最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

連呼

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 残すところ今年も残り僅かとなりました。
 皆様はどんな1年だったでしょうか?私?散々な1年でした。
 そんな個人的な恨み辛みを全部収納庫にポイして、自分を含めた皆様の来年が良い年になるよう祈っております。
 では、良いお年をm(_ _)m

 ――――

 体も洗い終えたので、ランカと一緒に湯船に入る。
 話してるついでなので、ノクトとシャードの間に空いている場所に座って浸かる。
 俺がシャードとの壁になった事で、ノクトがホッとした様子になったのを見て少し笑ってしまう。

 「実際に会った事はないから噂程度でしかないが、アリス・ワランは齢十一歳にしてSランク、次の年にはSSランクへと上り詰めたと聞いている」
 「ガーストの王だったあの男が聞けば、飛び付きそうな話だな」
 「飛び付いたさ」

 シャードがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 「噂でも強者がいると聞けば調べるために数人の間者を放った……しかしその間者は一人を除き、ほとんど帰ってこなかったらしい。そして帰ってきた者からは『恐ろしい魔物がいた』としか口にしなかった」
 「その『恐ろしい魔物』がアリスか」

 『多分な』とシャードが小さく頷く。

 「隠密活動が得意な筈の彼らですら気付かないほどの速さで翻弄し、葬ったのだろう。一人を敢えて残したのは、関わるなという意志を主へ遠回しに伝えるため……というのが、私の推測だ」
 「大方間違ってはないだろうな。あいつは……状況はともかく、俺と互角に打ち合えていたんだ。たとえその時はまだ子供でも、それだけの実力を兼ね備えていてもおかしくはないだろ」

 アリスと戦ったさっきの事を思い出し、肩が重くなった気がしてゴキリと音を鳴らす。
 今日のは中々戦い辛いだったな……まさか感情ではなく、体が勝手に反射的な攻撃をしようとする奴がいるとは思わなかった。
 そのせいで久しぶりにまともな攻撃を受けてしまったが……
 ……敵意のない攻撃、か……
 昔、似たような経験があった事を思い出す。

 ――――

 それは俺が高校に上がった頃の話だ。
 ある日、うちの道場で母親と組手を交わしていたのだが……

 「いってえ!?」

 母さんのゲンコツを、俺はまともに食らって地面に伏していた。
 別に怒られているわけじゃない。
 普通に殴る殴られるをしていたのだが、なぜかそのゲンコツだけが避けられずに食らってしまうのだ。

 「悪いね、綾人。また母さんの勝ちだ♪」

 そのゲンコツした拳でガッツポーズを取る母さん。一本先取した方の勝ちというなので、その通りなのだが……
 少し離れた壁際では、父さんと爺さんがハッハッハと笑っている。
 母さんの拳はかなり痛い。
 たんこぶができているのではないかという思いで、自らの頭を撫でながら起き上がる。

 「母さんのそれ、どんな技なんだ……ただのゲンコツじゃないのかよ?毎回そうだけど、なんで避けられねえんだ?」
 「それはアヤトが避けようとしてないだけだよ。これ、ただのゲンコツだし」

 そう言って母さんは握った拳をブォンブォンと凄まじい音を立てながら振るう。
 そんな恐ろしい音を出すゲンコツは『ただの』とは言わない。

 「綾人が避けられないのはね、この拳には愛情が篭ってるからだよ」
 「……愛情?」

 なぜここで愛情なのかと、眉をひそめて母さんを見る。

 「綾人は少し、相手の感情に合わせ過ぎてるんだよ。そりゃあ、不意打ちとかには反応できる分悪いとは言わないけど……私のは敵意も悪意もない、母親の愛情100%だからね!」

 ちょっと恥ずかしそうに頬を赤らめながら、グッドサインをする母さん。
 愛のムチ、とでも言いたいのだろうか?

 ――――

 今なら、あの時母さんが言いたかったことがなんとなくわかる。
 俺は悪意や敵意なとの感情を感じ取れるようになってから戦いに流用するようになっていた。
 極めれば、相手がどこを攻撃しようとしているのかが、その挙動も合わせて明確にわかるようになる。
 しかし、逆に頼り過ぎている節があるということだ。
 便利なものに頼り過ぎるというのが現代人の癖だが、それは俺も例外ではなかったらしい。

 「彼女はこの世界において、最強に近い位置するよ。つまり、アヤト君の異世界版だね!」

 シトが面白がるように言う。恐らく、またどこかで俺たちが戦っていた一部始終を見ていたのだろう。

 「あいつが世界最強ねぇ?ってことはノワールやチユキ、神話級の奴らにも勝てるような奴なのか?」
 「もしかしたら勝っちゃうかもしれないねぇ~……特に、君と戦った後の今ならね」

 そう言って笑うシト。すると湯船から上がり、脱衣場に向かおうとしていた。

 「もう上がるのか?」
 「うん、ちょっとやることができてね。一旦帰ることになったんだ」
 「おう、じゃあな」
 「さっぱりしてるぅ~」

 お互いに軽口を叩いていると、シトが扉の前で止まって振り返る。その顔は笑っているように見えて、悲しんでいるようにも見えた。

 「アヤト君、やっぱり君は『悪魔の呪い』なんてものがなくても、災難に巻き込まれる運命だったのかもしれないね」

 シトはそう言い残すと再び歩き出し、脱衣場へと消えていく。
 ……え、何?なんで今、そんな皮肉を言ったの?
 それともアリスのこととは別に、また何か起こるのか……?
 シトのシリアスな雰囲気に不安になりながらも、なるようになるかと今は楽観視することにした。

 「もし、アリス君から再戦を挑まれたらどうする?」

 するとシャードが何を思ったのか、そんな事を言い出す。
 再戦を挑まれたら、か……可能性がないわけじゃないもんな。

 「一応約束はしてあるが……もちろん受ける。だが、その時は今回のように苦戦はしないだろうな」
 「なぜ?」

 シャードの聞き返しに、俺は軽く笑って答える。

 「ちゃんと『戦う気』のある奴なら、遅れは取らないからさ」
 「ふむ……私にはそういうのはあまりよくわからないが、負けない根拠があるのならそれでいいさ」

 安心したようにシャードはそう言うと、 立ち上がって風呂から出ようとする。
 その際にシャードの裸が見えてしまいそうになっていたノクトは、急いで目を逸らそうとしていた。

 「ああ、そうだ、学園長からの伝言。教師の面接は来年からになるから、今年は諦めてくれだとさ」

 湯船から上がるシャードにそう伝えると、立ち止まって顔だけ振り向かせる。

 「ふむ、そうか……ではそれまでは君のお世話になろうとするかな。冒険者ではない私がラピィ君たちと一緒にいても苦になるだけだろうしな」

 どうやら、シャードはシャードなりに遠慮しているらしい。その慎ましさを少しでも普段の生活に当ててくれればいいのにな……
 自らの裸体を隠すどころか、おっさんのようにタオルを肩にかけてその場から立ち去っていくシャードの後ろ姿を見てそう思ってしまう。
 姿が見えなくなったところで、ようやく息を吐いて安堵するノクト。

 「なんだか、兄さんの周りって刺激的な人が多いよね……アニメや漫画の世界がそのまま広がってるみたい」
 「それを言ったら、魔法だの竜だのがいるこの世界自体がすでにアニメや漫画をそのまま描写したようなもんだろ。まぁ、羞恥心のない奴らが集まってるのは、俺もよくわからんがな」

 するとシャードのいなくなった場所にランカ、その隣にグレイがやってくる。
 さっき桶を当てた場所が赤くなったままだ。

 「その『羞恥心のない奴ら』にはもちろん、あなた自身も含まれるのですよね?あんな美人さんとお互い裸で一緒なのに動じてないのですから、言い逃れはできませんよ?」
 「馬鹿言え、俺だって羞恥心くらいある。お前らがさっきのテンションを外でしていれば、こんなのが身内なのかと恥ずかしさで吐きそうになる」
 「そういう恥ずかしさじゃありませんよ!あと遠回しに私たちをバカにしましたね!?」

 いつもこんな厨二病抜きの感じであればいいのに、人目をはばからずにやる時はやるんだもんな……って、そういう『やる時はやる』は要らんと思う。

 「ま、なんにせよ、こういうのには慣れておいた方がいいぞ。こっちが動揺すれば、それを面白がってからかってくる奴もいるしな」

 一応これはノクトに向けた言葉だったのだが、ノクトだけでなくランカやグレイも『あー……』と心当たりがあるような反応をする。
 全員が大体、フィーナの事を思い浮かべているのだろう。
 あいつはたまに『替えの服を部屋に忘れた』とか言って、タオルを首にかけただけのほぼ全裸で廊下を出歩く事が多々ある。
 裸族とあまり変わらないんだ、あいつは。
 そこにカイトやノクトが出会すと必ずと言っていいほど恥ずかしがるので、大抵絡まれて遊ばれてしまっているらしい。
 その度にカイトから『なんとかしてくださいよ、師匠!』なんて泣き付かれるけど、言ったところで治らない事など目に見えているので基本諦めている。

 「ま、フィーナさんですしねぇ……」

 ランカがそう口にすると、他の奴らも頷く。

 「フィーナさん、ですもんね……」
 「フィーナちゃんだしなぁ」

 ノクトに続いたグレイがフィーナを『ちゃん』付けで呼んだ事がちょっと気になったが、とりあえずスルーして俺も後に続く。

 「フィーナだし、諦めるしかないだろ」
 「あんたら、さっきからあたしの名前を連呼し過ぎよ!」

 ピシャンッと勢いよく風呂の扉が開けられ、そこにフィーナが現れた。

 「おっ、フィーナ」
 「フィ、フィーナさん……!?」
 「あ、フィーナさん」
 「いらっしゃい、フィーナちゃん!」
 「うるさいわよ、ホンットに!」

 俺、ノクト、ランカ、グレイの順で再び名前を連呼すると、再びツッコミを入れるフィーナ。
 ノクトだけは恥ずかしがって両手で顔を覆う。

 「さっき部屋に戻ったんじゃないのか?」
 「『自分の部屋で寝る』って言っただけよ!あたしだって体がベトベトなんだから、お風呂入ってから寝たいのよ……」

 溜め息を大きく吐いて、シャワーの方に向かうフィーナ。
 するとその途中で足を止め、扉の方に向き直る。

 「っていうか……入るならさっさとしなさいよ、メア!」

 大きめな声でメアの名を呼ぶフィーナ。
 ……メア?
 そういえばフィーナが扉を開けっ放しにしてるなと思い、そっちを見るとたしかに人の気配が複数あった。
 そこからメアがひょっこりと顔だけ出して、こちらの様子を窺っていた……が、また奥に引っ込んでしまう。
 なんだ、あいつらも結局起きたのか?
 向こうからは『なぁ、やっぱ恥ずかしいんだけど……』というメアの声や、『じゃ、やっぱやめる?私は入るけど』という会話が聞こえる。もう一人は、声からして多分ミーナだろう。
 そして観念したのか、メアがゆっくりと扉から姿を現す。
 恥ずかしさで顔を真っ赤にし、小さいタオルで申し訳に前を隠している。
 続いてミーナも自らの体をタオルで隠すことなく、堂々と入ってきた。
 メアは視線は俺を見たり下に向けたりと、リナに負けないくらい挙動不審に動かしている。
 ……なんとなく思っていたが、こいつって元々ミランダの影響でのうなったってルークさんが言ってたけど、それが本当ならその前は結構引っ込み思案な性格だったんじゃないか?
 なんて思っているとメアが意を決したのか、タオルで隠すのをやめてこっちに走ってきた。

 「もういい!風呂に入っちまえばこっちのもんだぁぁぁ!」

 半ばやけくそに走るメアに、合わせて並走するミーナ。
 その二人がジャンプして湯船の中に突っ込もうとする。

 「おりゃぁぁぁ――だぶっ!?」
 「むぐっ!」

 そんなメアが湯船にダイブする直前に俺は立ち上がり、二人をアイアンクローでキャッチする。
 さっきまでの気合いの入った様子から一転、手足をダラリと下に垂らして脱力状態になっていた。

 「風呂場では走らない、湯船に飛び込まない、入る前に体を洗え」
 「「……うぃ」」

 メアとミーナは渋々とフィーナのところへ行って三人一緒に頭と体を洗い、落ち着いたところで俺たちに並び湯船に浸かる。
 最初は恥ずかしがっていたメアも段々気にしなくなり、最後には俺の正面で隠すどころか恥ずかしげもなく伸び伸びとしていた。

 「いやぁ、一回入っちまえばあんま恥ずかしくなくなるな!」

 嗚呼、短い乙女の時間だったな……
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