最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

文字の大きさ
121 / 303
夏休み

途中参加

しおりを挟む


 ふわりと白い髪をなびかせ、白い少女がダンスを踊るような軽やかな足取りである部屋に向かっていた。
 そのチユキが目的の場所であろう部屋前の扉で立ち止まると、ニヤリと妖しい笑いを浮かべ呟く。


 「なーんか、随分面白そうな事になってるじゃない?」


 扉を開けると何の面白味のない部屋に一つ、異常なまでに目立つ空間の亀裂が、不自然な程にそこにあった。
 チユキの後ろから遅れてヘレナやイリーナがやって来た。


 「疑。これは一体何事ですか?」

 「判断材料が少ないですが、ここが旦那様のお部屋という事を視野に入れれば、アヤト様が何かをしている、もしくはと推測できるでしょう」

 「問。アヤトの身に何かが、ですか?」

 「・・・ただのメイドの・・・いえ、武人の勘とでも思ってくださいませ」

 「いいえ、多分貴女の言ってる事はあるってるわ。この部屋にアヤトの残留魔力が残ってる。かなり薄くなってきてるけど、この魔力の残り方・・・彼はきっと今暴走しているでしょうね、グフフフフ」

 「それって・・・どういう意味だ?」


 中に入ったチユキたちの後ろの扉から顔を覗かせるメア。
 その表情は信じられないものでも見ているかのように焦燥に駆られていた。


 「あら、みんなと一緒にいてって言ったのに・・・まぁいいわ。言葉通りよ。この部屋に充満してる異常な魔力の残留から、彼はきっと自我を失くして暴走しているわ。・・・でね」


 そう言って空間の亀裂を指差す。
 いつもアヤトやノワールが使用していた裂け目が、その時だけは不気味に見える。


 「暴走って・・・なんとかなるのか?」

 「さぁ?行って確かめてみる?クフフ♪」

 「そりゃあーー」

 「告。メアはやめておいた方がいいと忠告します」


 ヘレナがメアの言葉を遮り、いつもより険しい顔でメアを見る。


 「なんでだ!?」

 「解。アヤトの実力を少しでも知ってるメアなら理解していると思っていましたが?その彼の力が制御できずにいるというのは、とても危険な状況なのです」

 「でも・・・でも・・・」


 子供のように目に涙を溜め、何としてでも付いて行こうと言い訳を探すメア。
 そのメアの手をチユキが握る。


 「いいじゃない。どんな危険があってもあの子に会いたいんでしょ?」

 「あ・・・うん・・・」


 単純な理由だとバレたメアは顔を赤くして俯いた。
 それに納得したヘレナは「あぁ・・・」と呟く。


 「肯。会いたいのであれば仕方ありませんね」

 「えぇ、そうね。・・・でも姿が人のままだとは限らないから、心の準備だけはしておいてね」

 「姿が人じゃないってどういう・・・?」

 「そうね・・・もしかしたらドロドロって溶けかけたゾンビみたいになってたりしてね♪」


 嬉しそうにクフフと笑い、裂け目の中に入るチユキ。
 続いてヘレナとイリーナが入って行く。


 「告。チユキの言葉を真に受けなくていいです。確かに姿は変わるかもしれませんが、魔力の暴走で体が腐る事などないですから」

 「ですが、「それがどんな姿であろうと気を確かに」という事を言いたかったのでしょう。・・・あの方なりの励まし方かと」

 「ハハッ、イリーナさんは前向きだなー・・・」


 そう呟きながら亀裂に入る事を躊躇したメアだが、一呼吸して覚悟を決めると確かな足取りで入って行った。


 ーーーー


 数秒の暗闇。果てに導くような光が見え、周囲の暗闇が晴れる。
 その先に見た光景はーー


 「グロォォォォォォォ!!!」

 「・・・なんだよ・・・コレ・・・!?」


 体の至る所を金色の鎖で拘束され、剣の形をした光に貫かれている竜に似た巨大なナニカが、ひたすらにもがき暴れ周囲を破壊していた。
 周囲には囲むようにココアたちが空中に、地面にはノワールとシトが、そして竜が二体と頭部が三つある巨大な犬がいる。
 その全員が拘束されているナニカへ敵意を向けていた。
 その光景にメアが直感で気付く。


 「アレが・・・アヤト?」

 「みたいね。もう自我のカケラもない、ただの魔物ね」


 その言葉にカッとなったメアはチユキの肩を掴んで揺らす。


 「どうにかする方法はないのかよ!?まさかあのままとか言うんじゃないだろうな!?」

 「あるわ。そしてきっと今、息子たちがソレを実行しようとしてるわ」


 そう言って白と黒の竜を指を差す。


 「・・・というわけで、私もあの中に混ざるわ。貴女はヘレナとイリーナに任せるから♪」


 チユキは嬉しそうに笑いながら砂煙だけを残し、その場から姿を消した。
 同時にアヤトだったものの首元までが一瞬で凍り付き、獣のような咆哮が響く。


 (おいおい・・・死なねえだろうな、アレ・・・?)


 ハラハラとしながら見守るそんなメアの中で、ぐじゅりと何かが音を立てる。


 ーーーー


 「フン、貴様も来たのか」


 チユキの姿を見てノワールがそう言って舌打ちする。


 「来てほしくて開けっ放しにしてたんじゃないの?クフフ・・・」

 「勘違いするな、「来てほしい」のではない。「居れば足しになる」だけだ」

 「これがヘレナが言ってた「ツンデレ」ってかしら?」

 「いや、君にデレてないからただのツンだね。ツンノワールとでも命名しようか」


 するとチユキの足元に穴が開き、ストンと落ちる。
 チユキが落ちた先はアヤトの顔の目の前で、突如現れたソレをアヤトは大きな口を開けて食べようとした。


 「えっ、ちょーー」


 ーーバクンッ!

 とアヤトの口が素早く閉じた。


 「ちょっと何やってるの君!?あの子援軍なんだよ!?」

 「人の神経を逆撫でするような援軍はただの足手まといにしかならん。それにアヤト様の胃袋に収まる事ができるんだ、アイツも光栄だろう」

 「無茶苦茶な理屈だね・・・」

 「ホントよ、もう!」


 いつの間にかチユキが片腕を失った状態でシトの後ろに現れた。


 「あ、間に合ったんだ」

 「片腕食べられちゃったけど。母親に随分と酷い仕打ちをするものね?」

 「自業自得だ」

 「むー・・・ふぅ、まぁいいわ」


 チユキはそう言って残ってる方の手でパチンと指を鳴らす。
 その音を合図にアヤトの頭部が凍る。


 「食われた手を媒介に術式を発動させたか」

 「外から凍らせても意味が無くても、中から凍らせれば結構持つんじゃないかしら?」

 「そんな単純な話だったらいいんだけどね・・・」


 パキリと。
 大きな音を立ててアヤトを凍らせている体と頭の全ての氷にヒビが入り、瓦解し始めた。


 「・・・早いわねー」

 「チユキちゃん、氷の追加お願ーい!」

 「はーい♪」


 陽気でテンションの高い二人。
 その様子を見て、溜息を吐いて逆に気分が下がり気味のノワール。


 「貴様らの近くにいるだけで疲労を感じるというアヤト様の気苦労をこの場面で理解してしまうとは・・・」

 「だっていくらシリアスな場面って言ったって、暗い気分でアヤト君を押さえるなんて無理じゃない?」

 「無理よねー・・・あっ、もう割れそう。コレを何時間も続けるなら気分は大事よね。えい!」


 可愛らしい掛け声で再びアヤトの体を厚い氷で覆う。


 「・・・ところで一つ疑問があるんだが」

 「ノワール君からなんて珍しいね。何?」

 「私のスリーサイズならカイト君にしか教えないわよ?って言ってもまだ測ってないんだけど」


 チユキの軽口をノワールは無視する。


 「貴様らは「何」を連れて来た?」

 「「何」って・・・「誰」じゃなくて?」


 するとシトたちの後ろの茂みから、ガサリと音が鳴る。
 現れたのは、俯いたメアだった。


 「あー・・・そういう事。確かにアレは・・・「何」だろうね?」


 アハハと誤魔化すように笑うシト。
 ゆっくりと茂みから出て来て顔を上げたメアの目は薄く黄色く光り、黒いモヤが体から溢れ、その手には刀が握られていた。


 「・・・キヒヒ♪」
しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。