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ex 昔話(前)
しおりを挟むアヤトたち魔城を出る数刻前、丸いテーブルを中心に囲むようにノワールたちが座り、近くに幼竜のベルが寝ている。
「・・・まさかこの顔触れで、殺し合い以外で合わせる事になるとは、想像もつかなかったな・・・」
無言の状態が続いていた中、ポツリと着物姿の女性がそう呟いた。
その意見に同意するように他の者たちも軽く笑う。
「ですね。ですが最近の話で言わせてもらえば、貴女以外は簡単に想像ができていましたが」
執事風の服装をした男、ノワールが足を組み薄笑いを浮かべて座っている。
「じゃのう。ノワールとヘレナは何の因果か、共に同じ主人に仕え、ノワールと儂はたまにではあるが交友関係にあった。この中で一番意外と言えたのはお主じゃな」
「肯。それもあの幼竜がいなければあり得なかったと言えます」
「・・・我が子の事か。母が子を思うのは当たり前だろう?」
「そうじゃな。ある意味、それが原因で今回の事態が悪化したとも言えるが・・・」
「ああ、そういえば貴女はあの女の口車に乗せられ、アヤト様に問答無用に襲い掛かったとか・・・それで手も足も出ずに負けたのでしょう?無様ですね・・・クフフ」
「負けてなどいない!途中で邪魔が入っただけで・・・」
「問。ではあのまま続けていれば勝てていましたか?」
「勝てていたさ!」
フンっと鼻を鳴らし、椅子の背もたれに寄り掛かる着物女。その様子は言葉とは裏腹に不機嫌だった。
「どんな規格外でも脆弱な人間である事には変わりない。一撃でも当たりさえすれば勝てる。それにあの人間がどれだけ強力な攻撃をして来ようとも、あの程度ならばいくらでも耐えられるーー」
「その程度であの方を殺せると思っているのなら、勘違いも甚だしい。本気を出していなかったとはいえ、この私を蹂躙してみせたあの方が、貴様如きに負けるわけないでしょう?見栄を張るな」
「・・・バカにするのも大概にしろよ?喧嘩を売ってるなら買ってやる、表に出ろ・・・今度こそ貴様を消し炭にしてやる!」
「落ち着け。全く、売り言葉に買い言葉ですぐに争おうとするな、大人気ない・・・」
「「チッ・・・」」
同時に舌打ちしてそっぽを向く二人。
「・・・まぁ、あれから大分経ったが、昔のようで最近のようで・・・こうしているのが不思議なくらいじゃな」
「ふん、不思議どころか本来あり得ぬ事だ。コイツとこうして話し合いの席に着く事自体など・・・」
「全くもって同意です。それにこのトカゲ・・・ヘレナの生命力がここまで高いとは、流石に計算外でしたよ」
「「・・・・・・」」
ーーーー
~ ???年前 ~
何もないどこまでも続くと思われる広大な荒地。
生物も植物もなく、山のように凹凸のある地が果てしなく広がっているだけの世界。
シトという神が干渉する前の自然な状態で、一般的な生物が居ようものなら、一瞬で干からびてしまう程の灼熱のような暑さや、凍死してしまうような場所がほとんどを占めていた。
そんな中、一部の場所では不自然な光景が広がっていた。
砂のみしか存在しない筈の荒地に、赤い血溜まりが四方数十百キロに渡って湖のように広がっていた。
至る所に肉塊が転がり、辛うじて形を残しているのは何かの翼や胴体のみだった。
その中の一箇所で生々しい音を響かせ、ほとんど肉塊となったものを念入りに潰している一人の姿があった。
黒いボロボロのマントを頭から被り、フードの中から少しだけ見える口の口角は上り、笑っていた。
「クフフ・・・最下種とはいえ、これも竜種の一つだと言うか?笑わせてくれる。竜や龍とはまた形を違えたワイバーン。いや、形だけではなく、意思疎通すらままならない知恵のない頭・・・魔物と呼んだ方がしっくりくるんじゃないか?クフフフフ・・・」
男は肉塊をグチャリと踏み付け、空を見上げる。
その視線の先には翼を広げた竜が数匹滞空していた。
「おや?「お仲間」が殺され、激昂でもしましたか?」
その竜に向かって挑発気味に問う男。
その問いに答えるかのように、三匹の竜が男の元へ下りて来た。
「所詮弱肉強食。しかし、ここまでバカにされて黙ってはいられんぞ・・・?」
白い巨大な竜が敵意剥き出しに唸り、他二匹は様子を見るように静かに傍観している。
「貴様・・・好き勝手に暴れ、我らが同胞を殺しているようだな、「原始の黒」」
「クフフフ、この世界に最初から存在していただけで大層な名が付けられたものですね。それに好き勝手にとは心外です。私を見掛けて仕掛けて来るのは、いつも貴方たちなのですが・・・さて、好き勝手に言っているのは一体どちらでしょう?」
「黙れ。貴様の語り方は一々癪に触る。そして多くの仲間を殺された事実に変わりない。これ以上は言わなくても分かるだろう?ここで去ね」
白竜の頬が膨らみ、男に向かって口から炎の玉が吐き出される。
そしてソレは男へ直撃ーーしたかに思えたが、煙が晴れても男は無傷の状態で笑って立っていた。
「クフフ、芸だけは達者なようですね」
「・・・どうやら大口を叩くだけはあるようだな。ならば容赦せずとも良いらしい・・・」
「いいえ。いくら貴女が本気を出したところで、私には届きませんよ」
「ッ・・・ならばコレを食らっても平気でーーッ!?」
白竜が大きく息を吸い込む途中、地面から出てきた竜よりも巨大な二本の黒い手に押さえ付けられてしまう。
「わざと食らってもよろしかったのですが、あまりにも欠伸が出てしまいそうなくらい遅かったので、止めてほしかったのかと思いまして。ですが、これでご理解してもらえたでしょうか?貴女では私には勝てない。傷を付ける事すら危うい」
「グッ、このッ・・・!」
白竜が抵抗しようと試みるが、腕一本すら動かせずにいた。
そして男はその白竜の横を素通りし、二匹の黒い竜の前に立った。
「さぁ、次はどちらが私の遊び相手をしてくれるので?」
両手を広げ、余裕の笑みを浮かべる男。
その男からは静かだが重い威圧が放たれていた。
すると傍観していた二匹の内、腕を組んでいた小さい黒い竜が両手を上げた。
「儂はパスじゃ。ワイバーンばかり狩っていると聞いていたからどんな暴れん坊かと思えば、とんだ化け物じゃないか。老い先ジジイに此奴の相手は無理じゃ。のう、黒神竜?」
黒竜が問い掛けたのは、その竜より一回り程大きい黒竜。
その黒い鱗の上には銀色の線が体をなぞるように浮かんでいる。
「了。では若くして神竜の称号を受け継いだ自分が相手になりましょう」
「神竜の名を・・・なるほど、貴女が」
「肯。その様子からして知っているようですね。先代の神竜の名を持った自分と同じ黒竜が、貴女の母に殺され、その竜の体から貴方が産まれた」
「・・・・・・」
さっきとは打って変わり、男の顔から笑みが消え、鋭い殺気が放たれる。
「正直、「アイツ」の話を持ち出されると腹が煮え繰り返りそうになる」
「肯。それは自分も同じです。そしてその者に産み出された貴方にも、少なからず怒りを感じている」
「ならばどうする?その少ない怒りで私に挑んでみるか?」
「肯。元から仇討ちという目的でここにいます」
「でしたら話が早い。和解などとヌルい事を言い出したら、どうしてくれようかと思っていましたが・・・楽しくなりそうで何よりです。クフフフフ・・・」
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