最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

オカン気質

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 広い屋敷の中でドタバタと騒々しい足音を立て、居間に駆け込むぬいぐるみを抱いた少女がいた。


 「アヤトアヤト!この前一緒に確認しに行けなかったので分からなかったのですが、私にもとうとうスキルがーーっていないのですか?」


 ランカが部屋を見渡すとカイトとチユキが(一方的に)イチャついていたり、ラピィとアークがセレスを挟んで相変わらず口喧嘩していたり、ノワールと着物の女が騒ぎながらチェスで対戦していたり、フィーナと恵理エリがそれぞれウルとルウを抱っこしながら雑談していたりと賑やかに集まっていた。


 「随分色んな人が集まりましたね~・・・なんだか知らない人がまた増えてるみたいですし・・・」


 ランカが感嘆の声を漏らすと後ろからノクトが声を掛ける。


 「あれ、ランカさん。どうしたの、こんなところで」

 「ああ、ノクトですか。いえね、アヤトにちょっと自慢してやろうと思ったのですが・・・」

 「兄さん?兄さんならメアさんとミーナさんとで出掛けて行きましたよ」

 「そーですか。なら帰って来てからにでもしますかね」


 ランカはそう言ってタタタッとノワールたちの元へチェスを見に行った。
 ノクトもフフフと笑って足を進める。


 (ランカさんも兄さんの事が好きなんだな・・・この人たちもどんな経緯があっても、結果的にみんな兄さんに惹かれてここにいるんだよね。凄いなー兄さんは)


 ノクトがまるで博物館の展示でも見るようにフラフラ歩いていると、エリが手招きで呼んでいた。
 エリのギャルっぽい少々派手な見た目に戸惑いながらもそっちへ向かう。


 「ねえフィナ、誰よこの子!?チョー可愛いんだけど!!」


 ウルを膝の上に乗せてるのをお構い無しにノクトを抱き寄せるエリ。
 側から見るとノクトとウルが抱き合い、その二人をエリが更に覆い被さるような感じになり、ウルが「むー!」と両手をバタバタさせながらもがいていた。


 「あたしの名前を変に略さないでほしいんだけど・・・。ソイツはあんたと同じ異世界から来たのよ」

 「ブハッ!・・・あ、僕はノクトって言います」

 「あーし赤司 恵理!エリでいいよ、ノクトン!」


 「ノクトン・・・?」とフィーナとノクト、そして間に埋もれているウルでさえ心の中で呟いた。


 「しっかしねー・・・フィーナとかあの子を見てると、つくづく違う世界なんだなーって思うし」


 するとエリのテンションがいきなり下がり、溜息を吐きながらフィーナとランカをそれぞれ一瞥する。


 「は?なんであたし・・・ってそっか。あんたたちの世界に魔族、というか、人の形をした中で素で青い肌の奴っていないんだっけ?」

 「まーね。角とか猫耳とかもないし。ヘレナっちの巨乳もファンタジーでしょ、アレ?あんなデカパイいるわけないし!」


 「いや、そこは個人差じゃないの?」と周囲の者たちは心の中でツッコんだ。
 すると限界がきたのか、エリとノクトとの間から脱げ出したウル。
 「あ・・・」と寂しそうにするエリだが、ウルはそのままルウを膝に抱えているフィーナの肩に抱き付いて行ってしまった。


 「・・・随分懐かれてるんだ?」

 「何故だかね」

 「面倒見が良いとか?」

 「さぁ?勉強ならちょっと見てやった覚えはあるけど」

 「なるほど、オカン気質か」

 「ぶつよ?」


 会話の最中エリはノクトをひょいっと持ち上げ、ウルのいなくなった自分の膝に乗せる。


 「あ、あの、エリさん!?」

 「ウルちんが逃げちゃったから代わりにいろし!」


 エリは逃がさないようにギュッと腕に力を込めると、顔を赤くするノクト。


 「あのでもっ、僕男ですから!こういうのは・・・恥ずかしいです・・・」

 「え・・・男・・・?嘘でしょ?」


 信じられないという目でノクトを見るエリ。
 そんな目を向けられたノクトは可愛らしく頬を膨らませてエリから逃げ出し、フィーナの腕に隠れてしまう。


 「あらら、ついにノクト君まで逃げてしまったね」

 「ッ!?ビックリした・・・」


 ノクトのいなくなったエリの膝の上にはいつの間にかシトが乗っていた。
 シトの容姿も美少年、ではあるが、どことなく漂ってくる胡散臭さにエリは訝しげな眼差しを向ける。


 「っていうかさ、あんた本当に神様なの?」

 「本当本当ー♪みんなが敬って仕方ない神様だよ!」

 「胡散臭・・・あーし誘われても入団とかしないから」

 「・・・宗教の勧誘とかじゃないよ?」


 シトは悲しそうな顔をしながらスッといつもの笑顔に戻ると、机に置いてあるせんべいを一枚取って食べ始めた。


 「ちょっと、あーしの上でせんべー食わないでくれる?食べカスが落ちんだけど。それと邪魔」

 「えー?ウルちゃんやノクト君が君から逃げちゃったからその心を癒してあげようと思ったんだけどなー?あ、お茶欲しいな」


 ボソッと呟いたシトに「はい」と笑顔でお茶を出すココア。
 シトは「ありがとう♪」と笑顔で返し、お茶をすする。


 「ふぅ・・・」

 「見た目子供なのに爺ちゃんみたいだな」

 「ま、年齢だけで言えばここにいる誰よりも最年長だからね」


 エリは「へー」とさして興味も無さそうに返事をし、ポケットから何かを取り出してイジり始める。


 「あれ、ソレって・・・」

 「ん?神様なら知ってるっしょー?スマホ」


 エリはソレをヒラヒラと見せ付けると、再びスマホに視線を戻す。


 「んー?あれー?っかしーな・・・コレ圏外になってんだけど?」

 「当たり前じゃないか。海外どころか世界が違うんだよ?電波なんかあるわけないじゃないか」

 「えーそれ最悪なんですけど・・・ってー事は何?ラ◯ンどころかメールも電話もできないわけ?」

 「ま、そういう事。工夫すればこの世界でソレを持ってる人同士で通話をするくらいなら可能になるとは思うけど・・・」


 「メンド・・・」と呟いてスマホが机の上に置かれる。
 ソレを宙に浮いていた精霊たちが興味深そうに見つめる。


 「一応取って置いて損はないと思うよ」

 「はぁ・・・サチ、今何してんだろ」

 「他のお友達と仲良くお茶してるんじゃないかな?」

 「地味にテンション下がる事言わないでくれる?あーしの事忘れて他の奴となんて・・・」

 「でも仕方ないと思うよ?だって僕が彼女の記憶から君に関しての記憶を抜き取ってあげたんだから」


 その言葉にエリは目を見開き、膝に座っていたシトの胸ぐらを掴んで持ち上げ睨み付けた。
 勢い良く立ち上がったせいで椅子が倒れ、部屋にガシャンと音が鳴り響く。
 ノワールや着物の女、作務衣の男は一瞥するが、再びチェスに視線を戻した。


 「ソレ、冗談にしても笑えないんだけど・・・」

 「冗談なもんか。君という人間が一人消えただけであっちは大騒ぎになる。すると最悪、心を病んだり死人が出たりなんてのもあり得るんだから、早めに君の交友関係にあった人たちから記憶を削除した方がいいんだよ」

 「だって・・・もしかしたらいつか帰れるかもって・・・」

 「その望みは捨てた方がいい」


 その言葉にエリは涙を浮かべ、口をキュッと締める。
 そんなエリに構わずシトは言葉を続ける。


 「ごめんね、でも事実なんだ。向こうから呼ぶのは簡単だけど、返すというのは不可能に近いんだ。ならいっそ、君に関するものを消した方がいい。それにーー」


 「それに」の先を言うのをシトは躊躇ったが、言い直してその先を告げる。


 「それに、君の大切な人が「そうなる」のは嫌だろう?」

 「ッ!!」


 エリの目からポロポロと涙が溢れる。
 泣き崩れ、地面に伏す。
 嗚咽を漏らすエリに地面に降ろされたシトが優しく頭を撫でる。


 「君は反抗期っぽい見た目してるけど、やっぱり優しい子なんだね」

 「う、うっさいし・・・そんな見た目であーしの頭撫でんなし・・・!!」


 恐らく親や友人の事を思い出したのだろうと、シトは抱き寄せ頭を撫でるとエリの嗚咽が更に大きくなった。


 ーーーー


 「はぁ・・・最悪・・・」


 目を赤く腫らしたエリが大きく溜息を吐いて机に伏していた。


 「まぁまぁ。でもそんな悪いものじゃないよ?第二の人生だと思えば・・・」

 「一度目すら満足に送ってないのに二度目を謳歌しろって?そんな事考えられるのは相当図太い神経の持ち主か、失うもんがない奴っしょ」

 「ハハハ・・・」


 アヤトもイリーナもユウキも前者だという事に乾いた笑いで返すしかないシト。
 確かに失うものがない子を呼べば後腐れなかったなと密かに思う。


 「でもいーし。もう帰れないってんならこっちで生きてくし」

 「おや?開き直ったのかな?」

 「まーね。ウジウジすんのも性に合わないし、そんなら良い男捕まえて養ってもらうし」

 「君も中々前者側だねぇ」


 エリが笑いながら「うっせ」とだけ言って自分の膝に座り直したシトの首に腕を回して抱き付いた。
 その行動にシトは「おや?」と呟く。


 「急にどうしたんだい?僕に惚れちゃった?ダメだよ僕にはアヤト君という最愛の彼がーー」


 シトが冗談めいた事を言おうとするとエリが体重を乗せて体を預けた。
 すると耳元でスースーと寝息が聞こえてきた。


 「・・・寝ちゃったの?凄い体勢で寝られるのね」


 それを見たフィーナは呆れた様子で苦笑していた。


 「人には見せないよう取り繕ってたみたいだけど、緊張の糸が切れちゃったみたいだね。ウルちゃん、ルウちゃん、一緒に部屋に運んでもらえるかな?」

 「いいわよ、あたしが運ぶから」


 ウルとルウが返事をするよりも早くフィーナが答える。


 「うん、じゃあ任せたよオカン」

 「誰がオカンよ・・・」


 フィーナは溜息を吐きながらも嫌そうにせずに微笑んだ。


 ーーーー


 すでに顔合わせしていた筈のシトとエリが初対面のような会話をしていたので修正致しました。
 誠にご迷惑をお掛けしました。
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