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夏休み
鑑定屋
しおりを挟む「あんたか。久しぶりだな」
「ん、お久」
「えぇ、アヤト様とミーナ様も・・・イリーナ様も随分お久しぶりでございます」
ハルトとイリーナが互いに頭を下げる。
「・・・覚えていらっしゃったんですね」
「えぇ、勿論。第一印象が衝撃的でしたからね」
ハルトは何かを思い出したらしく、押し殺すような笑いをする。
・・・気になる。
「何かやらかしたって事か?」
「やらかした・・・えぇ、確かにその言葉がぴったりかもしれませんね。この方に詳細を教えても?」
「構いませんよ。元々恥じた事だとは思っておりませんし」
何かの許可をもらったハルトは、コホンと咳払いをする。
「イリーナ様が初めてギルドに訪れた時の事ですが、受付に辿り着く前に素行の悪い冒険者様方に目を付けられてしまっていたのです。イリーナ様のようなお美しい方がギルドに来られると良くある事だったのですが、私がいつも通り止めようと仲裁に入る前にイリーナ様がその方々を武力行使で倒してしまわれたのです」
「あー・・・」
この前の俺じゃないですかやだー。
「そしてその後の試験はアヤト様と同じく満点合格、素材採取も「適当に採って来た」と高ランクの魔物の素材をお持ちになられたのです。これだけの事をなされれば忘れられる筈がありませんよ」
「ハッハッハ、なるほど。と言う事は俺も「忘れられる筈のない人物」に入ってるわけだ」
「勿論でございます」
キッパリと言われ、もはや乾いた笑いをするしかなかった。
「それにしてもアヤト様は随分お変わりになられましたね」
「そうか?久しぶりっつっても、そこまで変化する程じゃなかった気がするけど」
「いえ、お姿というか、何というかこう・・・馴染んでいるという感じが」
「え?・・・あぁ、この格好の事か。確かにあん時は学生服着てギルドに行ったもんな。ま、今じゃそのギルド稼業でちゃんと稼いで服も買えるようになったんだが」
「そうでしたか。・・・学生服という事は、アヤト様はどこかの学生で?」
「まあな。ルノワール学園ってとこだ」
「あのルビア様が治めておられる学園ですか。アヤト様なら大層ご活躍している事でしょう」
そう言って優しく笑うハルト。
うん、期待させてるとこごめんね?活躍どころか迷惑しか掛けてないんだ・・・。
「あ、今更ですがお引き止めしてしまってすいません。何がご用があってこちらにお戻りになられたので?」
「ああ、鑑定屋がこっちにあるって聞いてな」
「そうですか、スキルの鑑定で・・・こちらの皆様も?」
「はーい!そーでーす!」
ラピィが元気良く手を挙げ、ハルトは軽快に笑う。
「元気が良いですな。皆様もルノワール学園に?」
「いや、何人かは違う。まぁ、成り行きの関係だ」
「ホッホッホ、そうですか。・・・アヤト様は強いだけではなく、誰であっても偏見なく付き合う事のできる心の優しい方のようですね」
そう言って優しい笑顔をフィーナに向ける。
フィーナは恥ずかしそうに頬を薄赤く染め、フンッと鼻を鳴らしそっぽを向く。
「ところでアヤト様は先日SSランクになったとお聞きしましたが」
「およ?もう知ってんのか」
「ええ、それはもう、これでも一応ギルドの長ですからね。冒険者やギルドに関する情報はすぐに入ってきます。それに冒険者の中ではSSランクはまだ数える程度しかおりません。そこに新たに一人が加わったとなれば、その噂は風に乗りすぐさま各国に広がるでしょう」
ああ、受付のお姉さんが言ってた「これから大変な事になる」ってのはそういう事か?
「やだなー、めんどいなー・・・」
「フフッ、有名になるのを拒むのはアヤト様くらいですね。・・・さて、老人の長話に付き合わせてすみません。せっかくの休暇をゆっくりお過ごしください」
「ああ、またこっちのギルドにも寄らせてもらうよ」
ハルトは律儀に一礼すると、その場から去って行った。
「あの人がここのギルド長ですか」
「凄く、優しそう・・・」
「だよね!まさに老紳士って感じで!」
「そう?ただの老いぼれでしょ、あんなん」
「いやー、ハルト君かー。あの子も前見た時よりは確かに老いたねぇ・・・ホント、人間ってのは少し見ない間に変わるものだ」
そんな雑談しながら鑑定屋に到着する。
ただ外装がまるで占いでもしていそうな胡散臭さを放っているのだが・・・。
それは俺だけじゃなく、全員がそういう不安を抱えたような顔をしつつ中に入る。
すると入ってすぐに足場が無いほど紙で埋め尽くされており、少し奥に置かれた机に誰かが足を乗せて居眠りしているのが分かった。
「・・・・・・ぐう」
鼻ちょうちんが膨らみ、完全に爆睡してる事が見て取れる。
部屋は暗くソイツの特徴は掴み辛かったが、露出度の高い服と胸で性別が判断できてしまった。
「おーい、誰かいるかー?」
いると知りながら近くにあるものにコンコンとノックするように音を立て、寝ている女に向かって言ってみた。
俺の声に反応して女の鼻ちょうちんが割れ、「フガッ!?」と変な声を出して後ろに倒れ、大量の紙の中に埋もれた。
バッと起きて凄まじい勢いで周囲を見渡す。
「な、何?何!?集金にはまだ時間があるんじゃぁないかな!?」
「集金って何の話だ?俺たちは客だ」
「え、あ、え?・・・はぁ、いらっしゃい」
女が何やら辺りを手探りし始めると暗かった部屋が明るくなり、その明かりに照らされたその姿がハッキリと見える。
手入れされてないボサボサの短い金髪で片目が隠れ、身の丈に合わないダボダボの白衣とシャードと何ら変わらない巨大な胸、同じくダボダボのズボンを履いていて、周囲の状況からも酷くズボラなのがよく分かる。
「・・・あんたの反応で普段のこの店の様子が分かったわ。今この部屋を暗くしてる理由も」
「・・・え、何、冷やかし?」
「言っただろ、客だ。むしろあんたが商売する気あるのか聞きたいんだけど・・・ここでスキルの鑑定してくれるんだろ?」
「お客さんだったんだ?ごめんごめん、随分久しぶりだったから信じられなくて」
アハハーと笑う女。
収入が無くてどうやって生活してんだろ、コイツ・・・。
「ここは初めてだよね?一応挨拶しとくと私はベルネ、知ってて来てると思うけど、ここでスキルの詳細を相手に教える商売をしてるよ。・・・にしても、鑑定は少し高いけど大丈夫?」
「金は問題ない・・・と思う。どれだけ掛かる?」
「一人銀貨十五枚だよ」
「それが七人だから銀貨百五枚か、もしくは金貨一枚と五枚になるのか」
「おぉ、計算早いね。って九人じゃないの?」
体を傾けて俺の後ろにいる奴らを見渡すベルネ。
「あ、僕はやらないよ」
「だと思った」
シトの発言が即答で返される。
恐らく見た目が一番子供っぽいからという消去法だろう。
少しだけ拗ねたように頬をプクリと膨らませるシト。
「あと俺もやらね」
「え、師匠もですか!?」
「ああ、必要ないし」
「へぇ、スキルを必要ないとな・・・自分の力に自信があるのかな?・・・まぁいいや、それでやるの?私が言っちゃうのもアレだけど、結構値が張ってると思うんだけど?」
「やってくれ」
間を置かず答えるとベルネの目が見開き驚き、それはすぐに笑みに変わる。
「太っ腹だねぇ~、君どっかの貴族か何か?金貨一枚以上を迷わず払うなんて。みんな値段聞いたら悩むだけ悩んで逃げてくのに」
「ただの冒険者だ。まぁ、他より稼いでる自覚はあるが」
「そうなんだ?へぇー、ふぅーん?まぁ、払ってくれるんならそれでいいんだけどね。あ、銀貨ピッタリで出してくれる?今手持ちか無くてお釣りが出せないんだ」
「問題ない、先払いで渡しとくぞ」
近くの机に金貨一枚と銀貨五枚を置く。
「おぉ、言う前に出してくれるなんて、君は本当に良い人なんだね。さっきの続きを言うと、一回払うなんて言った後やるだけやって逃げたり、ツケだって言って誤魔化そうとする人なんてザラだからね、助かるよ。もし今後もここに来るようなら、君たちをご贔屓にするよ」
「それはありがたいな。だったら、また次誰かをここに連れて来るよ」
「ハハッ、冗談のつもりだったけど、言ってみるもんだね。それじゃあ準備するからちょっと待ってて」
ベルネはそう言って辺りにある紙を片付け始めたーーかと思いきや、更に散らかし始めていた。
「えーっと、コレでもない、アレでもない」と呟きながら漁っている。
「あぁ、あったあった!コレコレ、それじゃ、ちょっとそこの机の前まで来てくれる?」
何やらファイルのようなものを手にして机の上に置き、ボスンと椅子に思いっ切り腰を落とした。
その机の前に全員が集まる。・・・いや、シトだけは物珍しそうに落ちてる紙などを眺めている。
「さて、まず誰からやる?」
「じゃあカイトで」
「えっ!?」
俺の即答に驚くカイト。
「いや、だってお前が一番来たがってたじゃねえか。だからお前が最初だと思うが?」
「俺は最後でいいぜ」
メアは近くにあった空いてる椅子を借りて座り、気怠そうに頬杖を突いた。
いつも積極的なメアにしては珍しい。
「まぁ、順番はそっちで決めてくれ」
「ま、私も別にどうでもいいから、とりあえず先にカイトやりなさいよ」
フィーナに促され、少し浮き足立ったカイトが前に出る。
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