152 / 303
夏休み
大体忘れていた頃にやってくる
しおりを挟む「はぁ~・・・風呂はやっぱり最高だぁ~!」
湯船に浸かったクリララが背伸びをして溜息混じりに感嘆の声を上げる。
他の女性陣も同じく風呂に浸かっている。
そこは魔空間内のアヤトが作った露天風呂である。
お風呂に入らず、水浴びか濡れたタオルで体を拭くしかしていないと聞いたアヤトが連れて来ていた。
「だんけどもおでれえだで?何もないとこに穴空けたと思ったら、中に風呂があんだもんよ~。やっぱ勇者様なだけあって予想もできねえすんげぇ事ができんだなぁ~♪」
「ソレをすぐに受け入れる度量のある貴女も凄いと思いますよ?」
横でぐでっとしたランカが気持ち良さそうにしながら告げる。
「んだか?まぁ、これでも度胸は村一番とは言われてたんかんな!」
「いや、それ関係ないんじゃ・・・まぁいいです。お風呂に入ってると色んな事がどうでもよくなってきますからね・・・」
「んだな~・・・」
二人揃って大きく息を吐く。
「にしても珍しい場所だな?魔物っ子一匹も見ねえだ・・・」
「まぁ、そういう場所だしね」
フィーナがそう言ってランカの横に座る。
その言葉の意味を理解していないままクリララは「そだか~」と適当に答える。
「そういやミーナ様は猫人族だか?」
離れたところにいるミーナを見つけたクリララがそう問い掛けた。
「ん、そう」
「そうだかー。オラんとこのお城にもいただが、他の種族と一緒に行動してるのは初めて見ただな」
クリララの言葉を聞いたミーナの耳がピクリと動く。
「・・・お城にもいるの?」
「おう、いるだよ。ミーナ様と同じであまり喋らんし、仕事が終わるといつの間にかいなくなってるであんま見掛けんが・・・」
「・・・そっか」
そう呟いてほんの少しだけ微笑むミーナ。
「黒い髪がすんげえ伸びてて目付きも悪いだが・・・知り合いだか?」
「分からない。でも同族がいるなら嬉しい」
「あ・・・そういえば猫人族は・・・」
「・・・ん。みんな今どうしてるか分からない。だから一人でもいたら、少しだけ希望が持てる」
「・・・そうだったかぁ・・・痛ぁ!?」
そう言って呟いて俯いたクリララの頭にフィーナが脳天チョップを食らわせる。
「せっかくのお風呂なんだから辛気臭い雰囲気にするんじゃないの。そういう話は別の時にしなさい」
「うぅ・・・ごめんだおっかぁ・・・」
「あたしあんたの母親じゃないんだけど。もう一発やっとく?」
フィーナがそう言って手刀にした片手を見せ付けるようにブンブン音を鳴らして振ると、クリララは頭を押さえて涙目で首を振る。
するとどこからか泣き声のような声が聞こえてくる。
「フィィィィナァァァッ!!」
「・・・なんででしょうねこの声、凄く嫌な予感がするんだけど」
声のする方を見ると凄まじい土煙を上げながら走って来る人影があった。
金色の長髪をして所々に鱗が付いた青い肌の女性、魔族のナルシャ。その姿を見たクリララ以外の全員が「あっ」と声を漏らした。
そしてクリララはあたふたと動揺し始める。
「ま、魔族!?魔族だべ!?なんでこんなとこに魔族が・・・ここはアヤト様の領域じゃないだべか?」
「寂しかったぞフィーナー!!」
「しかもフィーナ様の名前呼んでるだよ!?」
「全く・・・面倒な登場の仕方してくれちゃって・・・」
フィーナが頭を抱えて大きく溜息を吐くと近付いて来ていたナルシャがフィーナに向かってダイブする。
フィーナはソレを両手で受け止めて後ろに倒れ込み、ナルシャの腹を蹴り上げて後ろの木に当てた。
ナルシャの勢いが相当だったらしく、ぶつかった木がミシミシと音を立てて折れて傾いた。
傾いただけで歪な曲がり方をしたまま佇む木の下でぶつけた頭を押さえながら「うー・・・」と唸るナルシャ。
そしてフィーナの咄嗟の技に拍手を送るシャード。
「素晴らしい適応能力だな」
「フッ、修行の成果よ・・・」
何故か言ってて涙がホロリと出てくるフィーナ。
その前で起き上がったナルシャが涙で顔をぐちゃぐちゃにしてorz状に崩れた。
「さ、ざびじがっだぞぉ・・・」
「ちょっ、あんたどうしたのよ?いつも鬱陶しいくらい鬱陶しいじゃない」
「フィーナ、ソレ結局鬱陶しいって言ってますよ?」
ランカのツッコミにフィーナ「アレ?」と首を傾げる。
「それよりいつまでもそんなとこにいないであんたも入りなさいよ。体中汚れてるし・・・少し臭うわよ?」
「ゔん゛・・・さっきまで二日くらい迷ってた・・・。あの男も迎えに来てくれないし・・・このまま一人で死ぬのかと思った・・・」
全員が「うわぁ・・・」と口にしたが、正直誰もがナルシャがここに送り込まれて以来存在自体忘れていた事もあり、アヤトだけを責める事はできなかった。
フィーナが泣きじゃくるナルシャの服を脱がし、体も洗ってあげていた。
「あ~、もっと上~」
「うっさい。文句言うな」
「と言いつつもやってくれるフィーナ好きぃ~♪」
「ほぉ~・・・」
フィーナとナルシャのやり取りを見てクリララが感心していた。
「みんな魔族と仲良くしてんだか?」
「えぇまぁ、そうと言えばそうなんですが・・・なんと言えばいいんですかねぇ・・・?」
話を振られたランカは笑いを引きつらせた。
そんなランカに疑問を覚えたシャードが口を開く。
「そういえば、ソレの持続に何か力を使うか?体力や魔力を・・・」
「うーん・・・一応魔力を使いますよ。ただ魔力の回復と相殺されてる感じです。逆に言うとこのまま魔術を使えば回復しませんし、底が付けば解けちゃいます」
「なるほど、勉強になったよ。まぁ、もしキツいのであれば解けばいい」
「あのー・・・さっきから何の話ししてるんべ?」
ランカとシャードが顔を合わせてニッと笑う。
「つまりこういう事ですよ」
ランカの体から蒸気のような霧が出てきて元の魔族の体に戻った。
「・・・ッ!ランカ様も・・・魔族・・・!?」
「あとフィーナもですよ。人間と亜人と魔族の混合集団です。・・・あ、魔物もいるのでほとんど揃ってますね」
胸を張って言うランカを自嘲気味にシャードが笑う。
「バラしてしまって良かったのか?アヤト君にどやされるかもしれんぞ?」
「えっ!?だって今貴女・・・」
「私は「キツいようなら解けばいい」と言っただけだ。バラしてもいいとは言ってない。さて、この事がアヤト君に知られればどんな制裁があるかな・・・?」
「お願いです!私たちが魔族だという事は知らないフリをしてください!私あんな拳骨食らったら頭部が無くなっちゃいますよッ!?」
ランカはクリララの肩を掴み、必死になって前後に揺らして説得しようとしていた。
「わわわ、分かっただ、分かったから揺すらんでくれよぉ!」
ーーーー
ランカたちの入浴後。
「で、バレたと?」
「ごめんなさい・・・」
結局アヤトの前でランカ自身が口を滑らしてしまっていた。
ビクビクとしてるランカを見たアヤトは溜息を漏らす。
「・・・まぁ、ナルシャの事を忘れてた俺にも責任はあるから何とも言えんが・・・」
「やっぱ忘れてたのかよチクショウ!」
バンバンと地面を叩いて憤慨するナルシャを無視してクリララに向き合う。
「という事で、魔族の事に関しては内緒にしてくれないか?」
「まぁ、それは構わないだが・・・」
「悪いな。ここにいる奴らは悪い奴じゃないんだが、やっぱりバレたとなると後々騒ぎになって説明が面倒そうだしな」
「そだな。昔は別の種族が鉢合わせるってだけで殺し合いにもなったらしいだかな、今はだいぶマシになっているけんどもそれでも嫌悪されるもんだし・・・あんたらが羨ましいだよ」
「・・・ならうちに来るか?」
「・・・へ?」
アヤトの言葉に口を開けたままポカンとするクリララ。
そのアヤトの肩にメアとミーナがニヤニヤして抱き付く。
「おーっと俺たちの前で浮気かアヤト?」
「まだ女の子の数が足りない?ケダモノ・・・」
「お前らー、分かってて言ってるだろ?」
アヤトがそう言うとメアが二ヒヒと笑って離れ、ミーナも地面に足を下ろす。
「魔族と仲良くしたいってんならそういうツテを持ってるから、魔族の大陸に行ってみたいかって聞きたいだけだ」
「そんなのあるんだか!?・・・アレ、でもアヤト様たちって魔王を倒しに行った筈じゃ・・・?」
「・・・色々経緯があるんだよ、色々と」
アヤトは顔を逸らして溜息を吐く。
クリララは先程のアヤトの問いに「機会があったらよろしくだ!」と答えた。
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。