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夏休み
なんだコイツ
しおりを挟むマズい。
連れて来られた書庫で本をペラペラめくっていると、ふとそんな考えが浮かんだ。
いや、正確には「ふと時計を見て」だ。
何がマズイかって?
たった一冊の本を熟読していたら、いつの間にかあれからもうすぐ二時間経っていた事にだ。
しかもまだ読み終わってない。
恐らくそろそろ会談が終わるであろう時間まで一冊の本に熱中していたという事だ。
内容はなんて事ない小説のような内容が書かれた本。
その内容はあっちで言うラノベ小説のような実際には起きていないであろう妄想が書かれていた。
魔法などがあるからファンタジーっぽい内容だが、こっちの価値観から見ればただの学生恋愛って言ったところか。
中の主人公の考え方や身の回りにいる女性たちの言動が面白くて読み耽ってしまっていた。
そして時間に気付いて本を閉じるとメアとミーナが少し離れたところから座っていたのだが、何故か読んでいたであろう本を開いた状態で膝に置いてこちらをジッと見つめていた。
「・・・なんだ?」
「あ、や、その本見てるアヤトが凄い笑ってたから・・・」
俺が声を掛けると顔をカッと赤くして目を逸らされる。
なんなんだろうとミーナの方にも視線を配ると、ミーナの頬もまた薄く赤らんでいた。
え、何?俺ってそんなに恥ずかしくなる程ニヤけてた?やだ恥ずかしい。
誰に言うでもない冗談を思いながら少し熱くなっている自分の顔をムニムニとマッサージする。
「アヤトでもそんな顔するんだな。なんか優しさが溢れてたっぽい」
「お前のその言葉からは恥ずかしさが溢れ出てるぞ」
指摘すると赤かった顔が更に赤くなってそっぽを向く。
いやだって。優しさが溢れてるとか普通中々言えないだろ。
そろそろかと閉じた本を棚に戻し、メアたちに声を掛けようとしたタイミングで扉が大きな音を立てて開かれる。
「ここにいたか姫よ!!」
劇団でもしているかのように声を高々に上げ、ズカズカと入って来た男。
ウェーブの掛かった金髪ショートで外国人風のイケメン。
服装は上は白、下は紺とシンプルなもので黒い軍手のような手袋を着けていた。
それらからどこか気品を感じさせる男がニコニコと歯を見せ付けるアメコミにでもありそうな笑みを浮かべていた。
台詞からメアの知り合いかとも思ったが、当人を見ると女の子がしてはいけない困惑顔でその男を見ていた。
男の後ろからは少し走って来たのか、息を切らしたルークさんが続いて入って来た。
「いきなりなんだおまーー」
「おおっとそれ以上近付かないでもらおうか物欲に塗れた汚らしい愚民!ついでに言うのであれば我が婚約者から離れ早々に立ち去ってもらおうか!!」
ーーは?
人の言葉を遮った上に訳の分からない事を言い出すその男に少なからず苛立ちを覚える。
言葉からしてコイツも貴族か何かなんだろうが・・・フィアンセ?メアに婚約者がいたって事なのか?
メアと視線を合わせると首をブンブンと振り、ルークさんの方を見ても同じく横に振っていた。
「あー、二人共何の事か知らないらしいが・・・お前本当に婚約者か?ただの妄想野郎じゃないのか?」
「貴様のその不敬に当たる言葉、しかしながら寛容な私は許してやろう。そしてその無知で矮小な脳に刻むといい。私こそ人族の中で最も土地を所有する国、「レギナン」の王であり、麗しいメア姫の婿になるに相応しい資格を持った男、ヴェッフェル・ディ・グウェントであると!!」
男の演説が終わると書庫の中は静まり返る。
理由は簡単、この男、グウェント以外の全員が呆れているからである。
つまりコイツは何が言いたいのかと言うと・・・
「自分が最も土地を治めてる有能な王様で、だからこそ惚れたメアは自分の妃になるべきだと?」
「ほう、理解できるだけの頭は持ち合わせていたか。しかし、だーー」
グウェントからニコニコした笑みが消え、今にも襲い掛かって来るのではないかという、まさに鬼の形相に変わる。
「貴様とどんな関係であれ呼び捨てるのは見過ごせんなぁ・・・彼女は私以外の男に名を呼ばれてはならぬ!美しく儚いその姿を見る事ができたたけでも幸運!それはもはや女神と言っても過言ではない!」
「おい、またお前の信者がいるぞ女神様?」
しかも狂信者感MAXの。
重いってレベルじゃねえぞ・・・。
それに対してメアの反応は・・・
「そんな女神だなんて・・・そんな似合わねえ事言うなよ、照れるじゃねえかアヤト・・・えへへ・・・」
言い始めたのはこの男なのに、メアは俺の名前を呟きながらモジモジクネクネしている。
メアの花畑のような頭のチョロさはともかく、その状況に軽い頭痛を感じながらグウェントに向き直る。
「・・・聞いていなかったのかな?もう一度言うぞ愚民、メア様から離れろ。彼女のような神聖な方に貴様のような汚物が近付いていい筈がないのだ」
「ハハハハ、随分おめでたい頭をしてるな皇帝陛下?悪いがーー」
わざとらしい笑いで挑発しながらメアを抱き寄せると、グウェントはありえないものを見るような見開いた目をした。
おぉ、効いてる効いてる。
・・・うん、メアの方も顔赤くして超効いてる。
内心ほくそ笑みながら言葉を続ける。
「コイツは既に「予約済み」だ。お前がどうこうする前から唾付けてあんだ♪」
俺の言葉を聞いたグウェントはプルプル震え、メアは良い感じにニヤニヤと気持ち悪く笑い、ミーナは演劇を鑑賞する子供のように椅子に座ってこちらをボーッと見ていた。
グウェントの後ろではルークさんがそうかそうかと微笑ましそうに笑って頷いていた。
「な、な、な、ななななな・・・!」
グウェントは何か言いたそうにしているが、バグったように「な」しか言わない。
そんなグウェントの肩にルークさんが手を優しく置く。
「悪いが見ての通りじゃ。孫には既に心に決めた御仁がおる。確かにお主の出してくれた条件は良いものじゃが、それよりも儂は孫の幸せの方を優先させてもらう事にする。お引き取り願おう」
「グッ・・・!き、貴様ら・・・分かっているのか?もしこの話を蹴ればお前たちの国は我らとの貿易ができなくなり、他の国からも同様の扱いを受ける事になるぞ!?」
「ああ、その場合はこっちでなんとかするさ」
俺がそう言うとルークさんと面と向かって話していたグウェントが上半身だけで振り向き睨んで来る。
だから怖いって。
「貴様如き平民がどうにかできるとでも?でまかせを言うのも大概にしてもらおう。それに、たとえ「なんとかなった」としても、我々が黙っているとは限らないぞ?」
「脅しに次ぐ脅し・・・なんというか、小物感がハンパないよな、お前」
「なんとでも言うがいいさ!さぁ、どうする?孫娘一人を自由にさせるために数百万に及ぶ我らの軍勢と戦うか?いや、同盟国も数に入れれば数千に届くかな・・・?」
なんとも邪悪な笑みで語り掛けてくるグウェント。
コイツは今からでも悪魔に転生した方がいいんじゃないか?
しかしそんな脅しにルークさんも俺も動じないと分かると怒りを含んだ歪んだ表情になり俯く。
するとさっきとは打って変わって悲しみに満ちた表情に変わり、それがメアに向けられる。
「姫・・・メア様ならお分かりいただけるでしょう?貴女様を心の底から愛しているこの気持ちを・・・!」
膝を突き手を差し伸べ、本当に劇団でもしているのではないかという猿芝居でメアに問い掛けるこのイケメン(笑)。
そんなイケメン(笑)に無情にも良い笑顔で中指を立てるメア。
「嫌だね。好きでもない男に縛られるなんて冗談じゃない、一昨日来やがれってんだよ!」
イケメン男よりもイケメンなメアがそう宣言し、最後にペッと唾を吐く。
これで塩でもあったらきっと撒いているだろうというなんとも言えない確信がある。
堂々と拒絶されたグウェントは数秒停止し、フラッと立ち上がったと思ったら笑い始めた。
「く・・・くく・・・アーハッハッハッハッハッハァッ!!!」
好きな女にフラれた挙句言葉で叩きのめされた事から、ついに気でも触れたのかと思った。
しかしそうでもなかったようでーー
「ああ、分かりましたメア姫。貴女様はそこの男に誑かされているのですね?」
今度は俺だけではなくグウェント以外の全員が「は?」と声を上げる。
「そうでなければ理解できない!整えられた容姿に地位財力度量全てを兼ね備えたこの私ではなく、そこの何の力も持たない上に平凡でドブネズミのような顔をした男を姫が選ぶなど・・・天と地がひっくり返ってもあり得はしない!!」
「・・・・・・」
初めてだ・・・ただの貶す言葉でここまで怒りが込み上げてくる事があるなんて・・・。
一瞬、コイツの頭だけを枝豆くらいまで細かく切り刻んでやろうかと本気で思ってしまった。
ただ、その場には俺よりも短気な奴がいるもので。
「よって、そのドブ男などよりもこの私の方がーー」
「いい加減にしろよ、この最低な陰険ナルシスト変態野郎がぁッ!!」
グウェントの演説中にメアが飛び出し、喋っている最中の左頬へ向けて右ストレートが放たれ、斜め下への方向転換によりグウェントの頭部が書庫の地面へと勢い良く埋められた。
「ーーーーッ!?!?」
取り残された首から上は反動で逆さまになり、数秒停止した後ペタリと横に倒れる。
側から見れば「アレ首イッてね?」という絵面になっている。
「殺っちまったか・・・」
「・・・え?あ、いや、死んでないよな・・・?おーい?」
メアが呼び掛けたり突っついたりローキックを入れたり(いやなんでだよ)してみたが無反応。
顔が青くなるメアの肩に俺とミーナがそれぞれ手を置く。
「大丈夫、メアがどんな事をしても私は味方」
「ああ、殺っちまったもんはしょうがない。問題はその殺っちまったものをどう後処理するかだ。だがそれも大丈夫。死体は魔術で綺麗さっぱり消せるし、アリバイもチユキがコイツに変装して元の国に戻ってから姿を消せば俺たちは怪しまれない。・・・科学の発展してない魔法の世界は最高だな」
慰めの言葉を掛けたミーナの後に続いた俺のゲス発言に全員が引いていた。
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