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武人祭
一回戦、修業の成果
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☆★☆★
【では栄えある第一回戦!まずはコノハ学園ンンンッ!!】
司会者らしき女性の声が拡張機によって響き渡り、入り口前で待機していた緊張する俺の裾をリナが掴む。
「どどど、どうし、ようカイト君……!?凄い人が、いっぱい、いるよ……」
「おおお落ち着こう!あれだ、観客全員、師匠だと思えばそんなに緊張もしないはず……!」
「あなたこそ落ち着きなさい。彼ら全員がアヤト様でしたら逆に恐ろしいでしょうに」
狼狽えるリナと俺に呆れてそう言うリリス。
ああ、たしかに。なんて思っていると、ミーナさんがフンスと鼻を鳴らす。
「でも多分、アヤトが見てくれてるのには違いないから気合は入れる!」
「ミーナさんは本当にアヤトさんがお好きなようで……」
腕を組んでどっしりと構えるサイが、微笑んでそう言う。
心なしかその彼の体格が前より大きく見えるけど、それはきっと俺の方が弱気になってるからだろう。
「いいから行きますわよ。あまり待たせますと観客からブーイングが起きそうですし、師から呆れられますよ?」
リリスはこういう場に慣れているからか、躊躇した様子もなく先立って行こうとする。こういう時は頼もしい。
「これは我らの舞台。存分に腕を振るいましょう!」
サイも重く静かな声でそう言いながら、大剣と大盾を両手に持ってその後に続く。外見だけで言えばこの中で一番頼りになるんだよなぁ……
「……ま、あいつにも大見得切っちゃったし、頑張りますか!」
「うん……頑張ろ?」
リナが俺と肩を並べ、手を取って励ましてくる。
学園での集会の時、俺の恋心がジスタによって暴かれたのだが、それが功を奏したのかそれ以来リナとの距離感が近くなっていた気がしていた。
師匠からは「お前ら、もう恋人でいいんじゃね?」なんて言われちゃったし、チユキさんも頬を膨らませて「ズルい!」なんて言われたこともあったけれど。
【なんと彼ら彼女ら、ほとんどが中等部!学園内の試合で優勝してしまった実力を持つ猛者とのこと!そして猫人族を加えた異彩なパーティーで挑む今大会のダークホース!一体どんな戦いを見せてくれるのか期待が膨らみますっ!】
どんどんと司会者の発言によってハードルが上がる中、ミーナさんも行ってしまって俺たちだけとなったのでそろそろ向かうことにした。
少々薄暗かった場所から明るい照明が点いている部屋へと着くと、模擬戦の時など比べ物にならないほどの大きなステージが用意されていた。しかも岩や木などといった、実践に近い形で障害物が用意されている。
そしてそのステージを挟むようにいる俺たちの向かい側からは……
【そして相対するはセイカ女学園ッ!名前の通り、女性だけが通う学園の中で選りすぐりが選出された可憐で武闘派の少女たち!過去にも出場し、数度も優勝記録を残した学園の生徒だが、今年も優勝できるか!?コノハ学園同様、期待の星だぁっ!!】
どうやら彼女らが最初の一回戦で戦う相手のようだ。一度顔合わせした時に見た顔ぶれが揃っていた。
「もちろん、優勝を目指します!そのためには……あなたがたには踏み台になっていただきます!」
先頭にいた釣り目の金髪をした子……クルシアさんがレイピアを抜き放って俺たちに向けながらそう言う。それが合図のようにセイカ女学園の人たちは次々と武器を抜く。
気合入ってるなぁ、なんて思う反面、俺も負けていられなかった。
「それはこちらのセリフです。俺にも倒さなきゃならない相手がいるので、こんなところで躓くわけにはいきません」
俺が剣を抜き、他のみんなも合わせて武器を抜いた。
「優勝とまでは言いません。ですがあの人たちに勝つまで負けるつもりはありません!」
俺たちは互いに睨み、試合開始のゴングを待つ。
【始まる前から早速テンションが熱く燃えている!……と、開始前にルール確認をさせていただきます!】
武器を抜いてやる気満々だっただけに、俺たちは肩をガクッと落としてやる気を無くしそうになってしまう。
【まずこの場所に張ってある結界、剣や魔法で与えられた痛みはそのままに、怪我などは一切負わない女性に優しい仕様となっています!普段は紳士ぶってる変態紳士もとい男狼諸君、相手が「やめて」と泣き叫んで降参するまでは遠慮無くどんどん攻撃してもらって構いません!】
「おいぃぃぃぃっ!?その言い方されると逆に攻撃しにくくなっちゃうじゃないですか!これで遠慮無く攻撃したら完全に俺たちが悪役じゃないですか!」
正確に言うと、この場にいる俺とサイだけが。
【はい!生徒選手からいいツッコミをもらったところで、試合を開始しましょう!お待ちかねコノハ学園VSセイカ女学園による第一回戦――】
司会者からの声が一旦途切れ、観客席のどよめきすらなくなって静寂が訪れて緊張した雰囲気が漂い始める。
【――開始ぃぃぃっ!!】
「「はぁぁぁぁっ!!」」
司会者の声が響き渡り、静かだった会場に再び歓声などのざわめきが戻る。そしてセイカ女学園の人たちが一斉に攻撃を仕掛けてきた。
彼女らの気迫から、本気で優勝を狙っているのだと気合で十分に伝わってくる。
だけどそんな彼女の気迫に飲まれるほど、俺たちの覚悟は軽くない。
「フンッ!」
サイが最初に駆け出し、大盾で地面を抉るように薙ぎ払って牽制した。
そして砂埃で視界が遮られて怯んだ彼女たちに向け、俺とミーナさんとで走って向かう。
俺はまず、同じ剣を持っている緑色の女の子を攻撃した。
相手の武器を奪って地面に叩き付けるだけの非殺傷技だが、十分な威力はある。
「あぐっ!?」
模擬戦でアルニア先輩に使った投げ技だったが、師匠から基礎とコツを教わったおかげで偶然ではなく「ちゃんとした技」として使うことができるようになっていた。
投げられた緑髪の少女は頭から落下し、小さく悲鳴を上げて倒れて動かなくなってしまう。
「たお、したのか?」
「あぁっ!?」
「ぐっ!?」
死んだふりだったらどうしようなんて心配していると、二つの悲鳴が上がる。
一つはミーナさんの近くで水色髪の人や黒髪の人が、お腹を押さえて苦しそうに地面へうずくまってしまっていた。どちらかが声を出したのだろう。
その時、ミーナさんの体が一瞬光っていたそれは「神衣」だったと思う。それを使って一気に二人に倒したらしい。
そしてもう一つはクルシアさんからだった。
彼女の肩にはリナが放ったであろう矢が刺さっているが血はでておらず、それもすぐに抜け落ちる。
【おぉーっと、なんということだぁぁぁっ!?開始早々三人が大きなダメージを負い、さらにクルシア選手は肩に矢を受けてしまった!これが本当に中等部の実力だというのかぁぁぁぁっ!?】
そんな白熱する彼女の実況も耳に入らないほど、俺たちは集中していた。
「そんな……このっ!?」
一人だけ無事に済んでいる大剣を持った赤い女の人が、激昂してサイに襲いかかる。
大きな剣を持ちながら俊敏な動きを見せて翻弄しようとする彼女だが、サイはしっかりと見据えてタイミングを窺っていた。
赤髪の人は大剣を振って攻撃を仕掛けるが、サイは盾で弾いて大剣を円形に大きく振り回す。
勢い任せの攻撃を食らった赤髪の人は飛ばされ、壁に叩き付けられる。
その後も立とうと頑張っていたが、膝から崩れ落ちていった。
【ついに無傷だったもう一人も剛力によりダウーン!これはさすがに戦闘続行不可能かー?そして未だに起き上がれない少女たち三人……まともに動けるのはもうクルシア選手のみとなってしまったぁぁぁぁ!これでは戦闘の継続は難しいと思われるが……】
実況の言葉通りの状況となった今、クルシアさんが降参するかどうかの判断待ちとなっていた。
「……続けます。ここで諦めては、『やはり所詮は女だった』とだとバカにされてしまいますから!」
クルシアさんは諦めた様子もなくレイピアを俺に構えてきた。
すると彼女の勇姿に心打たれたのか、他の少女たちが立ち上がり始める。
「クルシアさん、だけに良い恰好をさせるわけには……いきませんわね!」
「ですね……!私たちだってまだ、やれます!」
「うぅ……でもぎもぢわるい……」
俺とミーナさんが攻撃を加えた彼女たちがそう言いながら武器を構える。
結果、赤髪の人以外が戦闘へと復帰した形となった。
【一人を除き、他全員が戦線復帰となった!早々に終わってしまうかと思われたこの第一戦はまだまだ続くようだっ!】
師匠じゃないけど、喉が枯れるんじゃないかってくらいに叫ぶ司会の彼女に対し元気だなーなんて思っていると、セイカ女学園の人たちが俺を囲んできた。
「一人で各個撃破は恐らく難しいと思われますので、一人ずつ狙わせていただきます。悪く思わないでくださいまし……」
威圧的に睨んでそう言うクルシアさん。
【ここで優勢だったコノハ学園の面々、油断して彼女たちの行動を許してしまった!カイト選手ピーンチッ!この場面をどう切り抜けるカイト選手……って、あれ?】
耳障りなほどに意気込んで実況していた司会者の女性が、間の抜けた声を上げる。普通なら急いで助けに入ろうとする状況なのだが、ミーナさんたちが誰一人として一切助けに入る気配がないのだ。
【これはどうしたことだ?コノハ学園チーム、カイト選手を助けに行く様子が全くありません!見捨てたのでしょうか……?】
視線をミーナさんに向けても何もせず、リナを見ると微笑んで頷いていた。
実はこの戦いに入る前、俺たちはある決め事をしていた……
「これはどういうことですの?」
セイカ女学園の人たちもこの状況に疑問を抱いたらしく、それぞれ怪訝な表情を浮かべていた。
そんな彼女らに、俺は挑発するように手の平を上向きに突き出して「かかってこい」とジェスチャーする。
「安心してください。あなたたちの相手をするのは俺一人です。他の人は手を出しませんので」
「っ……バカにして!」
バカにしたつもりはなかったけれど、そうされたと感じたセイカ女学園の人たちが同時に襲いかかって来る。
片手に短剣、もう片方に長剣を持って斬りかかってきた髪が水色髪の人と槍を構えて突進してくる黒髪の人、さっき俺が相手にしていた緑髪の剣を持った人とレイピアを持ったクルシアさん……彼女たちに対抗するため、身に着けた技術を使う。
――「領域」
発動したら後は体が自然と動いた。
持っている剣と籠手を駆使し、彼女たちの猛攻を防ぐ。
【な、なんだこれはぁぁぁぁっ!一対四という数の不利を押し退けるかのように!カイト選手、セイカ女学園の彼女らから受ける激しい攻撃を物ともしていないぃぃぃっ!?】
「こ、こんなこと、ありえない……!?」
攻撃が全て通じず、狼狽えるセイカ女学園のひとたち。その隙を突き、こっちから攻撃を仕掛けた。
今度こそ立ち上がれないようにみぞや喉といった急所などに肘打ちや剣で貫いたりと攻撃する。
そしてセイカ女学園の人たちは、あっという間に倒れてしまう。
【ぜ、全員意識不明で試合終了……試合時間、僅か十分足らずで終了してしまいました……】
試合終了を告げた司会者の言葉の後には、観客席を含めたこの場全てに静寂が訪れていた。
退場の合図はないけど、入ってきた出入り口に戻ろうとするミーナさんたちと一緒に下がる。
「お疲れ、カイト。どうだった?」
色んな意味を含めたミーナさんの言葉。俺はその意味を考えて答えた。
「思いの外、何も感じませんでした」
俺たちの会話を聞いていたリリスさんが口笛を吹く。
「彼女たち、決して弱くはありませんでしたわ。それを軽くあしらった上にそう言ってしまうと、かわいそうはありませんか?……というか――」
すると急にリリス頬を膨らませて表情が不機嫌なものへと変わる。
「私の出番、全くありませんでしたわよね?」
「わ、私も矢を一本、撃っただけ、だよ……?」
リナはフォローのつもりでそう言うが、リリスの拗ねる態度は変わらなかった。
【では栄えある第一回戦!まずはコノハ学園ンンンッ!!】
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「おおお落ち着こう!あれだ、観客全員、師匠だと思えばそんなに緊張もしないはず……!」
「あなたこそ落ち着きなさい。彼ら全員がアヤト様でしたら逆に恐ろしいでしょうに」
狼狽えるリナと俺に呆れてそう言うリリス。
ああ、たしかに。なんて思っていると、ミーナさんがフンスと鼻を鳴らす。
「でも多分、アヤトが見てくれてるのには違いないから気合は入れる!」
「ミーナさんは本当にアヤトさんがお好きなようで……」
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心なしかその彼の体格が前より大きく見えるけど、それはきっと俺の方が弱気になってるからだろう。
「いいから行きますわよ。あまり待たせますと観客からブーイングが起きそうですし、師から呆れられますよ?」
リリスはこういう場に慣れているからか、躊躇した様子もなく先立って行こうとする。こういう時は頼もしい。
「これは我らの舞台。存分に腕を振るいましょう!」
サイも重く静かな声でそう言いながら、大剣と大盾を両手に持ってその後に続く。外見だけで言えばこの中で一番頼りになるんだよなぁ……
「……ま、あいつにも大見得切っちゃったし、頑張りますか!」
「うん……頑張ろ?」
リナが俺と肩を並べ、手を取って励ましてくる。
学園での集会の時、俺の恋心がジスタによって暴かれたのだが、それが功を奏したのかそれ以来リナとの距離感が近くなっていた気がしていた。
師匠からは「お前ら、もう恋人でいいんじゃね?」なんて言われちゃったし、チユキさんも頬を膨らませて「ズルい!」なんて言われたこともあったけれど。
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どんどんと司会者の発言によってハードルが上がる中、ミーナさんも行ってしまって俺たちだけとなったのでそろそろ向かうことにした。
少々薄暗かった場所から明るい照明が点いている部屋へと着くと、模擬戦の時など比べ物にならないほどの大きなステージが用意されていた。しかも岩や木などといった、実践に近い形で障害物が用意されている。
そしてそのステージを挟むようにいる俺たちの向かい側からは……
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どうやら彼女らが最初の一回戦で戦う相手のようだ。一度顔合わせした時に見た顔ぶれが揃っていた。
「もちろん、優勝を目指します!そのためには……あなたがたには踏み台になっていただきます!」
先頭にいた釣り目の金髪をした子……クルシアさんがレイピアを抜き放って俺たちに向けながらそう言う。それが合図のようにセイカ女学園の人たちは次々と武器を抜く。
気合入ってるなぁ、なんて思う反面、俺も負けていられなかった。
「それはこちらのセリフです。俺にも倒さなきゃならない相手がいるので、こんなところで躓くわけにはいきません」
俺が剣を抜き、他のみんなも合わせて武器を抜いた。
「優勝とまでは言いません。ですがあの人たちに勝つまで負けるつもりはありません!」
俺たちは互いに睨み、試合開始のゴングを待つ。
【始まる前から早速テンションが熱く燃えている!……と、開始前にルール確認をさせていただきます!】
武器を抜いてやる気満々だっただけに、俺たちは肩をガクッと落としてやる気を無くしそうになってしまう。
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「おいぃぃぃぃっ!?その言い方されると逆に攻撃しにくくなっちゃうじゃないですか!これで遠慮無く攻撃したら完全に俺たちが悪役じゃないですか!」
正確に言うと、この場にいる俺とサイだけが。
【はい!生徒選手からいいツッコミをもらったところで、試合を開始しましょう!お待ちかねコノハ学園VSセイカ女学園による第一回戦――】
司会者からの声が一旦途切れ、観客席のどよめきすらなくなって静寂が訪れて緊張した雰囲気が漂い始める。
【――開始ぃぃぃっ!!】
「「はぁぁぁぁっ!!」」
司会者の声が響き渡り、静かだった会場に再び歓声などのざわめきが戻る。そしてセイカ女学園の人たちが一斉に攻撃を仕掛けてきた。
彼女らの気迫から、本気で優勝を狙っているのだと気合で十分に伝わってくる。
だけどそんな彼女の気迫に飲まれるほど、俺たちの覚悟は軽くない。
「フンッ!」
サイが最初に駆け出し、大盾で地面を抉るように薙ぎ払って牽制した。
そして砂埃で視界が遮られて怯んだ彼女たちに向け、俺とミーナさんとで走って向かう。
俺はまず、同じ剣を持っている緑色の女の子を攻撃した。
相手の武器を奪って地面に叩き付けるだけの非殺傷技だが、十分な威力はある。
「あぐっ!?」
模擬戦でアルニア先輩に使った投げ技だったが、師匠から基礎とコツを教わったおかげで偶然ではなく「ちゃんとした技」として使うことができるようになっていた。
投げられた緑髪の少女は頭から落下し、小さく悲鳴を上げて倒れて動かなくなってしまう。
「たお、したのか?」
「あぁっ!?」
「ぐっ!?」
死んだふりだったらどうしようなんて心配していると、二つの悲鳴が上がる。
一つはミーナさんの近くで水色髪の人や黒髪の人が、お腹を押さえて苦しそうに地面へうずくまってしまっていた。どちらかが声を出したのだろう。
その時、ミーナさんの体が一瞬光っていたそれは「神衣」だったと思う。それを使って一気に二人に倒したらしい。
そしてもう一つはクルシアさんからだった。
彼女の肩にはリナが放ったであろう矢が刺さっているが血はでておらず、それもすぐに抜け落ちる。
【おぉーっと、なんということだぁぁぁっ!?開始早々三人が大きなダメージを負い、さらにクルシア選手は肩に矢を受けてしまった!これが本当に中等部の実力だというのかぁぁぁぁっ!?】
そんな白熱する彼女の実況も耳に入らないほど、俺たちは集中していた。
「そんな……このっ!?」
一人だけ無事に済んでいる大剣を持った赤い女の人が、激昂してサイに襲いかかる。
大きな剣を持ちながら俊敏な動きを見せて翻弄しようとする彼女だが、サイはしっかりと見据えてタイミングを窺っていた。
赤髪の人は大剣を振って攻撃を仕掛けるが、サイは盾で弾いて大剣を円形に大きく振り回す。
勢い任せの攻撃を食らった赤髪の人は飛ばされ、壁に叩き付けられる。
その後も立とうと頑張っていたが、膝から崩れ落ちていった。
【ついに無傷だったもう一人も剛力によりダウーン!これはさすがに戦闘続行不可能かー?そして未だに起き上がれない少女たち三人……まともに動けるのはもうクルシア選手のみとなってしまったぁぁぁぁ!これでは戦闘の継続は難しいと思われるが……】
実況の言葉通りの状況となった今、クルシアさんが降参するかどうかの判断待ちとなっていた。
「……続けます。ここで諦めては、『やはり所詮は女だった』とだとバカにされてしまいますから!」
クルシアさんは諦めた様子もなくレイピアを俺に構えてきた。
すると彼女の勇姿に心打たれたのか、他の少女たちが立ち上がり始める。
「クルシアさん、だけに良い恰好をさせるわけには……いきませんわね!」
「ですね……!私たちだってまだ、やれます!」
「うぅ……でもぎもぢわるい……」
俺とミーナさんが攻撃を加えた彼女たちがそう言いながら武器を構える。
結果、赤髪の人以外が戦闘へと復帰した形となった。
【一人を除き、他全員が戦線復帰となった!早々に終わってしまうかと思われたこの第一戦はまだまだ続くようだっ!】
師匠じゃないけど、喉が枯れるんじゃないかってくらいに叫ぶ司会の彼女に対し元気だなーなんて思っていると、セイカ女学園の人たちが俺を囲んできた。
「一人で各個撃破は恐らく難しいと思われますので、一人ずつ狙わせていただきます。悪く思わないでくださいまし……」
威圧的に睨んでそう言うクルシアさん。
【ここで優勢だったコノハ学園の面々、油断して彼女たちの行動を許してしまった!カイト選手ピーンチッ!この場面をどう切り抜けるカイト選手……って、あれ?】
耳障りなほどに意気込んで実況していた司会者の女性が、間の抜けた声を上げる。普通なら急いで助けに入ろうとする状況なのだが、ミーナさんたちが誰一人として一切助けに入る気配がないのだ。
【これはどうしたことだ?コノハ学園チーム、カイト選手を助けに行く様子が全くありません!見捨てたのでしょうか……?】
視線をミーナさんに向けても何もせず、リナを見ると微笑んで頷いていた。
実はこの戦いに入る前、俺たちはある決め事をしていた……
「これはどういうことですの?」
セイカ女学園の人たちもこの状況に疑問を抱いたらしく、それぞれ怪訝な表情を浮かべていた。
そんな彼女らに、俺は挑発するように手の平を上向きに突き出して「かかってこい」とジェスチャーする。
「安心してください。あなたたちの相手をするのは俺一人です。他の人は手を出しませんので」
「っ……バカにして!」
バカにしたつもりはなかったけれど、そうされたと感じたセイカ女学園の人たちが同時に襲いかかって来る。
片手に短剣、もう片方に長剣を持って斬りかかってきた髪が水色髪の人と槍を構えて突進してくる黒髪の人、さっき俺が相手にしていた緑髪の剣を持った人とレイピアを持ったクルシアさん……彼女たちに対抗するため、身に着けた技術を使う。
――「領域」
発動したら後は体が自然と動いた。
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今度こそ立ち上がれないようにみぞや喉といった急所などに肘打ちや剣で貫いたりと攻撃する。
そしてセイカ女学園の人たちは、あっという間に倒れてしまう。
【ぜ、全員意識不明で試合終了……試合時間、僅か十分足らずで終了してしまいました……】
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退場の合図はないけど、入ってきた出入り口に戻ろうとするミーナさんたちと一緒に下がる。
「お疲れ、カイト。どうだった?」
色んな意味を含めたミーナさんの言葉。俺はその意味を考えて答えた。
「思いの外、何も感じませんでした」
俺たちの会話を聞いていたリリスさんが口笛を吹く。
「彼女たち、決して弱くはありませんでしたわ。それを軽くあしらった上にそう言ってしまうと、かわいそうはありませんか?……というか――」
すると急にリリス頬を膨らませて表情が不機嫌なものへと変わる。
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