84 / 121
第84話 呪術師界隈1
しおりを挟むその日の伊集院家の晩御飯も、相変わらずの豪華さで、テーブルに並ぶ料理はまるで高級料亭の懐石料理みたいだ。俺は静香さん、麗華、雪華、焔華、そして貴音と一緒に席についていた。まぁ、ハーレム王の座にふさわしい待遇ってやつだな。
食卓には鮮やかな料理が並んでいて、俺の箸は止まらず、みんなとわいわい話しながら進んでいた。と、その時、静香さんがふいに話を切り出した。
「そういえば雷丸君、貴方、首里城で黒瀬禍月と鳥丸天道に会ったんですってね?」
「……あぁ、そうだな」
俺は箸を止めて、静香の方を見た。その名前を聞くだけで、さっきまでのうまい飯がちょっとだけ重く感じた。いや、正確には胃がキリッとした気がする。
麗華が手元の湯飲みを置きながら、冷静な口調で付け加えた。
「会っただけじゃないわ。黒瀬と鳥丸――二人から陣営の誘いを受けていた。」
その言葉に、貴音が目を丸くして驚いたように言った。
「黒瀬さんと鳥丸さんって、どっちも大物の呪術師なんでしょ?そんな人たちからお誘いを受けるなんて、すごいじゃんお兄ちゃん!」
その純粋な反応に、俺は苦笑いを浮かべながら首を振る。
「いやいや、それが全然嬉しくないんだよ。」
俺は箸を置き、少し声を低めて話を続けた。
「あの二人、マジで危ない奴らなんだぜ?黒瀬なんか、“妖怪は絶対殺す”ってガンギマリだし、鳥丸は『かわいそうですねぇ』とか言いながら首里城の封印を解きやがった。」
その言葉に、焔華が興味深げに目を細めながら言った。
「ふむ、なんとも極端な連中じゃのう。黒瀬は完全に殲滅派、鳥丸は崇拝派の象徴みたいなもんじゃろうて。」
雪華は箸を握りながら、少し心配そうな表情を浮かべた。
「でも……雷丸様、そんな人たちがどうして雷丸様を誘うんでしょうか?」
その問いに、俺は肩をすくめながら答えた。
「そりゃ、俺が異世界帰りで、ちょっとばかり目立ってるからだろ。黒瀬は俺の力を使って妖怪をぶっ潰したいだけだし、鳥丸は『象徴』だとか言って俺を道具扱いするつもりじゃね?」
俺がそう話すと、静香が隣の麗華に視線を向け、穏やかに問いかけた。
「麗華、貴方はどう感じたの?」
麗華は少し考え込んでから、冷静な声で答えた。
「鳥丸天道は雷丸君に対して、どこか同族意識を持っているように見えたわ。けれど黒瀬禍月の方は……警戒心を抱いているって感じだった。」
「黒瀬の警戒心?俺、あの時黒瀬に手も足も出なかったんだぜ?」
俺は苦笑しながら言葉を続けた。
「根源解放Level1じゃ黒瀬の動きが目で追えなかったし、Level2だって正直、勝てるイメージが浮かばないんだよ。」
その言葉に雪華が小さく首を傾げ、不安そうに口を開いた。
「異世界で魔王を倒した雷丸様ですら……そう感じるのですか?」
貴音も目を丸くしながら尋ねる。
「じゃあ、魔王よりも黒瀬さんや鳥丸さんの方が強いってこと?」
その問いに、俺は言葉を探す。だが、頭の中には次々と異世界での戦いの記憶が浮かんできて、自然と口が動いた。
――――いや、違う。
「…………いいや。魔王アヴァルガス……あいつはもっともっとやばかった。」
俺の声には思わず力がこもった。まるで、当時の恐怖が身体の奥底から甦るように感じられる。
魔王アヴァルガス。
全能の怪物。防御不能の戦闘を行い、その理不尽さは、戦術や戦略をすべて無意味にする正真正銘の最強。
俺は拳を握り締めながら続けた。
「あいつの力は……常識じゃ測れなかった。『圧倒的』とか『理不尽』って言葉じゃ足りないほどだったんだ。」
貴音は困惑しながらもさらに問いかけてくる。
「でもお兄ちゃんは魔王を倒したんだよね?じゃあなんで黒瀬さんや鳥丸さんには手も足も出ないの?」
その言葉に俺は反射的に返そうとしたが、ふと口が止まった。
――――そういえば、どうやって魔王を倒したんだ?
その瞬間、胸の奥が妙な違和感でざわつき始めた。俺は間違いなく魔王を倒した。だが、その「どうやって倒したか」という部分が、霧がかかったように曖昧だった。
俺は額に手を当て、記憶を探るように目を閉じた。
魔王との最後の戦い――。確かに俺は奴を倒した。それは事実だ。
だが、どうやって?どんな手段で?どんな戦いをして……?
気付けば、周りの視線が俺に集中しているのを感じた。雪華や貴音は心配そうに俺を見つめ、麗華はその鋭い目で静かに俺を観察している。焔華は腕を組んでじっと黙って待っている。そして静香は、俺の動揺を悟ったような穏やかな瞳でこちらを見つめていた。
俺は重い沈黙を破るように、自分でも信じられない言葉を口にした。
「……正直、どうやって倒したのか、思い出せない。」
その場が一気に凍り付いたような気がした。
貴音が小さな声で囁くように聞いてきた。
「思い出せない……って?本当に?」
俺は頷く。
「いや、本当に覚えてないんだ。戦ったのは確かだ。でも、最後にどうやって奴を倒したのか……まるで記憶が欠けてるみたいなんだよ。」
その言葉に、麗華が静かに口を開いた。
「雷丸君、それって……何かしらの影響を受けている可能性も考えられるわね。例えば、魔王そのものの力とか、あるいは異世界の仕組みとか。」
静香が優しく頷き、俺の肩に手を置いた。
「記憶に欠落があるのは心配だけど、雷丸君が魔王を倒したのは紛れもない事実よ。今はその事実を信じて、目の前の問題に集中しましょう。」
その言葉に、俺はかすかに救われるような気がした。
「そうだな……ありがとう、静香さん。」
俺は静香さんの優しい微笑みに少し安心しながら頷いた。
――魔王を倒した「どうやって」の部分は思い出せない。でも、きっといつかその答えに辿り着かなきゃならない。そんな気がする。
ふと、麗華がスッと背筋を伸ばし、真剣な表情で口を開いた。
「雷丸君の戦闘能力については、一旦置いておきましょう。だけど、貴方の一番の武器は、戦闘力じゃなくて、その“影響力”よ。」
「影響力?」
麗華の言葉に俺が聞き返すと、彼女はしっかりと頷いて続けた。
「このままいけば、貴方の影響力は世論を動かすほどのポテンシャルを持っているの、貴方自身、自覚している?」
「世論を動かすほど……そんなにか?」
俺が驚いていると、麗華は淡々とした口調で具体例を挙げた。
「プロサッカー入団式でのあのスピーチ、テロリストを撃退した動画、そしてプロリーグでの華々しい活躍――それだけで、貴方は既に多くの人の目に留まっている。」
その言葉に貴音も元気よく頷いて賛同する。
「うん!お兄ちゃん、すごいよ!私の学校でもお兄ちゃんのこと知らない人、ほんとにいないもん。」
貴音の笑顔に、俺は思わず照れながらも苦笑いを浮かべる。
麗華はさらに静かな声で言った。
「飯田君の存在そのものが、彼らにとって脅威なのよ。たとえ戦闘力で勝てなくても、貴方の“影響力”次第では世論や勢力図を変えることだって可能よ。それを黒瀬や鳥丸が見逃すわけがないわ。」
その言葉に、俺は少し背筋が寒くなる思いがした。俺の行動一つで、そんなに大きな影響があるなんて……。
静香さんがそっと微笑みながら俺の肩に手を置いた。
「雷丸君、だからこそ貴方には慎重に選択をしてほしいの。私たちは貴方を信じているし、どんな道を選んでも尊重するわ。」
「静香さん……。」
俺は彼女の言葉に胸を打たれながらも、自分の選択がこれからどれほど重要なのか、改めて実感した。
静香さんが優しく微笑みながら口を開いた。
「飯田君、貴方には呪術師の界隈について少し教えておきましょうか。これから貴方も、その世界に巻き込まれることになるでしょうから。」
その言葉に、俺は一瞬気が引き締まる。そして、堂々と答えた。
「そうだな……よろしく頼むぜ!静香さん!」
背筋をピンと伸ばしながら、俺は静香さんの言葉に集中する。
静香さんは静かに頷きながら、語り始めた。
「まず、呪術師の界隈には大きく分けて三つの派閥があるの。殲滅派、崇拝派、そして中立派。これは知ってるわね?」
「知ってる知ってる!」
俺はちょっと自信を持って答えた。麗華から(盗聴器経由で)色々聞いてたしな。まぁ、さすがにそこは大人の対応として言わないけど、心の中ではドヤ顔だ。
しかし、麗華がすぐに俺に冷たい視線を送ってきた。
「ええ、きっと盗聴器で得た情報ね。随分と熱心に勉強していたみたいだけど?」
と、麗華はチクリと嫌味を言ってくる。
「お、おい、そんなこと言うなよ!ちゃんと教えてくれて助かったって意味でさ……!感謝してんだぜ、ほんと!」
俺が慌ててフォローしようとすると、静香さんは微笑みながら言葉を続けた。
「まぁ、雷丸君が情報収集をしているのは結構なことよ。実際、貴方がこれから立ち向かう相手は、想像以上に厄介だから。」
0
あなたにおすすめの小説
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
クラスの陰キャボッチは現代最強の陰陽師!?~長らく継承者のいなかった神器を継承出来た僕はお姉ちゃんを治すために陰陽師界の頂点を目指していたら
リヒト
ファンタジー
現代日本。人々が平和な日常を享受するその世界の裏側では、常に陰陽師と人類の敵である妖魔による激しい戦いが繰り広げられていた。
そんな世界において、クラスで友達のいない冴えない陰キャの少年である有馬優斗は、その陰陽師としての絶大な才能を持っていた。陰陽師としてのセンスはもちろん。特別な神具を振るう適性まであり、彼は現代最強の陰陽師に成れるだけの才能を有していた。
その少年が願うのはただ一つ。病気で寝たきりのお姉ちゃんを回復させること。
お姉ちゃんを病気から救うのに必要なのは陰陽師の中でも本当にトップにならなくては扱えない特別な道具を使うこと。
ならば、有馬優斗は望む。己が最強になることを。
お姉ちゃんの為に最強を目指す有馬優斗の周りには気づけば、何故か各名門の陰陽師家のご令嬢の姿があって……っ!?
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる