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夏休み
挨拶
しおりを挟む結果的にグウェントの命に別状はなかった。
ただ首の骨がちょーーーっとヤバい事になってたので事が切れる前に回復魔術を掛けておいた。
おかげでどっからどう見ても白目剥いてだらしなく涎が垂れて気絶してるイケメン(笑)にしか見えない。
あとはこの動かない屍をグウェントと一緒に来たという使者の人たちに任せた。
理由は「拾い食いをして当たったんだろう」と伝えた。
少し訝し気な目で見てきたが、何事もなく連れ帰ってくれた。
願わくばそのまま一週間は目を覚まさないでくれるとありがたいが・・・。
というか、この世界の王ってああいう輩ばかりなのだろうか・・・いや、別にこの世界に限った話でもないけど。
貴族や王族の傲慢さって遺伝子を超えてスキルか何か発現してんじゃないの?なんて考えたり。
所変わってルークさんと話を始めようとするも、会談が終わっても多少急ぎの仕事があるとの事で客室で待機している事となった。
「・・・人の骨って・・・簡単に折れるんだな・・・」
「いや、簡単じゃないから。人の頭蓋骨にヒビを入れたり地面に埋められる程の拳を浴びせるのは簡単て言わないから」
俺の指摘に視線どころか顔を逸らすメア。
予想以上にメアに筋肉が付いていた模様。
メアがグウェントを地面に埋め込む光景を見たルークさんの豆鉄砲を食らった鳩のような顔が今でも忘れられない。
それはともかく、待ち時間の間メアが自分の腕の筋肉を確かめようと二の腕をぷにぷに触っていたり、ミーナが机の上に転がっていた手の平に収まるくらいの大きさのガラス玉を転がして遊んでいたりとダラッとした退屈な時間を待つ事三十分程が経過した頃。
ルークさんがやり遂げた顔で帰って来た。
「遅えぞジジイ」
「すまんすまん、どうしても今日中に仕上げておきたいものがあったものでな」
「まぁ、そんな急ぎの用ってわけでもないからな」
途中秘書らしき黒髪を団子に纏めた女がお茶を出してくれた。
「この方の補佐をしております、フウでございます」
和かに会釈するからは特に堅物というイメージはなく、全員分のお茶を置き終えた女はルークさんの後ろに控えた。
「その前にいいかのう?」
俺が要件を言い出す前にルークさんがストップを掛けて来た。
「何か?」
「先程の話じゃ。君は・・・メアと交際しているというのは本当かね?あの場凌ぎの嘘ではなく・・・」
「ああ、そもそも俺たちがここに来た理由は「ソレ」だからな」
緊張のためか乾いていた口にお茶を手に取り一口すすり流し込み、最初に置かれた場所より少し離れたところに置いて表情を取り繕い、背筋を伸ばしてから頭を下げる。
「報告が少々遅くなって申し訳ない。この度、メアと交際関係を持たせてもらいました。不束者ではありますが、よろしくお願いします」
「・・・・・・・・・」
無言。
誰も言葉を発しない。
聞こえるのはどこかで訓練しているであろう兵士の掛け声のみ。
いつもは気にしないであろうその声がその時だけは耳障りに聞こえる。
そんな掛け声も遠退き、静寂がその場を支配した。
何のリアクションもないがいつまでも頭を下げてるのもあれなのでそろそろ頭を上げようとしてみると。
「「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」
同時に驚愕の声が部屋中に響く。
何事かと顔を上げてみるとフウ以外が俺を信じられないようなものでも見ているかのように驚いた顔をしていた。
フウはその反応が分からないといった感じに辺りを見渡してオロオロとしている。
「アヤト急にどうしたんだ?もしかして変なものでもーー」
「食ってない」
「熱はーー」
「ない」
「本当にアヤト君ーー」
「だ!お前ら俺をなんだと思ってやがる!?」
メアは「そりゃ・・・なぁ?」と言ってミーナと顔を合わせる。
「下手に出てるアヤトって珍しいっていうか・・・」
「変」
ミーナの一言がいい感じに心を抉る一言を放ったところで話がズレる前に進める。
「まぁ、確かに敬語なんて得意じゃないんだが、こういう時くらいは言えるようにって練習したんだぞ?」
「よくもまぁそこまで・・・」
「他人事みたいに言ってるけどメア、お前のために頑張ってるんだからな?」
「え?あっ・・・わ、分かってるって!」
一瞬何の事か分かっていなかったようだが、それを理解するとメアは顔を赤くしてニヤニヤしてそっぽを向いた。
コイツ最近顔赤くしてばっかだな・・・。
・・・その原因が俺だというのは悪い気がしないがな。
するとルークさんも頭を深々と下げてきた。
「アヤト君の事はよく知っている・・・とまではいかないが、信頼している。それはシト様の贔屓を抜いてもそう思える。じゃからこそ言わせてもらおう。メアを・・・孫娘をよろしく頼む」
「ッ!・・・ああ、任せてくれ」
体の中にジワリと何かが染み渡っていくのを感じた。
涙などは出ていないが、これを感慨深いと言うのだろうか。
ルークさんの信頼を笑顔で答えた。
「ただ分かってるとは思うが、ミランダのような事はしないでおくれ」
「ん?・・・あ。あー・・・分かってるよ・・・」
ルークさんの目を正面から見れない。ギリギリ眉間などを見て誤魔化してるが、修行などでいつもボコボコにしてる俺が信頼に満ちた目と合わせられる筈がない。
ボロが出る前に話を逸らす。
「じゃあ、これで護衛の依頼は終わりだな」
「「え?」」
ルークさんとメアが再び驚いた顔で俺を見る。
「驚く事ないだろ。メアを守るのにもう「護衛」である必要はないんだ」
俺の言葉の意味をすぐに理解したメアは「あっ・・・」と声を漏らし、嬉しそうにはにかんだ。
「同じ屋敷に住んでる。メアはべったりくっ付いて四六時中ほぼ一緒。もう護衛である必要がねえだろ」
「・・・それもそうじゃのう」
まぁ、収入源が減るのが惜しくないと言えば嘘になるけれど、金銭面に関してそんな必要ではないので特に気にする事でもない。
「しかし給料分の資金はこれからも送らせてもらうぞ」
「ん?護衛の依頼もしてないのにか?」
「これからは何かと入り用になるじゃろ。それとメアのお小遣い分じゃ」
「ハハッ、それは拒むわけにはいかないな」
「俺をダシに使うなよ・・・」
メアの苦笑いに俺とルークさんはひとしきり笑い、一旦落ち着いたところでルークさんが意地悪な笑みを浮かべる。
「さて、関連した話でもう一つあるのじゃが・・・他にも「候補」がいるのかな?」
その目線はミーナを捉えていた。
確実に分かった上でそう言っている。
大きく溜息を吐いて答える。
「まぁな。一応合意の上ではあるが・・・」
「抵抗がある、か?」
「当然。一夫多妻なんて俺の世界じゃ、一部の地域を除けばありえない話だからな」
そもそも金銭目的でなければ、人間の独占欲がソレを許す筈もなく成り立つ筈がないのだ。
いくらお互いが仲の良い者同士でも、メアとミーナのように考え方が一致して共有するなんてありえない・・・と思ってた。
現に奪い合いなどなく、あるとしてもどちらかが俺に抱き付いたりと過剰なスキンシップを取っているともう片方が羨ましがって同じ事をしてくるくらいだ。
・・・うん、この前いきなりメアにキスされて、それを見ていたミーナも近寄って来てキスされたのにはビックリした。
喧嘩しないのはいいが、これだと休む暇がなさそうだとなんとなく思う。
「感動的な話の後に二股発覚みたいで気乗りしないが・・・まぁ、そういう事だ」
「そうか。いや、女性をそれだけ受け入れるだけの器量があって、大切な孫娘を蔑ろにしないのであれば儂は構わんよ」
「それは約束しよう」
「うむ。・・・ちなみに他に受け入れる予定の女性は・・・」
「いるわけないだろう・・・ミーナだって予想外だってのに・・・」
「え?」
「え?」
メアの「なんで?」みたいな顔に、俺も「何が?」という想いを込めて返す。
「他にもいそうじゃねえか?アヤトの事好きそうな奴」
「例えば?」
「フィーナ」
「うん」
「ヘレナっち」
「うん」
「イリーナさん」
「うん?」
「アルニア先輩」
「うん・・・」
「ミラ姐」
「・・・うん」
「ラピィやセレスさんにシャード先生」
「・・・・・・うん」
「ペルディア」
「・・・・・・まぁ」
「ランカ」
「・・・あ、うん」
「ルビア学園長先生」
「おいちょっと待て。もうその範囲まで行くと今まで会ったギルド娘や宿屋娘まで入っちまうじゃねえか。それだと本当にあーしさんに言われた通りただのクズになっちまうよ」
「冗談だって。・・・まぁ、学園長はちょっと可哀想だから貰ってやってくれと思わなくもないけど」
「・・・流石に同情で貰う気はねえぞ」
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