瞬間、雷丸がジャンプして、見事にボールをキャッチした。
「おいおい、小野寺!それが本気かよ!?まだまだだな!」
雷丸がニヤリと笑いながら、俺にボールを返してきた。
「くっそ……さすがだな、ヒーロー!」
悔しいけど、なんだか笑ってしまう。
「ああ、今度は俺がシュートだ。お前が止められるか、見ものだぜ!」
雷丸はボールを地面に置き、俺を挑発するように構えた。
「かかってこい、飯田!俺だって成長してんだ!」
次の瞬間、雷丸はボールを蹴り出した。
ボールはあっという間に俺の前をすり抜け、ゴールへ――
「うわっ、速っ!」
反応する間もなく、ボールはゴールネットに突き刺さった。
雷丸は余裕の笑みを浮かべ、腕を組んで俺を見下ろしてきた。
「どうだ、小野寺。まだまだ俺には勝てねぇだろ?」
「……ちっ、やっぱお前はすげぇな。」
俺は悔しさを隠しきれずにそう呟いたけど、その瞬間、二人で爆笑してしまった。
俺たちは昼休みが終わるまで、ただひたすらボールを蹴り合った。練習っていうか、もう遊びみたいなもんだったけど、それでも――
「やっぱ、お前とサッカーするのは最高だな、飯田。」
「当たり前だろ。お前がもうちょっと上手くなれば、もっと面白くなるぜ?」
「おい、聞こえてるぞ!」
俺たちは、笑いながら昼休みを駆け抜けていった。
昼休み、練習を終えてグラウンドの端っこで休憩していた俺たちは、ふとサッカーの話を始めた。
「なあ、飯田、お前ってなんでサッカーやってたんだ?」
俺が何気なく聞くと、雷丸はボールを手で転がしながら答える。
「ん?そりゃあ、モテるからだろ?」
……は?こいつ何言ってんだ?
「おいおい、それが理由かよ!?」
俺は思わず笑ってしまったが、雷丸は真顔で頷いている。
「当たり前だろ。だってサッカーやってると女の子にキャーキャー言われるんだぞ?あんな快感、他にねぇよ。」
「いや、それ理由が軽すぎだろ!普通、サッカーが好きとか、上手くなりたいとかじゃねぇの?」
俺はツッコミを入れながら、雷丸の意外すぎる理由に呆れていた。
「だってお前、試合でゴール決めたら、女の子たちがこっち見てくれるんだぞ?それに、お前だって、サッカー始めたきっかけなんて、どうせ女の子絡みなんだろ?」
そう言って、雷丸がニヤニヤしながら俺に視線を向けてくる。
「いや、俺は……そんなわけねぇだろ!」
「おっ、照れてんのか?中学の頃、俺もお前が試合で『手塚ちゃん見ててくれー!』とか叫んでんの、知ってたぞ?」
「いやいや、あれはただの気合入れだから!」
俺は慌てて否定したが、雷丸の笑いは止まらない。
「ま、冗談はさておき、サッカーはやっぱ楽しいからやってんだよ。あのボールを蹴る感触、ゴール決めたときの達成感――あれがクセになるんだよな。」
真剣な表情で言う雷丸に、俺も頷いた。
「確かにな。俺もあの瞬間がたまらなく好きだよ。ゴール決めたとき、世界が俺のもんになったみたいに感じるんだ。」
「そうそう!その瞬間だけは、全てが俺のものだって思えるんだよな!あれがやめられねぇんだよ。」
飯田も同じ気持ちだったらしい。
「……でも、お前、本当にサッカーやめたのは、足を怪我したからなのか?」
俺が少し真剣なトーンで聞くと、雷丸は一瞬黙り込んだ。
俺が知っている飯田雷丸はたとえ走れなくなってもサッカーを続ける奴だった。
そして、ポツリと呟いた。
「……まぁな。足の筋が理由なのは間違いねぇよ。でも、それだけじゃねぇんだよ。」
「それだけじゃない?」
「俺、自分のためにサッカーやってるって思ってたけど、なんか途中から、周りの期待とかプレッシャーとかが重くてさ……それがイヤになって逃げたんだと思う。」
雷丸が少し遠い目をしてそう言った。
「……でも今は、逃げてないよな?」
俺がそう言うと、雷丸は笑って頷いた。
「そうだな。今はもう逃げる気はねぇよ。だって、俺にはハーレムを作る夢があるからな!」
「そこかよ!!」
俺は思わず爆笑してしまったが、雷丸は真剣な顔で続ける。
「お前だって、サッカーで天下取る夢、あんだろ?俺はハーレムとサッカー両方だけどな。お互い頑張ろうぜ!」
「……お前、本当にブレねぇな。」
俺はまた笑いながらも、心の中で決意を新たにした。
0
あなたにおすすめの小説
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜
来栖れいな
恋愛
「覚醒しなければ、生きられない———
しかし、覚醒すれば滅びの呪いが発動する」
100年前、ヴァンパイアの王家は滅び、純血種は絶えたはずだった。
しかし、その血を引く最後の姫ルナフィエラは古城の影で静かに息を潜めていた。
戦う術を持たぬ彼女は紅き月の夜に覚醒しなければ命を落とすという宿命を背負っていた。
しかし、覚醒すれば王族を滅ぼした「呪い」が発動するかもしれない———。
そんな彼女の前に現れたのは4人の騎士たち。
「100年間、貴女を探し続けていた———
もう二度と離れない」
ヴィクトル・エーベルヴァイン(ヴァンパイア)
——忠誠と本能の狭間で揺れる、王家の騎士。
「君が目覚めたとき、世界はどう変わるのか......僕はそれを見届けたい」
ユリウス・フォン・エルム(エルフ)
——知的な観察者として接近し、次第に執着を深めていく魔法騎士。
「お前は弱い。だから、俺が守る」
シグ・ヴァルガス(魔族)
——かつてルナフィエラに助けられた恩を返すため、寡黙に寄り添う戦士。
「君が苦しむくらいなら、僕が全部引き受ける」
フィン・ローゼン(人間)
——人間社会を捨てて、彼女のそばにいることを選んだ治癒魔法使い。
それぞれの想いを抱えてルナフィエラの騎士となる彼ら。
忠誠か、執着か。
守護か、支配か。
愛か、呪いか——。
運命の紅き月の夜、ルナフィエラは「覚醒」か「死」かの選択を迫られる。
その先に待つのは、破滅か、それとも奇跡か———。
——紅き誓いが交わされるとき、彼らの運命は交差する。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる