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夏休み
終わりは突然に
しおりを挟む「おや・・・確かにメア殿から不穏な気配を感じる。稀に感じるコレは・・・」
「魔人ってやつだね」
「肯。「魔を宿す人」、ですか」
「へぇ、ウルちゃんルウちゃんみたいな魔神とはまた別なのね。・・・なんだか変な感じね?」
その様子を見て感想を述べてる間にもメアは着実に近付き、刀を鞘からゆっくりと抜く。
「そもそも元凶っぽい雰囲気を出してるあの刀ってどこにあったの?」
「・・・確かに。アレはアヤト様からメア様へ譲渡された物ですが、アヤト様が危険物だと言って再び没収した筈です」
「あ、口調元に戻った」
「アヤト君がまた返したとかじゃなくて?」
「いえ、そもそもここに来る直前までは何もお持ちではありませんでした」
ノワールたちの会話にイリーナが割って入る。
「結局ここまてで連れて来ちゃったの?」
「言葉が伝わっていないようでしたし、下手に手を出すわけにもまいりませんから・・・」
「え、いいんじゃないーーってそうか、メアちゃんに傷でも付けたらアヤト君怒りそうだね」
「はい。それにこの状況と先程の爆発、どこにいても安全ではなさそうでしたので」
「ああ、そうだね。状況が見えない場所で隠れてるより、ここにいた方がイリーナ君ならどうとでもできるだろうしね」
「それは過大評価でございます」
イリーナが持っていた杖を構え、殺気を放つ。
その相手はメア。
しかしメアはその威圧に少し反応を示しただけで、変わらない足取りでアヤトの方へ進んで行く。
「効果無し、のようです」
イリーナは肩の力を抜き、小さく溜息を零す。
「意識がないわけじゃないみたいだけど・・・見事に見向きもしないね」
「・・・ねぇ、ちょっと見てよ」
チユキが指差したその方向には、アヤトがメアを見つめたまま動かなくなっていた。
「「そして彼らは一歩ずつ近付き、誓いのキスをーー」なんてね」
「ふざけているのか、貴様?」
「ふざけているのさ、竜様♪」
シトの冗談に白い竜が歯を剥き出しにして唸る。
その間にもメアはアヤトに向かって一歩ずつ進んでいた。
「お、おい、放っておいていいのかアレは!?」
「ふむ・・・だがしかし、さっきまで暴れていたアヤトが大人しくしとるぞい?」
「メア殿をメア殿と認識してる・・・それはつまりアヤト様の意識が回復してるのでしょうか?」
「と、いう事は・・・そろそろ底が見えてきたかな?」
シトは遠くを眺めるような仕草でアヤトを見る。
すると確かにアヤトの息が微かに荒くなっているのが分かった。
それでも尚アヤトは動かず、少しずつ確実に近付いて来るメアを見つめ続けている。
「キヒヒッ♪」
メアの方は奇妙な笑い方をしながら妖美な笑みを浮かべて尚も近付いている。
そして遂にアヤトの足元に辿り着くと、頬を薄く染めたメアは刀をアヤトに向かって突き立てる。
「・・・えっと、アレってもしかしなくてもアレだよね?」
「「・・・・・・」」
シトの疑問に全員が沈黙して見守る中、メアがアヤトの前足に刀を突き刺した。
その行為に対しアヤトは叫ぶでも抵抗するでもなく、ただゆっくりと目を閉じる。
同時に、メアが刺したアヤトの前足から黒い煙が噴き出し、巨躯な体が風船のように萎んでいく。
「えっ、何その裏技!?アヤト君の魔力が根こそぎ持ってかれてるんだけど!?」
「あの刀が斬った場所から魔力を放出させているようですね・・・恐らくあのような能力は作り出したアヤト様自身も知らないでしょう」
「という事は直感でやったのかしら?・・・もしくは、武器が教えてくれた、とか?」
「告。メアのあの様子にも関係あるかもしれません」
「何にせよ、予定より早く終わって良かったよ・・・」
そう言ってシトはやり切った感満載の笑顔をして大の字で地面に寝転び、ノワールも魔術を解除し両腕をダラリと下に下げる。
「クフフフ、貴方のそんな余裕のない姿は珍しいわね」
「「余裕のない」?バカを言え、まだ貴様を殺せるだけの余裕は残っている」
「その余裕はまだ残しておけ。全てが終わったとは限らんからのう」
ノワールの軽口に釘を刺す黒い竜の言葉を受け、全員がアヤトたちに視線を戻す。
メアが刺している場所から出ている黒い煙は更に増し、爆発するように一気に噴き出し、辺りに黒い霧のようなものが充満する。
「ぶわっぷ!?濃い魔力が一気に出てきた!なんかもう泥水を直接掛けられたみたいだよ・・・」
「泥はないが・・・酷い顔だな」
「君たちは竜の姿になってる時はいいよね、乱れるものがないもの」
「ホントねー、髪が傷んじゃうじゃない」
チユキが口を尖らせ文句を言いながら、手を櫛の形にして髪を梳かす。
そうして軽く雑談をしてる間に辺りに満ちていた黒い霧が段々と霧散し、景色が晴れていく。
その向こうにはメアと、人の姿に戻ったアヤトが立っていた。
「うわー、腕に刺さったままだぁ・・・」
メアが持っている刀がアヤトの腕に痛々しく刺さったままになっている状態を見て、シトが口に手を当てて小さく呟く。
「・・・アヤト君の腕に、というかあの体に刺さる武器があるのね?」
「アレは旦那様がお作りになった業物でございますから。なればそれが旦那様に通用するのは道理かと」
「アヤト君自身が自分に対する特攻武器作っちゃったのかー・・・」
「ならばあの武器を奪えばあの小僧を殺せる・・・?」
「そんな都合の良い話があるわけないだろう?見ろ」
ノワールが顎でクイっとアヤトたちの方を示すと、メアの持っていた刀が粒子の粒となって消えていってしまっていた。
「アレは空間魔術・・・?」
白竜の呟きに頷くノワール。
「ーーに似た何か。どうやらメア殿も六属性以上をお持ちのようですね」
ふらりと。
糸が切れたように力が抜けて倒れ込むメアをアヤトが受け止める。
しかしそれは受け止めるというより、虚ろな目をして意識朧げに佇んでいるアヤトに寄り掛かっているというものだった。
ーーーー
☆★アヤト★☆
熱い・・・苦しい・・・。
まるで喉が焼けるようだった。
ここはなんだ・・・暗くて何も見えない。
みんなはどこにいる?
周囲を見渡しても暗闇ばかりで足元さえ見えない。それどころか立っているという感覚さえない。
このフワフワとした感覚・・・夢、か?
少しずつ頭が冴えてくる。
自分の体調がさっきまで悪かった事も。
そうだ、俺は確か自分の部屋で寝ようとしていた筈・・・それから・・・?
記憶が途切れていた。
シトたちと出会い何か話して、フィーナの世話をココアに任せようと念話をしようとして・・・その後から覚えてない。
そうか、俺はぶっ倒れたのか。
その結論に至る。
ただ、夢の中というにはあまりにも思考がクリアになり過ぎている。
そう、夢のというよりシトと出会った時のような・・・。
ぐちゅり。
何かが足に纏わり付く。
下を見るといくつもの血塗れの手が地面から生えていた。
それだけではない。ペタペタと俺の体中に触れて来る。
コイツらは・・・なんだ?
ソレらは耳元で何かを囁く。
「よくも・・・」
「殺してくれたな・・・!」
「殺してやる・・・!」
いくつもの怨嗟。
聞き覚えがない・・・わけじゃない。
多分、俺が殺して来た奴らだ。
覚えてるわけじゃない。だが殺して憎まれる覚えなどいくらでもある。
ただそれが夢に出てくるというのは納得できない。
普通は背負いきれない罪悪感などから夢に出ると言われてるが、俺は過去一度も気にした事もなければ夢に出た事もない。
それなのに何故今更、と。
グルルルルルゥ・・・
「ッ!?」
すると獣のような低い唸り声が何も無い筈の空間に響き渡る。
感覚が鈍っているせいか一瞬どこから聞こえたか分からなかったが、すぐに後ろにいると理解する。
いつの間にか手が消えており、その声のした方へ振り向いた瞬間に心臓の鼓動が高鳴る。
黒く巨大な竜のようなモノ。
しかしソレは竜ではなかった。
腕は六本あり、羽も魔力か何かで代用したような不恰好な形のもので、体の至る所には赤い線が脈を打つように光っていた。
「なんだ、お前は?」
不思議な感覚に襲われる。
こんな化け物のような見た目の奴なんていくらでも見た事があるというのに、ソレからは今までにない焦燥感を感じた。
そして理解する、コイツ勝てないと。
20
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