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夏休み
最初の街
しおりを挟む「鑑定屋?」
「はい!」
あの後結局何事もなく布団から這いずり出て、朝食兼昼食を食べていると、カイトが鑑定屋という店に行きたいと言い出した。
その表情は遊園地に行く子供のようにキラキラと輝いていた。
「何だそれ?」
「スキルですよ!」
・・・ん?あれ?
質問の回答になってないと思うのは俺だけ?
それともスキルと関係してると言いたいのか?
「もうちょい分かりやすい説明頼む」
「ではその先からは私が説明致しましょう」
突然後ろからノワールに声を掛けられた。
「ああ、帰ったのか。って、監視は?」
ノワールにはガーランドを監視するよう言っておいたんだが・・・まさかノワールがサボった?
「ご心配には及びません。あの者には「影」を忍ばせてありますので。何かあれば盾になり、真っ先に私に報告が来るようにしてあります」
「へー、便利だなー・・・」
興味はあまりないが、そう答えておく。
ノワールは少し嬉しそうにしながら、一礼して話の続きをし始める。
「先程カイト殿が言っていた鑑定屋とは、その者が無意識に所有しているスキルを鑑定し、明らかにする場所です」
「無意識に所有?ってどういう事だ」
俺の問いにノワールは顎に手を当て「ふむ・・・」と考え込む。
「アヤト様はスキルをお使いになった経験は?」
「ん?あー・・・ヘレナに貰った竜神の咆哮だけだな」
チラッと横にいるヘレナを見る。
昼飯に作った焼き立てのパンを未だに口に頬張りながら、自分の話題が出て気になったのか俺たちの方を見て首を傾げていた。
「そうでしたか、でしたら知らないのも無理はありません。スキルとは本来合図やお知らせなどなく、知らない内に取得しているものなのです。それらを明確にし、詳細を提示していただけるのが鑑定屋という場所です」
「へぇ、なるほど・・・でもそれって当てずっぽに発動してみればいいんじゃないか?」
「クフフ、分かってて質問するとは、意地悪な主人ですね」
そう言いながらノワールは楽しそうに笑う。
最近ちょっとだけだが、ノワールのツボを理解してきた気がしていた。だから今のような分かりきった質問をたまにしてみたりするのだ。
「確かに「もしかしたら」という気持ちでスキルを発動させてもよろしいですが、身の丈に合わないスキルを発動させればどうなるかは分かりますか?」
「俺が知ってるのは、全身筋肉痛で地べたに寝っ転がる学園長の姿だけだな」
「フッ、無様ですね・・・ああいえ失礼、口が滑りました。ですが全身が硬直して動けなくなる、はまだ序の口です。スキルの中には偶然強力なスキルを手に入れてしまう場合もあります。例えば、それが小さな虫ケラ・・・人間の子供だとします。その子供が何の知識もありませんでしたが、偶然スキルの事を知り、偶然その身にスキルを宿しており、偶然それを発動させてしまった。すると鍛錬をしていないどころか、まだ身体が仕上がっていないその子供の心臓はその負担に耐えられずに死・・・など。他にも似た面白い事象が多々ありますが・・・このままですと話がズレてしまいますね。端的に言いますと、効率良く、そして安全確実にスキルを使うためのお店です」
「・・・おう」
サラッと毒舌を混ぜたセールストークのような説明をしてくれるノワール。
分かりやすい例えだったのは確かだが、その対象を子供にして面白い事象とは・・・流石だわ。
俺は若干だが、近くにいたカイトたちがかなり引いていた。
そのカイトに抱き付いているチユキに至っては「凄い喋ってるわ~!」とか言いながら足をバタつかせながら大爆笑してる始末。
あっ、ちょっとノワールが不機嫌になってる。
「そこにカイトたちは行きたいと?」
「えぇまぁ、あれだけ扱かれたから、一つくらいスキルが使えるようになってるんじゃないかって思いまして」
「・・・さして長期間やってないんだがな。まぁ、行くくらいならいいけど」
ーーーー
っていう事で。
俺たちはカイトが言っていた鑑定屋に行くため、サザンドに戻って来ていた。
なんでそんな学園から離れた街に戻って来たかと言うと、そもそも鑑定屋自体が少なく、一番近い場所がここだったからだ。
付いて来たのはミーナ、メア、フィーナ、カイト、レナ、ラピィ、シャード、イリーナ、そしてシトである。
「・・・いや、なんでお前まで付いて来てるの?」
何食わぬ顔で付いて来たシトに思わず問い掛ける。
シトが一緒にスキルの確認をしに来たというのは考え難い。だとしたらただの冷やかしになるんだけど。
「知ってるかい?僕って暇なんだ」
・・・ホントにただの冷やかしだった。
「何しに来たんだよ、一体・・・」
「まぁまぁ、良いじゃないか。君がいないと舌打ちされたり睨まれたりして肩身が狭いんだよ、僕は」
「だったらランカみたいに引きこもってれば?アイツ、部屋を割り当ててから必要な時以外部屋から出て来ねえし」
「いやー、ジッとしてるのは性に合わなくて。それに、元々君と行動を共にしたいからこっちに来たんだしね?」
「・・・そうかよ」
シトの言葉を適当に流し、他に気になる奴らに目を向ける。
「ラピィはともかく、イリーナやシャードも確かめたかったのか?」
二人が同時に頷き、先にイリーナが口を開く。
「戦闘面はともかく、家事スキルに少し期待を持たせております」
「私は薬品関係だ。こんな機会滅多にないだろうしな、便乗するしかないだろう?」
「ハッ、そこは流石と言うところだな」
言葉からして最初から金も出してもらうつもりだったんだろう、イリーナはともかく堂々と言葉に出したシャードの図々しさに思わず鼻で笑えてしまう。
「しかしまさか戻って来る事になるとは・・・」
「そういえば、師匠が冒険者登録したとこがここなんでしたっけ?」
「ああ。更に言えばこの世界に来て初めて来た街だ」
「へぇ、あんたが初めて来た街ねぇ・・・なんと言うか、随分面白い偶然ね」
フィーナが辺りをキョロキョロと見回しながら言う。
ちなみにここでは変装しなくてもいいので、フィーナは素の状態でいる。
「あ?何がだ?」
「だってここは他より差別がないんでしょ?亜人だけじゃなくて魔族もチラホラと普通にいるし。種族関係なく受け入れてるとか、まるであんたみたいじゃない」
フィーナの言葉に「ああ」と言って納得する。
ここでは多少のいざこざは起こっても、三種族が混ざって人間以外も堂々と暮らしている。俺たちが暮らしているあの屋敷のように。
「そう言われればそうだな。人間も亜人も魔族も、お互い知人友人のように接してる珍しい街だな。・・・そうだな、あの学園を卒業したらこの街に住まないか?」
少し微笑んでフィーナに提案する。
その言葉を聞いた直後、フィーナの顔が突然ボッと赤くなり、そっぽを向いてしまう。
急にどうしたんだ?
するとメアがニヤニヤしながら肩を組んで来た。
「アヤトー、今のって聞き様によってはプロポーズっぽくねえか?」
「あん?そんな筈ーー」
ーーそうだな、、あの学園を卒業したらこの街に住もうか?ーー
「ーーあるな」
「あるに決まってるでしょ、このバカ!変態!女ったらし!後先考えないマヌケ!!」
「おいおい、やめてくれよ。そんな罵倒されたら心が折れちゃうだろ?」
なんて言いながら既に心が折れかけ、orz状態になっていた。
更にはフィーナが「通行の邪魔になるから道の真ん中でやるんじゃないわよ」と言って追い討ちのようにゲジゲジと蹴って来た。
何コレ?SMプレイ?そんなの俺は望まない。
そんな中、誰かに呼び掛けられた。
「おや?貴方は・・・アヤト様ではありませんか?」
俺の名前を呼ぶ男の声。
どこかで聞いた事のあるその声の主は正面に立っていた。
顔を上げると白髪白髭の老人が立っていた。
この街のギルドの長、ハルトだった。
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