182 / 303
ex
ex 昔話(前)
しおりを挟むアヤトたち魔城を出る数刻前、丸いテーブルを中心に囲むようにノワールたちが座り、近くに幼竜のベルが寝ている。
「・・・まさかこの顔触れで、殺し合い以外で合わせる事になるとは、想像もつかなかったな・・・」
無言の状態が続いていた中、ポツリと着物姿の女性がそう呟いた。
その意見に同意するように他の者たちも軽く笑う。
「ですね。ですが最近の話で言わせてもらえば、貴女以外は簡単に想像ができていましたが」
執事風の服装をした男、ノワールが足を組み薄笑いを浮かべて座っている。
「じゃのう。ノワールとヘレナは何の因果か、共に同じ主人に仕え、ノワールと儂はたまにではあるが交友関係にあった。この中で一番意外と言えたのはお主じゃな」
「肯。それもあの幼竜がいなければあり得なかったと言えます」
「・・・我が子の事か。母が子を思うのは当たり前だろう?」
「そうじゃな。ある意味、それが原因で今回の事態が悪化したとも言えるが・・・」
「ああ、そういえば貴女はあの女の口車に乗せられ、アヤト様に問答無用に襲い掛かったとか・・・それで手も足も出ずに負けたのでしょう?無様ですね・・・クフフ」
「負けてなどいない!途中で邪魔が入っただけで・・・」
「問。ではあのまま続けていれば勝てていましたか?」
「勝てていたさ!」
フンっと鼻を鳴らし、椅子の背もたれに寄り掛かる着物女。その様子は言葉とは裏腹に不機嫌だった。
「どんな規格外でも脆弱な人間である事には変わりない。一撃でも当たりさえすれば勝てる。それにあの人間がどれだけ強力な攻撃をして来ようとも、あの程度ならばいくらでも耐えられるーー」
「その程度であの方を殺せると思っているのなら、勘違いも甚だしい。本気を出していなかったとはいえ、この私を蹂躙してみせたあの方が、貴様如きに負けるわけないでしょう?見栄を張るな」
「・・・バカにするのも大概にしろよ?喧嘩を売ってるなら買ってやる、表に出ろ・・・今度こそ貴様を消し炭にしてやる!」
「落ち着け。全く、売り言葉に買い言葉ですぐに争おうとするな、大人気ない・・・」
「「チッ・・・」」
同時に舌打ちしてそっぽを向く二人。
「・・・まぁ、あれから大分経ったが、昔のようで最近のようで・・・こうしているのが不思議なくらいじゃな」
「ふん、不思議どころか本来あり得ぬ事だ。コイツとこうして話し合いの席に着く事自体など・・・」
「全くもって同意です。それにこのトカゲ・・・ヘレナの生命力がここまで高いとは、流石に計算外でしたよ」
「「・・・・・・」」
ーーーー
~ ???年前 ~
何もないどこまでも続くと思われる広大な荒地。
生物も植物もなく、山のように凹凸のある地が果てしなく広がっているだけの世界。
シトという神が干渉する前の自然な状態で、一般的な生物が居ようものなら、一瞬で干からびてしまう程の灼熱のような暑さや、凍死してしまうような場所がほとんどを占めていた。
そんな中、一部の場所では不自然な光景が広がっていた。
砂のみしか存在しない筈の荒地に、赤い血溜まりが四方数十百キロに渡って湖のように広がっていた。
至る所に肉塊が転がり、辛うじて形を残しているのは何かの翼や胴体のみだった。
その中の一箇所で生々しい音を響かせ、ほとんど肉塊となったものを念入りに潰している一人の姿があった。
黒いボロボロのマントを頭から被り、フードの中から少しだけ見える口の口角は上り、笑っていた。
「クフフ・・・最下種とはいえ、これも竜種の一つだと言うか?笑わせてくれる。竜や龍とはまた形を違えたワイバーン。いや、形だけではなく、意思疎通すらままならない知恵のない頭・・・魔物と呼んだ方がしっくりくるんじゃないか?クフフフフ・・・」
男は肉塊をグチャリと踏み付け、空を見上げる。
その視線の先には翼を広げた竜が数匹滞空していた。
「おや?「お仲間」が殺され、激昂でもしましたか?」
その竜に向かって挑発気味に問う男。
その問いに答えるかのように、三匹の竜が男の元へ下りて来た。
「所詮弱肉強食。しかし、ここまでバカにされて黙ってはいられんぞ・・・?」
白い巨大な竜が敵意剥き出しに唸り、他二匹は様子を見るように静かに傍観している。
「貴様・・・好き勝手に暴れ、我らが同胞を殺しているようだな、「原始の黒」」
「クフフフ、この世界に最初から存在していただけで大層な名が付けられたものですね。それに好き勝手にとは心外です。私を見掛けて仕掛けて来るのは、いつも貴方たちなのですが・・・さて、好き勝手に言っているのは一体どちらでしょう?」
「黙れ。貴様の語り方は一々癪に触る。そして多くの仲間を殺された事実に変わりない。これ以上は言わなくても分かるだろう?ここで去ね」
白竜の頬が膨らみ、男に向かって口から炎の玉が吐き出される。
そしてソレは男へ直撃ーーしたかに思えたが、煙が晴れても男は無傷の状態で笑って立っていた。
「クフフ、芸だけは達者なようですね」
「・・・どうやら大口を叩くだけはあるようだな。ならば容赦せずとも良いらしい・・・」
「いいえ。いくら貴女が本気を出したところで、私には届きませんよ」
「ッ・・・ならばコレを食らっても平気でーーッ!?」
白竜が大きく息を吸い込む途中、地面から出てきた竜よりも巨大な二本の黒い手に押さえ付けられてしまう。
「わざと食らってもよろしかったのですが、あまりにも欠伸が出てしまいそうなくらい遅かったので、止めてほしかったのかと思いまして。ですが、これでご理解してもらえたでしょうか?貴女では私には勝てない。傷を付ける事すら危うい」
「グッ、このッ・・・!」
白竜が抵抗しようと試みるが、腕一本すら動かせずにいた。
そして男はその白竜の横を素通りし、二匹の黒い竜の前に立った。
「さぁ、次はどちらが私の遊び相手をしてくれるので?」
両手を広げ、余裕の笑みを浮かべる男。
その男からは静かだが重い威圧が放たれていた。
すると傍観していた二匹の内、腕を組んでいた小さい黒い竜が両手を上げた。
「儂はパスじゃ。ワイバーンばかり狩っていると聞いていたからどんな暴れん坊かと思えば、とんだ化け物じゃないか。老い先ジジイに此奴の相手は無理じゃ。のう、黒神竜?」
黒竜が問い掛けたのは、その竜より一回り程大きい黒竜。
その黒い鱗の上には銀色の線が体をなぞるように浮かんでいる。
「了。では若くして神竜の称号を受け継いだ自分が相手になりましょう」
「神竜の名を・・・なるほど、貴女が」
「肯。その様子からして知っているようですね。先代の神竜の名を持った自分と同じ黒竜が、貴女の母に殺され、その竜の体から貴方が産まれた」
「・・・・・・」
さっきとは打って変わり、男の顔から笑みが消え、鋭い殺気が放たれる。
「正直、「アイツ」の話を持ち出されると腹が煮え繰り返りそうになる」
「肯。それは自分も同じです。そしてその者に産み出された貴方にも、少なからず怒りを感じている」
「ならばどうする?その少ない怒りで私に挑んでみるか?」
「肯。元から仇討ちという目的でここにいます」
「でしたら話が早い。和解などとヌルい事を言い出したら、どうしてくれようかと思っていましたが・・・楽しくなりそうで何よりです。クフフフフ・・・」
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。