最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

到着

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 屋敷から出発して一週間が経とうとした昼頃、ガタガタと馬車に揺られながら他愛も無い話をしているとクリララから声が掛かる。


 「アヤト様方、着いただよ~!」


 嬉しそうな声を聞き、ラピィやメアが窓から顔を出して二人揃って「うぉー!」とテンションの高い叫び声を上げる。
 俺もそれぞれの膝に乗っているミーナとランカを両脇に抱え顔を出す。
 馬車の進む先を覗き見ると城壁に囲まれた街「ノルトルン」と、そこから頭が出て見える城があった。
 その上空ではバンバンと花火のようなものが放たれ、まるでお祭りでもしているかのようだった。
 その事をクリララに聞いてみる。


 「今は何か祭りでもしてるのか?」

 「いんや、アレは王様が魔王を打ち倒した事を街の人たちに伝えたんじゃなかね?だからみんなお祭り気分になってんべ♪」


 街に近付くにつれて賑やかな音楽が聞こえてくる。
 楽器を奏でる音、男女の歌声、喜ぶ歓声。
 聞いてるだけでこちらまで楽しくなりそうだった。
 門に辿り着くと門番の男二人が快く迎えてくれた。


 「長旅ご苦労様です、クリララさん!」

 「魔物などは大丈夫でしたか?何かあれば手当が出ると思いますよ!」

 「あんがとう。大丈夫だよ、後ろの方々がオラを守ってくれただで。怪我一つどころかむしろ身綺麗にしてもらっただよ!」


 慕われてるだろう男二人に満面の笑みでそう返すクリララ。
 ただ今の言い方に誤解した男たちが眉を潜めて俺たちの方を睨むように見てくるのでやめていただきたい。

 アレだからね?普通にお風呂提供して綺麗になってもらっただけだから。
 やましい事何も無いから。女の事は女に任せたから。

 とかなんとか誰に言うでもない言い訳を心の中で思いながら覗いていた窓から中にソッと戻る。
 クリララたちの雑談という名の検問からしばらくして門を通される。
 街の中に入ると更に大きな喧騒が耳に入り、馬車の窓から子供たちが楽しそうに駆け回るのが見える。
 そしてそれらを更にキラキラした目でヘレナが窓に張り付いて見ていた。


 「どうしたヘレナ?腹でも減ったか?」

 「否。それは違い、ジュルリ・・・ます。こういう賑やかで楽しそうな雰囲気は久しぶりでしたので混ざってみたいとも・・・ジュル・・・」

 「見事なまでに食欲が隠し切れてないわね・・・」

 「っていうか涎拭け。竜酸ばら撒くな」

 「おや?今何か上手い事言わなかったか?」


 俺の言葉遊びに反応するシャード。

 いや、ただの当て字に反応しなくていいから。


 「しかし、魔王が倒されたってだけで毎回こんなに騒ぐのか?」

 「かもしれないな。魔王や獣王が倒されるなどそうそうないからな。むしろ獣王など一度も替わった事などないぞ」


 シャードの言葉に興味が出る。

 獣王・・・それが亜人の王の総称か。


 「そんなに強いのか?」

 「いや、強いというよりも負ける戦いをしない、が正しいな」

 「あー・・・つまりアレか?狡猾とかそういう感じか?」

 「ある意味間違ってはいない。血の気の多い亜人たちを纏める獣王はあまり好戦的ではないらしくてな。どうせ戦うのならば勝てる戦のみ参加させて下の者たちの不満を解消、かつ同族を一人でも多く死なせないために、というらしい。・・・まぁ、結局同族同士でも争っているようだが」

 「耳が痛え話だなぁ・・・。だが実際、鬼族とか血の気の多い種族が沢山おってな。一日中暴れてないと気が済まない連中だ」

 「おぉ怖い怖い。ルウがソイツらみたいに血気盛んじゃなくて良かったよ」

 「これからなるかもよ?」

 「言うな、萎える」


 もしそうなったらなんて考えると憂鬱になり、背もたれに寄り掛かり溜息を吐いてしまう。

 反抗期っていうのはいつか来るものだし覚悟しないとならないんだろうけど・・・。
 そういえば前にルウと手合わせした時も随分楽しそうだったな。
 もしそれでストレス解消になるならまた相手をした方がいいだろうか・・・?

 色々と考えてるうちに馬車が止まる。
 城に着いたのかと思っていると扉が開かれ、そこには見知った顔をした奴がいた。


 「ようこそおいでくださいました旦那様方、お嬢様方」


 執事のような礼儀正しさで一般的なブカブカな服を着たユウキがそこにいた。


 「お前・・・暇だったからって出しゃばるなよ」

 「いーじゃん!むしろ暇じゃなかったからこっち来たかったんだよ!」

 「つまり、逃げて来たという事ですわ」


 その後ろには綺麗で新しい赤いドレスに身を包んだイリアが、青を少し薄くした長髪の女性と共に立っていた。
 ミランダとはまた別の方向で整った顔をしていて、「自分はこの少女の護衛だ」言わんばかりに鎧に身を包んでいた。


 「イリア様、まずは客人を迎える挨拶ですよ」

 「そうでした。本来ならば私が先に言うべき言葉をユウキ様に言われてしまいましたが、改めて。この度はお越しいただきありがとうございます皆様。我が勇者様と共に窮地を救っていただき心より感謝しています。そして歓迎致しますわ。ようこそノルトルンへ」


 一応ニコニコしているが、歓迎するという言葉から若干「嫌々ながら」というのを感じられたのは気のせいだろうか。


 「クリララさん、ご苦労様でした」

 「ありがてぇお言葉ですだ!アヤト様たちもお世話になりました」

 「こっちこそ。送ってくれてありがとな」


 そう言ってクリララの頭を撫でるとにへらと表情が崩れる。


 「あら?クリララさんがこんな顔するなんて・・・アヤト様は撫でるのが上手なのかしら?」

 「さぁ?」

 「アヤトのは好きだぜ!」


 俺の代わりにメアがグッと親指を立てて言う。
 他の奴らも同意するするように頷く。


 「アヤトのナデナデって案外心地良いですよね」

 「・・・まぁ、はい」


 ランカの問い掛けに微妙な表情をして答えるカイト。
 よく考えたらガーランド組の三人以外大体全員頭撫でた覚えがあるな・・・。


 「では私もやってもらいたいものですね」

 「やだ」

 「即答!?」

 「ねぇねぇ、俺は俺は~?」

 「ユウキはアイアンクローでいいだろ」

 「まぢか」


 頭を掴まれ悲鳴を上げるユウキを他所にイリアが話を進める。


 「では参りましょう。お父様とお母様がお待ちしておりますわ」

 「パーティーの準備も整っています」

 「パーテーもやるのか・・・別にそこまでしなくていいんだが」

 「なんだよパーテーって。バーローみたいに言うなよ。あとそろそろ頭から変な音が出そうだから離してくれるとありがたいったい!」


 ーーーー


 そして城の中に案内されて王の間に着くと、いかにも貴族らしい衣装を纏った奴らと中央の奥にいる王と王妃らしい二人が優しそうな笑みを浮かべて拍手して迎えて来た。


 「私がこのノルトルンの王、ラサシス・カルサナ・ルーメルだ。此度は招待に応じてもらった事に感謝する。そして、貴殿には我が娘イリアを守り、更に魔王討伐に貢献してくれた事への比類無き感謝を贈りたい」

 「はいよ」


 俺がそう返事をするとイリアに後頭部をペシンと平手打ちで叩かれた。


 「なんでフレンドリーに返事をしていらっしゃるんですか!?あんなんでも一応この国の王なのですよ!?」

 「俺よりも娘のお前が親をあんなん呼ばわりしてる方が問題じゃないか?」

 「私はいいんです、いつもの事ですから」


 不憫な親御さんだな・・・。


 「ハッハッハ、仲がよろしいようで何より!思ってたより面白い御仁で良かった。貴殿の事はある程度娘から聞いている、なんでも「誰が相手でも頭を下げる事は滅多にない」と。私もあまり気にしないので、気さくに話していただいて結構だ」

 「お父様、器量が大きいのと甘いのは違います」


 イリアが頬を膨らませてあざとく怒る。
 そんな娘を見た父親はデレデレと顔になり、隣の母親に脇腹を肘打ちされていた。
 改めてキリッとした表情で俺を見るラサシス。


 「時にアヤト殿、イリアから其方は凄まじい力を持っていると聞いたが・・・」

 「そうなのか?」

 「えぇまぁ・・・」


 イリアの方を見ると「しまった」とでも言いたげな顔をしていた。別にいいけど。


 「それに最近、登録した冒険者ランクがSSになったとも聞いた。そこでアヤト殿にその力を見せていただきたい」


 ラサシスのその言葉に少し不快な気分になる。
 それでもなるべく表に出さずに軽口を叩く。


 「・・・俺は技術者でもなければ旅芸人でもないぞ?見世物にされるのは遠慮願いたいんだが?」

 「まぁまぁ、そう言わずに。そうだ、同じ勇者であるユウキ殿と戦ってみてはいかがか?強大な力を持つ者同士どんな戦いをするかーー」


 ミシリと、辺りから軋む音が鳴り、パーティー用に用意されたグラスや窓ガラスに亀裂が入り、貴族たちから悲鳴が上がる。
 ラサシスは俺を見て青ざめ怯えた顔をしていた。
 流石にそれ以上聞きたくない、そう思い威圧を加える。
 その前に先程ナタリアと名乗った槍を持った女と数人の兵士が剣を構えて立ち塞がった。


 「もう一度言う。見世物になる気はない。何かを試そうとしてるようだが、それ以上似たような事言うのならここの兵士全員を相手してやる。勿論手加減抜きでな」

 「アヤト殿、気を鎮めてください。我々は貴方と争う気などございません。もし何か気に障ったのでしたら私が代わりにーー」


 ナタリアの戸惑いながら話す言葉を遮り、俺は
 空間転移など使わずこの足一つで誰にも気付かれる事無く。


 「「ッ!?」」


 突然俺の姿が消えた事にナタリアとその兵士たちは困惑し、また王は何が起きたか頭では理解できていないが体が理解していたようで、小さく小刻みに震えていた。


 「お前が謝っても意味はない。間違えたのであれば間違えた本人が正さなければ解決しないし学習しない。誰かが代わりに頭を下げたところで神経を逆撫でするだけだ」

 「ッ!いつ、の間に・・・!!」


 俺の声に反応した全員がラサシスたちの間にいる俺を驚いた表情で凝視する。
 するとラサシスが深呼吸し始め、真っ直ぐ前を見たまま話し掛けてくる。


 「・・・すまなかった。ナタリアの言った通り争う気はないのだ。ただ、貴殿の力を知っておきたいというのは本音だ。知っておかなければ不安なのだ、誰しも・・・」

 「それで?実際体験してみた感想はどうだ?」

 「素晴らしいお力ですわ」


 今度は王ではなく王妃の方が臆す事なく目を細めて答えた。
 思えばさっきからその表情からは怯えは見えず、夫より肝が据わっているようだった。


 「紹介が遅れて申し訳ありません、妻のロロナ・カルサナ・ルーメルです。正直に申し上げます。皆、アヤト様のその力が誠に恐ろしいのでございます」

 「・・・だろうな。よく言われる」

 「ですので、貴方様の本心を聞かせてくださいませ。その力の使い道を」


 「本心を」なのだから考える必要もない。
 よって時間を掛ける事なく俺は答える。


 「コレは正真正銘俺のモンだ。誰かに貸すのも誰かのために使うのも俺が決める。ただそんだけだ」


 俺の返答にロロナは笑顔を崩す事なく、「そうですか」とだけ答えた。
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