最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

中等部の騒ぎ

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 ☆★☆★
 「・・・・・・というわけで、今日からこのクラスの一員になるーー」
 「チユキっていうの。カイト君以外は親しくしないでね♪」

 カイトのクラス、教壇の前で男性教師に促され、満面の笑顔を作ってそう言い放ったチユキ。
 その二言に、教室中から割れるような声が周囲に響く。

 「うおぉぉぉっ、可愛い!」
 「あの子って前にカイト君にキスした子よね?」
 「くっそぉ、カイトの野郎!夏休みの間にどうやってあんな子を捕まえたんだよ!?」
 「羨ましいぞ、このクソッタレ!」

 カイトやチユキに対する好奇心や嫉妬、罵倒が混じった様々な声が飛び交う。
 すると最後に発言した男子生徒の顔の横がボッと音が鳴り、離れていたはずのチユキが腕を置いていた。

 「誰が『クソッタレ』なのかしら?あまりカイト君をバカにすると・・・・・・」

 その手にはペンが握られており、ペンの先がツーッと男子生徒の顔を沿う。
 チユキは不穏な笑みを浮かべ、その彼女を見た男子生徒は恐怖でガタガタと震え、さっきまで騒いでいた生徒たちも静かになってしまっていた。

 「ご、ごめんなさい・・・・・・!」
 「わかってくれればいいわ♪」

 そう言ってクフフとチユキが笑うと、男子生徒の表情が恐怖から赤らんだ惚けたものに変わった。
 チユキはその場から移動し、カイトの元へと行く。

 「ハァイ!さっきぶり♪」
 「はぁ・・・・・・さっそくやらかしてますね」

 チユキの軽い挨拶に呆れ笑いで溜め息を吐くカイト。
 するとチユキさんが教師の方を振り返る。

 「先生、私ここでいいでしょう?」

 そう言って空いているカイトの隣を指差す。
 教師は呆れた様子で頷く。この教師は学園長からある程度の事情は聞いているらしく、多少は驚きつつも冷静を保っていた。

 「えぇ、いいですよ。あなたの要望はある程度認知するよう仰せつかっているので。ですが、あまり無理のない範囲でお願いしますよ?でなければ三年のアヤト君に報告しますから」
 「クフフ、はーい♪」

 チユキは面白そうにクスクスと笑い、再びカイトの方を見る。

 「これからこの学園を卒業するまでよろしくね、カイト君?」
 「は・・・・・・はは・・・・・・」

 チユキに可愛らしい笑みを向けられ、クラスの男子から疎みの視線が自分に突き刺さり、カイトは苦笑いするしかなかった。
 するとどこからか、女性の黄色い声が聞こえてきた。

 「あら、何かしら?」
 「なんか隣の教室から・・・・・・って、そうか。ノクトか」

 カイトは隣のクラスがある壁の方を向いて、そう呟いた。

 ーーーー

 カイトの隣のクラスでは、ノクトの自己紹介をしていた・・・・・・のだが、その時点で彼はクラスの女子生徒に囲まれていた。

 「の、ノクト・ティルトです。皆さん、よろしくお願いします!」

 ノクトがニッコリと微笑んで名乗ると、周りからの歓声が一層盛り上がる。

 「な、何あの可愛い生物!?」
 「男子?男の子なの!?な、なんだか女として負けた気がするわ・・・・・・」
 「ねぇねぇ、撫でていい?撫でていいよね?撫でます」

 主に自分の性別が女にしか見られてない事に対して、ノクトが頬をプクリと膨らませる。

 「僕はちゃんとした男です!」
 「「「きゃあぁぁぁぁっ!!」」」

 ノクトの必死に叫んだ抗議も虚しく、それさえもクラス中の生徒と教師を男女問わず虜にしてしまっていた。
 その事に彼は肩を落としてしまう。

 「兄さん、このクラスでやって行けるか早速不安だよ、僕・・・・・・」

 その後、クラスの者たちから小一時間撫でられ続けたという。

 ーーーー

 さらに隣のクラス、三組ではエリが怠そうに自己紹介をしていた。

 「エリ。よろしく」

 エリの威圧感のようなものを感じる佇まいと簡潔な名乗り方に、クラス中が沈黙してしまっていた。
 その様子に彼女は眉をひそめる。

 「・・・・・・空気なんだし?」
 「えっと、エリさん?もう少し何かないかしら・・・・・・?ほら、趣味、とか・・・・・・」

 女性教師があたふたとしながら促す。
 エリは「えー?」と面倒臭そうに呟きながら頭を掻く。

 「とりあえず得意なのは・・・・・・殴ったり蹴ったりする事?喧嘩なら男にも負けないから」

 エリはそう言って握り拳を作ってガッツポーズを取り、その勇ましい姿に数名が「ヒッ!?」と小さな悲鳴を上げる。

 「全く・・・・・・何、そんな怖がってるし?あーしに失礼じゃね?」

 口を尖らせて不機嫌になるエリ。
 それを見た生徒たちが騒めき、一人の女子生徒がエリに問いかけた。

 「あなたは・・・・・・真面目に授業を聞く気はありますか?」
 「・・・・・・はぁ?それってどういうーー」

 「どういう意味?」と聞こうとしたエリの言葉を、教室の扉が勢いよく開らかれる音で遮られた。

 「・・・・・・お?なんだ、今日はまだ授業やってねーの?っていうか、誰だそいつ?」

 突然入ってきた灰色のドレッドヘアーをした男。かなり着崩してはいるが、学園の制服を着ていることから、ここの生徒だとわかる。
 そしてそのドレッドヘアーの男が入ってきた瞬間、教室中の空気が重苦しいものに変わる。
 目を背ける、半泣きになる、悔しそうに下唇を噛むなど。そららの原因が、明らかにそのドレッドヘアーの男だとわかる。
 すると男子生徒は、エリを見てニヤリといやらしく笑う。

 「見ねえ顔だけど転校生か?なら俺と一緒に来いよ。人気のない場所なら沢山知ってるから案内してやるぜ?」
 「嫌だし。なんであんたみたいな変な髪型の奴なんかに付いて行かなきゃいけないん?つーか、息クサい、近寄んな」

 エリは怯んだ様子もなく、淡々と言葉を並べる。
 罵倒混じりのその言葉に、男の眉がピクリと動き、表情からは笑みが消える。

 「おい、お前・・・・・・調子乗んなよ?」

 男は低い声でそう言って、エリの襟首を掴む。
 その眼光は普通であれば萎縮してしまうほどに鋭かった。
 しかしそれを受けても尚、エリは怯むことなく睨み返していた。

 「二度は言わない。離せ」
 「本当にいい度胸してるじゃねえか!おい、クソ教師・・・・・・こいつの面、借りるぞ」

 本来、止めなければならない立場の教師すら、見て見ぬフリをするしかないようだった。
 すると次の瞬間、男の視界がぐるりと回る。

 「・・・・・・あ?」

 何が起きたか理解できないドレッドヘアーの男。そして視界の暗転。
 他の者から見た男の状態は、シャチホコのように逆さになって頭から地面に叩き付けられていた。
 エリを掴んでいた腕には、彼女がまるで蛇のように絡み付いていた。左足を後頭部に、右足を腹部に付けて腕を捻じる回転させたようだ。
 エリは一息吐くと、拘束を解いて立ち上がる。

 「ったく、どいつもこいつも・・・・・・あーしになんか恨みでもーー」
 「「おおぉぉぉぉっ!!」」

 エリの言葉を遮る突然の歓声に、思わず彼女の肩が跳ね上がる。

 「ありがとう、エリさん!この子、うちのクラスの生徒なんだけど、ずっと好き勝手しててみんなを困らせてたの・・・・・・喧嘩なら男にも負けないって本当だったのね」

 エリの両手を握って、嬉しそうにそう言う女性教師。
 他の生徒からも「ありがとう!」「スカッとしたせ!」などと称賛の声が注がれ、エリは気まずそうに頬を掻く。

 「不良っぽく見られる事はあったけど、こうやって褒められるのは慣れてないし・・・・・・」

 そうして登校初日からクラスのヒーローとなったエリだった。
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