最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

適正の有無

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 「オラァァァ!!」


 アヤトへ向けてナルシャが幾度も拳を振るう。
 ナルシャの力は通常よりも遥かに強いが、その力をアヤトは全て受け止めいなしていた。


 「アッハハハハハハ、凄え凄え!全力を出せるってやっぱ楽しいな!!」


 ナルシャの拳が凄まじい音を出して空を切る中、アヤトはソレらを涼しい顔をして受けていた。
 そんな光景を羨ましそうに見つめるメアがいた。


 「・・・楽しそうだなー」

 「嫌よ。アヤトだから楽に見えるんでしょうけど、ナルシャの相手なんて絶対したくないわね・・・」


 そんな事を言うメアにフィーナが近くでダラけ気味に言った。
 フィーナは魔術が使える状態なので軽い指導役を請け負っていた。


 「ですよね。やっぱ相手するなら師匠みたいに手加減してくれる人が良いですよね」


 フィーナの意見に賛同するカイト。
 するとランカが悪い方向に乗る。


 「やっぱりそういう事でしたか。何だかんだ言いながらもアヤトに相手してほしいという事なんですね」

 「あ、いや、俺はそういう意味で言ったわけじゃ・・・」

 「もー、本当に正直じゃないんですからフィーナはーー」


 ランカの言葉の途中、二人の頭にフィーナの拳が落とされた。
 うずくまって「何故俺も・・・」と呟くカイトと呻くランカを傍目に、ノワールが呆れたように小さく溜息を漏らした。


 「遊んでいる暇があるなら集中していただいてよろしいですか?貴方たちがそうしてる間にユウキ様とエリ様は簡単な魔法を出せるようになりましたよ」


 ユウキたちに視線が注目されると、二人共楽しそうに手の平から火や水を出していた。


 「適正はユウキ様は火、雷、地、光。エリ様は火、水、光ですね。カイト様とレナ様の御二方はまだ発動までは至っておりませんが、カイト様は火、レナ様は水が扱えるようですね」


 メアを含めた四人が「おー」と小さな感嘆の声を漏らし、レナが微笑む。


 「ちなみにミーナ様は風特化のようですが・・・雷も使えるようですよ?」

 「嘘・・・?」


 ミーナは短く簡単な魔法を唱え、片腕に電気を纏わせた。


 「・・・本当」


 相当嬉しかったのかミーナの口角が僅かに上がった。


 「クフフ、良かったですね。さて、問題はメア様なのですが・・・」


 ノワールが言い淀むように「ふむ」と言って口に手を当てる。
 その様子にメアが不安を覚えていた。


 「俺が問題なのか?」

 「いえまぁ、メア様の体質はメア様自身理解しているようなので隠し立てするような事でもないのでお伝えしましょう。貴方の適正は火、風、雷、地、光、闇です」


 ノワールは本当に物事を伝えるだけのようにあっけらかんと言った。
 その後にはアヤトたちの戦闘音が聞こえるだけで、全員が沈黙する。
 しばらくしてメア手をポンッと叩いて口を開く。


 「ああ、なるほど、だから俺も空間魔術みたいなの使えたのか!?」

 「ええ、そういう事になりますね。正確には適性の高さは火と闇以外低いものですが、空間魔術の収納機能だけなら使用する事が可能です。試しに今お使いになってみてはどうでしょう」

 「え・・・俺まだ魔法とかもロクに使えてないんだけど・・・」

 「メア様に付いて今し方理解した事があるのですが、どうやら理屈より感覚で使えるようになると思われます。その証拠に今はロクに魔法が放てませんが、学園の模擬戦の時に複雑な魔術である属性付与をしていたではありませんか。ですので理屈ではなく、アヤト様と同様にイメージをしてみましょうか」

 「い、イメージ・・・」

 「ええ。特に空間魔術を普段間近に見ているのでやりやすいのではありませんか?イメージはこの何もないところに大きなカバンがあるとお考えください」

 「大きなカバン・・・」


 メアはノワールの指示に従い、何もない空中を見つめる。
 そしてその先に手を伸ばす。
 するとピキピキと音がなり始め、メアの目の前の空間がゆっくりと裂け始めた。


 「これが・・・空間魔術・・・」


 その裂け目に手を入れ、取り出した手に持っていたのはアヤトから貰い、没収された筈の刀だった。


 「コレは・・・」

 「あれ、ソレって確か師匠から没収された武器じゃ?」


 メアの刀を見たカイトが疑問を口にし、ノワールが「ええ」と肯定する。


 「ではメア様、今度は別の物を取り出せますか?」

 「別の物って・・・例えば?」

 「鍋、など」

 「「・・・鍋?」」


 「何故鍋なのか」と全員が思ったが、言う通りに空間の裂け目にメアが手を入れると鍋を取り出す事ができていた。
 底の裏を見ると僅かに焦げ跡があり、使用した痕跡がある事が分かった。


 「やはりそうでしたか」

 「やはり、って何が?」

 「コレはいつもアヤト様が使用している物です」

 「・・・え?」


 メアが「どういう事?」と首を傾げる。
 少し間を置いてカイトが「もしかして・・・」と何かを悟ったように呟く。


 「共有・・・?」

 「正解です、カイト様。まぁ、推測の域はまだ出ておりませんが、恐らく何らかの理由でアヤト様の空間と共有しているようです」

 「って事は・・・」


 メアが再び裂け目に手を入れる。
 そこから取り出したのはーー


 「おお、本当にあったぞ!アヤトの服!」


 言葉通りアヤトの服を取り出して興奮し掲げるメアの頭上に何かが通り過ぎる。
 通り過ぎて転がって行ったのはアヤトと組み手していた筈のナルシャだった。


 「何してんの、お前?まさかお前もヘレナみたいな性癖持ってんの?」


 アヤトがそう言って呆れたジト目でメアを見ていた。


 「せ、性癖っていうか・・・好きな奴の服を着てみたいっていうのは分かるけど・・・あ、じゃあアヤトが俺の服を着るか?」

 「なるほど、俺を変態にさせたいわけだな?女が男服を着るならまだしも、男が女服着たらもう終わりだぞ」

 「いや、あの言い訳があるじゃん。えっと・・・なんだっけ?大胸筋矯正サポーター?」


 ジト目の視線が軽蔑の視線へと代わり、ソレがユウキへと向けられる。


 「もう言い訳って言ってる時点でアウトだからな?何賛成派になってんだよ、お前・・・」

 「大丈夫だ、たとえお前が変態になったとしても俺は見捨てねえからな!」

 「そうか。俺だったら流石に見捨てるけどな」

 「・・・・・・」

 「それで、メアはその服で何を・・・もう遅かったか・・・」


 アヤトが視線をメアに戻すとすでにアヤトの服を着ているところだった。


 「うっし!これで魔法の鍛錬に集中できるぜ!」

 「嘘ぉ・・・まぁ、やる気が出たんならいいんだけど・・・。それで、どこまで進んだって?」

 「今ご覧にいただいた通り、メア様が空間魔術の初歩である収納機能を使用できるようになりました。そして恐らくソレはアヤト様の使用している収納庫と共有しているものと思われます」

 「なるほど、だからあの刀とフライパンか・・・とりあえずフライパン返して」


 アヤトは地面に落ちているフライパンを拾って「後で洗わなきゃな・・・」と呟いて裂け目に入れた。
 そして再びノワールに向き直る。


 「で、他は?」

 「はい、ユウキ様とエリ様は簡単な魔法なら。カイト様とレナ様は発動とまではいきませんがその兆候が、と言ったところです」

 「そうか・・・ん?」


 アヤトの裾が軽く引っ張られ、振り返るとミーナが得意気にしていた。


 「私も使える属性増えた」

 「おお・・・使える属性って増える事があるのか?」

 「稀ではありますが。特にミーナ様のように強く発現する事は更に珍しい出来事です」

 「そうなのか・・・ミーナって結構運良いよな。ベルとかの件も含めて」

 「自分でもビックリ」


 ミーナが片手を突き出し、親指を突き立ててグットサインをする。


 「んじゃ、アヤト」

 「ん?」

 「私の実験に付き合って」
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