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武人祭
二回戦、合体技
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その後の試合は泥仕合が多かった。というより、俺たちの戦いを終えたスピードの方が異常だったと証明されているかのようだった。
中等部の俺よりも雑な剣撃……子供のチャンバラにすら見えてしまう彼らの試合を、俺は欠伸をしながら見ていた。
「カイト、お腹減ってない?」
「今日は母さんが腕によりをかけて作っってくれた弁当だ!」
すると俺の両親が高いテンションで弁当を取り出して見せてきた。試合後、師匠と合流した際になぜか両親も一緒にいたのだ。
リリスたちは各自友人や親と合流するために解散し、俺とミーナさんだけが師匠たちと一緒にいる状態となっている。
「え……本当に?なんか頑張って作ったっていうか……本当に豪華になってない?」
見せてきた弁当箱がなんとなくそう感じられる装飾をしていた気がした。
「まぁ、カイトからもらった金もあったしな。恥ずかしくない程度のものは買い揃えられたんだ」
「さすがにこんなところでおにぎりだけってわけにもいかないしね……?」
「むしろそこら辺の屋台で買ってくだけでよかったんじゃねえか?」
両親との会話に入ってくる師匠。
相変わらず砕けた話し方なのだけれど、それが他人ではなく自分の両親とフレンドリーに接しているというのがなんとなく違和感というか、変に感じてしまう。なんて思うのと同時に、そこで敬語を使われてたとしても気持ち悪いかなぁ……と考えたりしてしまう。
「何を言ってるの、師匠君!たしかにお店のものは美味しいけど、大事な息子への愛情が入ってないじゃない!その点、私の作ったものは吐き出しちゃうほどあるわよ?」
「吐き出しちゃダメだろ……」
母さんのボケにわざわざツッコミを入れる師匠。
このやり取りを見てると、なんだかもうこっちが恥ずかしくなってくるんだよなぁ……というか、なんだよ「師匠君」て……
「よかったら師匠君たちも食べる?多めに作って来ちゃったから」
「なら貰おうか。純粋な人の好意には甘える質でね」
師匠はそう言って何も持ってなかった手に箸を出現させ、母さんが差し出した弁当に入ってる具材を摘まむ。師匠が行った一瞬の出来事に両親がキョトンとした表情をしていた。
空間魔術で素早く取り出したんだろうけど、初めて見ればそういう反応をするよな……
「なんというか……師匠君って面白い人ね?」
「それは俺も思う。旅芸人とかやってても平然と馴染んでそう」
「実際、退屈はそうそうしねえよな」
「同意」
「褒めてるのかバカにしてるのか……」
父さん以外との会話に不機嫌になりながら肉団子を口に入れる師匠。だって本当のことじゃない?
「それにしてもカイト、本当に強くなったんじゃないか?前に帰ってよりも格段に」
「俺もカイトも頑張ったからな。血反吐吐くっていうか、血反吐吐かせたこの二週間」
「うふふ、本当に頑張ったのね?」
母さんは簡単に言って笑うけれども、俺はここ最近の辛い修行の記憶を走馬灯のように思い出していた。急ピッチでやってくれと言い出したのはたしかに俺だけど……
もっとも、その結果がさっきの試合に余裕を持てたわけなのだけれども。
「しかし、なんだってカイトはそこまで気合入れてるんだ?優勝狙いたいならコノハ学園の中等部一年なんだから来年も再来年だってあるし、高等部の三年だってチャンスがあるだろ?」
「それは……」
父さんにそう言われて、ふとリナのことを思い浮かべてしまう。
「負けたくない人がいるんだよ。そのチャンスが今しかないってだけ」
誤魔化しながら答えると、父さんが「ほう」と感心していた。
「ライバルか……そりゃあ、気合も入るな!」
「ライバル?ふーん……」
すると母さんの目が妖しく光った気がした。あっ、嫌な予感……
「それってもしかして……恋のライバル?」
母さんのその一言により、俺の周囲だけ時が止まったかのように固まる。
師匠でさえ箸を口に咥えたまま目を背けるし、そのせいで母さんが確信を得たようにニヤニヤしてるし……ああもう、バレバレじゃないか!
「鯉?なんだカイト、魚料理でも始めたのか?」
そんな中、素っ頓狂なことを言い出す父さんの顎に、母さんが見事な掌底を打ち込んだ。
目がぐるんと上を向いて泡を吹く父さんを見て、師匠を含めた俺たちは「うわぁ……」と声を漏らして引いてしまう。この時初めて、母さんを怖いと感じたかもしれない……
その後小一時間問い詰められそうになったけれど、なんとか沈黙を貫いたまま二回戦へ挑むこととなった。
【では第一ブロックが終了したところで第二ブロックが始まります!先に紹介するのはやっぱりこいつら!開始五分足らずでセイカ女学園を圧倒的戦力さで勝利を手にしたコノハ学園ンンンッ!!】
変わらずテンションの高い実況に呼ばれ、俺たちは再びステージへと戻ってきた。
【赤と黒の入り混じった彼の実力は誰もが目にして折り紙付き!初戦でSSランクのミランダ様やガーランド様を彷彿させる天下無双を体現させた彼、カイト選手の入ー場ー!!】
「恥ずかしいからやめてっ!?」
一回戦目で悪目立ちしてしまったせいで恥ずかしい解説が入ってしまった。来年から出場するのやめようかな……選ばれるかわからないけど。
【対するはっ!一回戦で奇怪な魔術で相手の身動きを封じてしまう恐ろしい試合を見せてくれた彼ら、ヴェド学園ンンンッ!!】
司会者の紹介で入場してきたのは、五人ともフードを深く被った外套を着た奴らだった。
先頭の一人がそのフードを脱ぐと、集会の時に見た覚えのある顔が出てくる。
「やぁ、久しぶりだねカイト君?二週間前に集まった時から顔は覚えてるし、さっきの試合も見てたよ。凄かったねぇ……?」
ねっとりした言い方をして俺を見る男。なぜだか悪寒が……俺、こいつのこと苦手かも……
【顔を露わにしたのはグース選手!学園では「隠れない魔術師」と異名を持つ彼だが、先程の試合ではその名の通り障害物に隠れることなく勝利に導いた猛者だ!彼らに対してコノハ学園チームはどう戦うのか……激戦が予想されるこの二回戦は目が離せないっ!ということで……】
司会者が言葉を一旦そこで区切る。いきなり試合を始める合図をするのかと体を強張らせた。
【……開始――】
――ドゴォンッ!
と、火の玉が飛んでいき、相手チームの方で大爆発を起こした。
「「……え?」」
相手チームも俺たちも声を漏らす。飛んできた後ろの方を見ると、リリスが自分の胸を持ち上げるように腕を組んでスッキリした顔をしていた。
「……ふう、一回戦で何もできなかった鬱憤が少し晴れましたわ」
【おおっと、不意を突いたつもりだったが、またもや開始早々リリス選手からまさかの先制攻撃ィィィッ!!ずいぶん威力の大きかった爆発だが、本当に中等部なのかぁ!?】
興奮する司会者の実況に観客席から歓声が湧く。
【そして爆発を直接食らってしまったのはヴェド学園チーム二名!戦闘は続行可能のようだが、いきなり大ダメージを負ってしまった!……しかしリリス選手、杖を持っていないようだが、それで魔法を撃ったのだろうか?】
司会者の疑問に、リリスが得意げに髪を手でなびかせながらフフンと笑う。
「そんなもの要りません!それに魔力を安定させるための補助だけでなく、ちょっとした魔法なら詠唱も不要ですわ!」
そう言うリリスの周りには、複数の魔法玉が展開される。
修業では前衛組と後衛組で分かれて鍛えていたので、リリスの自信はその賜物だろう。
「ノワールさんとランカさんの魔力に関する修業……正直アヤト様のものより辛いものを感じましたわ」
笑うリリスの目には小さな涙が浮かべられていた。うん、俺はそっちの修業は本格的に受けてないからなんとも言えないけど……辛いのはわかる。
「くっ……杖無しの無詠唱ができるからって調子に乗るなよ!」
グースがそう叫び、詠唱をせずに魔法人を展開し始めた。
そこからは黒と紫、二つの煙が噴き出す。
アレは明らかに触っちゃいけないやつだとわかる。
【出たー!一回戦でも見せた怪しい魔術!紫と黒、どちらの煙に触れた者もたちまち行動不能になってしまうというえげつない技だ!】
「おいおい、バラさないでくれよ……黒が石化で紫が致死毒だってことを!」
わざわざ自分から煙の内容を得意げに叫ぶグース。しかし脅威であることには違いないのだからこそバラしたのだろう。
そして向こうの仲間の二人がそれぞれ魔術を順番に放つ。
一つは強い風が吹いて煙がこっちへと飛ばされてくる。もう一つはさっきリリスが放ったのと同じものだとわかった。
マズい、このままだとあの煙が一気に……って、ミーナさんがいない?
「ここはひとまず散開して――」
「いいえ皆様、私とリナさんの後ろに集まってください!」
俺の言葉を遮ってリリスがそう言い、俺たちはそれに従い彼女の後ろに集まった。
するとリナが弓を構え、リリスが彼女の背中へ寄り添い手を重ねる。
【コノハ学園チーム、絶体絶命のピンチの最中に今度は少女同士抱き合っているぅぅぅっ!何をするかはまだわかりませんが、これは違う意味で興奮した展開になってまいりましたっ!】
司会者がそう高らかに発言すると、周囲の観客からは男女問わず歓声が上がった。
若干集中力を削り乱すような実況にリナたちのことが気になったが、彼女たちは気にした様子がなかったので一安心する。
「行きますわよ、リナさん。私たちもカイトさんに修業の成果を見せて恰好をつけましょう!」
「はい……!」
気合の入った二人が持つ弓に水で作られた矢が出現し、風を纏わせて弦と一緒に引き絞る。
リナたちはそれを押し寄せて来る煙に向けて撃ち放った。
放たれた矢は真っ直ぐに飛び、煙に突き刺さる。
同時に矢は飛散し、シャボン玉のような形状となったのがいくつも出現した。
【これは……泡、でしょうか?洗剤などを使用した際に見るような丸いシャボン玉が複数出現!一体何をする気でしょうか……ん?】
何かに気付いた司会者が声を漏らす。するとシャボン状に拡散していたそれらが周囲を吸い込む風を引き起こし始めた。
それらはどんどんと周囲の煙を吸い込んでいき、シャボンの中にほとんど取り込んでしまう。
「なっ……なんだよ、それ……!?」
リナたちの技に狼狽えるグースたち。
さすが合体技だ。
彼女たちがやったのはリナが水の矢を作り出して、そこにリリスが風の魔法を混ぜ合わせたものである。
まだ師匠たちが使うような魔術を俺たちが一人では難しい。ということで属性の一つを一人が、もう一つをもう一人が担当して発動させたのが、あの「合体魔術」というわけだ。
【まさか!まさかのまさか!?本来中等部の年齢では魔術の構成すら難しいと言われている常識を、まるで嘲笑うかのように二人三脚で魔術を構成し放ったぁぁぁぁっ!!】
こっちまで息が苦しくなりそうなハイテンションの司会者は、まだ言葉を続ける。
【誰が考え付こうか?誰が実行に移そうか?息の合った二人だったからこそ成し得たそのコンビネーション技に、場内の客席からざわめきが止まりません!】
その言葉通り、観客席からは驚きと疑問の声でいっぱいになっていた。中には「リナー、カッコイイぞー!」なんて応援する声が混ざってたりしたけれど……
「バカな……俺たちの六年間の努力が……こんな初等部から上がりたてのガキに……?……ふざけ――」
グースが激昂しようとした直前、ミーナさんが神衣化した姿でどこからともなく現れ、彼の胸を双剣で交差させるように斬って言葉を遮らせてしまう。
「今の手段が封じられたら次を考えなきゃ。戦場は待ってくれない」
ギリギリ俺でも聞こえる声でミーナさんがそう言って、倒れるグースを見下ろしていた。
「グース!クソッ、アイス――」
グースの他の仲間が一人、魔術を放とうと準備をしたけれどもう遅かった。
神衣化したミーナさんは目にも止まらない速さで移動し、そいつを勢い任せに蹴り飛ばしてしまう。ミーナさんが力技なんて珍しいな……なんて思っていながら、俺も駆け出して前に出る。
【今度驚かせたのはミーナ選手!体を金色に輝かせ、俊足の速さで二人をあっという間にダウーン!先程の試合で見せた一瞬の速さはこれだったのか?コノハ学園チーム、一体どれだけの隠し玉を持っているというんだっ!?そしてぇっ!!】
興奮が尽きない司会者が一段と声を張り上げる。
【カイト選手も前に出たぁっ!】
「う、うわぁぁぁぁっ!?」
司会者の言葉で俺の存在に気付いた残りの人たちが、無詠唱の魔法をいくつも放ってきた。
それらを斬る避けるをしながら走るスピードを緩めずに突き進んでいく。
【魔法を斬る避ける斬る!彼の快進撃は終わりを知らないのかっ!というか、魔法って普通斬れるのか!?】
「うおぉぉぉっ!!」
司会者の言葉をかき消そうとするように雄叫びを上げて突進する。
そして近い場所にいた残り二人を、俺はそのままの速さで通り過ぎながら斬撃を食らわせた。その二人は数秒固まり、次に止まった時が動き出したかのように地面に倒れ込む。
【きぃまったぁぁぁぁっ!!素早い攻撃でヴェド学園チーム二名を同時撃破!グース選手を始め、全員戦闘不能なったことでコノハ学園の勝利ィィィィッ!!】
司会者の勝利宣言に、場内からは一回戦目よりも一層大きな歓声が鼓膜が破けんばかりに湧き上がった。
中等部の俺よりも雑な剣撃……子供のチャンバラにすら見えてしまう彼らの試合を、俺は欠伸をしながら見ていた。
「カイト、お腹減ってない?」
「今日は母さんが腕によりをかけて作っってくれた弁当だ!」
すると俺の両親が高いテンションで弁当を取り出して見せてきた。試合後、師匠と合流した際になぜか両親も一緒にいたのだ。
リリスたちは各自友人や親と合流するために解散し、俺とミーナさんだけが師匠たちと一緒にいる状態となっている。
「え……本当に?なんか頑張って作ったっていうか……本当に豪華になってない?」
見せてきた弁当箱がなんとなくそう感じられる装飾をしていた気がした。
「まぁ、カイトからもらった金もあったしな。恥ずかしくない程度のものは買い揃えられたんだ」
「さすがにこんなところでおにぎりだけってわけにもいかないしね……?」
「むしろそこら辺の屋台で買ってくだけでよかったんじゃねえか?」
両親との会話に入ってくる師匠。
相変わらず砕けた話し方なのだけれど、それが他人ではなく自分の両親とフレンドリーに接しているというのがなんとなく違和感というか、変に感じてしまう。なんて思うのと同時に、そこで敬語を使われてたとしても気持ち悪いかなぁ……と考えたりしてしまう。
「何を言ってるの、師匠君!たしかにお店のものは美味しいけど、大事な息子への愛情が入ってないじゃない!その点、私の作ったものは吐き出しちゃうほどあるわよ?」
「吐き出しちゃダメだろ……」
母さんのボケにわざわざツッコミを入れる師匠。
このやり取りを見てると、なんだかもうこっちが恥ずかしくなってくるんだよなぁ……というか、なんだよ「師匠君」て……
「よかったら師匠君たちも食べる?多めに作って来ちゃったから」
「なら貰おうか。純粋な人の好意には甘える質でね」
師匠はそう言って何も持ってなかった手に箸を出現させ、母さんが差し出した弁当に入ってる具材を摘まむ。師匠が行った一瞬の出来事に両親がキョトンとした表情をしていた。
空間魔術で素早く取り出したんだろうけど、初めて見ればそういう反応をするよな……
「なんというか……師匠君って面白い人ね?」
「それは俺も思う。旅芸人とかやってても平然と馴染んでそう」
「実際、退屈はそうそうしねえよな」
「同意」
「褒めてるのかバカにしてるのか……」
父さん以外との会話に不機嫌になりながら肉団子を口に入れる師匠。だって本当のことじゃない?
「それにしてもカイト、本当に強くなったんじゃないか?前に帰ってよりも格段に」
「俺もカイトも頑張ったからな。血反吐吐くっていうか、血反吐吐かせたこの二週間」
「うふふ、本当に頑張ったのね?」
母さんは簡単に言って笑うけれども、俺はここ最近の辛い修行の記憶を走馬灯のように思い出していた。急ピッチでやってくれと言い出したのはたしかに俺だけど……
もっとも、その結果がさっきの試合に余裕を持てたわけなのだけれども。
「しかし、なんだってカイトはそこまで気合入れてるんだ?優勝狙いたいならコノハ学園の中等部一年なんだから来年も再来年だってあるし、高等部の三年だってチャンスがあるだろ?」
「それは……」
父さんにそう言われて、ふとリナのことを思い浮かべてしまう。
「負けたくない人がいるんだよ。そのチャンスが今しかないってだけ」
誤魔化しながら答えると、父さんが「ほう」と感心していた。
「ライバルか……そりゃあ、気合も入るな!」
「ライバル?ふーん……」
すると母さんの目が妖しく光った気がした。あっ、嫌な予感……
「それってもしかして……恋のライバル?」
母さんのその一言により、俺の周囲だけ時が止まったかのように固まる。
師匠でさえ箸を口に咥えたまま目を背けるし、そのせいで母さんが確信を得たようにニヤニヤしてるし……ああもう、バレバレじゃないか!
「鯉?なんだカイト、魚料理でも始めたのか?」
そんな中、素っ頓狂なことを言い出す父さんの顎に、母さんが見事な掌底を打ち込んだ。
目がぐるんと上を向いて泡を吹く父さんを見て、師匠を含めた俺たちは「うわぁ……」と声を漏らして引いてしまう。この時初めて、母さんを怖いと感じたかもしれない……
その後小一時間問い詰められそうになったけれど、なんとか沈黙を貫いたまま二回戦へ挑むこととなった。
【では第一ブロックが終了したところで第二ブロックが始まります!先に紹介するのはやっぱりこいつら!開始五分足らずでセイカ女学園を圧倒的戦力さで勝利を手にしたコノハ学園ンンンッ!!】
変わらずテンションの高い実況に呼ばれ、俺たちは再びステージへと戻ってきた。
【赤と黒の入り混じった彼の実力は誰もが目にして折り紙付き!初戦でSSランクのミランダ様やガーランド様を彷彿させる天下無双を体現させた彼、カイト選手の入ー場ー!!】
「恥ずかしいからやめてっ!?」
一回戦目で悪目立ちしてしまったせいで恥ずかしい解説が入ってしまった。来年から出場するのやめようかな……選ばれるかわからないけど。
【対するはっ!一回戦で奇怪な魔術で相手の身動きを封じてしまう恐ろしい試合を見せてくれた彼ら、ヴェド学園ンンンッ!!】
司会者の紹介で入場してきたのは、五人ともフードを深く被った外套を着た奴らだった。
先頭の一人がそのフードを脱ぐと、集会の時に見た覚えのある顔が出てくる。
「やぁ、久しぶりだねカイト君?二週間前に集まった時から顔は覚えてるし、さっきの試合も見てたよ。凄かったねぇ……?」
ねっとりした言い方をして俺を見る男。なぜだか悪寒が……俺、こいつのこと苦手かも……
【顔を露わにしたのはグース選手!学園では「隠れない魔術師」と異名を持つ彼だが、先程の試合ではその名の通り障害物に隠れることなく勝利に導いた猛者だ!彼らに対してコノハ学園チームはどう戦うのか……激戦が予想されるこの二回戦は目が離せないっ!ということで……】
司会者が言葉を一旦そこで区切る。いきなり試合を始める合図をするのかと体を強張らせた。
【……開始――】
――ドゴォンッ!
と、火の玉が飛んでいき、相手チームの方で大爆発を起こした。
「「……え?」」
相手チームも俺たちも声を漏らす。飛んできた後ろの方を見ると、リリスが自分の胸を持ち上げるように腕を組んでスッキリした顔をしていた。
「……ふう、一回戦で何もできなかった鬱憤が少し晴れましたわ」
【おおっと、不意を突いたつもりだったが、またもや開始早々リリス選手からまさかの先制攻撃ィィィッ!!ずいぶん威力の大きかった爆発だが、本当に中等部なのかぁ!?】
興奮する司会者の実況に観客席から歓声が湧く。
【そして爆発を直接食らってしまったのはヴェド学園チーム二名!戦闘は続行可能のようだが、いきなり大ダメージを負ってしまった!……しかしリリス選手、杖を持っていないようだが、それで魔法を撃ったのだろうか?】
司会者の疑問に、リリスが得意げに髪を手でなびかせながらフフンと笑う。
「そんなもの要りません!それに魔力を安定させるための補助だけでなく、ちょっとした魔法なら詠唱も不要ですわ!」
そう言うリリスの周りには、複数の魔法玉が展開される。
修業では前衛組と後衛組で分かれて鍛えていたので、リリスの自信はその賜物だろう。
「ノワールさんとランカさんの魔力に関する修業……正直アヤト様のものより辛いものを感じましたわ」
笑うリリスの目には小さな涙が浮かべられていた。うん、俺はそっちの修業は本格的に受けてないからなんとも言えないけど……辛いのはわかる。
「くっ……杖無しの無詠唱ができるからって調子に乗るなよ!」
グースがそう叫び、詠唱をせずに魔法人を展開し始めた。
そこからは黒と紫、二つの煙が噴き出す。
アレは明らかに触っちゃいけないやつだとわかる。
【出たー!一回戦でも見せた怪しい魔術!紫と黒、どちらの煙に触れた者もたちまち行動不能になってしまうというえげつない技だ!】
「おいおい、バラさないでくれよ……黒が石化で紫が致死毒だってことを!」
わざわざ自分から煙の内容を得意げに叫ぶグース。しかし脅威であることには違いないのだからこそバラしたのだろう。
そして向こうの仲間の二人がそれぞれ魔術を順番に放つ。
一つは強い風が吹いて煙がこっちへと飛ばされてくる。もう一つはさっきリリスが放ったのと同じものだとわかった。
マズい、このままだとあの煙が一気に……って、ミーナさんがいない?
「ここはひとまず散開して――」
「いいえ皆様、私とリナさんの後ろに集まってください!」
俺の言葉を遮ってリリスがそう言い、俺たちはそれに従い彼女の後ろに集まった。
するとリナが弓を構え、リリスが彼女の背中へ寄り添い手を重ねる。
【コノハ学園チーム、絶体絶命のピンチの最中に今度は少女同士抱き合っているぅぅぅっ!何をするかはまだわかりませんが、これは違う意味で興奮した展開になってまいりましたっ!】
司会者がそう高らかに発言すると、周囲の観客からは男女問わず歓声が上がった。
若干集中力を削り乱すような実況にリナたちのことが気になったが、彼女たちは気にした様子がなかったので一安心する。
「行きますわよ、リナさん。私たちもカイトさんに修業の成果を見せて恰好をつけましょう!」
「はい……!」
気合の入った二人が持つ弓に水で作られた矢が出現し、風を纏わせて弦と一緒に引き絞る。
リナたちはそれを押し寄せて来る煙に向けて撃ち放った。
放たれた矢は真っ直ぐに飛び、煙に突き刺さる。
同時に矢は飛散し、シャボン玉のような形状となったのがいくつも出現した。
【これは……泡、でしょうか?洗剤などを使用した際に見るような丸いシャボン玉が複数出現!一体何をする気でしょうか……ん?】
何かに気付いた司会者が声を漏らす。するとシャボン状に拡散していたそれらが周囲を吸い込む風を引き起こし始めた。
それらはどんどんと周囲の煙を吸い込んでいき、シャボンの中にほとんど取り込んでしまう。
「なっ……なんだよ、それ……!?」
リナたちの技に狼狽えるグースたち。
さすが合体技だ。
彼女たちがやったのはリナが水の矢を作り出して、そこにリリスが風の魔法を混ぜ合わせたものである。
まだ師匠たちが使うような魔術を俺たちが一人では難しい。ということで属性の一つを一人が、もう一つをもう一人が担当して発動させたのが、あの「合体魔術」というわけだ。
【まさか!まさかのまさか!?本来中等部の年齢では魔術の構成すら難しいと言われている常識を、まるで嘲笑うかのように二人三脚で魔術を構成し放ったぁぁぁぁっ!!】
こっちまで息が苦しくなりそうなハイテンションの司会者は、まだ言葉を続ける。
【誰が考え付こうか?誰が実行に移そうか?息の合った二人だったからこそ成し得たそのコンビネーション技に、場内の客席からざわめきが止まりません!】
その言葉通り、観客席からは驚きと疑問の声でいっぱいになっていた。中には「リナー、カッコイイぞー!」なんて応援する声が混ざってたりしたけれど……
「バカな……俺たちの六年間の努力が……こんな初等部から上がりたてのガキに……?……ふざけ――」
グースが激昂しようとした直前、ミーナさんが神衣化した姿でどこからともなく現れ、彼の胸を双剣で交差させるように斬って言葉を遮らせてしまう。
「今の手段が封じられたら次を考えなきゃ。戦場は待ってくれない」
ギリギリ俺でも聞こえる声でミーナさんがそう言って、倒れるグースを見下ろしていた。
「グース!クソッ、アイス――」
グースの他の仲間が一人、魔術を放とうと準備をしたけれどもう遅かった。
神衣化したミーナさんは目にも止まらない速さで移動し、そいつを勢い任せに蹴り飛ばしてしまう。ミーナさんが力技なんて珍しいな……なんて思っていながら、俺も駆け出して前に出る。
【今度驚かせたのはミーナ選手!体を金色に輝かせ、俊足の速さで二人をあっという間にダウーン!先程の試合で見せた一瞬の速さはこれだったのか?コノハ学園チーム、一体どれだけの隠し玉を持っているというんだっ!?そしてぇっ!!】
興奮が尽きない司会者が一段と声を張り上げる。
【カイト選手も前に出たぁっ!】
「う、うわぁぁぁぁっ!?」
司会者の言葉で俺の存在に気付いた残りの人たちが、無詠唱の魔法をいくつも放ってきた。
それらを斬る避けるをしながら走るスピードを緩めずに突き進んでいく。
【魔法を斬る避ける斬る!彼の快進撃は終わりを知らないのかっ!というか、魔法って普通斬れるのか!?】
「うおぉぉぉっ!!」
司会者の言葉をかき消そうとするように雄叫びを上げて突進する。
そして近い場所にいた残り二人を、俺はそのままの速さで通り過ぎながら斬撃を食らわせた。その二人は数秒固まり、次に止まった時が動き出したかのように地面に倒れ込む。
【きぃまったぁぁぁぁっ!!素早い攻撃でヴェド学園チーム二名を同時撃破!グース選手を始め、全員戦闘不能なったことでコノハ学園の勝利ィィィィッ!!】
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その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
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