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ex 兵の訓練
しおりを挟む☆★ユウキ★☆
目の前の兵たちから「応ッ!!」と地響きが鳴るような返事が返ってくる。
あれ、ちょっと待って・・・実践式!?
変な冷や汗を他所に、嫌な予感が的中しない事を祈りつつナタリアさんにルールを聞いてみる事にした。
「あのー・・・実践式模擬戦ってどんな事をすればいいのでしょうか?」
「何、簡単な事ですよ。ユウキ様は魔族の大陸でしていた事を少し手加減して兵たちにしてもらえればいいです。厳密に言えば、木刀などではなく真剣で。あとできれば喉や心臓など即死するような場所に当てないようにし、尚且つ腕や足を切り落とすなどしないでもらえると助かります」
「めっちゃ注文多い!!それなら木刀で戦った方がいいでしょうよ!?」
「いえ、それだと緊張感が・・・」
「俺の緊張感!!」
アヤトじゃないんだから俺にそんな精密な動きを期待しないでくれ!!
すると頭を抱える俺を見たナタリアさんがクスリと笑う。
「なんですか、俺の姿が滑稽にでも見えましたか?」
「いいえ。ですがユウキ様はどうやら我らの兵を過小評価してるようでしたので・・・」
「え?」
「やってみれば分かります。とにかくユウキ様は死角からではなく正面から撃ってみてください。そうすれば分かりますので」
優しい笑みを浮かべたナタリアさんは兵たちの下へと行き、俺は少し離れた場所で待機した。
向こうでナタリアさんが説明をしたり檄を飛ばした後、兵たちは俺を正面に整列を崩して横に広がって構えた。
屈強そうなおっさんからひ弱そうな少女まで様々な人が混じっていた。
しかし体格はともかく、みんな覚悟を決めてこれから戦場にでも赴くような雰囲気と表情をしていた。
魔族大陸にいた時はアヤトや他の奴らがいたから中和されていた威圧を直に感じる。
数百と少なめだが、ソレを俺がたった一人で相手をするとなるとすくみ上がりそうになる。
実際隠してはいるが足や肩が震えている。俺はソレを緊張や恐怖ではなくただの武者震いだと自分に言い聞かせながら深呼吸して兵たちに向かい合う。
そうだ、こんな時はアヤトのあの表情を思い浮かべるんだ。
どんな絶望的な状況でも笑って何とかしてしまうあの笑顔を。
ニッと無理矢理笑って空中に剣や槍を出現させ、矛先を兵たちに向けて待機させる。
俺自身手持ち無沙汰なので、自分の身の丈くらいの大剣を目の前の地面に突き刺し、手を添えてそれらしく構える。
あれ、なんか楽しくなってきた?
ザッと数えて三十近い数の剣の出現を前に兵たちも動揺する。
「狼狽えるな!!言っただろう、相手は勇者だ!これくらいできて当然だと思え!!」
そこは流石ナタリアさん。その激昂で兵たちが落ち着く。
怖い怖い、まるで軍隊だ。
そしてナタリアさんが始めの合図の代わりの号令を掛ける。
「進めぇっ!!」
みんなが鬼のような形相で襲い掛かって来る。
訓練所が広いとはいえ室内。大の大人が走ってくれば数十秒でやってくる。
だったらこっちも惜しまず武器を発射する。
放たれた十発近い武器は先頭の人の目の前まで辿り着きーー
ガキンッ!
ーー全て弾かれた。
「いっ!?」
驚きと焦りで残り二十も放ってしまう。
しかしそれらも防がれ兵たちの勢いは衰える事なく近付いて来ていた。
ならばと空から兵たちの前の地面に向けていくつもの武器を放ち突き刺す。少しでも足止めをするためだ。
そしてそれは作戦通り左右に分かれる者とそのまま突き進む者の三分に分かたれる。
「なるほど。確かに私は死角からの「攻撃」と言っただけで足止めならば問題ないわけですね。流石です」
「言葉の抜け穴使っただけですよ。・・・そんで、ここからはもう少し本気で行きます!」
今度は武器ではなく大小様々の鉄球を三十近く浮かばせる。
それをそれぞれ十個ずつ飛ばす。
直線上では弾き飛ばされてしまうのも分かったので、全て不規則な動きをさせ、兵たちを惑わせつつ数を減らしていく。
ナタリアさんも避けるのに精一杯のようだ。
「なる、ほど・・・これはかなり厄介ですね・・・!」
しかしそう言いながらナタリアさんは吹っ切れたように突っ込んで来る。
やはり一筋縄ではいかないようだ。
目と鼻の先まで近付いて来たナタリアさんに、手に剣を持ち応戦する。
剣と槍が何度もぶつかる。
ナタリアさんの攻撃がギリギリなんとか見える程度。
だけど最初の頃よりかなり戦えるようになっている。・・・と、言えたらいいのだけれど。
ナタリアさんの剣戟は相変わらず重く、ぶつかる度に手が痺れ剣が弾き飛ばされてしまう。そして剣を再び生成、弾き飛ばされ、生成の繰り返し。
この力のおかげで凌げているが、本来なら既に決着など着いているような戦いだ。
これで前のようなビリビリを纏って来たらこの力でも勝ち目薄いんじゃないかと思う。
すると突然他の兵から横槍が入る。
「せやッ!」
「っぶねっ!?」
見ると他の兵からも囲まれていた。
鉄球はどうしたんだろうかと確認するとほとんどが止まっていた。
ああそうか、ナタリアさんとの戦いに集中してたから向こうが疎かになってたのか・・・。
ならーー
「隙だらけですよ、ユウキ様・・・!」
ナタリアさんが大振りで槍を振り下ろしてくる。
離れたものに集中できないなら近くに寄せて操ればいい。
その一撃だけを全力で受け止め、再び作った鉄球でナタリアさんを横から吹き飛ばす。
「グッ・・・!?」
ナタリアさんが離れ少しだけ緊張がなくなった内に呼吸を整え、周りに再び鉄球を出す。
「ふー・・・よしっ!ぶっ飛ばされたい奴から掛かって来いやぁぁぁぁぁっ!!」
ーーーー
結果ぶっ飛ばされたのは私の方でした。
元の部屋でぐったりと倒れる俺。
そりゃあね?魔力ある限り兵士さんたちに鉄球ぶつけまくりましたよ、はい。
でね?その魔力切れを狙ったかのようにナタリアさんが襲い掛かって来たらもう打つ手ありませんて。ありませんよね?ありません!
だから今日はもう一歩も動けない。動きたくない。働きたくないでござる。
汗を掻いて少し気持ち悪いがしょうがない。今日はこのまま寝ようと思う。
そう思って全身をふっくらな布団に身を任せようとすると誰かが扉を開けて入って来た。
またイリアだろうと思って対応する。
「ノックくらいしてくれよエッチ・・・」
「あ・・・申し訳ねぇですだ!お休み中でしたか?」
聞き慣れない声が聞こえた。
渋々ながらも上半身を起こすとそこには小さなメイドさんがいた。
やべっ、俺初対面の人に軽口叩いちゃった。
まぁ、初対面じゃなくても王女相手に軽口言ってる時点でアウトだけれども。
小さなメイドさんをマジマジと見る。
中学生辺りであろう容姿に黒髪ショート、黄色い目と小さく丸いケモ耳の生えた少女だった。亜人ってやつか。
その少女は目を合わさないように辺りを視線をキョロキョロと移動させて挙動不審になっていた。
この子を見るとアヤトのところにいたレナちゃんを思い出すな。
あとケモ耳というところからミーナちゃんとレナちゃんを二で割った感じだな。
「ゆゆゆ、ユウキ様!」
そんなくだらない事を考えていると、挙動不審な子がいつの間にか足元に来て裾をガッチリ掴んでいた。
・・・そういえば亜人は基本何かの動物がモデルとなってるらしいが、この耳は何の動物が元なんだろうか?
そしてなんだろう、この力強さは・・・!?
少女の口の中に見えた鋭く尖った歯が嫌な予感を加速させる。
「な、なんでしょうかお嬢さん・・・?」
「お、お嬢さんだなんて・・・ハッ!いえ、それよりもイリア様の命を遂行させていただくだ」
妙な方言が気になったが、それよりも気になる言葉が出てきた。
「イリアが・・・何て?」
「えっと確か・・・「どうせユウキ様は面倒臭がってお風呂に入らずそのまま寝ようとすると思いますので、もしそうだったら力尽くでも洗って差し上げなさい」・・・ですだ」
「おぉ、そうかそうか、君はイリアのモノマネが上手いね~」
「えへへ~♪」
「さぁ、イリアのところに戻って自慢してやるといい。俺はこのまま横になってーー」
「そこまで褒められたらこのクリララ、ユウキ様を全身全霊で綺麗にしてやるだよ!」
「えっ、ちょっ、まっ!?ち、違うから!別にそういう意味で褒めたんじゃなくてねそうか遠回しに言っても分からなかったみたいだだから素直に言わせてもらうけど今日は疲れて動けないんだそれにこんな小さな女の子に自分の体を洗わせるなんて罪悪感というか背徳感というか申し訳ない気持ちになるしほらよく言うじゃん今入らなくても起きた時とか朝入ればってそういう感じでいいかなと僕は思うわけですがあぁそんな引っ張らないで君のその小さな体のどこにそんな力がああはい自分で歩きますからそんな丸太みたいに担がないでなんでこの城の人たちってこんな異様にスルースキル高いのイヤァァァァァッ!!?」
言い訳や説得の言葉をまくし立てるように言ってみたが聞き耳を持ってもらえず、そのまま風呂まで拉致された。
待っていたのはその子以外のメイド服を着た女の子たちで、全身をまるで犬でも洗うかのように洗浄されたのだった。
もうやだお婿に行けない・・・。
その夜は枕を涙で濡らして眠った。
応援ありがとうございます!
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